The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Colonic Perforation That Was Conservatively Treated in a Patient with Vascular Ehlers-Danlos Syndrome
Shodai MizunoRyo SeishimaKoji OkabayashiMasashi TsurutaKohei ShigetaYuko Kitagawa
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2021 Volume 54 Issue 8 Pages 556-562

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Abstract

症例は24歳の女性で,左側腹部痛を主訴に救急外来を受診した.両側内頸動脈解離,両側椎骨動脈解離の既往があり,受診8か月前に血管型Ehlers-Danlos症候群(Ehlers-Danlos syndrome;以下,EDSと略記)と診断されていた.受診時の腹部造影CTで結腸脾彎曲部の腸管壁内気腫および近傍の腹腔内にfree airを認め,下部消化管穿孔が疑われた.圧痛部位が限局しており汎発性腹膜炎の所見がなかったこと,また,血管型EDS患者の手術に伴うリスクを考慮して,保存的治療を行う方針とした.入院後,炎症反応と腹部症状の改善を認め,第29病日に軽快退院となった.消化管穿孔に対する治療は手術が基本とされているが,創傷治癒遅延により重大な術後合併症を起こす場合が多く慎重な治療方針決定が望まれる.本症例のように来院時に血管型EDSと診断されている場合には,症状が軽度で全身状態が保たれていれば保存的治療も選択肢の一つとなることが示唆された.

Translated Abstract

A 24-year-old woman visited the emergency room at our hospital with a complaint of left abdominal pain. She had a history of bilateral internal carotid artery dissection and bilateral vertebral artery dissection and had been diagnosed with vascular Ehlers-Danlos syndrome (EDS) 8 months before. Abdominal CT at the time of her visit revealed intramural emphysema and free air at the splenic curve of the colon, which suggested colonic perforation. Given that abdominal pain was localized, making it unlikely to be due to peritonitis, and that there are high risks associated with surgery in patients with vascular EDS, we chose conservative treatment. After admission, the inflammatory reaction and abdominal symptom improved steadily, and she was discharged on the 29th hospital day. Although surgery is a basic treatment strategy for colonic perforation, a careful decision is required since delayed wound healing often causes serious postoperative complications. This case suggests that conservative treatment can be an option if symptoms are mild and the general condition is relatively good in patients who have been diagnosed with vascular EDS.

はじめに

血管型Ehlers-Danlos症候群(Ehlers-Danlos syndrome;以下,EDSと略記)はIII型プロコラーゲン遺伝子の変異により結合織に異常を来す先天性疾患である1)2).血管型EDSを背景とした下部消化管穿孔に対しては疾患の性質上,緊急手術が基本とされているが,術後合併症の多さも問題である.今回,我々は血管型EDSを背景とした下部消化管穿孔に対して保存的加療が奏効した1例を経験したので報告する.

症例

患者:24歳,女性

既往歴:前十字靭帯損傷+半月板損傷(22歳)

両側椎骨動脈解離+両側内頸動脈解離,脳梗塞(24歳)

家族歴:祖父(脳梗塞),祖母(脳出血)

内服薬:プレカバリン(150 mg/日),アトルバスタチン(5 mg/日)

現病歴:左側腹部痛を主訴に当院救急外来を受診した.腹部造影CTの結果,結腸脾彎曲部の腸管壁内気腫および近傍の腹腔内にfree airを認め,下部消化管穿孔と診断され,当科に紹介となった.便塊貯留が著明であり,それに伴う腸管内圧の上昇に組織の脆弱性が加わり穿孔したと考えられた.

来院時現症:脈拍72回/分,血圧130/90 mmHg,体温36.9°C,SpO2 98%(room air)とバイタルサインの異常は認めなかった.また,腹部所見は平坦・軟であり,左側腹部に限局した圧痛を認めるものの,反跳痛などの腹膜刺激症状は認めなかった.

入院時血液検査所見:WBC 15,600/μl,Hb 14.0 g/dl,Plt 333,000/μl,Alb 4.3 g/dl,BUN 9.0 mg/dl,Cre 0.62 mg/dl,Na 144.9 mEq/l,K 3.7 mEq/l,Cl 107 mEq/l,ALP 199 U/I,γ-GTP 14 U/I,AST 24 U/I,ALT 26 U/I,CRP 0.02 mg/dlと白血球数の上昇を認めた.

腹部造影CT所見:結腸脾彎曲部の腸管壁内気腫,および近傍の腹腔内にfree airを認め,同部位の下部消化管穿孔と診断した.結腸脾彎曲部の気腫部位が穿孔部位と考えられた.また,管内に便塊の貯留を認めた(Fig. 1A, B).

Fig. 1 

A. Abdominal CT showed free air bubbles mainly at the splenic flexure of the colon (yellow arrowheads). B. Abdominal CT showed intestine emphysema (red arrow) and stool storage (blue arrows).

入院後経過:血管型EDSの手術に伴う術後合併症リスクは極めて高く,各関係診療科のバックアップが必要となるため,治療方針に関して十分に検討を行った.圧痛部位が限局しており汎発性腹膜炎の所見を認めず,十分なバックアップ体制を構築するまで時間的猶予があると判断し,まずは入院のうえで禁食,抗菌薬投与による保存的加療を行うこととした.その間,経過中に手術がやむを得ない状況となる場合に備えて血管外科や麻酔科など各診療科への周知,準備を整える方針とした.入院後,ピペラシリン・タゾバクタム4.5 g 6時間毎投与による抗菌薬加療を開始した.第2病日より症状は軽快傾向であった.第11病日にフォローアップの腹部造影CTを施行したところ,下行結腸腹側に15 mm大の膿瘍形成を新規に認めた(Fig. 2A).しかしながら,症状および炎症反応の改善を認めていたことから,保存的治療が奏効していると判断し同治療継続させることとした.第18病日に再度フォローアップの腹部単純CTを施行したところ,第11病日のCT所見と比較して膿瘍は縮小傾向であった(Fig. 2B).また,来院時のCT所見と比較してfree airの改善も認めた.また,腹部症状は消失していること,炎症反応もさらに低下傾向であることも合わせて保存的加療が奏効していると判断し,同日から食事を開始した.その後も症状の再燃,および炎症反応の上昇を認めず,第29病日に軽快退院となった(Fig. 3).入院時より便塊貯留を認めていた関係で,緩下剤の内服を開始した.退院後は緩下剤の内服による便通コントロールを行っており,穿孔の再発なく1年間経過している.

Fig. 2 

A. Abdominal CT on day 11 showed a small abscess near the descending colon (red arrow). B. The abscess was smaller on day 18 after antibiotic treatment (red arrow).

Fig. 3 

Course during hospitalization.

考察

EDSは先天性コラーゲン代謝異常により結合組織の脆弱性を来す疾患である.原因遺伝子により6病型に分類されるが,そのほとんどが古典型,関節型,血管型の3型といわれている.血管型EDSは動脈,腸管,内臓破裂などを呈する最も深刻な病型であり,頻度は1/50,000~250,000人とされる.血管型EDSはIII型プロコラーゲン遺伝子(COL3A1)の変異を証明することで確定診断を得るものであり,半数が常染色体優性遺伝,半数は新生突然変異による孤発性と報告されている1)2).小児期に鼠経ヘルニア,気胸,反復性関節脱臼を発症する例もあるが,多くは症状に乏しく家族歴がなければ診断されることは少ない.20歳までに25%,40歳までに80%の症例が深刻な合併症を発症し,死亡年齢の中央値は48歳である3)4).約70%の症例において動脈,腸管,管腔臓器の破裂が初発症状となる.特に動脈破裂,瘤,解離は77%の血管型EDS症例に見られる.また,腸管破裂は25%の血管型EDS症例に見られ,多くはS状結腸に見られる5).EDSにおける消化管手術に関するシステマティックレビューの報告によると,下部消化管穿孔には便秘症などによる腸管内圧の上昇により起こる自然発生の場合と内視鏡検査などによる腸管内圧の上昇により起こる医原性の場合に分けられる6)7).特に血管型EDSに関しては,術中および術後合併症の多さから,生命に危機が及んでいない状況であるのであれば手術は避けるべきと報告されている.

医学中央雑誌で1964年から2019年12月の期間で「血管型Ehlers-Danlos症候群」,「穿孔」をキーワードとして検索(会議録を除く)した結果,本症例を含めて15例の下部消化管穿孔の本邦報告例が確認できた(Table 15)8)~20).来院時の年齢の中央値は24歳,男女比は6:9であった.穿孔部位はS状結腸が6例と最多であった.また,多く症例において左側結腸で穿孔を起こしていることから,糞便滞留による腸管内圧の上昇が穿孔に寄与している可能性が示唆された.本症例以外で来院時に血管型EDSと診断されているものは2症例であった.本症例を除く全症例で,穿孔の部位や程度にかかわらず緊急手術が施行されていた.本症例以外の14例中7例と半数の症例で術後縫合不全や再穿孔などの重篤な合併症を認めていた.また,術前に血管型EDSと診断されていた2例中1例は再穿孔や縫合不全などの周術期合併症予防のために大腸全摘が施行されていた.もう1例に関しては,穿孔部位がピンホール大であり,縫合不全を予防するために腸間血流を保つ目的で穿孔部位を楔形に切除し縫合閉鎖していた.2例とも術後合併症は認めていないものの,術中に組織脆弱を認めており,腸間膜を愛護的に把持しても容易に出血を来していた5)13).一方で,海外の文献ではS状結腸憩室穿孔に対して保存的加療が奏効した報告があり,本症例同様に汎発性腹膜炎の所見がなく,症状は限局した腹痛のみの症例であった21).よって全身状態が保たれており,かつ炎症が限局的な消化管穿孔に対しては保存的治療も選択肢の一つであると考えられた.

Table 1  Summary of domestic case reports of intestinal perforations in patients with Ehlers-Danlos syndrome
Case Author Year Age Sex Diagnosis
of EDS
Perforation sites Treatment plan Complications
1 Nakamura9) 1989 27 male × transverse colon, jejunum Hartmann nothing
2 Taguchi10) 1997 50 female × transverse colon Hartmann nothing
3 Ishikawa11) 1997 22 male × sigmoid colon anastomosis not described
4 Yoshitomi12) 2003 20 female × descending colon anastomosis nothing
5 Hama13) 2007 26 male transverse colon total colectomy nothing
6 Ogata14) 2011 21 female × rectum, sigmoid colon Hartmann re-perforation
7 Omori15) 2011 20 male × sigmoid colon Hartmann bowel obstruction, intestine necrosis
8 Goto16) 2012 21 female × sigmoid colon Hartmann re-perforation
9 Yamamoto17) 2013 52 female × jejunum anastomosis re-perforation
10 Jin18) 2013 47 female × rectum Hartmann nothing
11 Terui19) 2014 11 female × sigmoid colon anastomosis re-perforation
12 Hasegawa20) 2015 34 female × descending colon anastomosis leakage
13 Ando8) 2015 18 male × descending colon Hartmann re-perforation
14 Ozaki5) 2017 25 male sigmoid colon anastomosis nothing
15 Our case 24 female descending colon conservative therapy nothing

血管型を含めたEDSに対する術式については定まっていない22).血管型EDSは創傷治癒の過程で毛細血管新生や細胞遊走の足場となるIII型コラーゲンの異常であるために,大腸穿孔部位の一期的吻合はその創傷治癒の観点から縫合不全のリスクが高いといわれている16)19).一時的人工肛門の造設は有効な術式と考えられるが,一方で若年発症が多いため整容性の観点から人工肛門閉鎖が考慮されるが,閉鎖後の再穿孔や縫合不全の報告もあるため,人工肛門閉鎖に関して慎重になるべきとの意見がある5).そのような再穿孔のリスクを考慮し,大腸全摘+回腸人工肛門造設をすべきとする報告もある14).海外の報告においても血管型EDSの術式が定まっているわけではない.便汁漏出による汎発性腹膜炎などで全身状態不良である場合などの緊急手術時は安全で縫合不全のリスクもないHartmann手術を選択すべきと報告されている23).一方で大腸穿孔術後,47%で再穿孔を認めたという報告や,Hartmann手術に比較して回腸単孔式人工肛門または回腸直腸吻合を伴う結腸全摘の方が再穿孔のリスクが少ないとの報告もある.さらに,血管型EDSと診断されたら,待機的に回腸単孔式人工肛門または回腸直腸吻合を伴う結腸全摘をすべきとの意見もあり,統一された見解はない24)25).加えて,術後合併症だけでなく手術自体にも大きなリスクが伴う.血管型EDSの組織脆弱性から,術中の腹腔内の検索による他臓器損傷や血管損傷が生じた場合には修復や止血が困難となることも報告されている26).手術器具自体も組織損傷につながる可能性があり,鉗子の先端にゴム製のカテーテルカバーで被覆をしてから使用すべきとの報告もある27).腹腔鏡下で創を小さくしたうえでの洗浄ドレナージなども選択肢として考えうるが,全身麻酔時の気管挿管時の組織脆弱性に伴う咽頭損傷などの報告もあり,手術内容に問わず全身麻酔下の手術に踏み切ること自体,慎重にならざるをえない28).そのため,手術を行う場合には慎重かつ丁寧な手術手技と,血管外科や麻酔科としっかりとした連携を築くべきと考えられた.

本症例の経過から血管型EDSによる穿孔に対する緊急手術は術中,および周術期合併症のリスクが高く,回避可能であるのであれば,保存的加療を選択できる症例があることが示唆された.本症例では経過観察中に膿瘍形成を認めたが,限局したものであれば,経過観察は可能であると考えられた.以上から,バイタルが安定し汎発性腹膜炎の所見に至っていなければ,手術を回避することも検討すべきと考えられた.さらに,明確な理由は不明だが再穿孔のリスク因子として男性であることが報告されている24).本症例が女性であったことが,保存的加療が奏効した理由の一つであった可能性もある.また,血管型EDSの原病による腸管蠕動不良が影響し半数に慢性便秘症があるといわれている19).この便秘症により腸管内圧が上昇し穿孔の原因になっていると考えられている.血管型EDSに対する根本的な治療はなく,術後は再穿孔をさせないための厳重な排便コントロールが必要である.具体的には緩下剤を使用し,腸管内圧の上昇を可能なかぎり軽減することを図らなければならない29).また,消化管穿孔と同様に生命予後に関わる動脈破裂を防止するために,激しいスポーツや仕事を避け,定期的な心血管系のフォローアップも必要と考えられた.血管型EDS患者の下部消化管穿孔に対して保存的治療が奏効した1例を経験した.手術治療が基本とされているが,術後の重大合併症のリスクを考慮し,各症例の重症度に応じた治療選択が可能であることが示唆された.

なお,本稿の要旨は第357回日本消化器病学会関東支部例会(2019年12月,東京)において報告した.

利益相反:なし

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