2022 Volume 55 Issue 4 Pages 290-296
症例は79歳の男性で,10年前に直腸癌に対して開腹低位前方切除術を施行されていた.今回は血便があり当院を受診した.腹部造影CTで骨盤内に動静脈奇形(arteriovenous malformation;以下,AVMと略記)を認めた.下部消化管内視鏡検査では吻合部よりoozingを認めた.出血は鎮静化したため経過観察をしたが再度出血したため,血管内治療(interventional radiology;以下,IVRと略記)を施行した.右総腸骨動脈より造影を行うと内腸骨動脈領域にAVMを認め,主な流入血管を塞栓した.処置後,下血は改善したため退院したが,翌日に再度下血あり再入院した.経肛門的に縫合し止血が得られた.AVMの根治治療目的にIVR専門施設へ転院した.複数認めた流入動脈,流出静脈をそれぞれ塞栓することで止血が得られた.術後2年経過しているが再発は認めていない.
A 79-year-old man visited our hospital due to melena. He had undergone low anterior resection for rectal cancer ten years ago. Abdominal contrast-enhanced CT revealed arteriovenous malformation (AVM) in the pelvis. Colonoscopy showed bleeding at the previous anastomotic site. Interventional radiology (IVR) was performed for treatment. Angiography of the right common iliac artery revealed AVM of the internal iliac artery region. Embolization of the main feeding artery was performed. After the procedure, melena stopped and the patient was discharged, but was then readmitted due to re-bleeding on the next day. Transanal suture of the bleeding site was performed. Based on a tentative conclusion that the bleeding had stopped, the patient was transferred to an IVR specialty facility for curative treatment of AVM. Hemostasis was obtained by embolizing multiple inflow arteries and outflow veins. There has been no recurrence for two years after treatment.
動静脈奇形(arteriovenous malformation;以下,AVMと略記)とは胎生期における脈管の形成異常である.毛細血管を介さない動脈と静脈の異常な吻合の集簇(nidus)を特徴としている.成因は先天的と考えられ,ホルモンの変化,外傷により増悪するといわれているが,確定的なものはない.治療は発生部位により手術,血管内治療(interventional radiology;以下,IVRと略記)などが選択されることが多い1).今回,直腸癌術後に発症しIVRが奏効した症例を経験したので報告する.
患者:79歳,男性
既往歴:10年前に直腸癌に対して開腹低位前方切除術(病理学的所見:TisN0M0,Stage 0,ly0,v0,高分化型管状腺癌.術後縫合不全あり.約40日間の保存的治療にて改善した.),高血圧,脳梗塞
現病歴:複数回の血便を主訴に近位より紹介受診となった.
入院時現症:血圧137/104 mmHg.脈拍98回/分.腹部は平坦で軟であった.直腸診にて血便の付着を認めた.
血液検査所見:Hb 13.7 g/dlと貧血は認めず,凝固系の延長も認めなかった.
腹部造影CT所見:5年前には認めなかった吻合部右側に高吸収域の腫瘤影を認め,早期濃染される拡張した静脈との交通があり骨盤内AVMと診断した(Fig. 1).

A high density area (arrowheads) on the right side of the anastomosis, which was not seen 5 years earlier.
下部消化管内視鏡検査所見:吻合部よりoozingを認めた.クリップによる止血は吻合部の組織が固く脱落したため施行できなかった.観察中に出血は落ち着いたため処置は行わず終了した(Fig. 2).

Oozing from the anastomosis.
入院後経過:絶食,抗血小板薬を中止し入院して経過観察した.排便刺激で出血を繰り返し,ガーゼでの圧迫止血を試みるも,出血コントロールは困難と判断しIVRを施行した.右総腸骨動脈より造影を行うと複数の流入血管を伴うAVMが認められた(Fig. 3).下臀動脈が主な流入血管であり,主分枝をマイクロスフィアで塞栓した.再度造影すると,AVMは完全には消失していなかったが,流入血流量は低下したため,出血コントロールとしては十分であると判断し手技を終了した.術後9日目まで下血なく経過し退院した.退院翌日に大量の下血があり再入院となり,緊急手術を施行した.全身麻酔下に経肛門的に出血点を確認,縫合し止血は得られた.その後の再出血のリスクを考慮して高度IVR専門施設に転院となった.

AVM with multiple inflow vessels was observed by imaging from the right common iliac artery (arrowheads).
転院先でのIVR所見:下殿動脈領域より分枝3本(Fig. 4a),閉鎖動脈領域より分枝1本(Fig. 4b)に対してそれぞれn-butyl-2-cyanoacrylateを用いて塞栓した.その後,左大腿静脈より穿刺を行い,流出静脈をコイル塞栓しバルーン閉塞下逆行性静脈瘤塞栓術を施行した(Fig. 4c).AVMの消失を確認してIVRを終了した(Fig. 4d).

(a) Three branches of the inferior gluteal artery area were embolized using n-butyl-2-cyanoacrylate (NBCA). (b) One branch of the closed artery area was embolized using NBCA. (c) Coil embolization of the outflow vein, followed by balloon-occluded retrograde transvenous obliteration (BRTO). (d) AVM disappeared after treatment.
術後経過:術後問題なく経過し抗血小板薬を再開し退院した.約2年経過したが再発は認めていない.
2017年に改訂された血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン第2版では,ある程度の太さの流入動脈と流出静脈に直接短絡する場合は,arteriovenous fistula(以下,AVFと略記)とも表現され,先天性AVMと後天性AVFの区別に明確な定義はないとされている.実際に外傷や手術が原因で二次的に発生する後天的AVFも存在するが,経過が長い場合は先天性のAVMと区別が困難なこともある2).小川ら3)や佐藤ら4)は血管形態異常の厳密な定義や分類が確立されておらず,報告者によりAVF,AVM,angiodysplasia,arterioportal fistulaなどの名称が混同していると指摘している.臨床的見地に重きをおいたMooreら5)の分類が知られているが,岩下ら6)はこれらに病理組織学的な見地を加えた分類を報告している.治療法により病理学的究明に至らない症例も多く,正確な分類は困難と判断される.前述のとおり実際には動静脈瘻と動静脈奇形は形態上,区別することは困難である.報告例では全ての症例で「動静脈奇形」と表現されているため,自験例においても「動静脈奇形」という表現を用いることにした.
消化管AVMは,急性あるいは慢性の肛門出血に対して下部消化管内視鏡検査を施行された1.4~3.0%に認められるとされている7)8).本邦で報告された消化管AVM 133例の内,20.4%が回盲部,18.5%が空腸,16.7%上行結腸,13.6%が回腸に発生すると報告されており,上腸間膜動静脈領域に多く認められている.直腸での発生は7.4%であり,比較的まれである9).また,門脈循環におけるAVMの成因として医原性に生じる場合が約60%を占め,先天性に生じるものは約25%,そのほか特発性や外傷による影響とされている10).
「医原性,動静脈瘻」,「医原性,動静脈奇形」をキーワードに1964年から2019年4月までで医学中央雑誌にて検索すると,腹腔内術後のAVM発症例として9例の報告例があった(Table 1)11)~19).自験例を含めた腹腔内の術後に発生したAVM症例について文献的考察を含めて検討した.年齢の中央値は56歳(25歳~79歳)で,男性9例,女性1例と男性に多い傾向を認めた.他疾患のスクリーニングにて診断された症例が2例,拍動性腫瘤を自覚した症例が2例あり,その他の症例では消化器症状を伴うことが多く認められた.全例で手術操作の及んだと考えられる部位にAVMの発生を認め,胃切除術後で大網領域,右胃大網動脈領域にそれぞれ1例,小腸切除術後,回盲部切除術後で上腸間膜動脈領域に6例,S状結腸切除術後に下腸間膜静脈領域に1例,直腸切除術後に内腸骨動静脈領域に1例であった.術後の症例でも前述の本邦報告例と同様に,上腸間膜動静脈領域に多く認められた.悪性腫瘍術後の症例は自験例を含めて2例であり,縫合不全の治療歴があるものは自験例のみであった.手術から診断までの期間の中央値は7年(26日~26年)であり,年単位の経過で発症するものを多く認めた.Rossiら20)は医原性動静脈瘻の成因として,術中動静脈の直接損傷,動静脈の刺通結紮,動静脈の集簇結紮,仮性動脈瘤を伴う血管壁の感染を挙げている.動静脈瘻内部に結紮糸を認めた報告例もある15).本邦報告例の全てが,動静脈の集簇結紮による影響の可能性があると判断されている.
| No | Author | Year | Age/Sex | Initial symptoms | Site | Previous surgery/Diagnosis | Postoperative period |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Tomita11) | 1983 | 48/M | pulsating mass | omental | Distal gastorectomy/Duodenal ulcer | 8 years |
| 2 | Shindo12) | 1990 | 31/M | headache, hypertension | right gastroepiploic artery | Distal gastorectomy/Duodenal ulcer | 6 years |
| 3 | Watanabe13) | 1992 | 75/M | pulsating mass | jejunal artery | Small intestinal resection/Adhesive small bowel obstrction | 7 years |
| 4 | Kato14) | 1993 | 63/M | hematemesis | ileal artery | Small intestinal resection/Intestinal tuberculosis | 26 years |
| 5 | Haji15) | 1999 | 39/M | abdominal pain, diarrhea | superior mesentic artery | Small intestinal resection/Strangulating obstruction | 26 days |
| 6 | Iwasaki16) | 2005 | 74/M | none | inferior mesentic vein | Sigmoidectomy/Sigmoid colon cancer | 15 years |
| 7 | Kodama17) | 2006 | 25/M | none | ilecolic artery | Ileocecal resection/Appendicitis | 12 years |
| 8 | Shintani18) | 2011 | 37/M | abdominal pain, diarrhea | superior mesentic artery | Ileocecal resection/Crohn’s disease | 7 years |
| 9 | Yuji19) | 2014 | 64/F | diarrhea | superior mesentic artery | Ileocecal resection/Invagination | 18 years |
| 10 | Our case | 79/M | hemorrhage | iliac artery and vein | Rectal resection/Rectal cancer | 10 years |
AVMの治療法はさまざまな報告があり,手術やIVRでの治療例が多いが,内視鏡的止血術での報告や症状が自然に軽快して経過観察となった報告例もある.平田ら21)は血管造影で描出できないような小さい病変であれば内視鏡的止血術は第一選択に考慮されると報告している.また,Ushigomeら10)は術中に血管造影を行い,AVMの範囲を診断し腹腔鏡下での切除を行ったと報告しており,病変の大きさも治療選択の重要な因子となると考えられた.林ら22)や,Calligaroら23)の報告では,無症状の症例は定期的な経過観察として,有症状の症例や増大傾向のものは積極的な治療を要すると報告している.再発報告例もあり,安居ら24)は供血動脈の1本の遮断のみでは,他の流入動脈からnidusへの血流が再開するため再発を来すと報告している.IVRにおけるnidusの適切な処理には流入動脈と流出静脈の塞栓が必要と考えられる.タイプII AVMにおいて,流出静脈は複数の流入動脈の影響で流速が高くなり,塞栓術が困難な状況となっている.先に複数の流入動脈を塞栓し流出静脈の流速を抑え,流出静脈に適切な塞栓術が施行されることが根治性の向上に繋がると考えられた.
自験例においてAVMが発生した原因としては,初回の直腸癌手術の切除標本で先天性AVMを疑う病変が存在しないことや,術後のフォローCTにてAVMを疑うような異常所見を認めないことから直腸癌手術時の集簇結紮などの手術操作の影響で後天性にAVFが生じた可能性が高いと考えた.今回検索しえた範囲内では縫合不全と関連した報告例は認めなかったが,縫合不全が生じた際に手術部位の血管壁に感染がおよび,AVMが生じやすくなった可能性はあると考えられる.また,治療としては,直腸癌術後かつ縫合不全治療後であり骨盤内の癒着が懸念されたためIVR治療を選択した.初回治療におけるnidusの処理が不十分であったため再発を来したが,その後の追加治療により適切な処理が施行され根治性が得ることができた.
消化管手術後の吻合部出血において,再燃を繰り返す場合にはAVMによる出血を鑑別に挙げる必要がある.また,術後の影響などを考慮し最適な治療を選択することが必要である.
利益相反:なし