The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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SPECIAL REPORT
Laparoscopic Left Lateral Segmentectomy for the Metastatic Liver Cancer Successfully Treated with Chemotherapy
Ryo MorimuraEigo Otsuji
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2020 Volume 53 Issue 5 Pages 473-479

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Abstract

手術記録(以下,オペレコと略記)は,術者が行った手術の内容を整理し,理解を深めることができ,難渋点や反省点を再認識することで次の手術への工夫,手術手技の向上へつながるものと考えられる.また,オペレコは他者のための教育的意義を持っている.教育的なオペレコとは,他者が読んで容易に手術内容を理解できるものである.筆者の考えるよりよいオペレコとは「分かりやすい」オペレコである.「分かりやすい」オペレコとするために,術者の意図の要点を絞り,イラストにすることが大切である.今回呈示した腹腔鏡下肝外側区域切除のオペレコは,手術自体は肝胆膵高度技能手術でもないが,アランチウス管や肝門板の解剖を理解するのは非常に難しく,それを1枚のイラストで表現するのは困難である.そこで肝門からのviewのイラストを多くし,術者の意図が伝わる工夫をしている.本論文では「分かりやすい」手術イラストの有用性について考察する.

はじめに

オペレコは,手術内容の整理,理解の促進に役立つだけでなく術者自身が難渋点や反省点を再認識することで次の手術への工夫,手術手技の向上へつながるものと考えられる.また,オペレコは他者のために教育的な意義を持つ.筆者の考えるよりよいオペレコとは「分かりやすい」と考えている.「分かりやすい」オペレコとするために,要点を絞り,イラストとしている.今回呈示するオペレコは,腹腔鏡下肝外側区域切除と手術自体は肝胆膵高度技能手術でもないが,アランチウス管や肝門板の解剖の理解は非常に難しいものである.そのためできるだけ術者の意図が「分かりやすい」イラストとなるように留意している.本論文では「分かりやすい」手術イラストの有用性について考察する.

症例

患者:52歳,女性

主訴:下血

現病歴:下血を主訴に近医受診した.精査で直腸癌同時性肝転移と診断され当院紹介となった.開腹Hartmann術施行した.術後半年間,FOLFOX+Bevを施行し,肝転移巣の縮小を認め,他の部位に遠隔転移の出現を認めなかったため肝切除の方針となった.

既往歴・家族歴:特記すべき事項なし.

腹部造影CT所見:肝転移巣は単発でS3を主座として80 mmの大きさがあり,門脈臍部への浸潤が疑われた.化学療法終了後は,腫瘍は52.2 mmへ縮小し,門脈臍部と腫瘍の距離は保たれている(Fig. 1a).

Fig. 1 

(a) Contrast-enhanced CT findings before and after chemotheraphy. (b) Preoperative schema of the anatomical location of the metastatic tumor.

術前シェーマ:残肝に新規病変を認めず,門脈臍部は温存可能であると判断し腹腔鏡下肝外側区域切除を予定した(Fig. 1b).

手術所見:開脚位で開始した.臍部頭側を3 cm切開して,Lap ProtectorとEZアクセスを装着した.ポート挿入は図のごとく行った(Fig. 2a).腹腔内を検索したところ腫瘍は肝被膜に露出し,小網と癒着していた.明らかなリンパ節転移,腹膜播種は認めなかった(Fig. 2b).ICG蛍光カメラで腹腔内を観察すると腫瘍部に発光を認めたが,肝右葉には明らかな発光は認めなかった(Fig. 3a).術中超音波を施行し,腫瘍の進展範囲を確認した.腫瘍と門脈臍部の間には1 cmほどの距離を認め,門脈臍部の温存が可能であると判断した(Fig. 3b).以上の所見から,予定どおり腹腔鏡下肝外側区域切除を施行する方針とした.次に,肝左葉の授動を行った.左冠状間膜を切離し,そのまま三角靱帯を結紮切離した.さらに,アランチウス板周囲を剥離しておいた(Fig. 4a, b).肝十二指腸間膜周囲を剥離し右側腹部のポートから鉗子をWinslow孔へ挿入した.テフロンテープを通してPringle法を行える準備をしておいた(Fig. 4c).Pringle法下に肝切離を開始した.肝鎌状間膜左側に設定した切離ライン(Fig. 4d)に沿ってCrush & Clamping法を用いて肝離断を施行した.肝実質をある程度切離し,G3グリソンを露出した.周囲を剥離してヘモロックXLで2重クリップ後,切離した(Fig. 5a).さらに頭側に肝切離を進め,G2グリソンを同様に処理した.肝切離の途中左肝静脈の分枝から出血したため,これをクリッピングし一時止血した.さらに頭側を剥離して,左肝静脈からumbilical fissure veinを分枝した末梢の静脈をヘモロックXLで2重clippingし切離(Fig. 5b)した.以上の操作で標本を摘出した(Fig. 6a).Winslow孔を通して左横隔膜下にドレーンを挿入し手術を終了した(Fig. 6b).

Fig. 2 

(a) Trocar arrangement. (b) Abdominal findings. The tumor is exposed to the liver surface. Neither obvious lymph node metastasis nor peritoneal dissemination was observed.

Fig. 3 

(a) ICG fluorescence findings. (b) Intraoperative ultrasonography findings. UP; umbilical portion.

Fig. 4 

(a) Mobilization the left hepatic lobe. (b) Dissection of the Arantius plate. (c) Separation around the hepatoduodenal ligament. (d) Scheduled dissection line.

Fig. 5 

(a) Separation of the G3 Glisson. (b) Dissection of the umbilical fissure vein.

Fig. 6 

(a) View after hepatectomy. (b) Drain arrangement.

考察

オペレコは,記載した医師が手術内容を整理し,さらに理解を深めるだけでなく,他者のための教育効果もあると考えられる.教育的なオペレコとは,他者が読んで容易に手術内容を理解できるものである.篠原ら1)は著書のあとがきで,昨今多くの外科医が鮮明な手術映像で学んでいるが,手術映像では,術者の意図を織り込むことは不可能に近く,術者の意図を具現化するための最も有効な手段がイラストレーションであると述べている.イラストの世界なら術者の意図の要点を絞り,自由自在に提示することが可能である.

今回呈示したオペレコでは,アランチウス管や肝門板の解剖を「分かりやすく」1枚のイラストにすることは非常に難しいと考え,肝門からのviewを多めにして,できるだけ「分かりやすい」イラストとなるように留意した.また,実際のICG蛍光法や術中超音波画像を貼り付けることにより,術中診断のLive感を出すように工夫した.

術前シミュレーションや4K画像などが出てきて,解剖の視覚的理解が容易になってきている.しかし,同じ術式でも,症例や疾患ごとに攻めるポイントが異なり,そのポイントをイラストにすることで「分かりやすい」オペレコができ上がると考える.手術の後の頭の中のイメージを具体的にイラスト化することで,どの解剖がこの術式やこの患者さんにとって重要であったかを再認識することができる.さらに,その部位を強調することにより術者の意思が伝わりやすいイラスト,すなわち「分かりやすい」オペレコへとつながると考える.手術はマクロの解剖学をもとに行うが,学生時代に解剖学で学んだ写真のようなSobotta2)のアトラスを見るよりも「イラストレイテッド外科手術」1)を見た方がより理解できると個人的には考える.手術展開や進行に応じて術野は刻一刻と変化しており,術者がその変化を頭の中で理解し,イメージを再構築するためには,写実的な絵よりも要点が絞られたイラストの方が理解しやすいのである.外科医として「分かりやすい」オペレコを描くことは,この「頭の中の理解を整理して,イメージの再構築を行う」ことの訓練となる.一つ一つの症例のオペレコを「分かりやすく」描くことは,手術の理解を深めるための大切なステップであり,手術の腕を磨く訓練になると考える.

利益相反:なし

文献
 

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