The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Mesh Infection and Abscess Caused by Intestinal Penetration 13 Years after Repair of Abdominal Incisional Hernia
Yoshitaka IshikawaKeisuke GotoTakuya NojiriKatsumaro SuzukiKatsuhiko Yanaga
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2020 Volume 53 Issue 5 Pages 442-448

Details
Abstract

症例は83歳の男性で,13年前に他院で腹壁瘢痕ヘルニアに対してメッシュを用いた修復術を施行している.数年前から時折腹痛を訴えることがあったが,その都度鎮痛剤で経過観察していた.今回,腹痛が1週間持続し徐々に増悪するため当科を受診した.手術瘢痕部の発赤と腫脹,強い圧痛を認めたため腹部単純CTを施行し,皮膚とメッシュの間に膿瘍を認めた.緊急で切開排膿術を施行し,入院および外来通院で洗浄を継続した.改善に乏しくメッシュ破損による腸管穿通が疑われたため,根治目的でメッシュ除去,腸管切除,およびヘルニア修復術を行った.術後に創縁皮膚の部分壊死と創感染を認めたが,持続陰圧療法を併用し治癒した.腹壁瘢痕ヘルニアに対してメッシュを用いて修復する際は,人工物の長期留置後に感染する可能性があることを十分に理解し,メッシュが破損しないように工夫し展開固定することが重要と考えられた.

Translated Abstract

An 83-year-old man underwent a mesh repair for an abdominal incisional hernia 13 years previously in another hospital. He had occasionally experienced abdominal pain for several years. He visited our department because abdominal pain lasted for one week and gradually worsened. Redness, swelling, and tenderness of the surgical wound were noted and abdominal CT scan showed a localized abscess formation above the mesh with penetration of the transverse colon. An emergency incision and drainage was performed and pus discharge from the surgical wound was continued. Since the penetration into the transverse colon was suspected to be the cause of mesh infection and pus discharge, mesh removal and hernia repair were performed. After the surgery, partial necrosis of the abdominal skin and wound infection were observed and treated with continuous negative pressure therapy. When repairing an abdominal incisional hernia with a mesh, it is important to understand that there is a possibility of infection a long time after mesh repair, therefore it is important to fix the mesh properly so that it does not become damaged.

はじめに

腹壁瘢痕ヘルニアに対しては手術が唯一の治療法であり,再発率の低さから現在では人工材料を用いたテンションフリー法が標準術式となっている1).しかし,晩期合併症としてメッシュと腸管の癒着や穿通,そしてその結果生じるメッシュ感染が問題となってきており,術後長期経過後のメッシュ感染の報告も散見される.今回,我々は腹壁瘢痕ヘルニア修復術から13年経過した後に発症した腹壁膿瘍を伴うメッシュ感染の1例を経験したので,考察を加えて報告する.

症例

患者:83歳,男性

主訴:腹痛

既往歴:13年前に大腸癌に対して当院で開腹結腸右半切除術(手縫い,端々吻合)を施行し,創哆開のため再手術を行った.同年腹壁瘢痕ヘルニアを発症し,他院で開腹によるComposix Kugel patch(以下,CKPと略記)を用いた修復術を施行した.

現病歴:以前から腹痛を主訴に時折当科外来を受診し,鎮痛剤投薬で経過観察していた.1週間前から腹部手術創の強い痛みを自覚し,徐々に増悪するため来院した.

来院時現症:意識清明,体温37.6°C,脈拍79回/分,血圧127/77 mmHg,呼吸数22回/分,上腹部から臍下にかけて正中切開の手術瘢痕を認め,臍のやや頭側の皮膚が発赤・腫脹し,熱感を伴っていた.同部位に強い圧痛を認めた.

血液検査所見:WBC 7,600/μl,Hb 11.5 g/dl,CRP 15.16 mg/dl,HbA1c(NGSP)6.2%.

腹部単純CT所見:正中創の直下では腹直筋鞘の欠損とそれを覆う形でメッシュを認めた.皮膚とメッシュとの間にairを伴う液体貯留を認めた(Fig. 1a).形状記憶リングと思われる高吸収が横行結腸内腔に向けて突出していた(Fig. 1b, c).

Fig. 1 

a, b, c: Abdominal CT scan showed a localized abscess formation above the mesh with penetration of the transverse colon. d: Colonoscopy showed a mucosal elevation which was hard and immobile in the transverse colon.

以上より,腹壁膿瘍および腹壁瘢痕ヘルニアメッシュ感染の診断で緊急入院し,切開排膿術を施行した.局所麻酔下に発赤した皮膚の正中を3 cmほど切開すると,便臭を伴った多量の排膿を認めた.生理食塩水で十分に洗浄し,10 mmのペンローズを留置した.膿瘍培養の結果はEubacterium sp.(2+),Fusobacterium sp.(2+),α-streptcoccus(1+)であった.切開排膿後も連日中等量の排膿を認めた.術後絶食としていたが創部から便汁流出がないことを確認して第3病日に食事を再開した.抗菌薬投与下に創洗浄を繰り返し,炎症所見の改善を待って第15病日に退院とした.外来で行った下部消化管内視鏡検査では吻合部から3 cm肛門側の左側横行結腸に粘膜の隆起を認め,鉗子で触診すると硬く触れ可動性は不良であった(Fig. 1d).生検で悪性所見は検出されなかった.

その後も自宅と外来において創洗浄を継続したが,便臭を伴う排膿は持続した.保存加療での治癒は困難と判断し,根治手術を行う方針とした.切開排膿術後1か月で手術目的に入院した.前述の腹部単純CT所見と下部消化管内視鏡検査所見から,メッシュの一部が腸管に穿通し感染を発症したことが予想された.

手術所見:上腹部から下腹部まで正中切開で開腹し腸液で汚染されたメッシュを確認した(Fig. 2a).メッシュと腹壁の癒着を鈍的鋭的に剥離した.メッシュは比較的容易に除去できたが,その背側に肥厚した膜が形成されており,腸管と一塊になっていた.穿通部位を切除するため癒着を剥離し,吻合部を含む回腸と横行結腸は一塊のまま切除した.吻合は器械を用いてfunctional end-to-end anastomosis(FEEA)で行った.吻合部近傍にドレーンを留置し,components separation法(以下,CS法と略記)で腹直筋鞘を寄せ0 PDSで閉鎖した(Fig. 2b).両側の皮下剥離部に陰圧ドレーンを留置し,2-0ナイロンで減張縫合を置き皮膚を3-0ナイロン垂直マットレスで閉鎖し手術を終了した.手術時間は4時間42分,術中出血量は190 gであった.

Fig. 2 

a: Laparotomy findings showed CKP contaminated with intestinal fluid. b: Components separation method (arrows) was performed to close the abdominal wall.

切除検体:メッシュは腸液により汚染されていた.メッシュ自体に屈曲は認めなかったが,形状記憶リングの一部が破損し,メッシュから突出していた(Fig. 3a).横行結腸に穿通を疑う硬結と粘膜変化を認めた(Fig. 3b).

Fig. 3 

a: Removed CKP had a broken shape-modeling ring (arrow), which penetrated ePTFE. b: A palpable solid tumor was observed in the resected specimen.

病理組織学的検査所見:横行結腸の原因部位では粘膜面に潰瘍がみられ,漿膜下深層まで膿瘍を含む肉芽組織形成が認められた.壁構造の消失が認められ穿通部位として矛盾しない像であった.

根治手術後経過:術後減張縫合による皮膚壊死を認めたため,術後3日目に減張縫合は全て抜去しdebridementを行った.感染に伴う創離開を認めたため,術後4日目から持続陰圧吸引療法(vacuum-assisted closure therapy;以下,VAC療法と略記)を開始した.一部創を寄せるように縫合しながらVAC療法を継続した.術後36日目にVAC療法を携帯型に変更し,術後39日目に退院した.外来でVAC療法を2週間継続し創の治癒が得られた.

考察

腹部手術後の腹壁瘢痕ヘルニアに対しては手術が唯一の治療法であり,再発率の低さから現在では人工材料を用いたテンションフリー法が標準術式となっている1).本症例で使用されていたCKPは2層のポリプロピレンメッシュと1層のePTFEシートを重ね合わせた人工材料である.ePTFEシートは小孔径が1 μmと小さく,生体との癒着を最小限にする機能がある2).CKPはメッシュ外縁の癒着を防止するために腹腔側のePTFEシートがポリプロピレンメッシュよりも大きい構造をしているのが特徴である.さらに,形状記憶リングが内蔵されており歪みを防止できる構造になっているが,本症例ではその形状記憶リングの断裂が原因で遅発性メッシュ感染が生じたと考えられた.

メッシュ感染についてIannittiら3)は多施設でCKPを用いた455例を集計し,術後30日以降の遅発性感染は2例(0.4%)であったと報告している.また,Cobbら4)は単一施設においてCKPを用いた95例中,感染例は8例(8.4%),消化管穿通は1例(1.1%)で全例メッシュ除去が行われたと報告している.

医学中央雑誌で1964年から2018年までの期間で,「腹壁瘢痕ヘルニア」,「メッシュ感染」をキーワードに会議録を除いて検索した結果,腹壁瘢痕ヘルニア術後のメッシュ感染を43例認めた.内訳は腸管穿通や腸瘻形成など消化管との交通を認めない感染が21例,消化管との交通による感染が22例であった.消化管との交通を認めなかった症例のうち3例は切開・排膿にVAC療法を併用してメッシュを温存しえたが,その他の40例はメッシュ除去を行っていた.VAC療法を併用しメッシュを温存しえた3例は消化管との交通は認めず,術後3か月までの比較的早期の感染であった5)~7).消化管との交通を伴うメッシュ感染は全例が遅発性メッシュ感染であった.消化管との交通を認めた症例に本症例を加えた23例の詳細を示す(Table 12)8)~28).年齢は50~89歳で,男性13例,女性10例であった.腹壁瘢痕ヘルニア手術からメッシュ感染までの期間は1~13年と幅広く中央値は4年3か月であった.使用されていたメッシュはCKPが最も多く14例であった.交通臓器は小腸が最も多く21例であった.腸管との交通の原因として貝羽ら19)はメッシュを固定する金属製タックを小腸穿通の原因としていたが,その他の詳細な記載のある症例のほとんどがポリプロピレンメッシュと腸管の直接的な接触が穿通の原因としていた.本症例のように形状記憶リングが腸管へ穿通した報告はなかった.腹腔鏡下手術で開始した1例を含めて最終的には全例で開腹下にメッシュ除去が行われ,ヘルニア門が小さい場合は単純閉鎖が,ヘルニア門が大きい場合にはCS法や腹直筋前鞘反転法が行われていた.

Table 1  Review of reported cases of mesh infection with communication to the intestine or enterocutaneous fistula after repair for incisional wound hernia
No Author Year Age/
Sex
Mesh type Time to mesh infection Penetrated organ Open or Lap Procedure for mesh Procedure for penetrated organ Procedure for hernia
1 Kuwada8) 2010 82/F CKP 2y 3m small intestine Open removal resection simple closure
2 Yamashita2) 2011 71/M CKP 6y 8m small intestine Open removal resection fascia lata graft
3 Sato9) 2011 72/M CM 2y 8m small intestine Open removal resection simple closure
4 Sakai10) 2011 75/F CKP 3y small intestine Open removal closure ARASI
5 Shibutani11) 2012 52/M CKP 1y 8m small intestine Open removal (−) simple closure
6 Hayashi12) 2012 77/F N.D. 12y 3m small intestine Open removal resection CS
7 Amiki13) 2013 61/F CKP 2y 3m small intestine Open removal resection fascia lata graft
8 Kohga14) 2013 87/F CM 7y 9m small intestine Open removal closure CS
9 Kato15) 2013 74/M CKP 2y 7m small intestine Open removal resection simple closure
10 Watanabe16) 2014 73/M CM 6y 8m cecum Open removal resection simple closure
11 Nishiki17) 2014 50’s/F Ventralex 4y 5m small intestine Open removal resection ARASI
12 Akashi18) 2015 83/F CKP 2y 7m small intestine Open removal resection simple closure
13 Kaiwa19) 2016 80/M CM 2y small intestine Open removal resection simple closure
14 Tokuda20) 2016 88/M CKP 5y small intestine Open removal resection simple closure
15 Nishida21) 2016 76/F Ventrio 1y small intestine Open removal resection CS
16 Kajiwara22) 2017 75/M CKP 6y small intestine Open removal closure CS+ARASTFM
17 Takatsuki23) 2017 80’s/M Marlex mesh 13y small intestine Open removal resection simple closure
18 Komo24) 2017 70/M CKP 8y 6m small intestine Open removal resection CS
19 Kobayashi25) 2017 89/M CKP 2y 6m small intestine Open removal closure ARASTFM
20 Takahashi26) 2017 83/F CKP 4y small and large intestine Lap→Open removal resection simple closure
21 Nakagawa27) 2018 81/F CKP 9y small intestine Open removal resection simple closure
22 Akai28) 2018 61/M N.D. N.D. small intestine Open removal resection CS
23 Our case 83/M CKP 13y transverse colon Open removal resection CS

CKP: Composix Kugel patch, CM: Composix Mesh, N.D.: no description, Lap: laparoscopic, ARASI: anterior rectus abdominis sheath incision, CS: components separation, ARASTFM: anterior rectus abdominis sheath turnover flap method

本症例は術前の腹部単純CTで折れ曲がって断裂した形状記憶リングが結腸に穿通している像が確認され,下部消化管内視鏡検査でも結腸内腔への突出が確認された.長い年月の間に腹壁の動きによりメッシュが屈曲を繰り返し,形状記憶リングが劣化し破損したことが予想された.過去の腹部単純CTを確認すると,膿瘍形成は認めなかったが1年前のCTで形状記憶リングが屈曲し突出している像が確認された.ドレナージのみでの完治は困難と考えられ,早期にメッシュ除去の方針とした.腹壁瘢痕ヘルニア修復術後のメッシュ感染に対してメッシュ温存が可能であった報告はあるが,本症例のように腸管との交通が存在する,あるいは存在したことが予想される場合には,一度軽快したとしても再燃の可能性も考えられ,メッシュ除去と原因腸管切除など根本的な治療が必要と考えられる.実際に消化管と交通を来した前述のメッシュ感染症例22例ではメッシュの除去手術を必要としている.腹壁瘢痕ヘルニアに対してメッシュを使用して修復する場合,本症例のように長期留置後に感染する可能性があることを十分に理解し,腹壁の動きによる屈曲に対して柔軟性を持つ耐久性の高い製品を折れ曲がりやずれが生じないようにメッシュの縁を展開固定することが重要と考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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