The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CLINICAL EXPERIENCE
Evaluation of Hemostatic Radiotherapy for Gastric Cancer
Yasunao IshiguroMasanori HakozakiNaruaki TakahashiHajime SatoNobuo SakashitaGen-ichiro SekizawaHiroki Oikawa
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2021 Volume 54 Issue 2 Pages 149-155

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Abstract

進行胃癌では出血が問題になることがあり,止血目的の胃切除も行われるが,局所進行により切除が困難だったり,併存症で全身麻酔下の手術自体が実施できなかったりすることがある.当院では2013年4月から2018年3月までに出血のある進行胃癌21例に対して止血目的に放射線治療を行った.年齢の中央値は83歳で,総線量30~33 Gyを10~11回分割照射した.3例で出血コントロール後に化学療法を実施し,13例が一時退院した(生存期間中央値は108.5日).胃癌診断直後に脳梗塞を発症しactivities of daily living(以下,ADLと略記)がベッド上となった症例では,リハビリテーション期間中に放射線治療で止血を得て,ADL回復後に根治手術を行った.出血を伴う進行胃癌に対して止血目的に行う放射線治療は,適応を選べば一時帰宅や化学療法,根治手術が可能な場合があるため,治療の選択肢となりえる.

Translated Abstract

Advanced gastric cancer with bleeding may be resected to achieve hemostasis. However, sometimes a case is not suitable for resection because of severe local invasion or a poor condition of the patient. Between April 2013 and March 2018, 21 cases of advanced gastric cancer with anemia (hemoglobin level <10 mg/dl) were treated by radiotherapy for hemostasis at our hospital. All cases were not indicated for surgery for various reasons. The median age of the patients was 83 years old. A total of 30 or 33 Gy in 10 or 11 fractions was administered. After radiotherapy, 3 patients were able to receive chemotherapy and 13 patients were discharged to home. The median survival time was 108.5 days. One patient suffered cerebral infarction and became bedridden just after advanced gastric cancer with anemia was treated by hemostatic radiotherapy in parallel with rehabilitation. After improvement of activities of daily living, a curative operation was performed. Hemostatic radiotherapy may be a treatment option for advanced gastric cancer with bleeding that is not suitable for resection at the time of diagnosis.

はじめに

胃癌は,日本をはじめアジアでの罹患率が高く,本邦でも精度の高いリンパ節郭清手技が確立・維持されてきた.近年,消化管内視鏡診断の発達により早期発見され,手術症例についても腹腔鏡下手術が一般的となり,低侵襲で高度な医療技術の恩恵を受けられる症例がある一方で,進行した状態で発見される症例も一定数存在する.進行胃癌では問題点の一つとして出血があり,著しいQOLの低下とそれに伴い化学療法も含めた他の治療が困難になることがある.止血目的の胃切除も行われるが,局所の進行が著しい場合はそもそも切除が困難となることもあり,また高齢であるなどさまざまな併存症で全身麻酔下の手術自体が実施困難な症例も少なくない.そのような非切除例ではときに出血のコントロールが困難となる.胃癌の止血を目的とした放射線治療は既報1)~3)のごとくかぎられた施設でではあるが国内でも実施されており,効果も認められている.岩手県立釜石病院(以下,当院と略記)のある釜石医療圏は,釜石市・大槌町あわせて5万人弱の人口で,他の地域と同様に高齢化が進み,直近の65歳以上の高齢化率は38%前後である.このような高齢化事情もあり,診断時に進行度はもとより基礎疾患や併存症のため手術が困難な悪性腫瘍の症例もみられる.当院では,地域住民の高齢化や高度な医療施設への移動が困難であるという理由で手術など侵襲的な治療が行えないが,出血を認める胃癌の症例に対し放射線治療を行ってきた.今回その経過を報告するとともに,出血コントロール後に根治手術を行った1症例の詳細について報告する.

方法

2013年4月から 2018年3月までに,吐下血のエピソードもしくはヘモグロビン10 g/dl未満の貧血がある進行胃癌の症例21例に放射線治療を行った(Table 1).総線量30~33 Gyを10~11回分割で照射した(1回3 Gy).局所進行症例や高齢で併存症があり手術が適応できない症例を放射線治療の対象とした.活動性の出血を認める場合は,内視鏡的にコントロールを得てから放射線治療を開始した.観察期間にinterventional radiology(IVR)での止血術を要する症例は認めなかった.

Table 1  Background of cases and outcomes of radiotherapy
Case Sex Age Location Symptom Hb (g/dl) BTF Locally advance Distant metastasis Comorbidities Final Hb (g/dl) Hb decrease BTF after Rx Therapy after Rx Survival days Alive
1 M 81 A 5.4 + + Liver 8.0 76
2 M 88 UB 4.7 + CRF 9.8 + 825
3 M 90 A + 9.8 CHF 6.1 Yes 28
4 F 88 MB + 7.4 Dementia 9.0 272
5 M 58 UB-A 7.1 + + Liver, Lung 9.3 + 63
6 M 79 A 8.9 + Liver 5.2 Yes + S-1 128
7 F 88 A 7.1 + Liver, Spleen 9.7 261
8 F 86 MB 8.9 Cirrhosis 5.1 Yes 162
9 M 73 MB 6.6 + + Liver Schizophrenia 7.1 278
10 M 84 A + 6.5 + Lung cancer 14.6 52
11 F 86 MB 8.7 10.2 59
12 F 85 UB 8.0 + Peritoneum 6.7 Yes 25
13 M 83 UB 9.8 + Liver 12.2 89
14 M 83 A 9.0 + 14.6 595 Yes
15 M 82 UB + 8.5 + COPD 8.2 60
16 M 81 UB + 5.2 + + Liver 7.2 + 84
17 M 56 UB + 8.7 + + 11.5 + + SOX 92
18 M 76 Remnant 8.6 + + 9.8 + S-1 21 Yes
19 M 89 UB + 6.7 + + 10.0 108 Yes
20 M 84 LB-A 7.7 + COPD 6.6 Yes 47
21 M 70 LB + 6.0 + CI 10.4 + Surgery 58 Yes

UB: upper body, MB: middle body, A: antrum, Remnant: remnant stomach, Symptom: hematoemesis and/or bloody stool, BTF: blood transfusion, CRF: chronic renal failure, CHF: congestive heart failure, COPD: chronic obstructive pulmonary disease, CI: cerebral infarction, Rx: radiotherapy, S-1: tegafur/gimeracil/oteracil, SOX: S-1 and oxaliplatin.

For “Hb decrease”, “yes” indicates a difference between pre- and post-treatment Hb of >1 g/dl.

結果

21例の年齢の中央値は83(56~90)歳で,解析時点で生存例は4例,放射線治療開始後の生存期間中央値は108.5(25~825)日であった.出血をコントロールした後に化学療法を実施できた症例が3例あった.治療後に明らかな吐下血のエピソードのあった症例は3例で,最終的に治療前より1 g/dl以上のヘモグロビン値低下があったのは5例であった.放射線治療後に輸血が実施されたのは4例であった.放射線治療後に13例が一時退院することができた.1例は胃癌診断直後に脳梗塞を発症しactivities of daily living(以下,ADLと略記)がベッド上となった(症例21).抗凝固療法が開始されており,ADL回復のためにはリハビリテーションが数か月必要と判断されたため,止血を目的とした放射線治療を行い,ADLが回復したところで根治手術を行った.以下にその症例の経過を示す.

症例

症例は70歳の男性で,心房細動でワーファリンによる抗凝固療法中であった.動悸・息切れで近医を受診した際にHb 6 g/dlの貧血を指摘され当院紹介受診した.当院ではHb 6.9 g/dlであり,入院のうえ,上部消化管内視鏡検査を実施したところ前庭部大彎後壁よりに2型病変を認めた(Fig. 1).生検ではGroup 4であったが,肉眼形態でも癌の診断であり,輸血を行って退院し,後日根治手術の方針であった.CTでは,No. 6のリンパ節腫大を認めるものの腹水や遠隔転移の所見を認めていなかった(Fig. 2a).退院7日後に左片麻痺が出現し,脳梗塞と診断され,当院に入院した.ADLはベッド上となり,明らかなPSの低下を認めた.脳梗塞後の抗凝固療法を継続する必要があるうえ,PSも低下した状態であり,出血コントロールの目的であったとしても全身麻酔下の手術は周術期合併症のリスクが高いと思われた.このため,止血目的の放射線治療を行うこととした.待機期間中に病変が進行して遠隔転移などを来し,根治手術ができなくなる可能性もあることから,本人・家族に十分な説明を行い,治療方針について同意を得た.総線量は33 Gy,11回の分割照射を行い,4か月後にリハビリテーション目的に転院した.7か月後に転院先病院を退院し当科を再診した.杖歩行で,治療の理解・判断も可能であった.Esophagogastroduodenoscopy(EGD)では胃病変の増大を認めた(Fig. 3).CTではNo. 6のリンパ節は増大傾向であったが,新規のリンパ節腫大や遠隔転移は認めなかった(Fig. 2b).8か月後に開腹幽門側胃切除術を実施した(D1+,Billroth-I再建).腹腔内には放射線治療の影響を思わせる癒着などの所見は認めなかった.術後経過は順調で,術後25病日に退院した.病理組織学的検査では,Papillary adenocarcinoma,42×34 mm,Type 2,pT2,ly1,v1,N2(7/17 4d,6,7,9),CY0,H0,M0,Stage IIIA(胃癌取扱い規約第15版)であった.術後補助化学療法を実施する予定である.

Fig. 1 

In pre-radiotherapy EGD, a type 2 lesion was found in the posterior wall of the antrum, and biopsy was performed.

Fig. 2 

CT findings. a) Pre-radiotherapy, the No. 6 (subpyrolic) lymph node was swollen. Other lymph nodes were not enlarged and no ascites was found. b) Post-radiotherapy, no new enlarged lymph nodes were found and the No. 6 lymph node was only slightly enlarged.

Fig. 3 

Post-radiotherapy EGD findings. Shortly before the operation, a slightly enlarged type 2 lesion was found in the posterior wall of the antrum.

考察

PubMedで1950年から2019年11月の期間で「gastric cancer」,「radiotherapy」,「bleeding」をキーワードとして検索した結果,胃癌に対して止血を目的とした放射線治療を行った複数の施設からの報告1)~5)が検索された.Hashimotoら1)は,19例の非切除の胃癌症例に対し止血目的の放射線治療を総線量40 Gyで行った.治療後に輸血を必要としなかったのは68.4%で,有害事象はわずかであったと報告している.Asakuraら2)は,輸血を必要とした胃癌症例30例に対し総線量30 Gyの放射線治療を行った.有効と判断されたのは73%で,その半数に再出血がみられたが,予後不良な症例においては有用な治療法としている.Kondohら3)は,15例の輸血を必要とした胃癌症例に放射線治療単独もしくは化学療法との併用療法を行った.放射線治療の総線量は30 Gyで,73%に止血効果があり,大きな有害事象は認めなかったので,非切除で終末期の症例にとって短期間で止血が得られる方法であるとしている.Leeら4)は,止血目的に30 Gy以上の照射を実施できた胃癌の症例23例を検討しているが,91%で出血症状の緩和が得られ,Hbの増加と輸血頻度の低下を示している.今回,我々は高齢化の進むへき地において,切除困難もしくは全身麻酔での手術が適当ではないと思われる進行胃癌の症例に対して止血を目的とした放射線治療を実施した.治療後に輸血を必要とした4例(出血症状のあった3例を含む)と,最終的なHbが治療前より1 g/dl低下していた5例を合わせて9例を無効例とすると有効例は57%であり,過去の報告と比較するとやや低い数字である.既報では1か月など比較的短い期間で再出血がない症例を有効と判断しているが,本研究では治療後の生存期間を全て検討に含めている影響と考えられる.さらに,本研究では比較対象はなく,中には再出血を来したり,再度の輸血を要する症例もあったが,退院して帰宅が可能であったり,止血を得た後に抗癌剤化学療法が実施できる場合もあり,少なくともQOLの向上には有益であったと考えている.本報告の結果からも対象となる年齢層は超高齢となっている.適切な線量については,既報では一定ではないが5),60~70%の症例では症状緩和に有効であったとされており,どのような状況でどの程度の線量が適切であるのかはさらに検討する必要がある.術前にneoadjuvant療法として放射線治療を行う報告もあり6)7),本報告のような緩和的もしくは手術までのつなぎとしての治療の場合での適切な線量や照射回数の基準が明確となっていくことに期待したい.

提示した症例は,脳梗塞を発症したことから,抗凝固療法の実施と低下したADLが回復するまでの治療として放射線治療を実施したものである.遠隔転移が出現するまでの期間が不明であることと,ADLが回復せずベッド上の場合の治療方針決定など考慮すべき点は多い.一方で,状態の悪い中で手術を行い,合併症のため致命的となるリスクが高いと判断されるならば,放射線治療は止血を得るための手段の一つとなりえると思われた.原発巣だけ見れば根治手術可能ではあるが,放射線治療や他の理由で待機期間がある場合に遠隔転移の出現や全身状態の悪化で根治術を実施できないような経過になる可能性については十分に本人も含めた病状説明を行い,承諾を得る必要がある.

脳梗塞や他の疾患が偶然発症してしまった場合に,ただちに根治術を実施した群と,本症例のように待機してから手術を実施した群で,術後合併症や再発率を比較できれば本症例における疑問点は解決される可能性がある.へき地の中核病院も含めた他施設共同のかたちで症例数を増やして研究が進むことに期待したい.併存症のない比較的若年層の患者群の結果だけでなく,個別対応も含めたより難しい症例に対しての工夫をこらした対応についても知識や知見を集積していく必要がある.

腹腔鏡下・開腹問わず,全身麻酔下の胃切除には,侵襲を伴う.今回とりあげた出血が問題になるような進行胃癌の,特に高齢の患者群においては,人生の最後の治療経過となる可能性もあり,長く連れ添ってきた家族との時間をどのように確保するか,手術という侵襲をより理解している外科医であればこそ,より患者や家族に寄り添った対応の一つに止血を目的とした放射線治療という選択肢をもっておくべきだと考える.

利益相反:なし

文献
 

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