The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Gastrointestinal Stromal Tumor with a Tumor Embolus in the Portal Vein
Kohei KasaharaTakashi KosakaSho SatoYusaku TanakaHiroshi MiyamotoKei SatoAtsushi IshibeHirotoshi AkiyamaChikara KunisakiNaoko UdakaSatoshi FujiiItaru Endo
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2021 Volume 54 Issue 8 Pages 505-513

Details
Abstract

症例は43歳の男性で,めまいを主訴に近医を受診した.Hb 4.7 g/dlと貧血を認め,上部消化管内視鏡検査で胃体上部に潰瘍出血を伴う粘膜下腫瘤を認めた.組織検査で胃gastrointestinal stromal tumor(以下,GISTと略記)と診断され,加療目的に当科へ紹介された.腹部造影CTで胃壁外に伸展する長径11 cm大の腫瘍と,左胃静脈から脾静脈,門脈本幹に連続する塞栓像を認め,FDG-PET/CTで主病巣にSUVmax 9.9,門脈内にSUVmax 5.6の集積亢進を認めた.門脈内腫瘍塞栓を伴う胃GISTの診断で,胃全摘,膵体尾部切除,脾臓摘出,門脈腫瘍塞栓摘出術を施行した.病理組織学的検査で主病巣,腫瘍塞栓ともに紡錘形細胞の錯綜配列を認め,c-kit,DOG1,CD34が陽性,S-100が陰性であった.門脈血栓に対して溶解治療を行い術後38日目に軽快退院した.外来でイマチニブによる分子標的治療を開始し,術後1年経過して再発なく通院を継続している.

Translated Abstract

A 43-year-old male presented with dizziness due to severe anemia. Gastrointestinal endoscopy revealed a large submucosal tumor with bleeding from the ulcer in the anterior wall of the upper stomach. A biopsy specimen indicated a gastrointestinal stromal tumor (GIST). Abdominal enhanced CT revealed an extraluminal growth type GIST of 11.0 cm in diameter and a contrast defect in the left gastric vein extending to the splenic vein and portal vein trunk. FDG-PET/CT showed abnormal accumulation in the gastric main tumor (SUVmax 9.9) and intravascular contrast defect (SUVmax 5.6). These findings led to diagnosis of GIST with a tumor embolus in the portal vein. The patient underwent total gastrectomy with distal pancreatomy with splenectomy and removal of the tumor embolus in the portal vein. Pathological examination of the resected specimen revealed proliferation of spindle cells. Immunohistochemical staining was positive for CD117 (c-kit), DOG1 and CD34, and negative for S-100. Anticoagulant therapy was administered for postoperative portal thrombus. The patient was discharged on the 38th hospital day. Postoperative chemotherapy with imatinib mesylate was started, and the patient is presently alive without recurrence 12 months after surgery.

はじめに

胃gastrointestinal stromal tumor(以下,GISTと略記)は全GISTの60~70%を占め日常診療でもしばしば遭遇するが1),GISTが血管内に進展して腫瘍塞栓を形成することはまれである.今回,我々は胃GISTが左胃静脈に進展し,脾静脈,門脈本幹までにわたり血管内腫瘍塞栓を形成したため,胃全摘に加え,門脈内腫瘍塞栓摘出を施行した切除例を経験したので報告する.

症例

症例:43歳,男性

主訴:めまい

現病歴:めまいを主訴に近医を受診しHb 4.7 g/dlと著明な貧血を認めた.体上部小彎側前壁に粘膜下腫瘤を認め,組織検査でc-kit陽性,CD34陽性,CD56陽性,chromogranin A陰性,synaptophysin陰性であり胃GISTと診断された.胃GISTによる潰瘍出血の治療目的に当科外来へ紹介となった.

既往歴:特記すべきことなし.

家族歴:父に咽頭癌,母に乳癌.

初診時身体所見:身長168 cm,体重79 kg.眼瞼結膜は貧血様.腹部は平坦・軟,左上腹部に軽い圧痛を認めるが,腫瘤は触知しなかった.

血液検査所見:前医で合計8単位の赤血球輸血が行われHb 11.0 g/dlまで上昇していた.AST 35 IU/l,ALT 60 IU/lであり前医の血液検査と比較して肝酵素が上昇していた.D-dimer 3.75 μg/dlと線溶系の亢進を認めた.

上部消化管内視鏡検査所見:体上部小彎側前壁を中心として内腔に突出する長径7 cm大の分葉状結節性腫瘍を認めた.表層は正常粘膜様だが,頂部では潰瘍を形成して易出血性であった(Fig. 1).

Fig. 1 

Upper gastrointestinal endoscopy revealed a submucosal tumor in the anterior wall of the upper stomach. The tumor bled readily due to mucosal erosion on the tumor surface.

腹部造影CT所見:胃彎窿部から体上部大彎側にかけて胃壁外に突出する長径11 cm大で内部不均一な分葉状腫瘤を認めた(Fig. 2A).噴門周囲に主病巣とは非連続な低濃度結節影を指摘し,リンパ節転移が疑われた.左胃静脈から脾静脈,肝外門脈本幹にかけて造影欠損を認め門脈塞栓症と診断した(Fig. 2A~C).

Fig. 2 

Enhanced abdominal CT images. A. A contrast defect in the left gastric vein (arrows). B, C. The defect extended within the portal vein trunk (white arrowheads).

FDG-PET/CT所見:主病巣にstandardized uptake value(以下,SUVと略記)max 9.9,下部食道リンパ節にSUVmax 7.0,門脈内塞栓にSUVmax 5.6の集積亢進を認めた.

術前イマチニブ内服治療の導入も検討したが,肝機能が軽度増悪傾向であり,腫瘍塞栓が急速に増大した場合に急性肝不全となる危険性を考え,十分なインフォームドコンセントを行ったうえで手術を先行する方針とした.

以上より,胃GIST,内外発育型,リンパ節転移,門脈内腫瘍塞栓と診断し,手術を実施した.

手術所見:胃体上部を中心とした分葉状腫瘍が漿膜外にも大きく伸展していた.視野を確保するために,まず胃切除,続いて膵体尾部切除,脾臓摘出を行い,脾静脈および門脈を明らかにして腫瘍塞栓の摘除操作に備えた.左胃静脈は内腔の塞栓のため,拡張し硬化していた.脾静脈から門脈本幹にかけては緊満しており,術中超音波検査で内腔に腫瘍塞栓を確認した(Fig. 3A).門脈本幹,上腸間膜静脈をテーピングして確保し,脾静脈合流部近傍で血管壁を切開して腫瘍塞栓を分割摘出した.門脈造影で血流を確認すると,門脈右枝は腫瘍塞栓により血流が完全に途絶しており,術前画像診断よりも腫瘍塞栓の伸展範囲が拡大していた(Fig. 3B).バルーンカテーテルを使用して塞栓を可及的に摘出し門脈血流を確保したが,一部の腫瘍塞栓は摘出できず門脈内に残存した.

Fig. 3 

Portal vein tumor thrombosis was confirmed intraoperatively. A. Ultrasound. B. Portal venography.

摘出標本肉眼所見:胃体上部小彎から前壁にかけて120×100 mm大の出血を伴う腫瘍を認めた(Fig. 4).左胃静脈内には主病巣と同様の充実成分が連続性に充満し,塞栓を形成していた.

Fig. 4 

Macroscopic findings for the resected specimen. A submucosal tumor was located in the anterior wall of the upper stomach.

病理組織学的検査所見:紡錘形,類円形の腫瘍細胞が錯綜配列を示して増殖していた(Fig. 5).核の不整腫大および大小不同を認め,核分裂像は22/50 high power field(以下,HPFと略記)で,高度な静脈侵襲とリンパ管侵襲を認めた.c-kit陽性,discovered on GIST-1(以下,DOG1と略記)陽性,CD34陽性,α-smooth muscle actin(以下,α-SMAと略記)陽性,S-100陰性,Ki67陽性率15%であり胃GIST high riskと診断した(Fig. 5).左胃静脈内の塞栓では,胃主病巣で認めたGISTと同様の腫瘍細胞が充実性に増殖し,Ki67陽性率は13%であり,腫瘍塞栓と診断した(Fig. 6).小彎リンパ節に転移を認めた.なお,胃主病巣,腫瘍塞栓の血小板由来増殖因子受容体α(platelet-derived growth factor receptor alfa;以下,PDGFRAと略記)免疫染色検査では陰性であった.

Fig. 5 

Pathological findings for the gastric tumor. A. HE staining (low-power field) showed that the tumor was composed of spindle cells and epithelioid cells. B. HE staining (high-power field) showed tumor cells with a high nucleocytoplasmic ratio. The fission pattern was 22/50 HPF. C. Immunostaining for CD117 (c-kit): positive. D. DOG1: positive. E. CD34: positive. F. Ki67 index: 15%.

Fig. 6 

Pathological findings for the left gastric vein showed growth of tumor cells similar to those in the gastric tumor. A. HE. B. CD117 (c-kit). C. DOG1. D. CD34. E. Ki67 index.

術後経過:門脈右枝内の術後血栓に対して抗凝固療法を行い,門脈内血栓の消失が確認されたため術後38日目に軽快退院となった.抗凝固療法はヘパリン静脈内点滴注射から開始し,経口摂取開始に伴いエドキサバン内服に変更して退院後も内服を継続した.Fletcher分類2)でhigh risk症例であり,なおかつ腫瘍塞栓の完全切除に至らず肝転移再発の可能性が高いと判断したため,退院後初回外来よりイマチニブ400 mg/日の内服を開始した.手術後1年が経過した時点で明らかな肝転移再発などを認めず,外来通院でイマチニブ内服を継続している.

考察

門脈内に腫瘍塞栓を伴う病態は,肝細胞癌では35~50%に認められており3)4),その画像的特徴はよく知られている.他の消化器腫瘍では胃癌0.14~0.70%5)6),大腸癌0.4~2.8%7)~9),膵管癌0.54%10)とまれであり,膵神経内分泌腫瘍では3.7~3.9%に門脈内腫瘍塞栓を伴うと報告されている11)12)

胃GISTではさらにまれな病態である.医学中央雑誌で1964年から2019年までの期間で「胃GIST」,「腫瘍塞栓(あるいは腫瘍栓)」,PubMedで1950年から2019年までの期間で「gastrointestinal stromal tumor」,「tumor embolus(あるいはtumor embolism)」をキーワードとして検索した結果,報告例はなかった.

胃癌では,血管内腫瘍塞栓の進展経路は,①胃癌が周囲静脈内に直接浸潤し門脈系へ伸展する,②胃癌の肝転移巣から門脈内へ浸潤する,③門脈内腫瘍塞栓を伴う肝細胞癌の合併,④癌の進展による静脈圧排からの血流悪化や転移リンパ節を介した癌の静脈内伸展,が報告されている13)14).血管侵襲の形式には,小腫瘍細胞塊として血管内に侵入する場合,内皮細胞に被覆された数百個以上の比較的大きな腫瘍細胞塊となって血管内に侵入する場合があり15),また深川16)は,原発巣が胃体上部から中部に存在する場合は左胃静脈や脾静脈に,胃体下部に存在する場合は右胃静脈や右胃大網静脈に腫瘍塞栓を形成する傾向があると述べている.自験例では,術前造影CTで胃GISTと門脈内塞栓は,左胃静脈,脾静脈を介し連続しているように描出されており,胃体上部を中心に存在するGISTが左胃静脈内に直接浸潤,伸展して門脈内腫瘍塞栓を形成した機序が考えられた.実際に術後の病理組織学的検査でも原発巣と左胃静脈内の腫瘍塞栓との連続性が確認された.

腫瘍塞栓の分子生物学的な成因は肝細胞癌で研究されており,Zhouら17)は血小板由来血管内皮細胞増殖因子(platelet-derived endothelial cell growth factor;PD-ECGF)と血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor;以下,VEGFと略記)の両方が高発現である症例では81.3%と高率に門脈腫瘍塞栓を併発していたことを報告している.Liら18)は同様の結果とともにVEGF165やAngiopoietin2が高発現となることを同定した.GISTではKIT遺伝子やPDGFRA遺伝子の機能獲得型変異により腫瘍化・増殖を引き起こすことは知られており,自験例ではPDGFRA免疫染色検査を施行したが胃主病巣,腫瘍塞栓ともに発現を認めなかった.GISTに門脈腫瘍塞栓を形成する分子生物学的メカニズムの解明にはさらなる症例の蓄積が必要と思われた.

腫瘍塞栓の鑑別法として以前は血管造影が広く行われていたが,近年では造影CTや経皮超音波検査が有用であるとの報告があり19)20),特にドップラー信号が拍動波や逆行性の定常波である場合は腫瘍塞栓であるとして,血栓と鑑別可能であると報告されている21)22).自験例では,FDG-PET/CTで原発巣同様の集積亢進を認めたため門脈内腫瘍塞栓と診断し,手術12日前に撮影した造影CTで腫瘍塞栓が肝外門脈内までに留まっていることを確認した.しかし,手術所見では,肝内門脈右枝内にまで腫瘍塞栓が達しており,術前画像診断と乖離していた.胃GISTに随伴する門脈腫瘍塞栓は急速に増大する可能性が示唆され,その伸展範囲を正確に評価するためには手術直前にも画像診断を行う必要があったと反省される.具体的には,手術前日ないし当日に,経皮超音波検査で肝内門脈腫瘍塞栓の有無や門脈血流を評価し,術前画像診断との乖離が疑われる場合には改めて造影CTで再評価することでより正確かつ詳細な情報が得られていたと思われる.

GIST診療ガイドライン第3版では,門脈腫瘍塞栓など血管内腫瘍に関する記述はない.胃癌において門脈腫瘍塞栓を伴う場合,脈管侵襲が高度で,肝転移やリンパ節転移の頻度が高いため予後不良と考えられている23).久保ら6)は非治癒因子がない場合は根治度Bを目指した積極的な切除を推奨しているが,腫瘍塞栓の完全切除が不可能であった症例も報告されており24),明確なコンセンサスは得られていない.自験例では,出血コントロールのために速やかな胃全摘が必要で,さらに門脈内腫瘍塞栓によって門脈が完全閉塞し肝不全に陥る危険性が憂慮されたため腫瘍塞栓摘出を企画した.

肝内門脈右枝内に腫瘍塞栓を認めた際には,根治手術としての肝右葉切除を追加すべきか判断に迷うところであった.しかし,腫瘍が門脈内に存在している時点で全肝への微小転移の可能性は否定できず早期のイマチニブ導入が必要と考え,門脈血流の確保を優先しバルーンによる塞栓摘除を可及的に行った.山下ら25)は肝細胞癌の門脈腫瘍塞栓に対して術中血管内視鏡を用いた塞栓摘出術の有用性を述べており,高度門脈内腫瘍進展例に対する新たな治療戦略として臨床応用が期待される.

GISTの術前補助療法は,非無作為化比較試験の日韓共同第II相試験において,腫瘍径10 cm以上の切除可能胃GISTに術前にイマチニブ400 mg/日を6~9か月間投与後のR0切除割合が91%(48/53)(95% CI,79~97%)であり,有効性が確認されている26).自験例では,診療科内の症例検討会において,貧血治療を継続しながら術前イマチニブ内服治療を導入することについて討議されたが,肝機能が軽度増悪傾向であること,腫瘍栓が急速に増大した場合に急性肝不全となる危険性を考え,十分なインフォームドコンセントを行ったうえで手術を先行する方針とした.しかし,胃潰瘍出血に対する綿密な貧血治療によって全身状態が安定に保たれ,腫瘍塞栓に伴う門脈閉塞を回避することが可能となれば,術前補助療法としてイマチニブ内服を開始して腫瘍塞栓の縮小ないし消失が得られるか効果判定を行う余地があったかもしれない.

今回,我々は胃GISTに門脈内腫瘍塞栓を合併したまれな症例を経験した.手術直前にも腫瘍塞栓の伸展範囲を正確に評価することが肝要と考えられた.

本稿の要旨は,日本消化器病学会関東支部第354回例会にて報告された.

利益相反:なし

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