The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Intracholecystic Papillary Neoplasm with an Associated Invasive Carcinoma That Was Presumed to Have Originated and Progressed from the Rokitansky-Aschoff Sinus
Tatsuki KusuharaTakashi ItoHiroki MatsuokaTakamasa Ohnishi
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2021 Volume 54 Issue 2 Pages 118-124

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Abstract

症例は69歳の女性で,腹部USで胆囊底部に18 mm大の腫瘤像と造影CTで同部位に早期濃染される隆起性病変を指摘され,胆囊癌の疑いで開腹胆囊摘出術が施行された.摘出胆囊の割面に充実成分と囊胞成分からなる腫瘤を認め,術中迅速診断で腺癌と診断された.肝床切除術・2群リンパ節郭清を施行した.腫瘍の大部分は拡張した囊胞内にあり,囊胞上皮を乳頭状に内反性に進展し,充実成分の基部で漿膜下層への浸潤を認めた.組織学的診断はintracholecystic papillary neoplasm(以下,ICPNと略記)with an associated invasive carcinomaとした.囊胞は腫瘍産生粘液が充満し拡張したRokitansky-Aschoff洞(以下,RASと略記)と推測した.RASより発生・進展したICPNはまれであり報告する.

Translated Abstract

We present the case of a 69-year-old woman with an 18-mm mass revealed at the fundus of the gallbladder on abdominal US and an elevated lesion at the same site that was prematurely stained on contrast-enhanced CT. Based on suspected gallbladder carcinoma, laparoscopic cholecystectomy was performed. A mass consisting of solid and cystic components was found on the surface of the fundus of the excised gallbladder, and an intraoperative diagnosis of adenocarcinoma was made using frozen sections. Gallbladder bed resection and lymph node dissection were performed. Most of the tumor was in a dilated cyst, and the cystic epithelium had developed in a papillary and inverted manner. Moreover, infiltration into the subserosa was observed at the fundus of the solid component. The histological diagnosis was intracholecystic papillary neoplasm (ICPN) with an associated invasive carcinoma. The cyst was presumed to have originated from the Rokitansky-Aschoff sinus (RAS), which had filled with tumor-producing mucus that had expanded. An ICPN originating and progressing from the RAS is rare. We describe the case and a review of literature cases.

はじめに

Intracholecystic papillary neoplasm(以下,ICPNと略記)は胆管内乳頭状腫瘍intraductal papillary neoplasm of extrahepatic bile duct(以下,IPNBと略記)の胆囊内病変としてWHO消化器腫瘍分類20101)および胆道癌取扱い規約第6版2)に記載された比較的新しい概念である.ICPNが浸潤した場合,WHOの分類ではICPN with an associated adenocarcinomaと分類される3).今回,我々はICPN with an associated adenocarcinomaがRASから発生・進展したと推測される1例を経験したので,ムチン(mucin;以下,MUCと略記)などの免疫組織学的な考察とともに報告する.

症例

患者:69歳,女性

主訴:心窩部痛

既往歴:高血圧症,脂質異常症

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:以前より食後の心窩部痛を自覚し,近医で経過観察されていた.心窩部痛の精査目的に当院内科を受診し,腹部USで胆囊底部に18 mm大の内部に血流を伴う腫瘤像を指摘された.腹部造影CTでも同部位に17 mm大の早期濃染される隆起性病変を指摘され,胆囊癌の疑いとして当科紹介となった.

入院時現症:身長155.5 cm,体重50.2 kg,BMI 20.9 kg/m2.眼球結膜に黄染を認めず,腹部は平坦・軟であり,自発痛や圧痛は認めなかった.体表から腫瘤は触知しなかった.

入院時血液検査所見:腫瘍マーカーを含め,異常所見は認めなかった.

腹部US所見:胆囊底部に約18 mm大の内部不均一な腫瘤像を認めた.腫瘤内にはRASの増生を疑う無エコー部分があり,内部には血流を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

A: Abdominal US showed an inhomogeneous mass of 18 mm in diameter at the fundus of the gallbladder. B: The tumor had internal blood flow and was surrounded by the RAS.

腹部造影CT所見:胆囊底部に約17 mm大の早期濃染される壁肥厚を認めた.漿膜側では造影効果が減弱した部分を認め,一部では広基性腫瘤様の所見であった.10年前の単純CT所見と比較したところ,胆囊底部の壁肥厚は増大していた(Fig. 2).

Fig. 2 

A: Horizontal section. B: Coronal section. Enhanced abdominal CT revealed an enhanced mass with inhomogeneous serosa and wall thickness at the fundus of the gallbladder (arterial phase).

腹部MRI所見:T2脂肪抑制画像で胆囊底部に壁肥厚を認めた.胆囊内部に信号低下があり,慢性胆囊炎による粘稠な胆汁貯留を示唆する所見であった(Fig. 3).

Fig. 3 

An abdominal MRI axial T2-weighted image with fat saturation showed a wall thickness lesion at the fundus of the gallbladder and hypointensity in cavities.

以上より,胆囊腺筋腫症(adenomyomatosis of gallbladder;以下,ADMと略記)と慢性胆囊炎の合併が疑われたが,胆囊癌も否定できなかったため,開腹胆囊摘出術(全層切除)を施行した.

手術所見:胆囊底部に硬い腫瘤を触知した.可動性は良好であり漿膜面への露出は見られなかった.肝床より剥離し全層性に胆囊を摘出した.摘出標本の胆囊底部に表面乳頭状の腫瘤を認め,術中迅速組織診断へ提出したところ,腺癌と診断された.胆囊管断端は陰性であったため,肝床切除術および2群リンパ節郭清を施行した.

切除標本肉眼所見:胆囊底部に20×17 mm大の結節を認め(Fig. 4A),割面では,腫瘍中央部は乳頭状の充実性腫瘍であり,その周囲に粘液を含有する囊胞成分を認めた(Fig. 4B).

Fig. 4 

A: The resected specimen showing a node of 20×17 mm in diameter at the fundus of the gallbladder. B: Mucus retention was present within the cystic lesion of the tumor.

病理組織学的検査所見:囊胞上皮の大部分は低異型度から高異型度の腫瘍細胞が乳頭状や管状構造をとりながら間質に沿って内反性に増殖しており,一部の囊胞上皮には異型のない正常上皮が見られた(Fig. 5A, B).腫瘍細胞の大部分は囊胞内に留まっていたが,充実性成分の基部で一部が漿膜下層に浸潤していた(Fig. 5C).免疫組織化学の結果,MUC1,MUC5AC(Fig. 6A, C)は腫瘍部分の大部分で陽性を示した.MUC2(Fig. 6B)は陰性であり,MUC6(Fig. 6D)は陽性と陰性が混在していた.以上より,ICPN with an associated invasive carcinomaと診断し,組織学的亜分類はbiliary typeとした.腫瘍近傍の胆囊底部および他切片の体部に多数のRASを認めたが,RAS周囲の間質には平滑筋細胞の増生は認めずADMとは異なっていた.囊胞はICPNが産生した粘液もしくはICPN自体の伸展によって拡張したRASであると推測した.腫瘍の深達度は固有筋層を超え,漿膜下層へ浸潤していたが,肝臓への浸潤は認めず,胆囊管断端と剥離面は陰性であった.リンパ節は#8a:0/2,#8p:0/2,#12b:0/4,#12p:0/2であり,リンパ節への転移は認めなかった.胆道癌取扱い規約第6版2)に従うとGf,nodular-expanding type,pap,pT2(SS),pCM0,pEM0,med,INFb,ly0,v0,pn0,pN0,Stage IIであった.

Fig. 5 

Microscopic findings (HE stain). A: Histopathologically, the tumor proved to be well-differentiated papillary mucinous adenocarcinoma. B: Most of the cystic epithelium was atypical. C: Tumor cells had invaded with papillary and tubular structures and small foci of infiltration into the stroma.

Fig. 6 

Immunohistochemical features. In the cancerous epithelium, MUC1 (A) and MUC5AC (C) were expressed, MUC2 (B) was not expressed, and MUC6 (D) was partially expressed.

術後経過は良好で,POD14に退院した.術後化学療法としてテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤の単剤内服を開始したが,4コース目に大腸炎(grade 2)を発症したため終了となった.現在も外来で経過観察中である.

考察

ICPNは膵管上皮における膵管乳頭粘液性腫瘍intraductal papillary-mucinous neoplasm(IPMN)の胆管counter partとして提唱されたIPNBの胆囊内病変としてWHO消化器腫瘍分類20101)および胆道癌取扱い規約第6版2)に記載された比較的新しい概念である.ICPNは乳頭状あるいは絨毛状の腫瘍で,狭い線維性,血管性の間質を有しており,高分化な立方あるいは円柱上皮で覆われているもの4)とされている.ICPNは上皮の形態と免疫染色検査のパターンによりbiliary type,intestinal type,gastric type,oncocytic type に分類され,異型度により,低異型度,中間型,高度異型度に分類され,周囲への浸潤像を示す例はICPN with an associated adenocarcinomaと呼ばれる3)~5).7例のICPNと24例の乳頭状胆囊癌,44例の非乳頭状胆囊癌について検討したAkitaら6)の報告によればICPNの44%(3/7例)に粘液産生を認め,乳頭状胆囊癌(4%),非乳頭状胆囊癌(2%)と比較して高頻度であった(P<0.001).この報告では遺伝子変異について検索されており,7例中3例にPeutz-Jegher syndromeの原因遺伝子であるSTK11の変異を,7例中1例に家族性大腸腺腫症の原因遺伝子であるAPCの変異を,7例中2例にCTNNB1の変異を認めた.これらは通常の胆囊癌にはほとんど発現せず,ICPNに特徴的であった.7例のICPNのうち4例に本症例と同じICPN with an associated adenocarcinomaを含んでいたが,リンパ節転移やリンパ管侵襲に乏しく,癌の再発や関連死を認めず,胆囊癌よりも予後が良好であった.

しかし,86例の胆囊癌においてMUCの発現と予後の関連を検討したHirakiら7)の報告ではMUC1陽性の胆囊癌はMUC1陰性に比べて予後が優位に不良であった(post surgical DSS;22.5 months vs. 55.5 months,P=0.02)とされている.伊佐ら8)の研究でもMUC1の発現が強くなるほど優位に壁深達度が高度で,リンパ節転移の頻度が高い報告されている.以上から,本症例はICPNであるが,一部に漿膜下層への浸潤を伴っており,MUC1陽性であることから通常の胆囊癌と同様に慎重な経過観察が必要であると推測される.本症例においては腫瘍マーカーの測定と半年毎の造影CTによって経過観察している.胆囊癌に対する術後化学療法に関しては一定の見解は得られていないが,本症例ではテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤の単剤内服を4コース行った.

術前検査では,胆囊癌とADMとの鑑別が困難であった.ADMはRASの増殖およびその周囲の平滑筋細胞の壁内増生により胆囊壁の肥厚を来す良性疾患とされている9).胆囊摘出術により摘出された胆囊の10%前後にADMが存在し,ADM合併の胆囊癌は1.4~6.6%といわれている10)11).一般的にADMは部位と広がりにより,胆囊底部に限局する底部型(fundal type),胆囊頸部や体部に存在する分節型(segmental type),胆囊壁全体に存在するびまん型(diffuse type)に分類される8)12).本症例はRASの増生は認めるも平滑筋細胞の増生はなく,ADMの定義は満たさなかった.ADMと胆囊癌の関連については検討がなされており,分節型ADMでは胆囊癌の合併が高率に存在するため予防的な胆囊摘出術を考慮する必要があると報告されているが,その他の型に関しては関連がみられないと報告されている11).一方でMorikawaら13)の研究では無症候性ADMであっても早期の胆囊癌の見逃しを避けるために予防的に胆囊摘出術を行うことの有用性が示唆されているが,一定の見解が得られていないのが現状である.また,ICPNは胆囊内に乳頭状に発育することが特徴であるが,しばしば経過観察が可能なADMとの鑑別診断が難しい.本症例は腹部USで内部血流を認めたことが胆囊癌を疑う契機となり手術加療に至ったが,近年では超音波内視鏡検査による鑑別が有用であったとの報告も14)あり,本症例でも術前に有益な評価が可能であった可能性がある.

本症例は胆囊底部に囊胞を有する乳頭状の充実性腫瘤を認め,囊胞内の細い線維性間質に沿って低異型度から高異型度の高分化な立方上皮が乳頭状や管状構造をとりながら内反性に増殖していた.大部分の腫瘍細胞は囊胞内に留まっていたが,充実性部分の腫瘍基部で一部,漿膜下層に浸潤していた.また,腫瘍周囲および胆囊体部から底部にRASが多数存在しており,囊胞は腫瘍細胞もしくは腫瘍産生粘液によって拡張したRASであると推測した.MUCの染色パターンと肉眼型から組織学的亜分類はbiliary typeであった.Teradaら15)がRAS原発の胆囊癌について検討したところ,RAS原発胆囊癌の組織亜分類はbiliary typeもしくはoncocytic typeであったと報告されており,本症例の染色パターンも同様でありRAS原発の可能性を示唆している.医学中央雑誌で1964年から2020年1月の期間で「Rokitansky-Aschoff洞」,「ICPN」,PubMedで1950年から2020年1月の期間で「Rokitansky-Aschoff sinus」,「ICPN」をキーワードとして検索した結果(会議録除く),RASより発生し,進展したICPNの報告が3例16)~18)存在した.このうち本症例と同様のbiliary typeを示したのは2例16)17)であり,この2例とも拡張したRAS内に発生したICPNであり,肉眼型,組織型ともに本症例と共通する点が多い.通常の乳頭癌がRASに浸潤した可能性は完全には否定できないが,腫瘍の大部分がRASと推測される囊胞内に存在し,浸潤部は限局していたこと,囊胞内の上皮が徐々に腫瘍細胞に置換されていること,および免疫染色検査の結果からRASに発生・伸展したICPN with an associated invasive carcinomaと推測した.

ICPNがRAS内に発生・進展した症例の報告は限られており,今後の症例の蓄積が必要と考える.

利益相反:なし

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