2022 Volume 55 Issue 11 Pages 675-683
大腸癌の遠位胆管転移はまれな病態である.症例は82歳の男性で,80歳時に上行結腸癌,早期胃癌,転移性肝癌に対して回盲部切除,胃部分切除,左肝切除術を施行した.術後補助化学療法としてベバシズマブを併用したS-1+オキサリプラチン療法を行った.術後2年目の経過観察のために施行した腹部造影CTにて遠位胆管に22 mmの造影効果を有する腫瘤を指摘された.MRCPで同部位に欠損像として描出され,PET/CTではFDGの集積が確認された.ERCP下生検で管状腺癌の診断となり,遠位胆管癌の術前診断に対して幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.切除標本では35 mm大の乳頭状の腫瘍を認め,病理組織学的に形態と免疫学的染色検査の所見がともに初回の大腸癌の病理所見に一致しており,大腸癌の遠位胆管転移が強く疑われた.術後32か月,術後補助化学療法は行わず経過観察中であるが,無再発生存中である.

Distal bile duct metastasis of colorectal cancer is a rare presentation. The patient was an 82-year-old man who had previously undergone ileocecal resection, partial resection of the stomach, and left hepatectomy for ascending colon cancer, early gastric cancer, and liver metastasis of the colon cancer, respectively, when he was 80 years old. The patient received adjuvant combination chemotherapy of S-1 and oxaliplatin plus bevacizumab. Two years later, during routine follow up, CT scans revealed a high-density tumor with a diameter of 22 mm in the distal bile duct. ERCP also revealed a defect in the distal bile duct, and subsequent biopsy confirmed that the tumor was an adenocarcinoma. Pylorus-preserving pancreaticoduodenectomy (PPPD) was performed based on the diagnosis of distal cholangiocarcinoma. A 35-mm papillary tumor was found in the resected specimen. Pathologically, the tumor was a moderately differentiated tubular adenocarcinoma. The morphology and immunohistochemical staining patterns of the tumor cells were similar to those of the previous colon cancer. Thus, the tumor was strongly suspected to be a bile duct metastasis of the colon cancer. The patient’s recovery following surgery was unremarkable and there has been no recurrence to date.
2019年版の大腸癌治療ガイドラインによると,大腸癌治癒切除後,5年以内の初発再発部位は肝臓,肺,腹膜,局所,吻合部が多く,その他は4.8%と非常に少ない1).近年,大腸癌の肝内胆管転移の報告例が散見されるが2)~6),遠位胆管含め肝外胆管に転移した症例は報告が少ない.今回,我々は大腸癌術後に異時性に遠位胆管へ転移し幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(pylorus preserving pancreatoduodenectomy;以下,PPPDと略記)を施行した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
患者:82歳,男性
主訴:特記事項なし.
既往歴:慢性腎臓病,慢性閉塞性肺疾患,2型糖尿病,高血圧症,脂質異常症,内頸動脈狭窄症,深部静脈血栓症
現病歴:80歳時に上行結腸癌,早期胃癌,転移性肝癌の診断に対して回盲部切除,胃部分切除,肝左葉切除術を施行した.上行結腸癌の病理結果はmoderately differentiated adenocarcinoma(tub1>tub2),type 2,52×34 mm,pSS,med,INFb,ly1,v1,pPM0,pDM0,pRM0,lymph node metastasis(–)であった(大腸癌取扱い規約 第9版)(Fig. 1)7).胃癌はwell differentiated tubular adenocarcinoma(tub1>tub2),type 0-IIa,20×13 mm,pT1a,UL(–),ly(–),v(–),pHM,pVM0(胃癌取扱い規約 第15版)であった8).肝腫瘍は白色充実性の腫瘍で,増生パターンが切除した上行結腸癌と類似しており,大腸癌の肝転移と診断された.術後補助化学療法としてベバシズマブを併用したS-1+オキサリプラチン療法(オキサリプラチン130 mg/m2,テガフール・ギメラシル・オテラシル100 mg/日,ベバシズマブ7.5 mg/kgにて開始)を5コース施行した.術後25か月目に施行した腹部造影CTにて下部胆管に造影効果を伴う腫瘍を認め,精査加療目的で入院した.

Ileocecal resection for ascending colon cancer was performed at age 80 years old. Pathological findings showed moderately differentiated adenocarcinoma (tub1>tub2), type 2, 52×34 mm, pSS, ly1, v1, pPM0, pDM0, pRM0 and lymph node metastasis (–).
入院時現症:身長166 cm.体温59.8 kg.体温36.1°C.血圧97/54 mmHg.脈拍86回/分.腹部は平坦・軟で腫瘤は触知しなかった.
入院時血液検査所見:肝逸脱酵素AST 18 U/l,ALT 15 U/l,ALP 402 U/l,γ-GTP 239 U/lと胆道系酵素は上昇していたが,ビリルビン上昇は認めなかった.CEAは正常値で,CA19-9は124 U/mlと上昇していた.
腹部造影CT所見:拡張した総胆管内に22×16 mm大の軽度造影効果を伴う乳頭状腫瘤を認めた.領域リンパ節の腫大や遠隔転移は認めなかった(Fig. 2).

(a, b) Abdominal contrast-enhanced CT scans revealed a high-density tumor (arrowheads) of size 22×16 mm in the dilated distal bile duct.
腹部MRI所見:下部胆管に21 mmの占居性病変を認めた.MRCPではCTと同様に拡張した総胆管内に辺縁不整な欠損像として描出された(Fig. 3).

(a, b) MRCP showed an irregular defect (arrowheads) with a diameter of 21 mm in the dilated distal bile duct.
内視鏡的逆行性胆管造影検査所見:下部胆管に境界明瞭な乳頭状腫瘍を認め(Fig. 4),胆汁細胞診はclass IIIであったが生検にて中分化型腺癌を確認した.

ERCP revealed a papillary defect (arrowheads) in the distal bile duct. Bile cytology indicated class III and biopsy confirmed moderately differentiated adenocarcinoma.
PET/CT所見:下部胆管にStandard Uptake Value max 20.99のfluorodeoxyglucoseの集積を伴う腫瘤を認めた(Fig. 5).その他に有意な集積は認めなかった.

FDG accumulation (SUVmax 20.99) in the tumor (arrowhead) on PET/CT.
以上より,胆管内乳頭状腫瘍(intraductal papillary neoplasms of the bile duct;以下,IPNBと略記)が疑われた.上記術前診断に対しPPPDを施行した.
手術所見:前回手術の影響で腹腔内の癒着は高度であったが,観察範囲に明らかな遠隔転移は認めずPPPDを施行した.肝側胆管断端に関しては術中病理診断で陰性を確認した.膵管空腸吻合はBlumgart変法で行った.手術時間は8時間34分,出血量は588 mlであった.
切除標本の肉眼的所見:遠位胆管に,内腔に突出する乳頭状の充実性腫瘍を認めた(Fig. 6).大きさは35 mm径で,表面に出血性潰瘍を伴っていた.固定後の腫瘍割面は白色調で,壊死を伴っていた.総胆管は胆汁うっ滞のためか拡張していた.

A papillary solid tumor (arrowheads) protruding into the lumen was found in the distal bile duct. The size of the tumor was 35 mm. The common bile duct was dilated with mucus.
病理組織学的検査所見:中分化型管状腺癌の所見を認め,腫瘍細胞は粘膜内に限局していた.(12×10×35 mm)形態学的に既往手術の大腸癌と肝転移巣の病理組織像に類似していた.免疫組織学的にもcytokeratin(以下,CKと略記)19陽性,CK20陽性,CDX2陽性,CEA陽性,Ki-67標識率約60%,erbB2陽性,CK7陰性,β-catenine は一部に核内集積を認め,既往手術標本の所見と同様であった(Fig. 7).

(a–h) Pathologically, the tumor was a differentiated tubular adenocarcinoma in the mucosa. The morphology and immunohistochemical staining pattern of the tumor cells were similar to those of the previous colon cancer (CK20+, CDX2+, CK7–).
以上より,大腸癌の遠位胆管転移と診断した.
術後経過:術後26日目に腹腔内膿瘍に対してドレナージを要したが,その後軽快し術後34日目に退院となった.術後補助化学療法施行していないが,術後32か月現在,無再発生存中である.
大腸癌の肝転移は一般に経門脈性に肝実質に発生することが多いが,近年大腸癌の肝内胆管に転移した症例の報告が散見される2)~6).一方,肝外胆管転移は現在までの国内報告例は3例のみである9)~11).その他に胆管転移を来す悪性腫瘍としては胃癌,乳癌,悪性黒色腫が報告されているがいずれも報告例は少ない12)~14).
原発性胆管癌と胆管内進展を伴う大腸癌肝転移の術前鑑別診断は,画像所見や通常の病理組織学的診断のみでは困難なことが多い.鑑別において特に免疫組織学的染色検査でCK7,CK20の組み合わせとCDX2の有用性が報告されている15)~17).CKは上皮細胞にみられる中間径フィラメントタンパク質で,20種類のサブタイプに分類される.Rullierら15)は胆管細胞癌の96%がCK7陽性を呈した一方,CK20+/CK7–のパターンで大腸癌肝転移である特異度は96%で,鑑別に有用であると報告している.Tot16)の転移性肝腫瘍に対する肝生検においても,CK20+/CK7–の場合に大腸癌が原発である感度は79.5%,特異度は98.7%,陽性適中率は97.2%と高い割合を示した.
CDX2は十二指腸,結腸,直腸で高い割合で発現している腸管上皮に関わる転写因子をコードするホメオボックス遺伝子で,大腸癌陽性マーカーとして転移巣検索での感度および特異度が高い15).Tot16)はCDX2による鑑別は感度が高く,大腸癌肝転移で84%あったのに対し,胆管癌での発現率は低く28%と報告している.Werlingら17)も胆管癌では25%陽性と発現率が低かったと報告している.
本症例では病理組織学的にHE染色で大腸癌切除時の病理組織と非常に類似しており,ともに免疫組織学的染色検査でCK20+/CK7–,CDX2+であった.CK20の染色率は初回病変と比べて低下しているが概ね保たれており,類似した組織像,CDX2とCK7の染色結果を考慮すると,大腸癌の遠位胆管転移が強く示唆された.
1964年から2020年12月の期間において医学中央雑誌で「大腸癌」,「胆管転移」のキーワードで検索した結果(会議録を除く),肝実質に腫瘍が明確でなかった大腸癌胆管転移で詳細な記載がある症例は5例認められた2)~5)11).そのうち本症例のような肝外胆管転移は籠浦が報告した1例のみであった11).PubMed(1963年〜2020年)で「colon cancer」,「bile duct metastasis」をキーワードとして検索した結果,6例の大腸癌肝外転移の報告を認めた9)10)18)~21).本症例を含めた大腸癌の肝外胆管転移8例をTable 1にまとめた.原発巣の組織型は中分化型腺癌が多く,背景に肝転移を来していた症例が多かった.再発期間は同時性に発見されたのが1例,術後2年後が3例,7年が1件,21年後が1件であった.生存期間は詳細に記載されている文献は少なく,6か月が1例,12か月が2例であった.本症例を含め5例が外科的切除をされており,1例は胆管ステント留置後に化学療法が施行されていた.また,生検の段階で免疫染色検査を行った症例では全て術前に大腸癌胆管転移と診断されており,その有用性が示唆される.そして本症例を含め2例が,画像上乳頭状腫瘍として描出され,術前にIPNBと診断されていた.遠位胆管癌と術前診断された症例は2例認め,1例は造影効果を伴う腫瘤,もう1例は石灰化を伴う腫瘤として描出されていた.
| No. | Author/Year | Age | Sex | Primary cancer | Stage of primary cancer | Liver metastasis | Liver resection | Location of metastasis | Macroscopic findings | Preoperative diagnosis | Treatment | Recurrence-free survival |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Yamao9)/2015 | 65 | female | transverse colon cancer | TXN0M0, pStage I–II | + | + | distal bile duct | papillary tumor | IPNB | SSPPD | unknown |
| 2 | Kawakatsu10)/2015 | 73 | male | sigmoid colon cancer | T3N0M0, pStage II | + | + | intrapancreatic bile duct | papillary tumor | distal bile duct cancer | SSPPD | 12 months |
| 3 | Lee18)/2015 | 70 | male | transverse colon cancer | T3NXM0, pStage II–IIIb | – | distal bile duct | type 2 tumor | distal bile duct cancer | PPPD + right hemicolectomy | unknown | |
| 4 | Strauss19)/2016 | 57 | male | rectal cancer | unknown | + | – | common bile duct | unknown | bile duct metastasis | bile duct stent + chemotherapy | unknown |
| 5 | Koh20)/2017 | unknown | unknown | unknown | unknown | unknown | extrahepatic bile duct | unknown | unknown | PTC | unknown | |
| 6 | Knowles21)/2017 | 50 | male | transverse colon cancer | T4aN0M0, pStage II | unknown | confluence of hepatic ducts | unknown | bile duct metastasis | bile duct stent | unknown | |
| 7 | Kagoura11)/2019 | 73 | male | transverse colon cancer | T3N0M0, pStage II | + | + | confluence of hepatic ducts | unknown | bile duct metastasis | extrahepatic bile duct resection and reconstruction | 6 months |
| 8 | Our case | 82 | male | ascending colon cancer | T3N0M1a, pStage IVa | + | + | distal bile duct | papillary tumor | IPNB | PPPD + right hemicolectomy | 32 months |
胆管への転移経路はいまだ明らかでないが,Ghittoniら6)は門脈あるいは 肝動脈と交通する胆管周囲毛細血管叢(peribiliary capillary plexus)を介した転移の可能性を推測している.また,近藤ら22)が,肝細胞癌ではあるが総胆管転移の1切除例を報告しており,転移様式として胆管内に脱落した腫瘍塊によるimplantationの可能性を示唆している.自験例を含め5例が肝転移を併発しており,うち4例が胆管転移を来す以前に肝切除を施行されていた.後方視的に初回手術の肝転移の病理組織を見直したが,初回診断と同様に胆管浸潤は認めなかった.加えて,本症例は粘膜癌であったことも考慮すると,初回手術で肝切除した際に,脱落した腫瘍塊が遠位胆管に着床し増生した可能性も考えられた.
2019年にLatorre Fraguaら23)は大腸癌の肝内胆管転移についての40の報告例を検討しており,原発巣は特に直腸S状部癌が多かった.また,興味深いことに肝内胆管転移を伴う肝転移症例は,伴わない症例と比べて生存率が高いとも報告しており,これは胆管浸潤を伴う症例の67%が高分化型腺癌であることに起因していると考察している.
生存期間が記載されている症例は外科切除した2例で,それぞれ12か月,6か月無再発で経過していた.本症例も含めれば外科切除して長期生存が望める症例もあり,外科切除は一考の余地がある.
本症例では術前の画像所見,ERCP下の生検の結果でIPNBと診断し,PPPDを施行した.画像所見では術前に鑑別診断が困難だったため,生検標本で免疫組織学的染色検査は診断の一助となったかもしれない.また,術後32か月,無再発生存と肝外胆管転移報告例の中では最も良好に経過している.
今回,我々は上行結腸癌と転移性肝癌術後の遠位胆管転移再発に対してPPPDを施行した1例を経験した.大腸癌の肝外胆管転移は非常にまれで不明な点が多いため,今後さらなる症例の蓄積が望まれる.
利益相反:なし