The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
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CASE REPORT
A Case of Strangulated Bowel Obstruction Due to Exposed Blood Vessels after Laparoscopic Super-Low Anterior Resection with Lateral Lymph Node Dissection for Rectal Cancer
Naoki IkenagaAkira InoueTakamichi KomoriYujiro NishizawaHisateru KomatsuYasuhiro MiyazakiAkira TomokuniMasaaki MotooriHiroaki FushimiKazuhiro IwaseKazumasa Fujitani
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2021 Volume 54 Issue 8 Pages 531-537

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Abstract

症例は68歳の男性で,下部直腸癌に対して腹腔鏡下超低位前方切除,両側側方リンパ節郭清術を施行された.最終病理組織診断はpT2N0M0,pStage Iであった.術後に麻痺性イレウスを認めたが,保存的加療により軽快退院となった.術後3か月目に,右鼠径部痛を自覚し当院を救急受診した.腹部造影CTにて,骨盤内右側で小腸がclosed loopを形成し,絞扼性腸閉塞の診断で緊急手術を施行した.術中所見では側方リンパ節郭清によって露出された右上膀胱動脈と内腸骨動脈の間隙に小腸が迷入し陥頓/壊死していたが,容易に陥頓解除できた.左上膀胱,右下膀胱動脈が温存されていることを確認し,再発予防目的に右上膀胱動脈を結紮切離し,壊死腸管を含めた小腸部分切除を行い吻合再建した.病理組織診断では腸管壁全層が壊死していた.直腸癌に対し側方リンパ節郭清後の露出血管が原因となった絞扼性腸閉塞の1例を経験したので報告する.

Translated Abstract

The patient was a 68-year-old man who underwent laparoscopic super-low anterior resection with bilateral lymph node dissection for lower rectal cancer. The histopathological diagnosis was pT2N0M0, pStage I. Postoperatively, paralytic ileus occurred, but the patient was discharged after conservative treatment. Three months after surgery, the patient presented to our hospital as an emergency for a complaint of severe right inguinal pain. An abdominal contrast-enhanced CT scan revealed a closed loop of the small intestine on the right side of the pelvis, and an emergency operation was performed under a diagnosis of strangulated bowel obstruction. Intraoperative findings revealed that the small intestine had strayed into the gap between the right upper bladder artery and the right internal iliac artery, which had been exposed by lateral lymph node dissection. The small intestine was entrapped and necrotic, but the entrapment was easily released. After confirming that the left upper bladder and right lower bladder arteries were preserved, we decided to ligate and dissect the right upper bladder artery to prevent recurrence of the entrapment. Partial resection of the small intestine, including the necrotic intestine, and anastomotic reconstruction were then performed. A histopathological examination showed necrosis of the entire intestinal wall. We believe that this is the first reported case of strangulated bowel obstruction caused by exposed blood vessels after laparoscopic super-low anterior resection with lateral lymph node dissection for rectal cancer.

はじめに

露出血管による絞扼性腸閉塞は,リンパ節郭清によって露出された脈管により形成された間隙に腸管が嵌頓し内ヘルニアとなり発症する.婦人科,泌尿器科領域ではリンパ節郭清術後の露出血管による絞扼性腸閉塞の報告はあるが,消化器外科領域において本邦および海外での報告はない1).直腸癌に対する腹腔鏡下側方リンパ節郭清術の普及に伴い,露出された脈管が起因となり絞扼性腸閉塞を生じる症例が増える可能性がある.今回,直腸癌に対して腹腔鏡下超低位前方切除および両側側方リンパ節郭清,回腸瘻造設術を施行し,露出血管が原因となった絞扼性腸閉塞の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:68歳,男性

主訴:右鼠径部痛

家族歴:特記すべき事項なし.

既往歴:高血圧症,I型糖尿病

現病歴:2016年10月,直腸癌と診断され,腹腔鏡下超低位前方切除,中枢側D3リンパ節郭清,両側側方リンパ節郭清〔内腸骨動脈リンパ節(#263),総腸骨リンパ節(#273),閉鎖リンパ節(#283)〕,回腸瘻造設術を当院消化器外科で施行された.右側の側方リンパ節郭清では,内腸骨動脈を露出し閉鎖動脈を切離し,上臀動脈,臍動脈,上・下膀胱動脈をそれぞれ温存した(Fig. 1).術後3か月目に,安静時に間欠的な右鼠径部痛が出現し,徐々に増悪したため当院を救急受診した.腹部造影CTで絞扼性腸閉塞が疑われたため当科紹介となった.

Fig. 1 

Intraoperative findings in laparoscopic super low anterior resection. The red arrows show the right upper bladder artery and internal iliac artery, which were exposed by lateral lymph node dissection.

初診時現症:身長167 cm,体重61 kg,BMI 21.8 kg/m2.意識清明,体温36.6°C,脈拍86回/分,血圧137/93 mmHg,腹部は膨満で,下腹部を中心に圧痛,腹部全体にtapping painを認めた.腹壁は軟で反跳痛,筋性防御は認めなかった.

血液検査所見:血液検査では血液ガス所見を含め特記すべき異常は認めなかった.

腹部造影CT所見:骨盤内右側で小腸がclosed loopを形成しており,周囲腸間膜の脂肪織濃度の上昇および,腸管壁の造影効果の減弱を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

Abdominal enhanced CT. (A) The small intestine formed a closed loop in the right side of the pelvis and there was increased fat tissue in the surrounding mesentery and a decreased contrast effect of the intestinal wall. (B) The locations of caliber changes are shown.

以上より,絞扼性腸閉塞と診断し,緊急開腹手術を施行した.

手術所見:下腹部正中切開で開腹した.腹腔内の癒着は軽度で,視野展開に支障はなかった.骨盤腔内に血性腹水を中等量認めた.側方リンパ節郭清によって露出された右上膀胱動脈と内腸骨動脈の間隙を小腸が右側より迷入し間隙左側へ陥頓していた.陥頓腸管は暗赤色を呈しすでに不可逆的な血流障害に陥った状態であった(Fig. 3, 4).間隙に嵌入した小腸の解除を試み,容易に陥頓を整復することができた.前回手術の際に温存した左上膀胱,右下膀胱動脈により膀胱血流が保たれていることを確認し,今後の腸閉塞の再発予防目的に右上膀胱動脈を切離した.壊死腸管を含むように13 cmの小腸部分切除を行い機能的端々吻合にて再建した.露出された右上膀胱動脈と内腸骨動脈の間隙の閉鎖を検討したが大網や腸間膜は十分な長さを確保できなかったため間隙の閉鎖は行わなかった.手術時間は1時間54分,出血量は440 mlであった.

Fig. 3 

Intraoperative findings. The strangulated small bowel (red arrow) was found underneath the right upper bladder artery and internal iliac artery, which had been exposed by lateral lymph node dissection.

Fig. 4 

Intraoperative findings. The small bowel was inserted from the right side of the space underneath the right upper urinary bladder artery and internal iliac artery.

病理組織学的検査所見:摘出腸管の両端を除いて全周性に茶褐色に変色し腸管壁は全層性に出血および壊死していた.

術後経過:術後3日目より経口摂取を開始し,術後14日目に退院となった.手術後2年経過し,腸閉塞の再燃などは認めていない.

考察

大腸癌術後に発症する腸閉塞は術後合併症の中でも比較的頻度が高く5~10%とされており術後1年以内に発症することが多い2).術後腸閉塞の大半は手術による癒着が原因であることが多く,手術操作で露出された脈管が原因となり腸閉塞を発症することは非常にまれである.

露出脈管による腸閉塞はリンパ節郭清によって露出された脈管により形成された間隙に腸管が嵌頓し内ヘルニアとなり発症する.医学中央雑誌(2012年~2019年)で「絞扼性イレウス」,「内ヘルニア」,「子宮全摘」をキーワードとして検索した結果,本邦での報告は(会議録を除く)自験例を含め14例であった(Table 11)3)~12).過去の報告は,婦人科11症例,泌尿器科2症例で悪性腫瘍に対するリンパ節郭清を伴った手術が大半であった.検索しえたかぎりでは,消化器外科領域での報告例は本邦および海外において認めなかった1).過去の報告では,腸閉塞の原因脈管として外腸骨動静脈が7例,総腸骨動脈2例,尿管4例と報告されており,外腸骨動脈・総腸骨動脈が原因脈管の大半を占めている.婦人科領域の手術では,周囲のリンパ節を郭清するために腸骨血管を全周性に露出することがあり,婦人科症例での報告が多い一因と考えられる1).一方,消化器外科領域において報告例がない理由として,進行下部直腸癌に対する側方リンパ節郭清について大腸癌治療取扱い規約第7版で外腸骨・総腸骨動脈周囲リンパ節郭清は省略可能であると定義されており13),腸骨血管を全周性に露出する操作が少ないことが一因と考えられる1).本症例では両側側方リンパ節郭清によって内/外腸骨動静脈を露出し閉鎖動静脈,上/下膀胱動脈,上/下臀動脈を全周露出する操作を行った.そのため全周露出された右上膀胱動脈と内腸骨動脈により形成された間隙が原因となり絞扼性腸閉塞発症に至ったと考えられる.

Table 1  Previous reports of bowel obstruction caused by exposed vessels after lymph node dissection
No Author Year Age/Sex Primary disease Primary operation Antiadhesion agent Laparoscopic Exposed vessel
1 Yamamura3) 2012 74/F Uterine body cancer Radical hysterectomy
Pelvic lymph node dissection
(+) (–) Right external iliac vein
2 Tomiie4) 2014 32/F Cervix cancer Laparoscopic
Pelvic lymph node dissection
unknown (+) Right ureter
3 Ishikawa5) 2014 50/F Cervix cancer Radical hysterectomy
Pelvic lymph node dissection
(+) (–) Left ureter
Left common iliac artery
4 Yuza6) 2015 64/F Cervix cancer Radical hysterectomy
Pelvic lymph node dissection
(+) (–) Left external iliac artery
5 Sugiyama7) 2017 53/F Uterine body cancer sarcoma Radial hysterectomy (+) (–) Right external iliac artery
6 Sugiyama7) 2017 37/F Cervix cancer (pregnant) Radial hysterectomy
Caesarean section
(+) (–) Right common iliac artery
7 Sugiyama7) 2017 37/F Cervix and Uterine body cancer Laparoscopic
Radical hysterectomy
Bilateral adnexectomy
(+) (+) Right external iliac artery
8 Watanabe8) 2017 39/M Cervix cancer Laparoscopic
Radical hysterectomy
unknown (+) Right external/internal iliac vein
Right ureter
9 Minami1) 2018 49/F Cervix cancer Radical hysterectomy
Bilateral adnexectomy
Pelvic lymph node dissection
(+) (–) Right external iliac blood vessel
Right ureter Umbilical artery
10 Okahata9) 2018 45/F Uterine body cancer Hysterectomy
Bilateral adnexectomy
Omentectomy
Left tubectomy
Pelvic lymph node dissection
(+) (–) Right ureter
11 Kobayashi10) 2018 60/F Vaginal malignant melanoma Total vaginal resection
Radical hysterectomy
Pelvic lymph node dissection
unknown (–) Right ureter
12 Matsuoka11) 2019 39/M Solitary fibrous tumor Radical cystoprostatectomy urinary tract change unknown (–) Left ureter
13 Mizuno12) 2019 75/M Prostatic cancer Robot-assisted prostatectomy unknown (+) Right external iliac artery
14 Our case 68/M Rectal cancer Laparoscopic super low anterior resection
Bilateral lateral lymph node dissection
(–) (+) Right upper bladder artery Internal iliac artery

ヘルニア門の左右については過去の報告ではそれぞれ左3例,右11例と大半は右側の脈管により形成された間隙に小腸が迷入していた.左側についてはS状結腸および結腸間膜の存在によりリンパ節郭清後に形成される間隙が被覆され,腸管が陥頓しにくいと報告されている7).さらに,解剖学的に右側の腸骨血管の方が長いことが原因の一つと考えられている7).本症例においても右側での報告であり,上記理由が一因であると推察される.

既報告のうち,術前CTで脈管を原因とした絞扼性腸閉塞と診断しえなかった症例は自験例を含め14例中7例と術前診断は難しいことが多い.自験例の腹部造影CTを見直すと,造影される索状物の背側で口径差を伴った小腸を認めており,脈管が原因と考えられた.本症例では右上膀胱動脈が原因脈管であり,前回手術の際に温存した左上膀胱,右下膀胱動脈により膀胱血流が保たれていることを確認し,今後の再発予防目的に右上膀胱動脈を切離した.膀胱血流を担保できない場合は,周囲臓器の腹膜組織や腸管を含め,間隙の閉鎖に使用できる組織の入念な検索を行い,間隙の閉鎖に努める.間隙閉鎖困難で膀胱動脈温存困難と判断した場合や術前CTで他に膀胱血流がある場合は膀胱動脈の処理を検討する.膀胱動脈処理後,数日間は発熱・膀胱刺激症状を認めるが,その後症状の改善を認める症例が多いと報告されている14)

詳細な読影を行うことで索状物が血管であることを術前から想定し,より安全性の高い手術を行うことが肝要である.リンパ節郭清後の露出脈管が癒着により形成された線維性索状物と誤認され,術中切離され予期せぬ出血や尿管損傷を来した例が過去には報告されている4)10).腸閉塞の原因となっている索状物を癒着により形成されたものと決めつけ切離するのではなく,周囲構造物との解剖学的な位置関係からリンパ節郭清時に露出された脈管である可能性について検討することが重要である.

一般的に,腹腔鏡手術は開腹手術に比べ,低侵襲で出血量が少なく術後腸蠕動の回復が早いため,術後腸閉塞は起こりにくいと報告されている15).これまでの報告で,癒着に起因した腸閉塞は腹腔鏡手術で有意に少ないとされている16)

しかし,本症例では,腹腔鏡手術によって癒着が少ないことで,比較的自由度が高くなった腸管がリンパ節郭清後の脈管により形成された間隙に陥頓しやすくなった可能性が推察される.実際,婦人科領域における報告では,露出脈管を起因とした腸閉塞発症のリスク因子として腹腔鏡下手術が挙げられている.さらに,本症例では使用していないが,癒着防止剤の使用や後腹膜閉鎖施行頻度の減少がリスク因子として報告されている1).したがって,露出脈管を起因とした腸閉塞は腹腔内の癒着が起こりにくい限られた条件を満たした場合に発症するまれな病態であると考えられた.一般的に,癒着防止剤は術後腸閉塞の発症を低下させると報告されており,近年使用数が増加している17).しかし,本報告9例中8例(詳細不明症例を除く)で初回手術時に癒着防止剤を使用していたことからも,今後,癒着防止剤の使用機会が増えるにしたがって同様の報告が増加する懸念もある.

結腸・直腸術後症例では15~30%の頻度で腸閉塞を発症するとされ18),特に直腸癌手術は大動脈前面から仙骨全面までを広く剥離することや,出血量の多さから術後腸閉塞が多く,腸閉塞のリスク因子として「直腸癌症例」が報告されている18).側方郭清を伴う直腸癌手術では,骨盤内に落ち込んだ小腸が癒着を引き起こし,癒着性の腸閉塞を発症することが報告されている2).そのため,癒着防止剤は一定の効果があるとされる19).しかし,その反面,癒着防止剤を使用することで,より可動性を得た腸管が全周露出された脈管により形成された間隙に陥頓するという病態も念頭におく必要がある.

露出脈管を起因とした腸閉塞の予防策として,既報告例では骨盤内リンパ節郭清術領域にフィブリン加13因子散布や,コラーゲンパッチ被覆,脈管の周囲組織への縫合固定法が報告されている1)5).特に,脈管を周囲腹膜や腸管,大網で被覆する報告が最多であった1).しかし,腹膜閉鎖を行った縫合糸自体による癒着の影響で腸閉塞を発症したとの報告や閉鎖腔が原因でリンパ囊胞をじゃっ起したとの報告もあり,その予防策については統一された見解は得られていない1).自験例では側方リンパ節郭清によって露出された右上膀胱動脈と内腸骨動脈の間隙を腸間膜や腹膜での閉鎖を検討したが十分な長さを確保できなかったため間隙の閉鎖は行わなかった.また,右上膀胱動脈を切離することで腸管が陥頓しうる間隙は開放できており,内ヘルニアの再発を防止できると判断し間隙の閉鎖は行わなかった.

今回,我々は直腸癌に対して腹腔鏡下超低位前方切除,中枢側D3リンパ節郭清,両側側方リンパ節郭清,回腸瘻造設術を施行し,露出血管が原因となり絞扼性腸閉塞となった症例を経験したので,過去の婦人科症例報告を中心に文献的考察を加えて報告した.露出脈管による腸閉塞は消化器外科領域では本邦および海外を含めて初の報告であり,今後の症例の蓄積により新たな知見と議論が広がる余地がある.脈管起因の腸閉塞は消化器外科領域においても十分に考慮するべき病態であり,腸閉塞患者の診療にあたり,可能性を常に念頭におき詳細な手術歴および術前のCT画像の読影が極めて重要である.

利益相反:なし

文献
 

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