The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
Print ISSN : 0386-9768
ISSN-L : 0386-9768
CASE REPORT
Collateral Circulation-Preserving Pancreaticoduodenectomy for a Case Complicated by Celiac Axis Occlusion
Yo HattoriYoshiro MatsubaToshitaka MamiyaYoshito IidaMitsuhiro MatsudaMasato Yamazaki
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 54 Issue 2 Pages 125-132

Details
Abstract

腹腔動脈(celiac artery;以下,CAと略記)起始部閉塞例に対する膵頭十二指腸切除術では,本来CAにより供血される臓器の血流が問題となる.症例は72歳の男性で,黄疸精査の結果十二指腸乳頭部癌の診断となった.造影CTにてCA起始部の造影欠損と“hooked appearance”および発達した膵頭部アーケードを認めたため,正中弓状靭帯圧迫によるCA起始部閉塞合併と診断した.術中血流評価は超音波ドプラー検査で行い,正中弓状靭帯の切開を行ったが総肝動脈の順行性血流再開を得られなかったため,前下および前上膵十二指腸動脈を介した上腸間膜動脈からの側副血行路を温存した切除を実施した.術後臓器虚血を合併することなく経過し,以降2年間無再発生存中である.CA起始部閉塞例に対する側副血行路温存切除は慎重な症例選択により安全に実施可能であり,血行再建以外の選択肢として考慮に値する.

Translated Abstract

In pancreaticoduodenectomy for a patient with celiac axis (CA) occlusion, cutting off the collateral pathways may lead to ischemia of organs originally supplied by the CA. A 72-year-old man was diagnosed with cancer of the ampulla of Vater upon examination for jaundice. Contrast-enhanced CT showed focal occlusion of the proximal CA with a “hooked appearance” and development of an anomalous arterial arcade of the pancreatic head. The case was complicated by CA occlusion due to compression by the median arcuate ligament (MAL). Surgery was performed with subtotal stomach-preserving pancreaticoduodenectomy, and intraoperative blood flow was evaluated using Doppler US. Clamping of the gastroduodenal artery interrupted blood flow in the common hepatic artery (CHA), so an incision was made in the MAL. However, we could not restore blood flow in the CHA, and thus, resection that preserves the collateral circulation from the superior mesenteric artery via the anterior inferior and superior pancreaticoduodenal arteries was performed. The patient has made satisfactory progress without ischemic events and has survived without recurrence for 2 years at the time of writing. This case shows that collateral circulation-preserving pancreatoduodenectomy for patients with CA occlusion can be safely performed with careful case selection and can be considered as an alternative to revascularization procedures.

はじめに

腹腔動脈(celiac artery;以下,CAと略記)起始部の閉塞は膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy;以下,PDと略記)実施例の1.6~2%に合併するとされる1)2).PDは胃十二指腸動脈(gastroduodenal artery;以下,GDAと略記)を根部で切離し膵頭部アーケードを切除する術式であるため,CA起始部に狭窄ないし閉塞が認められる場合,肝臓・脾臓・残胃・残膵など本来CA系血流を受ける臓器の虚血を回避するために何らかの方策が必要となる.今回,我々はCA起始部閉塞を合併した十二指腸乳頭部癌に対し,側副血行路として発達した膵頭部アーケードを1本温存することでCA系血流を確保したPDを経験したため,他の術式と併せて考察しこれを報告する.

症例

患者:72歳,男性

主訴:尿の濃染

既往歴:特記事項なし.

現病歴:上記主訴にて他科を受診した.精査の結果十二指腸乳頭部癌による閉塞性黄疸の診断となり,減黃処置後に当科紹介となった.

来院時現症:身長176 cm,体重65.2 kg,血圧172/89 mmHg,脈拍81回/分,全身に皮膚黄染を認めた.

血液検査所見:T.Bil 6.8 mg/dl,D.Bil 5.3 mg/dl,AST 192 U/l,ALT 157 U/l,ALP 4,083 U/l,γ-GTP 1,951 U/lと肝胆道系酵素の上昇,およびWBC 13,820/μl,CRP 6.39 mg/dlと炎症反応の上昇を認めた.また,腫瘍マーカーはCA19-9 88.9 U/mlと上昇していた.

体幹部造影CT所見:十二指腸乳頭部に長径18 mmの腫瘍を認め,胆管および主膵管の拡張を認めた(Fig. 1a, b).また,矢状断再構成像では正中弓状靭帯(median arcuate ligament;以下,MALと略記)による圧迫に特徴的とされるCA起始部の“hooked appearance”を認め(Fig. 2a),three-dimensional CT angiography(以下,3D-CTAと略記)ではCA起始部の造影欠損と膵頭部アーケードの異常発達とを伴っていた(Fig. 2b, c).

Fig. 1 

Contrast-enhanced abdominal CT showed a mass of 18 mm in diameter in the ampulla of Vater (a, b, arrows). A well-developed anterior superior pancreaticoduodenal artery (ASPDA) was observed around the pancreatic head (a, arrowheads). Gastrointestinal endoscopy showed an ulcerative-predominant type tumor at the ampulla of Vater (c).

Fig. 2 

A sagittal reconstruction CT image showed a “hooked appearance” (a, arrow). Preoperative 3D-CTA revealed focal occlusion of the proximal celiac artery (CA) (b, arrow) and development of an anomalous arterial arcade of the pancreatic head (c). CHA: common hepatic artery, SMA: superior mesenteric artery, GDA: gastroduodenal artery, PSPDA: posterior superior pancreaticoduodenal artery, PIPDA: posterior inferior pancreaticoduodenal artery, AIPDA: anterior inferior pancreaticoduodenal artery.

上部消化管内視鏡検査所見:十二指腸乳頭部に潰瘍腫瘤型腫瘍を認め(Fig. 1c),同部からの生検でadenocarcinomaの診断となった.

以上より,本症例をMAL圧迫によるCA起始部閉塞を合併した十二指腸乳頭部癌clinical Stage IBと診断し,減黄の後に待機的手術を行う方針とした.CA系血流確保のため術前に検討した手術戦略を図に示す(Fig. 3).術式は亜全胃温存PD(subtotal stomach-preserving PD;以下,SSPPDと略記)で行った.

Fig. 3 

Surgical strategy for this case.

手術所見:上腹部正中切開にて開腹し腹腔内を観察すると,明らかな切除不能因子は認めなかったが,著明に発達した前上膵十二指腸動脈(anterior superior pancreaticoduodenal artery;以下,ASPDAと略記)を認めた(Fig. 4a).通常通りの手順で胃の離断まで行い,郭清を行いながらGDAと総肝動脈(common hepatic artery;以下,CHAと略記)をテーピングした.GDAは比較的短くすぐにASPDAと後上膵十二指腸動脈(posterior superior pancreaticoduodenal artery;以下,PSPDAと略記)とに分岐していた.超音波ドプラー検査ではCHAの血流は逆行性であり,GDA clamp testを行うとCHAの血流途絶を認めた(Fig. 4b).この所見からCA系血流は膵頭部アーケードおよびGDAを介し上腸間膜動脈(superior mesenteric artery;以下,SMAと略記)より供給されていると診断した.そのため,術前検討した手術戦略に則りCHAの順行性血流再開を狙ってMALの切開を行う方針とした.CA起始部頭側で肥厚したMALをテーピングし(Fig. 4c),これを切開することで肉眼的にCA根部の圧迫を解除した.しかし,再度GDA clamp testを行うもCHAの血流途絶は変わらなかったため,CHAは長年の圧迫で器質的に閉塞していると診断し側副血行路温存切除を行う方針とした.術前CTでの評価で腫瘍とASPDAとは十分に距離が保たれており(Fig. 1a),術中も膵頭部に腫瘍浸潤を疑う所見を認めなかったため,腫瘍学的にASPDAを含む側副血行路を温存することは認容されると判断した.膵頭部に最大で約半周埋没していたASPDAを慎重に剥離し,前下膵十二指腸動脈(anterior inferior pancreaticoduodenal artery;以下,AIPDAと略記)の根部まで損傷なく連続させた.肝十二指腸間膜の郭清・膵離断・空腸離断と手術を進め,PSPDAおよび後下膵十二指腸動脈(posterior inferior pancreaticoduodenal artery;以下,PIPDAと略記)のclamp testでCHAの血流低下がないことを確認し(Fig. 4d),これらを切離することでAIPDA–ASPDAの血行路を温存した.最後に膵頭神経叢の郭清を行い側副血行路温存切除を完遂した(Fig. 4e).再建はSSPPD-IIA-1で行い,ドレーンと空腸瘻チューブを留置して手術終了とした.手術時間10時間39分,出血量350 ml,輸血は照射赤血球濃厚液2単位および新鮮凍結血漿8単位を使用した.

Fig. 4 

Intraoperative findings. a: The ASPDA was expanding and meandering. b: Doppler US showed that clamping of the GDA interrupted blood flow in the CHA (arrow). c: After taping of the median arcuate ligament (MAL) and making an incision, compression at the proximal CA was released. d: The preserved arcade maintained blood flow in the CHA. e: Collateral circulation-preserving resection was performed (arrows).

病理組織学的検査所見:胆道癌取扱い規約第6版に準じて記載するとAcdPhD,ulcerative-predominant type,25×15×10 mm,Tub1/tub2,pT3a,int,INFb,ly1,v0,ne2,pN0,HM0,PM0,EM0,PV0,A0,R0. pStage IIAであった.

術後経過:術後ISGPF Grade Bの膵液瘻を合併したため保存的加療を要したが,臓器虚血の合併なく経過し術後53日で独歩退院となった.術後補助化学療法は実施せず,以降2年間無再発生存中である.術後の3D-CTAではCAの“hooked appearance”は解除されていたが起始部閉塞は残存していた(Fig. 5a).温存した側副血行路によりCA系血流は確保されているものと推察され,その他動脈瘤形成などのトラブルは認めなかった(Fig. 5b).

Fig. 5 

Postoperative 3D-CTA showed remaining focal occlusion of the proximal CA (a, arrow) and patency of the collateral circulation (AIPDA-ASPDA) without any vascular problems (b).

考察

一般にCA起始部の狭窄ないし閉塞は,腹部血管造影検査の12.5~49.7%に認められ3)4),PD実施例の4~11%に合併すると報告されている2)5).ことCA起始部閉塞に限定するとPD実施例への合併率は1.6~2%と報告されており1)2),希少な合併症といえる.原因としては動脈硬化や大動脈炎をはじめとする内因性のものと,MALやリンパ節・神経叢などの圧迫による外因性のものとが考えられる.浦上ら6)はCA起始部狭窄合併例に対するPDの報告97例を集計し,狭窄の原因について正中弓状靭帯によるものが46%と最も多く,ついで動脈硬化が42%であり,この二つで全体の9割近くを占める,と報告した.

MAL圧迫によるCA狭窄に限ると,Sugaeら7)が形態学的な分類および対処法を提言している.これによると狭窄が軽度であり側副血行路が発達しておらず,術中の処置を要さないものをType A,狭窄が中等度で術中にはMALの切開のみで十分なものをType B,狭窄が高度で顕著な側副血行路を形成し,何らかの術中処置を要するものをType Cと分類している.一方で内因性による病態と比較してMAL圧迫によるCA狭窄では,多くの場合MALの切開のみで血流改善を得るとの報告もある5)8).そのため,CA起始部狭窄ないし閉塞合併例に対するPD実施に際しては,術中のGDA clamp testでCHA血流を評価し,低下ないし途絶を認めた場合にはその原因によって対処法を大別すべきと考える.すなわち①原因が内因性であった場合にはCA系血流を確保するための処置を追加するが,②原因がMALをはじめとする外因性圧迫によるものであった場合,まず圧迫を解除することでCAの順行性血流の再開が得られるかを確認する.血流の改善が得られない場合には内因性による場合と同様に術中処置を追加する,という手術戦略フローが妥当と考える.血流評価のタイミングに関しては過去に,GDA結紮直後には問題なかったが消化管再建終了時に血流低下を来した症例が報告されている9).そのため,血管離断の前だけでなく再建前そして閉腹前にも再度肝動脈血流の評価を行うことが推奨される.また,術前膵内アーケードの軽度拡張を認めていた症例で,術中clamp testおよび閉腹前にCHAの血流を確認できたにもかかわらず術後臓器虚血を呈した症例も報告されている10).当該症例では再手術時にMALを切開したところCHA血流の改善を認めたとされており,MAL圧迫を伴う症例では全例これを切開する方がより安全である可能性が示唆される.

CA系血流を確保するための術中処置としては,医学中央雑誌(1964年~2019年)およびPubMed(1950年~2019年)で「腹腔動脈起始部閉塞」,「膵頭十二指腸切除術」,「celiac axis occlusion」,「pancreaticoduodenectomy」をキーワードとして検索したところ(会議録除く),自家静脈グラフトを用いたバイパスあるいは動脈直接吻合による血行再建と,側副血行路温存とが主に挙げられた.側副血行路温存に限ると,自験例と同様に膵頭部アーケードの一部を温存したPDに言及した報告は,検索しえたかぎりで8報認めた.

前述の浦上ら6)は血行再建の種類および経路に関しても集計しており,これによると自家静脈グラフトを用いたバイパスが最も多いとされる.再建経路は腹部大動脈(aorta;以下,Aoと略記)–CHAを筆頭に,SMA–CHA,Ao–GDA,Ao–CA,GDA–SMA,総腸骨動脈–脾動脈(splenic artery;以下,SpAと略記),外腸骨動脈–SpAが報告されている.グラフトを用いた再建は自由度が高いことが利点であるが,吻合が2箇所と難度が高くグラフト閉塞のリスクも考慮する必要がある.一方,動脈直接吻合の経路としては中結腸動脈(middle colonic artery;以下,MCAと略記)–GDA,SpA–SMA,MCA–右胃大網動脈,GDA–空腸動脈,AIPDA–CHA,AIPDA–ASPDA,PIPDA–GDAが報告されている.直接吻合の場合,吻合は1箇所と比較的簡便であるが,吻合部に過度のテンションがかからないデザインを要求される.また,吻合血管同士の血管径がある程度一致していることが必要であり,側副血行路発達が見込まれる状態では選択に制限がかかることが懸念される.

これら血行再建と側副血行路温存とを比較してみると,血行再建の利点としては型通りの切除および郭清が可能であり根治性が確保できることが挙げられるが,血管吻合スキルを要することや吻合時にヘパリン投与し一時的な血行遮断を要することが欠点となる.また,血管吻合を要するが故,膵液瘻発生時には通常のPDと比較して致命的リスクが高いと考えられ,過去にも治療難渋例が報告されている11).一方,側副血行路温存では血管吻合を要さず膵液瘻発生時のリスクは通常の切除と同等と考えられるが,一般に血管剥離操作の難度と煩雑性,そして血流温存に伴う根治性への疑問が指摘される.

自験例はCA起始部閉塞合併例で前述のSugaeら7)の分類のType Cに相当し,CA系血流を確保するための術中処置を要することが高率に予想された.閉塞部への術前ステント留置も検討したが,MAL圧迫によるCA起始部閉塞でありアプローチ困難と考えられ,血管損傷やステント留置後抗血小板療法のリスクとMAL切開のみで解決する可能性を総合的に考慮して実施しなかった.慎重に術前検討を行い,比較的早期の十二指腸乳頭部癌が想定されたこと,温存を予定した膵頭部アーケードと腫瘍との距離が十分に確保されていたことから,skeletonizationにより血管剥離を行うことで根治性を担保できると判断し,膵液瘻発生時の周術期リスク軽減を重視して側副血行路温存を選択した.幸い良好な転機を得ているが,結果として術中MAL切開にてCA起始部閉塞の解除に至らなかったこと,実際には病理組織診断がT3aでありわずかながら膵浸潤を認めたことから,術前ステント留置試行の是非や術中処置の選択に関しては再考の余地がある.仮に術前から膵浸潤が明らかであったり,膵頭部癌など腫瘍学的に側副血行路温存が認容されない場合は,MAL切開が不奏効ならば血行再建を伴う通常の切除を行うべきであろう.

また,側副血行路温存には特異的問題点もある.近年,膵十二指腸動脈瘤破裂を契機に正中弓状靭帯圧迫症候群が発見された報告が散見される.この病態は,CA系への血流がSMAから膵頭部アーケードを介して供給されるため膵十二指腸動脈に血行力学的ストレスが加わることが原因と推察される.側副血行路を温存した場合,この発生母地が遺残することとなるので将来的に動脈瘤形成の可能性が否定できない.そのため術後は再発有無のみならず厳格な血圧管理と経時的な形態評価が必要となり,同時に動脈瘤形成・破裂時の治療オプションを想定しておくことが望ましい.

これらの特異的問題点を認識し,かつ腫瘍学的に慎重な症例選択を行うことで側副血行路温存切除は安全に実施可能であり,血行再建と併せて治療戦略の選択肢として考慮に値する.

利益相反:なし

文献
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top