The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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SPECIAL REPORT
Operation Record of Subtotal Stomach-Preserving Pancreatoduodenectomy with Template Application
Naoya SasakiRyuta Nishitai
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2020 Volume 53 Issue 5 Pages 463-472

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Abstract

当院では術前カンファレンスの際に,肝胆膵外科症例のスケッチを提示することにしている.術野の立体イメージ,手術の際のアプローチを予習し,血管,胆道の走行異常の見落としを防ぐこと,わかりやすいイラストで手術チームが同じイメージを共有することが目的である.膵頭十二指腸切除術については術式の標準化がほぼ確立しており,腫瘍の占居部位や,血管走行異常による切除範囲の選択を除けばほぼ手術の手順は同じである.そこで手術記録作成の手間を軽減するべく,PowerPointを用いてテンプレートを作成した.手術記録が8割方完成した状態で印刷し,麻酔覚醒の間に術中所見,術式について書き込み,その週のうちに清書することにしている.術前に簡略化したイラストで解剖図を作成し,術直後の記憶が鮮明な内にメモを書き込み,清書する.さらにビデオで見直すことで,記録目的だけでなく,手術の質の向上にも役立つと考えている.

はじめに

安全で質の高い手術を行うためには,術前のシミュレーションにより手術チームの間で術野の展開や完成型のイメージが共有できていることが大切である.肝胆膵外科領域においては正確な解剖の理解が必要であり,安全域の狭い手技が要求される場面が多いことから,術野の立体的なイメージを術前に持つことが特に重要である.手術時に想定される術野をスケッチに起こして準備することで,手術のイメージを具体化し,解剖的な理解が不十分な点を自覚することができる.当科では術前カンファレンスの際に術野のスケッチを提示する伝統がある.手術チーム全員で手術適応,非切除因子のないことを再度確認し,手術戦略について検討する.さらに,血管や胆道の走行異常の見落としを防ぎ,同じイメージを共有することが目的である.また,カンファレンスに参加した若手外科医にとっても,手術のピットフォールや勘所が術者のイメージとともに解説されることで教育的効果が高い.

膵頭十二指腸切除術については術式の標準化がほぼ確立しており,腫瘍の占居部位や進展,血管走行異常による切除範囲の選択を除けばほぼ手術の手順は同じである.また,この手術は時間がかかることが多く,術後の疲労困憊した状態で正確な記録や作図を行うことは難しい.そこで私は手術記録作成の手間を軽減するべく,PowerPointを用いてテンプレートを作成した(Fig. 1).術前画像診断を参考に,手術記録が8割方完成した状態で印刷し,術直後の麻酔覚醒の間に術中所見,術式について書き込み,その週のうちに清書することにしている.

Fig. 1 

Operation record template. Anatomical and tumor information was manually described in the template based on the preoperative imaging. The preoperative sketch was then made with PowerPoint.

また,記録のため術野の写真も必ず撮影している.開腹時所見,主要血管のテーピング,郭清された血管などを撮影し,術後編集する.患者様の退院時に病理診断の説明とともにお渡しし,紹介元への診療情報提供書にも添付してお送りしている.

術前に簡略化したイラストでイメージ図を作成し,カンファレンスで手術チームが手術プランのイメージを共有する.さらに,手術室に持参して術中に腹腔内所見と照らし合わせ,術直後の記憶が鮮明なうちにメモを記載する.メモで気になったポイントをビデオで見直すことで,記録目的だけでなく,手術の質の向上や教育にも役立つと考えている.

〔手術記録について〕

私の手術記録は,①術前スケッチ,②術中写真,術中メモ,③手術記録(最終版)の3工程を経て完成される.

術前スケッチは術前画像検査を見ながら,テンプレート用紙に手書きで血管の走行や腫瘍の局在を書き込み,最後にPowerPointで清書する.基本的に「図形」の「曲線」ツールで大まかな形を作り,右クリック→「頂点の編集」で輪郭を調整し,これを重ね合わせて作図している.血管の前後関係は「光彩」や「影」を用いて表現する.重要視しているのは血管の分岐形態,前後関係,手術時に見えてくる順番であり,リアリティはあえて追及しない.例えばTreitz靭帯や上腸間膜動脈(superior mesenteric artery;以下,SMAと略記)左側の空腸動静脈を切離して十二指腸を牽引することで,SMAが反時計回りに回転し,膵鉤部がSMA背側から左側に引き出され,下膵十二指腸動脈,第一空腸動脈の根部が直視できるようになるが,この際必要なのは美しい3D画像よりも,術者の手前から見えてくる動脈の順番や,空腸静脈が動脈の腹側あるいは背側にあるかといった解剖の情報である.

このスケッチは印刷して手術室に持参し,術中に参照できるようにしておく.助手や手術室スタッフと情報を共有するのに役に立つ.また,手術終了直後の麻酔覚醒の間,記憶が鮮明なうちに術中所見や行った術式を書き込むことで,詳細な情報を記録することができる.

術中写真も撮影し,併せて手術記録作成の資料とする.写真は情報量が多い反面,時間が経つと何をどのような意図で撮ったか忘れてしまうことがあるので,その日のうちに注釈をつけて保存することにしている.

また,手術記録の文章も手術当日に完成させる.開腹時間,出血量,輸液量の情報は術後管理に必須なので,確認しつつ手術記録とカルテに記載する.手術記録の図(開腹時所見,術式のシェーマ,再建図,完成図)をその週のうちにPowerPointで作成し,記録が全てそろったら電子カルテに保存する.

症例

患者:62歳,女性

主訴は黄疸,白色便,皮膚掻痒感であった.近医より黄疸の精査目的で当院に紹介され,膵頭部腫瘍による閉塞性黄疸に対し胆管ステントを留置された.超音波内視鏡下穿刺吸引生検で腺癌と診断がつき,手術目的で外科紹介となった.並存疾患なし,内服薬なし.ビール350 mlを毎日1本,喫煙は10本×20年で1年以上禁煙している.心肺機能問題なし.血液検査は血算異常なし.ビリルビン,肝胆道系酵素高値,膵癌腫瘍マーカー高値であった(総ビリルビン7.9 mg/dl,直接ビリルビン6.6 mg/dl,ALP 1,175 IU/l,γGTP 527 IU/l,AST 65 IU/l,ALT 98 IU/l,アミラーゼ113 IU/l,リパーゼ146 IU/l,CEA 8.7 ng/ml,CA19-9 900 U/ml,DUPAN-2 85 U/ml,Span-1 160 U/ml,エラスターゼI 605 ng/dl).

CT,MRIで肝内胆管から総胆管および主膵管の拡張と,十二指腸乳頭付近での途絶が認められた(Fig. 2:CT,MRI).リンパ節転移,遠隔転移は画像上認めなかった.上記所見からGroove膵癌,cT3(DU,CH),N0,M0,cStage IIAと診断し,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を計画した.手術予定日前日に胆管炎による熱発があり,手術延期となった.翌日胆管メタリックステントに交換し,3週間後に手術を施行した.

Fig. 2 

(a–c) Preoperative imaging using contrast-enhanced CT (CECT) and (d) MRCP. (a) CECT showed a hypoattenuating tumor in the pancreatic head (arrowhead). (b) An obstruction of the intrapancreatic bile duct (arrow) and dilatation of the common bile duct (CBD) were observed in the frontal section. (c) Three-dimensional vascular imaging revealed that the proper hepatic artery ran in front of the dilated CBD. (d) MRCP showed an obstruction of the lower bile duct and dilatation of the CBD and main pancreatic duct.

術前画像をもとに術野の模式図を作成した(Fig. 3).手術の切離ラインにかかる血管の走行には特に注意している.SMA背側を走行する空腸静脈,下膵十二指腸動脈と第一空腸動脈の共通幹,総胆管の腹側を走行する右肝動脈,左胃動脈から分岐する左肝動脈について記載した.亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を行った.血管の走行についてはほぼ術前スケッチ通りで,予定通り切離を行うことができた.腫瘍が横行結腸間膜,下腸間膜静脈に浸潤しており,横行結腸合併切除,門脈合併切除,再建術を行った.これらについては開腹時所見,手術手順,門脈切除再建の図に記載した(Fig. 46).再建は膵臓,胆嚢,胃の順でBraun吻合ありのSSPPD-II-A-1で行った.再建法は毎回同じなので,テンプレートを用いて記録図を作成した(Fig. 7, 8).手術時間は8時間33分,出血量は456 mlで輸血は行わなかった.

Fig. 3 

Preoperative sketch. An anatomical schema was drawn in advance based on the preoperative imaging. This schema was presented during the preoperative case meeting to discuss whether an operative treatment was the appropriate approach or not and to consider possible surgical strategies. The image was printed and used as a reference for brief operation record in the operation theater. The important anatomical characteristics of this case were as follows: 1) the jejunal vein ran behind the superior mesenteric artery, 2) the inferior pancreaticoduodenal artery and the first jejunal artery had a common trunk, 3) the right hepatic artery ran in front of the common bile duct, and 4) the replaced left hepatic artery branched from the left gastric artery. The pancreatic head tumor was expected to locate close to the duodenal papilla and its diameter was approximately 20 mm.

Fig. 4 

Intraoperative finding. Based on the brief operation record, the preoperative sketch was updated with intraoperative findings. The tumor in the pancreatic head was larger than expected. It had infiltrated to the transverse mesocolon, close to the middle colic artery.

Fig. 5 

Surgical procedure. The surgical procedure was drawn. The lymph node dissection, blood vessel ligation and cut, transection line of the pancreatic body, and proper hepatic duct and bowel resection were overwritten in the intraoperative finding.

Fig. 6 

Portal vein resection and reconstruction. An additional atypical procedure was recorded with an intraoperative photograph. The pancreatic tumor infiltrated (arrowhead) the portal vein (upper row). Combined resection and reconstruction (arrow) of the portal vein was performed (lower row).

Fig. 7 

Pancreaticojejunostomy and choledochojejunostomy. Anastomosis was performed according to the standard procedure in our institute. Intraoperative information on the pancreas and the bile duct was recorded.

Fig. 8 

Digestive tract reconstruction. The digestive tract was reconstructed according to the standard procedure in our institute. Transverse colon anastomosis was additionally performed. Closed drains were placed close to the pancreatico-jejunostomy and chloledocho-jejunostomy.

術後病理診断は高分化腺癌で,Ph,TS2(35 mm),infiltrative type,pT3(DU,CH,RP,S,PV),pS1,pRP1,pPV1,pA0,pPL0,pOO0,pPCM0,pBCM0,pDPM0,pN1b(LN8,13a,14,17a,17b),pStage IIBだった.病理学的にR0の根治切除が得られた.

術後経過は良好で,術後19日目に退院となった.術後6週目より補助化学療法としてS-1内服を開始し,現在無再発で外来通院中である.

〔手術記録〕

亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(SSPPD-II-A-1)

【開腹~標本摘出まで】(Fig. 4:開腹時所見,Fig. 5:手術操作)

上腹部正中切開で開腹.腹水なし.播種なし.肝転移なし.腹腔洗浄細胞診陰性.

Treitz靱帯左側アプローチで下大静脈前面,左腎静脈まで膵背側を剥離した.第1,第2空腸動脈(J1A,J2A)の間で空腸間膜を処理し,自動縫合器で空腸を切離した.J1Aと下膵十二指腸動脈(IPDA)の共通幹を根部で二重結紮切離し,14番リンパ節(LN#14)を郭清した.

胃結腸間膜を切開し,網囊を開放すると膵前面に癌臍を認めた.腫瘍は横行結腸間膜に浸潤しており,中結腸動脈(MCA)右枝,横行結腸辺縁動脈に近接していたため,MCAは根部で結紮切離した.十二指腸をKocher授動し,胃結腸静脈幹,副右結腸静脈を結紮切離した.横行結腸を自動縫合器で部分切除した.

胃を幽門から4 cm口側で,自動縫合器を用いて切離した.膵上縁の腹膜を切開し,総肝動脈(CHA)をテーピングし,LN#8を郭清した.総胆管が著明に拡張し,その前面を右肝動脈(RHA)が横断していた.胃十二指腸動脈(GDA)をクランプし,固有肝動脈の血流を確認した後,GDAを二重結紮切離した.LN#12を郭清した.総胆管と門脈をテーピングし,肝動脈から剥離した.胆囊を肝臓から剥離し,胆囊動脈を結紮切離した.総肝管を電気メスで切離し,ステントを引き抜いて培養に提出した.総胆管断端を術中迅速組織診に提出し,断端陰性を確認した.膵頭部背面の上腸間膜動脈(SMA)神経叢を切離した.

門脈前面で膵臓の背側を剥離し,門脈左縁で膵臓をメスで切離した.術中迅速組織診陰性だった.膵頭部を門脈から剥離した.下腸間膜静脈(SMV)右壁に腫瘍が浸潤しており,合併切除して標本を摘出した.

【門脈再建】(Fig. 6:門脈合併切除,再建)

腫瘍の浸潤したSMVの上下をクランプし,15 mm切除した.回盲部腸間膜がうっ血したため,SMAをブルドッグ鉗子でクランプした.6-0非吸収糸で後壁intraluminal,前壁over and overで吻合し,Growth factorを取って結紮した.術中超音波検査で血流を確認した.(門脈遮断時間22分)

【再建】(Fig. 7:膵,胆道再建,Fig. 8:消化管再建)

SSPPD-II-A-1で型どおり行った.横行結腸は自動縫合器で機能的吻合し,4-0吸収糸結節縫合で吻合部を補強した.横行結腸間膜も縫合閉鎖した.

腹腔内を洗浄し止血を確認した.膵空腸吻合部,胆管空腸吻合部にドレーンを留置し,型どおり閉創して手術を終了した.

考察

膵頭十二指腸切除術はその解剖学的特性から切除,再建ともに多くの工程を必要とするが,近年では主要な部分は数種類に収束しつつあり,症例数の多い施設においては標準化された術式で安全に手術が行われている.

私は以前から消化管手術や膵頭十二指腸切除の再建についてはPowerPointで作成したテンプレートを使用していたが,京都桂病院赴任後は肝胆膵手術における術前カンファレンス用のスケッチから手術記録まで,全てテンプレートをもとに作図するようになった.もともとは作図の手間を軽減する目的であったが,予想外の利点がいくつかあった.

一つは図の簡略化である.PowerPointの機能上の制約による短所でもあるのだが,線の強弱がつけられないため,図は均一の太さの線で描かざるをえない.また,色を塗るためには一本の連続した線で囲まれた図でなければならない.そのため手書きのように写実的な表現はできず,解剖学的な要点をおさえた抽象的な模式図となる.あえてリアリティにこだわらず,手術操作に必要な部分の解剖に集中して作図するため,重要なメルクマールや手術戦略を明確に説明することができる.

術前スケッチを印刷して手術室に持参し,術直後に開腹時所見,手術操作を書き込んでbrief operation recordとする.記憶が鮮明なうちにイメージ図とともにメモを残すことができる.清書の際にはデジタルデータである術前スケッチに追記,改変するだけなので手間がかからない.

また,他科医師,スタッフ,患者様への説明や,紹介元への返信,さらには(望ましくはないが)再手術の際の術前情報としても大変有用である.学会などの発表の際にもデジタルデータの図をそのまま使用できるため便利である.

私が外科研修医として勤務を開始したとき,手術記録のお手本は「標準手術手技アトラス」1),「イラストレイテッド外科手術」2)だった.しかし,レオン佐久間画伯のリアルな描写も,篠原尚先生のシンプルな線で描かれた柔らかな臓器の表現も到底私の画力の及ぶところではなかった.あれから十数年の苦心の末,手書きの美しい“絵”はあえて目指さず,かわりに始めた“パワポ図”であったが,継続していくうちにその利点に気が付いた.目的地にたどり着くには詳細な航空写真よりも簡便なロードマップや路線図のほうが役に立つ.術前スケッチで手術に必要なポイントを抽出し,簡略化した表現で作図することが解剖の理解や情報の共有,単純明快な戦略立案につながる.また,オペレコ作成の労力を省いた分,臨場的なメモを残すことで技術の向上に役立てるよう努めている.絵心に自信がなくても,解剖の要点を押さえて単純な図で表現することで,診療の質の向上を目指していきたいと考えている.

利益相反:なし

文献
  • 1)   土井  隆一郎, 今村  正幸.膵体尾部切除術.消化器外科.2002;25(7):1191–1198.
  • 2)  牧野 尚彦,篠原 尚.イラストレイテッド外科手術.第2版.東京:医学書院;2002. 380p.
 

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