The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Postoperative Small Intestinal Obstruction Due to Absorbable Barbed Suture Used in Laparoscopic Inguinal Hernia Repair
Takashi SakumaHitoshi TeraokaTaichi ShojiHaruhito KinoshitaYasuo NakagawaMasaichi Ohira
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2022 Volume 55 Issue 11 Pages 718-724

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Abstract

有棘縫合糸は手技の簡便性から各外科領域に広く応用されているが,合併症として術後腸閉塞が懸念される.今回,我々は腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術に用いた有棘縫合糸が原因で発症した術後腸閉塞の1例を経験したので報告する.症例は80歳の男性で,腹腔鏡下両側鼠径ヘルニア根治術を施行後翌日に退院となったが,術後8日目に腹部膨満感および腹痛,嘔吐が出現し当院受診となった.精査の結果,小腸癒着性腸閉塞の診断で再入院となった.保存的加療を行うも改善せず,術後13日目に腹腔鏡下腸閉塞解除術を施行した.術中所見では腹膜閉鎖に用いた有棘縫合糸の余剰端が近傍の小腸間膜内へ迷入することでバンドを形成し,同部直下の回腸終末部が圧迫され,腸閉塞を来していた.有棘縫合糸を小腸間膜内から引き抜き腸閉塞を解除した.消化管切除は施行しなかった.再手術後5日目に退院し,外来にて経過観察中である.

Translated Abstract

An 80-year-old male underwent laparoscopic hernia repair for bilateral internal inguinal hernia. He was discharged on postoperative day (POD) 1; however, on POD 8, he returned to our department with chief complaints of abdominal distension, abdominal pain, and vomiting. He was diagnosed with adhesive intestinal obstruction, but the obstruction did not resolve with conservative management with an ileus tube. He finally underwent laparoscopic reoperation for the obstruction on POD 13. During this procedure, the end of the barbed suture used for peritoneum closure in the hernia repair was found to have migrated into the nearby mesentery of the small bowel and formed a band that directly compressed the terminal ileum and caused small intestinal obstruction. The obstruction was released by cutting and pulling out the free edge of the barbed suture. Neither intestinal resection nor peritoneum reclosure was needed. The patient was discharged on re-POD 5 without any complications. The use of barbed suture is convenient and time-saving, and is used in various surgical departments. However, our case suggests that there is a risk of intestinal obstruction or intestinal volvulus due to barbed suture. Avoiding exposure of the free edge of the barbed suture in the peritoneal cavity, such as cutting the free edge as short as possible or using a non-barbed suture above the barbed suture, might contribute to reduction of these complications.

はじめに

有棘縫合糸は,糸の表面に単方向の棘を有しており結紮することなく緩まず確実に縫合閉鎖することができる.縫合の安定性や連続で縫合を進められる迅速性が長所として挙げられ,手術時間を短縮できるため,消化器外科,泌尿器科,婦人科,形成外科をはじめ各外科領域に幅広く応用されている1).消化器外科領域では主に腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術における腹膜閉鎖,消化管切除後における吻合の際によく用いられている.今回,我々は腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術に用いた吸収性有棘連続縫合糸が原因で発症した術後腸閉塞の1例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:80歳,男性

主訴:腹部膨満感,腹痛,嘔吐

既往歴:72歳時,前立腺癌に対し放射線治療施行.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2021年4月に両側内鼠径ヘルニアに対し,腹腔鏡下両側鼠径ヘルニア根治術を施行した.術翌日に退院となったが,術後8日目に腹部膨満感,腹痛および頻回の嘔吐が出現し,当院再受診となった.

入院時現症:身長160 cm,体重55 kg,体温36.2°C,血圧140/70 mmHg,脈拍数100回/分,整.意識清明.腹部は全体に膨満し自発痛を認めたが,圧痛や反跳痛,筋性防御は認めなかった.

血液生化学的検査所見:WBC 12,660/μl,CRP 0.38 mg/dlと軽度の炎症反応高値を認めるのみで,その他所見に明らかな異常は認めなかった.

腹部造影CT所見:回腸終末部にcaliber changeを認め,口側腸管は拡張していた.肝表面やダグラス窩に少量の腹水貯留を認めた.腸管壁の造影不良域は認めなかった(Fig. 1a, b).

Fig. 1 

Abdominal enhanced CT. (a, b) Caliber change (arrowheads) at the terminal ileum and ascites in the Douglas fossa (arrow). The gastrointestinal tract was dilated on the oral side of the site of caliber change.

入院後経過:回腸終末部の右腹膜閉鎖部への癒着を閉塞起点とした小腸癒着性腸閉塞の診断で,入院加療を開始した.入院同日にイレウス管を留置し持続陰圧で管理した.留置2日後に腹部膨満感および腹痛の改善を認め,排便も認めたためイレウス管を抜去し食事摂取を再開した.しかし,翌朝に再び腹部膨満感が出現し,嘔吐を認めた.再度腹部CTを施行したところ,入院時と同様に回腸終末部にcaliber changeおよび口側腸管の拡張を認めた.小腸癒着性腸閉塞の再燃と診断し,胃管チューブを留置したが,留置後は腹部膨満感の改善を認めなかった.保存的加療では加療困難と判断し,初回手術後13日目に腹腔鏡下腸閉塞解除術を施行した.

手術所見:臍上部および左下腹部,恥骨上にポートを留置した.腹腔内を観察すると,右傍結腸溝およびダグラス窩に淡血性腹水が少量貯留していた.右下腹部の小腸を授動し右側腹膜閉鎖部の周囲の癒着を鈍的剥離したところ,右側腹膜閉鎖に用いた有棘縫合糸が近傍の小腸間膜内へ迷入することでバンドを形成しており,同部直下の回腸終末部が圧迫され,腸閉塞を来していた(Fig. 2a, b).有棘縫合糸を剪刀で切離し小腸間膜より引き抜き,腸閉塞を解除した.縫合糸は小腸間膜内に約3 cm迷入していた.圧迫されていた腸管は軽度発赤を認めるのみで壊死や穿孔は認めず,消化管切除は行わなかった.また,右腹膜閉鎖部の離開や外側断端の引き抜けを認めず,修復は不要であった.閉腹前に有棘縫合糸の余剰端が腹腔内に露出していないことも十分に確認した(Fig. 2c).手術時間は0時間38分,出血量は10 mlであった.

Fig. 2 

Surgical findings. (a, b) The barbed suture had migrated into the nearby mesentery of the small intestine and formed a band (arrows) that directly compressed the terminal ileum. (c) There was no detachment at the closed peritoneum (arrowheads) and no exposure of the edge of the barbed suture in the abdominal cavity (arrow).

術後経過:再手術後2日目に経口摂取を再開した.経口摂取再開後の腹部症状の増悪は認めず,再手術後5日目に自宅退院した.退院後現在まで3か月間,腸閉塞再発を認めず外来で経過観察中である.

考察

腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術においては,メッシュの露出による腸管の癒着や腹膜前腔への腸管迷入を防ぐためにも,腹膜の完全閉鎖は非常に重要なステップである.近年,腹膜修復の際に吸収性有棘縫合糸が広く用いられるようになった.有棘縫合糸は糸の表面に単方向の棘を有しており,連続縫合の際には運針ごとに縫合部の固定が可能である.結紮することなく緩まず確実に縫合閉鎖することができ,縫合の安定性や迅速性が長所として挙げられる.手術時間を短縮できるため,消化器外科,泌尿器科,婦人科,形成外科をはじめ各外科領域に幅広く応用されている1).一方で,運針が浅いと棘部の組織保持量が低下し,腹腔内で緩んで余剰端が露出する可能性があり,また棘部は組織癒着性が強く,腹腔内手術後に腹腔内へ露出した余剰端が近傍の小腸や腸間膜,大網へ迷入することで,漿膜損傷や癒着性腸閉塞を来す可能性がある.自験例では初回手術時の映像を確認したところ,有棘縫合糸に3-0 V-LocTM 180(1/2 Circle 26 mm)(COVIDIENTM社)を用いて,メッシュ上の腹膜を外側から内側へ向かって縫合閉鎖していった.内側から外側へと逆方向へ1針縫合して最終運針としていたが,有棘縫合糸断端が約6 mm腹腔内に露出した状態で切離していた(Fig. 3a, b).このわずかな長さの余剰端が術後に近傍の小腸間膜へ迷入し,腹膜閉鎖部から3 cm引き抜かれてバンドを形成,そのバンド直下の回腸終末部が直接圧迫された結果,腸閉塞を発症したものと考えられた.初回手術時の有棘縫合糸の逆方向への運針は深く,十分に組織を保持できており,また,意図せず有棘縫合糸で近傍の小腸間膜を縫い付けることなどは認めなかった.以上から,手技上のトラブルは見られず問題ないと考えられた.腹膜閉鎖部も3 cm分強く引き締められたのみで破綻は認めず,修復を必要としなかった.

Fig. 3 

Surgical findings in the first operation (TAPP). (a, b) The barbed suture was cut with 6 mm left exposed (arrows).

医学中央雑誌(1964年~2021年)およびPubMed(1950年~2021年)において「有棘縫合糸(barbed suture)」,「腸閉塞(obstruction)」をキーワードとして検索したところ(会議録除く),これまでに22例(本邦報告例は3例)が報告されており,自験例も含めて23例であった(Table 11)~19).いずれも腹腔鏡手術後の合併症であり,術後平均14.5日(1日~7週間)で発症していた.初回手術の内容は,自験例と同様の鼠径ヘルニア根治術が10例,婦人科手術が9例,骨盤臓器脱根治術が3例であった.幽門側胃切除術後の発症例は1例のみ14)であったが,これは上腹部に比べて骨盤腔手術では,術後の立位による重力変化によって有棘縫合糸に小腸が接する可能性が高いことが原因として考えられる.あるいは消化管と比べて腹膜は伸縮性が強いため,腹膜縫合での使用後に有棘縫合糸断端が他の組織へ迷入した際に,有棘縫合糸が腹膜から引き抜かれやすくバンドを形成する可能性が高いことも考えられる.全例で最終的に手術加療が施行されており,有棘縫合糸の組織迷入によって形成されたバンドを起点とした腸捻転,内ヘルニアによる絞扼性腸閉塞が12例,有棘縫合糸周囲の癒着性腸閉塞が8例,自験例のようなバンドの腸管への複雑な巻絡や直接圧迫による腸閉塞が3例であった.1例のみ小腸切除術および二連銃式空腸ストーマ造設術を施行されていた9)が,それ以外の症例では腸管壊死は認めず,癒着剥離や原因となった有棘縫合糸余剰端の除去のみに留まっていた.術後経過は良好で全例生存退院しており,予後は良好であると考えられた.

Table 1  Summary of 23 cases of postoperative bowel obstruction due to absorbable barbed suture
No Author Year Laparoscopic procedure performed Duration after operation Ileus type Resection Redundant barbed suture (mm) Remarks
1 Donnellan2) 2011 Total hysterectomy 30 days Strangulation (volvulus) 40
2 Thubert3) 2011 Hysterectomy 1 month Strangulation (volvulus)
3 Buchs4) 2012 Promontofixation, hernia repair, and pelvic floor repair 8 days Strangulation (entanglement and internal hernia) 40
4 Kindinger5) 2012 Hysterectomy 4 weeks Adhesion
5 Filser6) 2015 Hernia repair 3 days Strangulation (entanglement and volvulus)
6 Köhler7) 2015 Hernia repair 13 days Adhesion
7 Lee8) 2015 Myomectomy 6 weeks Adhesion
8 Segura-Sampedro9) 2015 Posterior fixation rectopexy 10 days Strangulation (volvulus) + <5 double-barrelled jejuno-ileostomy
9 Segura-Sampedro9) 2015 Jejunostomy 2 days Strangulation (volvulus)
10 Vahanian10) 2015 Hysterectomy and salpingo-oophorectomy 22 days Adhesion
11 Vahanian10) 2015 Hysterectomy 4 weeks Adhesion
12 Kurogochi11) 2015 Hernia repair 4 days Adhesion 3
13 Kobayashi12) 2016 Hernia repair 4 days Strangulation (volvulus)
14 Chen13) 2017 Hysterosacropexy 2 days Strangulation (volvulus) 10
15 Jang14) 2017 Total distal gastrectomy 4 days Strangulation (internal hernia)
16 Kawamura1) 2017 Total hysterectomy 12 days Strangulation (volvulus) 20
17 Tagliaferri15) 2018 Hernia repair 1 day Strangulation (entanglement and volvulus)
18 Sartori16) 2019 Hernia repair 3 days Adhesion
19 Zipple17) 2020 Hernia repair 1 day Adhesion
20 Stabile18) 2021 Myomectomy 7 weeks Obstruction (entanglement)
21 Stabile18) 2021 Correction of vault prolapse 4 weeks Obstruction (entanglement)
22 Zheng19) 2021 Hernia repair 2 days Strangulation (entanglement and volvulus) 20
23 Our case Hernia repair 8 days Obstruction (compression) 6

腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術後の有棘縫合糸に起因する腸閉塞の予防策として,①腹腔内に余剰端を露出させないように腹膜閉鎖時の最終運針を逆方向に最低2針追加し,断端を完全に埋没させること,②有棘縫合糸で縫合閉鎖した後,非有棘縫合糸で第二の腹膜閉鎖を行い被覆すること,③気腹圧の低下時に有棘縫合糸が緩み腹腔内へ露出することがあるため,閉腹時に徐々に気腹圧を下げて確認すること,などが挙げられる1)12).また,有棘縫合糸断端を腹膜の裏に隠し,かつ腹膜を翻転させながら縫合していくことで糸の露出を最小限に抑える工夫もこれまで報告されている20).その他,術後の一般的な癒着性腸閉塞の防止策も兼ねて,腹膜閉鎖部に癒着防止剤を貼付することも予防策として考えられる.ただし,癒着防止剤が28日程度で吸収されるのに対し,有棘縫合糸は90~180日程度で吸収されるため時間差が生じてしまうこと,また,癒着防止剤を貼付したにもかかわらず子宮摘出術後4週間で有棘縫合糸に起因する癒着性腸閉塞を発症した報告例5)もあるため,癒着防止剤単独で本合併症を完全に防ぐことはできないと考えられる.自験例においては,初回手術時に1針のみ逆方向へ運針していたが追加で1~2針は施行すべきであったこと,気腹圧を緩徐に下げなかったため腹膜閉鎖部の観察を閉腹時に十分に観察できていなかったこと,が反省点であった.そして,自験例のように6 mm程度の余剰端露出でも近傍の腸間膜内への迷入や癒着を来す可能性があり,“有棘縫合糸を可能なかぎり腹腔内に露出させないように意識付けること”が,術者の技量によらず自験例のような腸閉塞を予防する最適な方法であると考える.

利益相反:なし

文献
 

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