The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
Print ISSN : 0386-9768
ISSN-L : 0386-9768
CASE REPORT
A Case of Rectovaginal Fistula after Transanal Total Mesorectal Excision for Rectal Cancer with Achievement of Complete Remission with Estriol
Yasunori YoshimotoSatoshi TaniwakiTomohisa ShimokobeTetsuo ImamuraHironobu SoYoshito WadaMasaru MatsumuraYoshiaki IshibashiTaro Nishimura
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 55 Issue 11 Pages 709-717

Details
Abstract

症例は42歳の女性で,Rb直腸癌に対して回腸人工肛門造設術を併施した経肛門的全直腸間膜切除術(trans anal total mesorectal excision;TaTME)を施行し,術後16日目に大きなトラブルなく退院した.pT2N1aM0 fStage IIIaであったため,術後補助化学療法を施行後人工肛門を閉鎖した.退院の1週間後,直腸膣瘻が顕性化し,エストリオール錠内服のみで治療を開始したところ約2か月で治癒した.直腸膣瘻を併発すると,保存的治療のみでの軽快は通常困難であり,しばしば観血的治療が必要不可欠であるとされてきた.近年エストリオール投与にて保存的に軽快する報告が散見され,術後直腸膣瘻の治療に関して,低侵襲で有効な治療法の一つになる可能性が示唆された.

Translated Abstract

A 42-year-old woman underwent transanal total mesorectal excision (TaTME) with a covering ileostomy for rectal cancer (Rb). She was discharged 16 days after surgery without any major problems. Since the cancer was pT2N1aM0 Stage IIIa, the covering ileostomy was closed after postoperative adjuvant chemotherapy. One week after discharge, a rectovaginal fistula became apparent. The patient was administered estriol tablets alone, which resulted in the rectovaginal fistula healing after approximately 2 months. Rectovaginal fistula is usually difficult to relieve with conservative treatment alone, and invasive treatment is often required. However, in recent years, reports of improvement with estriol administration have suggested that this may be a minimally invasive and effective conservative treatment for postoperative rectovaginal fistula.

はじめに

直腸癌手術後の直腸膣瘻はまれな合併症であるが,発生した場合治療は非常に困難である1)~4).今回,我々は直腸癌の経肛門的全直腸間膜切除術(trans anal total mesorectal excision;以下,TaTMEと略記)後に発症した直腸膣瘻に対して経口エストリオール単独投与が奏効した症例を経験したので,若干の文献的検討を加え報告する.

症例

患者:42歳,女性

主訴:下血

現病歴:2018年春頃から下血が出現するも放置していた.症状が持続するため近医を受診し精査加療目的に当院紹介となった.

既往歴:帝王切開2回

家族歴:特記すべきことなし.

初回入院時検査所見:身長168 cm,体重70 kg.腹部:平坦,軟.

血液検査所見:WBC 6,450/μl,CRP 0.05 mg/dl,Hb 13.2 g/dl,CEA <0.5 ng/ml,CA19-9 3.2 U/ml.

CT所見:仙骨前面にリンパ節腫大を伴う直腸Rb前壁の腫瘍を認めた(Fig. 1a, b).

Fig. 1 

Abdominal CT showed a tumor in the anterior wall of the lower rectum (arrows). (a) axial. (b) colonoscopy.

下部消化管内視鏡検査(Colonoscopy;以下,CSと略記)所見:AVより5 cm,DLから3 cmの肛門管直上に約1/3周の2型病変を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

Colonoscopic findings showed a type 2 lesion covering about one-third of the circumference just above the anal canal.

EUS所見:固有筋層が保たれておりSM massiveと診断した.

以上より,Rb直腸癌:cT1b,cN1a,M0 cStage IIIaの診断で2018年10月に回腸人工肛門造設術を併施したTaTMEを施行した.

手術所見:臍部縦切開にてfirst portを挿入し,型のごとく5ポートで手術を開始した.内側アプローチにて左側結腸を十分に授動し中枢側は左結腸動脈を温存したD3郭清を行った.Distal marginを直視下にしっかり確保するために途中から2チームにてTaTMEを施行した.腫瘍から1 cm肛門側に切離ラインをおき,鏡視下にpurse-string sutureを2重に行うことで肛門側を閉鎖した.歯状線から約1 cmの口側から切離を開始し,腹腔内からの切離層と連続させ標本を摘出した.吻合はCircular Stapler(Medtronic社,DST SeriesTMEEA 25-3.5)を使用したsingle stapling technique(以下,SSTと略記)法にて行い,膣壁に十分に注意して吻合を行った,吻合部は肛門縁から3 cm程度であったため,予防的回腸人工肛門を造設した.手術時間7時間5分,出血量95 gであった.

摘出標本肉眼所見:直腸前壁に38×30 mmにtype 2の腫瘍を認めた.pDMは10 mmであった(Fig. 3).

Fig. 3 

The resected specimen was a type 2 tumor of size 38×30 mm with pDM 10 mm.

病理組織学的検査所見:tub1>tub2,pT2(Ly)-SM,Ly1a,V1a,pN1a,pPM0,pDM0,pRM0 pStage IIIa(大腸癌取扱い規約第9版,2018年)であった.

術後経過良好で,縫合不全の兆候なく,回腸人工肛門からの排便が落ち着いた術後第16病日に退院となった.

経過①:術後病理組織学的検索の結果より,本人の強い希望もありcapecitabineのみによる術後補助化学療法を開始した.4コース治療終了後,吻合部をCSにて観察したところ吻合部狭窄を認めた(Fig. 4).内視鏡下にブジーを行ったのち造影検査にて穿孔がないことを確認し,回腸人工肛門閉鎖術を施行した.術後経過良好で第4病日に退院となった.退院後約1週間ころより膣から排ガスがあることを自覚し,その後膣から排便を認めたため外来を受診した.精査したところCSにて吻合部に瘻孔を認め,注腸造影検査,CTにて直腸膣瘻と判断し,婦人科でも瘻孔の存在が確認された.

Fig. 4 

Colonoscopic findings showed stenosis of the anastomotic site. Endoscopic bougie was performed.

CS所見:吻合部に3 mm大の瘻孔を認めた(Fig. 5).

Fig. 5 

Colonoscopic findings revealed a 3-mm large fistula (arrow) at the anastomotic site.

注腸検査所見:CS下に造影検査を行ったところ,瘻孔を介して膣への造影剤の漏出を認めた(Fig. 6).その直後のCTでも,瘻孔と膣が描出されていた(Fig. 7).

Fig. 6 

Gastrografin enema showed leakage of contrast medium into the vagina (arrowheads) through a fistula (arrow).

Fig. 7 

Abdominal CT revealed contrast medium from the rectum that had moved to the vagina (arrowhead) through a fistula (arrow).

経過②:入院加療をすすめるも,仕事と家庭の都合でしばらくは入院困難とのことで,種々の治療方法・方針を時間をかけて説明し,エストリオール錠(1 mg)内服と外陰部の自己洗浄のみで治療を開始した.投与前にはエストリオールのリスク排除のため,乳癌および子宮癌検診を施行した.治療開始約3週間後には排便・排ガスは漸減し,2か月後には完全に消失した.本人希望でエストリオール錠は継続していたが半年経過し再発,瘻孔がないことをCSで確認した(Fig. 8).エストリオール中止による再発を危惧し,投与を隔日に変更し1年後には中止した.術後約2年3か月,直腸膣瘻治療開始後1年9か月経過するも,明らかな直腸癌の再発,直腸膣瘻の再燃は認めていない.

Fig. 8 

Colonoscopic findings showed complete healing of the fistula.

考察

直腸癌に対する低位前方切除術後の器械吻合による直腸膣瘻の発症頻度は1.0~3.4%1)~5)程度とまれな合併症であるが,いったん発症すると難治性で治療期間が長期にわたることがある.Huangら4)によると,直腸癌に対する低位前方切除術後の直腸腟瘻のリスク因子について検討したところ,多重ロジスティック回帰分析において,腫瘍と肛門縁の距離,術式などが直腸腟瘻と有意な関連を示していた.TaTMEは低位直腸癌のdistal resection marginをより確実に長く確保する手術手技として有効である6)と考えられておりその腫瘍学的側面のみならず機能温存の面からも従来の直腸癌手術を凌駕する可能性が期待されている.腹腔鏡手術に対する TaTME 割合(2017年)は,低位前方切除術で2.4%(130/5,426),括約筋間直腸切除術で 32%(129/399)と報告されている7).その特徴的な解剖学的認識やラーニングカーブなどが課題として挙げられ,まだ定型化された手術とはいいがたいのが現状である.TaTME後の吻合は手縫いによる吻合(hand-sewn coloanal/colorectal anastomosis;以下,HSCAと略記)とCircular Staplerを使用したSST吻合があるが,Simillisら8)の報告によると66%がHSCAで,34% がSSTであった.SSTの際には遠位直腸切離断端のpurse-string sutureを経肛門的に行いその後にCircular Staplerで縫合するのが一般的である.Sutureの際に膣壁を縫い込んだり,stapling時に膣壁にstapleがかかる可能性は否定できない.しかし,TaTME後のRVF率は膣との剥離を十分に行うDSTに比べ0.16~0.8%と低率であった8)9).今後症例検討を重ね,TaTME時の最適な吻合方法を選択する必要があると思われた.

直腸膣瘻を併発すると,絶食,高カロリー輸液などの保存的治療のみでは軽快は通常困難で,しばしば人工肛門造設術,単純瘻孔閉鎖3),筋皮弁充填術10)などの侵襲的治療が必要であると報告されてきた.外科的治療としては瘻孔の直接閉鎖(経肛門的または経膣的)だけでは不十分であり,近年直腸-膣間に組織充填術を併せる手術術式において一定の成果が報告されている10).しかし,デリケートな観血的治療でもしばしば再燃がみられ,また症例によっては直腸癌術後早期に化学療法が必要不可欠な症例もあり,治療法の選択に非常に難渋する合併症の一つである.

エストリオール錠は経口卵胞ホルモン剤であり,更年期障害,膣炎,子宮頸管炎,子宮膣部びらん,老人性骨粗鬆症などに処方される.エストリオールは卵胞ホルモン(エストロゲン)の一種であるが,体内でエストラジオールに転換されない.その利点として,子宮内膜への影響が少ないこと,膣に選択的に作用することなどがあげられる.エストリオールの子宮内膜増殖作用は,エストラジオールやエストロンより弱いが,頸管粘液の分泌の増加や子宮口の開大などの向子宮作用および腟粘膜への作用は他のエストロゲンより強い.エストリオールは,エストロゲンの分泌不足による膣の自浄作用の低下を回復させ,膣周囲の血流を増加させることによって角化を促進し,炎症に対する腟抵抗を強めることで直腸膣瘻の治癒を促進する可能性があるといわれている11).閉経後の女性は閉経前の女性に比べ膣の進展性および柔軟性は劣っており,エストリオールを使用した膣粘膜への回復促進は閉経後の女性のほうがより有用であると考えられる.投与する場合には,投与前に病歴,家族素因などの問診,乳房検診ならびに婦人科検診を行い,投与開始後は定期的に乳房検診ならびに婦人科検診を行う必要がある.本症例も患者本人に投与のメリット,デメリットを十分に説明したうえで,即日乳癌検診,婦人科検診を行い異常がないことを確認後投与を開始した.

医学中央雑誌で「直腸癌」,「直腸膣瘻」,「エストリオール」をキーワードに1964年から2019年12月の期間で検索したところ,エストリオールが有効であったという報告は会議録を含めても,15例(自験例を含めて)とまれであった(Table 112)~25)

Table 1  Characteristics and management of 15 patients with rectovaginal fistula who received initial conservative management
No Author Year Age Onset (POD) Invasive treatment Other treatment Treatment period Estriol administration
Onset~Est. Est.~Healing Total period Way Dosage Period
1 Kawasaki12) 2007 64 12 None STCVA 7 35 42 Vaginal 1 ND
2 Kaneko13) 2008 76 6 Stoma None 12m 2m 14m Vaginal ND ND
3 Takaesu14) 2009 68 60 None STCV ND ND 2m Vaginal ND ND
4 Kataoka15) 2010 63 13 None STVR 2m 25 85 Vaginal ND ND
5 Sunami16) 2013 58 8 None ST 0 21 21 Oral 2 ND
6 Takehara17) 2014 67 12 None C 0 70 70 Vaginal ND ND
7 Yamada18) 2015 78 77 None C 0 20 20 Vaginal ND ND
8 Hirota19) 2016 72 18 FC ST 0 26 26 Oral 2 50
9 Kasahara20) 2017 70 6 Chemo, Hepatectomy→FC CF 7m 16 7.5m Vaginal 1 48m
10 Yoshioka21) 2017 70 12 None STCV 0 20 20 Vaginal 1 28
11 Tanaka22) 2018 61 16 FC+ileostomy None 17 21 38 Oral 2 122 (1–102)
12 Fujita23) 2019 70 21 ileostomy V 0 14 14 Vaginal ND 42
13 Tamura24) 2019 60 30 Colostomy, FC, Flapx3 ND 47m 4m 51m Vaginal ND ND
14 Sasaki25) 2020 51 (8m) ileostomy, FC F 4m Oral ND 39m
15 Our Case 42 (4m) (ileostomy), Chemo None 2m Oral 1 12m

S: starvation, T: TPN, A: antidiarrheals, F: fistula clipping, C: chloramphenicol V-tab, V: vaginal douching, R: rectal douching, ND: non documented, FC: fistula closure, Est.: start estriol intake

会議録を含むため詳細が不明な症例もあるが,調べえたかぎりで検討すると,年齢の中央値(四分位値)は67(60~70)歳であった.症例14は吻合部縫合不全で術後15日目に,また自験例は予防的回腸人工肛門を造設していたため直腸膣瘻が顕性化するのにそれぞれ8か月,4か月と長期間を有していた.発症時期が不明な症例14と自験例を除いた症例では術後13(10~20.5)日で診断されていた.直腸膣瘻の診断後,観血的治療を先行しなかった症例(症例1,3~7,10)は0(0~33.5)日と比較的早期にエストリオール投与が開始されており,エストリオール投与を開始してから瘻孔が閉鎖するまで23(20~52.5)日であった.

エストリオールは経口投与が5例,経腟投与が10例であった.経腟投与の症例では膣洗浄やクロラムフェニコール錠の経腟投与がほぼ全例に行われていた.クロラムフェニコール膣錠の使用群(6例)と非使用群(8例)を比較すると,エストリオール開始から治癒までの期間はぞれぞれ20(18~52.5)日と25.5(21~60)日で,使用群のほうがやや短期間で治癒していた.直腸膣瘻の治療のため,排便コントロール(減少)目的で約半数の6/15例(40%)の症例が絶食となっており,5/15例(33.3%)に人工肛門が造設されていた.

本症例はエストリオール錠内服治療のみで絶食などそのほかの加療をまったく行わず,難治性で治療に難渋することが多い直腸膣瘻が完全に治癒したため,本症例においてはエストリオール錠投与が有効であったことが示唆される.早期に治療を開始した症例のほうが治癒までの期間が短縮している傾向が認められたが,症例が少なく,早期のエストリオール投与が早期治癒につながる可能性については今後の検討が必要である.

笠原ら20)は,閉経例では観血的治療前のエストリオール錠の投与により観血的治療の回避が,また周術期における観血的治療との併用でより高い治療効果が望めると報告している.エストリオールの機序から推測すると閉経後のほうがより治療効果が高いと思われ,今回検討した症例報告では本症例を除き全て閉経後であったが,閉経前であっても有用である可能性が示唆された.しかし,エストリオール投与を行っても効果がなければ症例報告に至っていない可能性もあり,エストリオールがどれほど有効であったか実際のところ不明である.エストリオール無効時の観血的治療として,瘻孔内への組織接着剤注入術25),OTSC systemによる内視鏡的クリップ閉鎖術26),経腟的または経肛門的単閉鎖術3),会陰体形成術27)などが報告されているが,なかでも(腹腔鏡補助下)薄筋弁充填による閉鎖術は成功率70%を超え有用かつ安全な治療法の一つであると記載されている10)

症例報告の検討からも,エストリオールの投与量と治癒期間の関係は不明であり,また瘻孔閉鎖後の投与が必要かどうか,その量や期間についても明確な基準やコンセンサスは得られていない.本症例は患者の強い希望もあり,エストリオールを漸減し中止した.卵胞ホルモン剤はその連用により血栓症が起こることが報告され,長期間使用した閉経期以降の女性では子宮内膜癌になる危険性が対照群の女性と比較して高くなりこの危険性は使用期間に相関して上昇する.また,結合型エストロゲン・黄体ホルモン配合剤投与群では,プラセボ投与群と比較して乳癌(ハザード比:1.24),卵巣癌(ハザード比:1.58),冠動脈性心疾患(ハザード比:1.81),脳卒中(主として脳梗塞)(ハザード比:1.31)そしてアルツハイマーを含む認知症(ハザード比:2.05)の危険性が優位に高くなるとWHI試験(米国における閉経後女性を対象とした無作為化臨床試験;Women’s Health Initiative試験)28)で報告されている.エストリオールの投与方法(経口または経腟),投与量,投与期間や瘻孔閉鎖後のエストロゲン製剤の投与に関する明確なコンセンサスはなく今後の症例集積が必要不可欠と思われた.

今回,エストリオール単独で直腸癌術後の直腸膣瘻の治療に成功し,観血的治療を回避することができた症例を経験した.直腸膣瘻に対するエストリオール単独投与は低侵襲で有効な治療法の一つになる可能性が示唆された.

利益相反:なし

文献
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top