日本衛生学雑誌
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マウス卵子染色体に対するカドミウムの突然変異誘発性
渡辺 敏明島田 隆道遠藤 晃
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1977 年 32 巻 3 号 p. 472-481

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抄録
近年,カドミウムに催奇性および発癌性のあることが明らかになりつつある。そこで,カドミウムの突然変異誘発性の有無を検討するため,マウスの卵子染色体に及ぼす影響を細胞遺伝学的に観察することを試みた。
排卵を促進,同調させるため成熟雌マウスにPMS 5単位を腹腔内投与し,その48時間後にHCG 5単位を同様に投与した。HCG投与3時間後の第1減数分裂中期に塩化カドミウム3.0mgあるいは6.0mg/kg b. wt.を1回皮下投与した。カドミウム投与12時間後に,卵管から第2減数分裂中期にあたる未受精卵を回収し,空気乾燥法により染色体標本を作製した。
観察された卵子の染色体異常は,低数性,(n-1)高数性(n+1)および倍数性(2n)異常などであった。これらの数的異常の卵子を持つ母獣はカドミウムの投与量に依存して増加する傾向が認められた。特に6.0mg投与群では卵子単位で対照群と比較すると,その異常の出現頻度は有意に高かった。数的異常の他に,第1減数分裂中期で分裂停止の状態の卵子が2ヶ投与群で検出された。しかし,この実験においては染色体の構造異常は観察されなかった。なお,カドミウムの毒性効果として,投与群で卵巣に顕著な出血巣を持つ母獣が多数認められた。卵巣へのカドミウム蓄積量は投与12時間後,3.0mg, 6.0mg投与群でそれぞれ2.5μg, 5.0μg/gであった。
これらの実験結果は,カドミウムがマウスの卵子染色体に突然変異誘発性を有することを示唆している。環境汚染物質の生体への影響を評価する際には,突然変異誘発性や催奇性などの生殖生理機構に及ぼす作用についても十分留意すべきであると思われる。
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