The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
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CASE REPORT
Filling of an Internal Pudendal Artery Perforator Flap for Rectovaginal Fistula after Intersphincteric Rectal Resection
Osamu InamotoShigeo KyutokuKazuyuki OkadaYuya MiyauchiHidekazu TakagiNaoki UyamaMasafumi KogireToshiyuki Kitai
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2021 Volume 54 Issue 8 Pages 571-578

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Abstract

症例は64歳の女性で,下部直腸の神経内分泌腫瘍に対して内視鏡的切除が施行されたが,組織学的に垂直断端陽性と脈管侵襲を認め,追加切除として腹腔鏡下括約筋間直腸切除術(回腸人工肛門造設を併施)を施行した.術後3か月目,回腸人工肛門閉鎖に際しての直腸造影検査で膣が造影され,直腸膣瘻と診断した.可及的に腰椎麻酔下に瘻孔の単純縫合閉鎖術を行ったが,直腸膣瘻の再発を認めた.膣瘻の根治を目的として,初回手術後7か月目に内陰部動脈穿通枝皮弁充填術を施行した.術後経過良好にて術後9日目に退院となった.皮弁充填術後6か月目に回腸人工肛門を閉鎖し,術後16か月時点で腫瘍・瘻孔の再発を認めていない.直腸切除後の膣瘻に対してはさまざまな治療の報告があるが,内陰部動脈穿通枝皮弁充填術の報告は比較的少ない.今回,我々は内陰部動脈穿通枝皮弁充填術により括約筋間直腸切除後の直腸膣瘻を根治しえた1例を経験したので報告する.

Translated Abstract

A 64-year-old woman underwent endoscopic resection for a neuroendocrine tumor of the lower rectum. Histological examination showed a positive vertical margin and vascular invasion. Additional laparoscopic intersphincteric rectal resection with ileostomy was then performed. Three months after the operation, a gastrografin enema showed that the space on the ventral side of the colorectal anastomosis was filled with contrast agent, and a rectovaginal fistula was diagnosed. At first, simple suture closure of the fistula was performed under lumbar anesthesia, but the fistula recurred. Seven months after the initial surgery, filling of the internal pudendal artery perforator flap was performed. The postoperative course was uneventful and the patient was discharged 9 days after the operation. Currently, there has been no recurrence of the fistula for 16 months after flap filling. There have been reports of various treatments for rectovaginal fistula after rectal resection, but relatively few have focused on internal pudendal artery perforator flap filling. We report this case with a review of the literature.

はじめに

直腸切除術後に発症する女性患者特有の合併症として直腸膣瘻があり,患者のQOLを著しく損ねる重大なものである.その原因として,吻合時の膣壁の巻き込みといった手術手技上の問題あるいは縫合不全による炎症の波及などが考えられている1).しばしば難治性であり,治療に難渋する報告が多い.下部直腸神経内分泌腫瘍に対する括約筋間直腸切除後に直腸膣瘻を形成し,瘻孔に対する単純縫合閉鎖後の再発を経て,内陰部動脈穿通枝皮弁充填により瘻孔を閉鎖しえた症例を経験した.

症例

症例:64歳,女性

既往歴:虫垂炎に対し虫垂切除術(11歳時),胆石症に対し腹腔鏡下胆囊摘出術(61歳時),甲状腺機能低下症

術前経過:食欲不振の精査目的に他院で精査入院中に下部直腸の腫瘤を指摘され,神経内分泌腫瘍と診断された.当院消化器内科に紹介となり内視鏡的切除術が施行されたが,組織学的に垂直断端陽性と脈管侵襲があり,外科的追加切除目的に当科紹介となった.

腫瘍は歯状線から約2 cmに位置しており,腹腔鏡下括約筋間直腸切除術(D2郭清・回腸人工肛門造設)を施行した.経会陰的に歯状線より約1 cmの位置で結腸直腸吻合を全周結節縫合にて行った.術後38°C台の発熱と炎症所見の上昇があり,CTで吻合部口側腸管の軽度の造影不良が疑われたが,抗生剤治療によって経時的に解熱とともに炎症所見も改善し,術後13日目に退院となった.

外来経過中に特に症状の訴えはなかったが,術後3か月目に回腸人工肛門を閉鎖するため吻合部の評価目的に造影検査を施行したところ,結腸直腸吻合部の腹側に造影されるスペースを認めた(Fig. 1a).直後にCTを撮像し,同部が膣であることを確認して直腸膣瘻と診断した(Fig. 1b).内視鏡検査では瘻孔が二つ観察され,一つは狭窄を伴う結腸直腸吻合部であり,もう一つが直腸膣瘻と考えられた(Fig. 1c).

Fig. 1 

a: Gastrografin enema showed stenosis of the anastomosis (arrowhead ①) and the space on the ventral side of the colorectal anastomosis was filled with contrast agent (arrowhead ②). b: CT just after the enema showed contrast agent in both the anastomosis (arrowhead ①) and the vagina (arrowhead ②). c: Endoscopy showed two fistulas: the colon-rectum anastomosis with stenosis (arrowhead ①) and the rectovaginal fistula (arrowhead ②).

直腸膣瘻に対して,患者からまずは低侵襲な方法での治療の希望があったため,瘻孔部の観察を兼ねて瘻孔の分離と縫合閉鎖を試みる方針となった.

初回手術後4か月目に瘻孔閉鎖術を行った.腰椎麻酔下に膣後壁に観察された瘻孔部と思われるびらん部周囲にて膣壁を切離し,瘻孔部を縫合閉鎖した後に膣壁を縫合閉鎖し,手術を終えた.

術後3日目に退院となったが,外来経過観察中に膣からの粘液排出の訴えがありMRIを撮像すると,瘻孔の再発を認めた(Fig. 2).膣瘻の根治のためには,腸管と膣の間に血流良好な健全な組織を充填する必要があると考えられたため,殿溝皮弁(内陰部動脈穿通枝皮弁)の充填術を計画した.

Fig. 2 

MRI showed recurrence of the rectovaginal fistula (arrowhead).

手術(皮弁充填術):初回手術後7か月目に施行した.全身麻酔下に患者を砕石位とし,膣内を観察すると,膣孔縁より約5 cm(子宮口より約1 cm)の後壁に約1 cmの肉芽組織があり,同部を瘻孔部と診断した(Fig. 3a).膣孔と肛門の間に約5 cmの横切開を置き,膣後壁の背側に沿って剥離を進め,瘻孔部を含めて葉状に膣後壁を切除する形で瘻孔部と膣壁を分離した(Fig. 3b).次いで,陰核・肛門・坐骨結節を結ぶ三角形を描き,その中でドップラー血流計を用いて内陰部動脈をトレースし,20×50 mmの皮弁をデザインした(Fig. 3c).この皮弁を島状に形成し,その遠位端が膣後壁の欠損部の子宮口側に位置するように時計回りに回転させて挙上した(Fig. 3d).瘻孔閉鎖部を被覆するように膣後壁欠損部に充填し,縫合固定した(Fig. 3e).皮下ドレーンを留置し,閉創して手術を終えた(Fig. 3f).手術時間は182分,出血量は34 gであった.

Fig. 3 

a: Granulation tissue on the posterior wall of the vagina was diagnosed as a rectovaginal fistula. b: A transverse incision was made between the vagina and anus, and the dorsal side of the vaginal wall was dissected. The posterior wall of the vagina including the fistula was excised to separate the fistula and vaginal wall. c: A triangle connecting the clitoris, anus, and ischial tuberosity was drawn. The internal pudendal artery was traced using a Doppler flow meter, and a flap of 20×50 mm was designed. d: The flap was lifted by rotating clockwise, and its distal end was located to the uterine ostium side of the defect in the posterior wall of the vagina. e: The flap was sutured to the defect of the posterior wall of the vagina and the closed fistula was covered. f: A subcutaneous drain was placed and the wound was closed.

術後経過:合併症なく術後9日目に退院となった.下肢の感覚・運動障害を認めなかった.術後2か月時点で皮弁の血流障害や脱落を認めず創部の経過は良好であった(Fig. 4).瘻孔の再発なきことを造影検査で確認した後,吻合部狭窄に対して内視鏡的バルン拡張術を施行した.再度,造影検査・内視鏡検査にて吻合部の再狭窄や膣瘻再発のないことを確認し(Fig. 5),皮弁充填術後6か月目に回腸人工肛門を閉鎖した.現在,術後16か月時点で腫瘍・瘻孔の再発を認めていない.

Fig. 4 

No flap necrosis or shedding was observed two months after the operation.

Fig. 5 

(a) Fluoroscopy and (b) endoscopy confirmed that there was no restenosis at the anastomosis or recurrence of the vaginal fistula.

考察

直腸膣瘻は,直腸と膣の間に瘻孔が形成され膣からの排便や膣炎などを来す病態であり,患者のQOLを著しく低下させる.その発症要因として,Crohn病などの炎症性腸疾患や,経膣分娩時の裂傷,直腸切除の際の吻合部のトラブル,悪性腫瘍の浸潤や放射線治療などが挙げられ,子宮脱用リングペッサリーが原因になることもある2).直腸切除での発症については,吻合時のdouble stapling techniqueによって膣後壁が巻き込まれることによって起こる機械的なものや1),縫合不全が発症し炎症が波及したことが原因と考えられる場合3)などがあり,直腸低位前方切除術後の約2%に発症するとされる4).自験例は括約筋間直腸切除後であり器械吻合は施行していないため,縫合不全による炎症の波及が原因と考えられる.特に術直後のCTでの口側腸管の軽度の造影不良の所見から勘案すると,口側腸管の血流不全が遠因となった可能性があると考えられた.直腸切除術から膣瘻発症までの期間は約20~30日が多いと報告されている5).自験例では一期的に回腸人工肛門造設を併施していたこともあり患者からの症状の訴えがなかったことから,診断されたのは人工肛門閉鎖に際した検査時(術後3か月)であったが,より早期に発症していた可能性があると考えられた.直腸膣瘻はしばしば難治性であり,治療についてはエストリオール錠による保存的治療4)や経肛門減圧チューブ留置によって閉鎖が得られた報告6)も一部には見られるが,瘻孔部への何らかの手術介入による根治を要している報告が多い.手術に関しては,瘻孔の単純縫合閉鎖術で治癒しえた報告7)もあるが,一方で単純縫合閉鎖のみでは周囲組織の脆弱性から再発を来しやすいとも指摘されている5).自験例でも,最初は低侵襲な治療法として腰椎麻酔下の単純縫合閉鎖を選択したが,再発し再手術を余儀なくされた.また,瘻孔部切除のうえ結腸直腸の再吻合術を施行して治癒した報告8)もあるが,再度腸管吻合を要する点からやや侵襲的であり,他の術式では修復不可能と判断される大きな瘻孔に適応されるべきであろう.外科的に瘻孔を閉鎖しえた報告の多くは,膣壁と直腸壁の間に血流豊富な健全な組織を充填する方法である.皮弁充填による直腸膣瘻閉鎖術に関しては,薄筋皮弁を用いた報告が多くある1)5)9)~12)が,下肢の皮弁移植の問題点として,1)皮弁が厚くなりすぎる,2)皮弁の血管茎が再建部から離れており遠位部の血行が不安定,3)下肢に大きな切開痕が残る,といった点が指摘されている13).殿溝皮弁(gluteal fold flap)は会陰部で挙上可能なlotus petal flapsのうちの一つとして1996年にYiiら14)によって報告されたもので,さらに2001年にHashimotoら15)が内陰部動脈穿通枝を栄養血管として同定し,外陰や殿部再建に有用である内陰部動脈穿通枝皮弁(internal pudendal artery perforator flap)として報告した.本皮弁は,1)穿通枝が含まれる組織以外は脂肪組織を切除することで厚さの調整が可能,2)皮弁が外陰部に近接しており血流が良好,2)目立たない殿溝の創となる,といった利点があり13),これらは上記の下肢筋皮弁の問題点を解決するものである.自験例において手術時間は182分と,薄筋皮弁を用いた瘻孔閉鎖術の報告5)に比べて短時間の手術であり,創も小さく比較的低侵襲な治療法と考えられた.医学中央雑誌を用いた「皮弁」,「筋弁」,「直腸膣瘻」をキーワードとした1990年~2020年の検索(会議録除く)では,直腸切除後の直腸膣瘻に対する充填術9例の報告があり,うち7例が薄筋皮弁,1例がpudendal thigh flapを用いたもの16)であり,殿溝皮弁を用いた充填術の報告は1例であった17).また,PubMedを用いた「gluteal fold flap」,「internal pudendal artery perforator flap」,「rectovaginal fistula」をキーワードとした1990年~2020年の検索では,二つの報告がある18)19).自験例において,鼠径皮弁・薄筋皮弁・前内側大腿皮弁・腹直筋皮弁等の選択肢も考えられたが,膣腔壁閉鎖にはそれほど大きな皮島は必要なく,かつ薄い材料が望ましいと考えた.また,移動茎は短い方が術後の疼痛や違和感も少ないと考えられたため,局所で簡便に挙上できる内陰部動脈穿通枝皮弁を選択した.本術式は,15 cm程度以上の大きな欠損の閉鎖には適さないが,解剖学的破格が少なく血行が安定しており,自由度も高く挙上性のよい点で,他の比較的大きな筋皮弁と比較し陰部瘻孔などの再建に適していると考えられる.比較的短い手術時間と小さな手術創で瘻孔を閉鎖しうる低侵襲な術式であり,運動・感覚障害のリスクも低いものと考えられ,有用な手技であると考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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