The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
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CASE REPORT
Intestinal Resection for Delayed Bowel Stenosis after Subacute Superior Mesenteric Venous Thrombosis: A Case Report
Misaki MatsumiyaMasaru KoizumiNaoya KasaharaKazuhiro EndoHideki SasanumaYasunaru SakumaHisanaga HorieYoshinori HosoyaJoji KitayamaNaohiro Sata
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2021 Volume 54 Issue 8 Pages 538-547

Details
Abstract

症例は48歳の男性で,約1か月前に左手外傷に対して鼠径部より採皮,植皮術を施行され,退院後より腹部違和感を自覚していた.腹部症状が増悪し意識障害も出現したため前医を受診し,造影CTで広範な門脈血栓症を認め,入院となった.翌日,下部消化管出血を認め,当院転院となった.転院時造影CTで上腸間膜静脈血栓症と診断された.小腸壊死は明らかでなく,抗凝固療法を開始し,約40日の経過で血栓はほぼ消失した.経口摂取開始後に嘔吐が出現したため,小腸造影および小腸3D-CTを撮影したところ上部空腸の器質的狭窄を認めた.転院後第59病日に小腸部分切除術を施行した.病理学的には血栓形成を伴う虚血性腸炎の診断であった.術後20日目に退院し,現在も再発は認めていない.本症例では,3D-CTが遅発性小腸狭窄の範囲の推定と切除範囲の決定に有用であった.

Translated Abstract

A 48-year-old man underwent skin grafting from the left inguinal region to the left forearm one month previously. He noticed abdominal discomfort after discharge and was admitted to another hospital because of progression of abdominal pain and a decreased level of consciousness. An enhanced CT scan revealed extensive portal venous thrombosis. Lower gastrointestinal bleeding developed the following day, and he was transferred to our hospital and diagnosed with superior mesenteric venous thrombosis. Enhanced CT showed no intestinal necrosis. Anticoagulant therapy was started and the thrombosis had almost resolved 40 days later. However, after starting oral intake, the patient developed vomiting. Small bowel radiographs and 3D-CT showed significant proximal intestinal stenosis. Small bowel resection was performed on the 59th day after transfer. The pathological diagnosis was ischemic enteritis with venous thrombosis. The patient was discharged 20 days after intestinal resection and he has had no recurrence of symptoms. In this case, 3D-CT was useful to determine the range of intestinal stenosis and the required area of resection.

はじめに

上腸間膜静脈血栓症(superior mesenteric venous thrombosis;以下,SMVTと略記)は急性腸間膜血行不全の5~20%と比較的まれな疾患である1).腸管壊死に至る場合は外科的治療が行われるが,至らない場合は抗凝固療法や血栓溶解療法といった薬物治療が選択される.しかし,保存的治療中もしくは治療後に遅発性小腸狭窄を発症することがあり,その場合は腸管切除術が施行されることが多い.今回,我々はSMVTによる遅発性小腸狭窄を発症し,3D-CTで切除時期や切除範囲を適切に決定した症例を報告する.

症例

患者:48歳,男性

現病歴:1か月前,仕事中にベルトコンベアーに挟んだことで左前腕外傷を負った.皮膚欠損を伴っていたため,他院で左鼠径部より採皮し植皮術を施行された.10日前に退院し,この頃から腹部の違和感を自覚していた.また,採皮した左鼠径部からは排膿が見られており,自己処置を継続していた.4日前に腹部症状が増悪し,黒色吐物の嘔吐を繰り返した.1日前に意識障害のため前医を受診し,造影CTで広範な門脈・上腸間膜静脈血栓症,上部小腸の拡張,腹水を認めたため緊急入院となった.抗菌薬,ヘパリン10,000単位/日の投与を開始されたが,入院翌日に下部消化管出血を認め,腸管壊死が疑われたため当院へ転院となった.

転院時現症:身長:165 cm,体重:57.2 kg,BMI:21,体温:37.8°C,血圧:129/97 mmHg,脈拍:121回/分・整,呼吸回数:21回/分,SpO2:96%(RA),腹部は平坦軟で,自発痛圧痛はなかった.左鼠径部に採皮痕があり,入院時は排膿が見られた.左前腕植皮後で痂皮化を伴っていた(Fig. 1).

Fig. 1 

The patient injured his left forearm in an accident at work and was treated by skin grafting from the left inguinal region, which was purulent after the operation. a: Wound in left forearm. b: Left inguinal region with purulent wounds.

既往歴:特記事項なし.

家族歴:特記事項なし.

生活歴:喫煙:10本/日(20歳~入院1か月前まで),飲酒歴:機会飲酒

転院時血液生化学検査所見:WBC 17,700/μl,Hb 10.4 g/dl,Alb 2.6 g/dl,ChE 160 U/l,LDH 255 U/l,BUN 53 mg/dl,Cre 0.91 mg/dl,CRP 11.54 mg/dl,PT-INR 1.21,Antithrombin III 68.3%,D-dimer 11.8 μg/ml,FDP 31.9 μg/ml,Protein C活性65.5%,Protein S活性48%,pH 7.511,HCO3- 28.5 mmol/l,BE 5.3 mmol/l(Table 1

Table 1  Laboratory data on admission
Blood count Blood chemistry Blood coagulation
WBC 17,700/μl TP 4.7 g/dl PT% 74.2%
Neu 75.1% Alb 2.6 g/dl PT-INR 1.21
Eos 0% T-Bil 1.21 mg/dl APTT 29.9 sec
Bas 0.2% AST 19 U/l Fibrinogen 317 mg/dl
Mon 14.5% ALT 16 U/l Antithrombin III 68.3%
Lym 10.2% ChE 160 U/l D-dimer 11.8 μg/ml
Hb 10.4 g/dl LDH 255 U/l FDP 31.9 μg/ml
Plt 15.3×104/μl ALP 194 U/l Protein C activity 65.5% (67–129%)
MCV 89 fl γ-GT 41 U/l Protein S activity 48% (67–164%)
MCH 29.3 pg AMY 17 U/l Anticardiolipin antibody (IgG) <8.0 U/ml (<10 U/ml)
MCHC 33% CPK 102 U/l Anti-CLβ2 GP I <0.7 U/ml (≤7 U/ml)
Blood gas analysis (room air) BUN 53 mg/dl
pH 7.511 Cre 0.91 mg/dl
PCO2 36.4 mmHg Na 135 mmol/dl
PO2 79.3 mmHg K 4.6 mmol/dl
HCO3- 28.5 mmol/l Cl 98 mmol/dl
BE 5.3 mmol/l CRP 11.54 mg/dl
Lactate 1.9 mmol/l

( ) normal range

臨床経過:転院時造影CTでは,門脈右枝,門脈臍部,門脈~上腸間膜静脈,脾静脈にかけての広範囲な血栓と小腸の壁肥厚を認め,亜急性SMVTと診断した(Fig. 2).腸管壊死や腸管穿孔は示唆されなかったため,抗凝固療法を開始した(Fig. 3).抗凝固療法として,まずヘパリン10,000単位/日から投与を開始し,APTT 40~50秒を目標に投与量を増減した.同時に,AT-III製剤を5日間(第2~6病日)投与した.抗菌薬はタゾバクタム・ピペラシリンを選択し,4.5 g 8時間毎の投与を開始した(第1~14病日).

Fig. 2 

On the first day, CT showed an extended thrombus between UP, RPV, PV, SMV and SpV (arrowheads), which confirmed the diagnosis of SMV thrombosis. a: RPV. b: UP. c: From PV to SMV. d: From PV to SMV and SpV. e: Bowel wall thickening. PV: portal vein. RPV: right branch of the portal vein. SMV: superior mesenteric vein. SpV: splenic vein. UP: umbilical portion of the portal vein.

Fig. 3 

Clinical course.

飲水可能となったため,第6病日よりワーファリンを5 mg/日から併用した.一旦ワーファリン内服のみでの抗凝固療法となったが,腹部膨満の増悪と寛解を繰り返したため,第26病日よりヘパリン単体での抗凝固療法となった.腹部症状と全身状態を鑑みながら造影CTや小腸造影で画像評価を行った.経口摂取は第13病日より流動食が開始となり,その後5分粥まで食あげが進んだが,食後の軽度な腹部膨満が続き,第40病日には嘔吐を認めたため経口摂取困難となった.第40病日に撮影した小腸造影で小腸狭窄が認められたが,造影剤の流れは確認できた.また,第44病日に撮影した造影CTでは門脈,上腸間膜静脈,脾静脈の血栓はほぼ消失していた.第46病日の小腸造影では造影剤の流れが改善していたため保存的治療を継続した(Fig. 4).しかし,狭窄部の評価目的として第53病日に撮影した3D-CTで著明な小腸狭窄を認め,保存的治療の継続は困難と判断し(Fig. 5),第59病日にSMVTによる遅発性小腸狭窄に対して待機的手術を行った.

Fig. 4 

a: Intestinal stenosis was found (arrowheads) during the small bowel series; however, flow of contrast medium was also observed (large arrowhead) on hospital day 40. b: Six days later, flow improved compared to that of the previous series. c, d, e: Almost no thrombus was found on CT on hospital day 44. c: UP. d: PV. e: SMV.

Fig. 5 

On hospital day 53, 3D-CT showed marked intestinal stenosis.

手術詳細:上腹部に小切開をおき開腹した.腹腔内を観察すると高度の癒着を認めたため,上腹部正中切開とした.Treitz靭帯から約20 cmの部分から空腸が約15 cm索状に狭窄していた(Fig. 6).小腸部分切除術を施行し,端々吻合で再建した.

Fig. 6 

Partial resection of the small bowel was performed on hospital day 59. a: The jejunum stenosis was 20 cm distal to Treitz ligament. b: Some of the mucosal area within the stenosis was black in color.

病理組織学的検査所見:小腸粘膜はびらん,潰瘍化しており,浮腫状の粘膜下層と線維化した筋層を認めた.腸間膜静脈では静脈血栓と再疎通像を認め,高度の狭窄や血栓形成を伴う虚血性腸炎の像だった(Fig. 7).

Fig. 7 

a: The specimen was about 20 cm in length. b: Intestinal mucous had erosion and ulcer, and submucous with edema was found (HE ×20). c: Muscular coat with fibrosis was also found (EVG ×20). d: Venous thrombosis and reopened flow were observed in the same mesenteric vein (EVG ×200).

術後経過:術後第2病日(入院第61病日)に抗凝固療法としてヘパリン投与を再開した.経過中に肺炎を発症したが,保存的に軽快した.ワーファリン内服を再開し,術後第20病日(入院第79病日)に退院した.術後2か月に造影CTで血栓の消失を確認した.術後18か月経過した現在も症状の再燃はない.

考察

腸間膜静脈血栓症(mesenteric venous thrombosis;以下,MVTと略記)は急性腸間膜虚血を呈するまれな疾患である.障害される消化管としては回腸(64~83%)の頻度が最も高く,空腸(50~81%),結腸(14%),十二指腸(4~8%)がこれに続く2).腸間膜静脈の中でもSMVは側副血管がないため,血栓により完全閉塞した場合は腸管うっ血や虚血を呈しやすい3).SMVTは腸間膜虚血疾患の5~20%を占めるとの報告があり1),発症形式は急性,亜急性,慢性に分類され,症状の強さがそれぞれ異なる3).症状は腹痛(91~100%),腹部膨満,嘔気(50~70%),吐下血・血便(15%)といった非特異的な症状が多い4)5)が,腹痛の程度としては急性型では急激に顕著に現れ,腸管梗塞や壊死,腹膜炎に及んでいる可能性が高い.亜急性型の場合,強い腹痛はあるものの,腸管梗塞は発症しにくく,慢性期には側副血行路の発達が完了しているため腹痛はまれである3).MVTの成因としては原発性,特発性,続発性がある.続発性の成因には先天性もしくは後天性のAT-3欠損,protein C,protein S欠損症といった遺伝性疾患が最多である.その他,悪性腫瘍,腹部炎症性疾患,妊娠,外傷,術後,肝硬変,門脈圧亢進症などが挙げられる3)6).本症例では治療開始第2病日に血栓素因の精査を行ったところ,protein C,protein S活性が通常よりやや低下していたが,この結果は抗凝固療法により血栓が溶解され,消費が亢進していたためと判断した.また,諸検査結果からも先天性凝固異常は否定的との結論に至った.転院前に左前腕に外傷を受け手術を施行していることに加え,採皮した左鼠径部に排膿を伴う細菌感染症を併発したことより,凝固亢進状態に陥っていた可能性は高いと判断した.以上より,本症例は続発性SMVTの中でも外傷・手術・細菌感染症が複合的に関与した状態であり,かつ,転院10日前から腹部症状を認めていたことから亜急性の経過を辿ったと考えられた.

SMVTの診断には造影CTが有用であり,90%以上で診断可能とされる.腸間膜静脈の拡張や血栓による透亮像を認めるほか,腸管虚血の所見としては,浮腫や出血による腸管壁の肥厚・造影効果の低下が認められる.また,腸間膜浮腫や腹水も観察されることがある7)8)

治療方法の選択は,疾患の進行度や患者の全身状態により検討が必要である.保存的治療には血栓溶解療法や抗凝固療法があり,ヘパリン化による抗凝固療法が選択されることが多い.しかし,保存的治療中に腸管壊死や腸管穿孔,腸管狭窄により緊急手術が必要になることがある.本疾患に対する外科的治療は限定的で,SMVT発症時より腸管壊死や腹膜炎が考えられる場合や,保存的治療中に遅発性腸管虚血といった併存症が起きた際に考慮される9).本症例では腸管壊死や穿孔は示唆されなかったため抗凝固療法を開始した.一旦経口摂取可能となったが,腹部膨満や嘔吐が出現し,第46日目の小腸造影検査で腸管狭窄を認めた.第44病日の造影CTでは血栓の消失は確認できていたため,血栓症の再発による腸管の障害ではなく,保存的治療中に発症した遅発性腸管虚血と考え手術となった.術後の状態改善後,または虚血の進行が抑えられた段階でワーファリンでの抗凝固療法を開始し退院となるが,通常のワーファリン治療期間としては6~12か月を要するとされる10)

医学中央雑誌(1964年~2019年)で「上腸間膜静脈血栓症」,「SMVT」,「遅発性腸管虚血」,「腸管狭窄」,「小腸狭窄」で検索した結果,会議録を除き14例の報告があった.本症例を含めた15例で検討すると,保存的治療を開始してから遅発性腸管狭窄と診断に至るまでの期間は平均10.0週(3~36週)であった(Table 25)11)~23).13症例で,小腸造影を契機として診断されているほか,単純CTや上部消化管内視鏡検査を併用した症例もあった.小腸造影や内視鏡的検査でも,ある程度の狭窄範囲や蠕動低下域の把握には有用ではある.小腸3D-CTでは画像が立体構築となるため,狭窄範囲の腹壁からの深さや他臓器との位置関係などをより直観的に把握可能である.また,検査後に改めて画像の再構築をくりかえすことでよりよい画像を作成することが可能である.小腸3D-CTの情報がなくても同様な手術は可能であったと考えられるが,これらの情報は手術時の皮膚切開の位置決定や切除範囲の推定といった手術のプランニング上で有益であった.報告例では本検査は施行されておらず,未施行による問題は報告されていないが,小腸3D-CTを施行できていれば小切開手術や腹腔鏡手術といったアプローチも選択肢となった可能性が推測される.情報量の多い小腸3D-CTはより安全でより適切な手術を患者に提供する一助となりうる検査である.

Table 2  Fifteen reported cases of intestinal stenosis during or after treatment for SMV thrombosis
Case Author Year Age Gender Treatment for SMVT Duration from the treatment for SMVT to the diagnosis of intestinal stenosis Diagnostic method Treatment for intestinal stenosis
Thrombolytic therapy Anticoagulation therapy IVC filter AT-III Small bowel series Others
1 Yajima11) 1999 25 M 13 weeks partial resection of small bowel
2 Fujita12) 2000 68 M 6 weeks
3 Fukushima5) 2000 37 M 36 weeks
4 Kato13) 2002 48 M 6 weeks
5 Uemura14) 2002 60 M 17 weeks
6 Momoi15) 2003 39 M 5 weeks non-contrast CT
7 Saito16) 2007 76 F 17 weeks
8 Sakamoto17) 2009 73 M 3 weeks
9 Asano18) 2010 66 M 6 weeks
10 Watanabe19) 2012 53 F 4 weeks endoscope
11 Nakamura20) 2012 74 F 6 weeks
12 Oka21) 2013 20 M 11 weeks
13 Hodo22) 2014 62 M 10 weeks endoscope endoscopic dilatation
14 Sanada23) 2017 79 M 5 weeks partial resection of small bowel
15 Our case 48 M 6 weeks 3DCT

また,腸管狭窄に対する治療方法に関しては,1症例で内視鏡的バルーン拡張術を施行している.これはクローン病などの小腸良性狭窄に対するバルーン拡張術の適応に準じており,狭窄長が2 cmと短いことが事前に把握できていたため選択したと述べられている22).ほか全症例では小腸部分切除術を施行していた.

MVTの予後は死亡率20~50%とされていたが,早期診断,早期からの抗凝固療法,適正なタイミングでの外科的治療が生存率の向上と再発率の低下に寄与している3)24).外科的治療に踏み切る際は,腸の大量切除を避け,可能なかぎり温存することが予後の改善に重要である4).そのためにも小腸3D-CTは狭窄部の位置や範囲を術前により正確に評価できるツールであり,治療戦略決定の一助となりえる有用な検査であると考えた.

利益相反:なし

文献
 

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