日本衛生学雑誌
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母ラットから仔ラットへ母乳を介しての鉛移行と成熟ラットと未熟ラット間の体内における鉛移行の差異について
重田 定義相川 浩幸三沢 哲夫近藤 敦子
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1978 年 32 巻 6 号 p. 747-752

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抄録

ウィスター系の妊娠ラットを購入し,出産後母親とその腹仔を5群に分け,うち4群にはそれぞれ2, 5, 10, 20mg/mlの酢酸鉛水溶液を,他の1群は対照として20mg/mlの酢酸ナトリウム水溶液を母ラットに飲水として自由摂取せしめた。摂取された鉛の母乳への移行態度は,鉛摂取後1日目,3日目,6日目に2mg/ml, 5mg/ml鉛摂取群の仔ラットを屠殺し胃内母乳中の鉛を分析することによって観察した。また,母から仔へ母乳を介しての鉛の移行状態,および母と仔の間における腸管からの鉛吸収の差や鉛の血液-脳移行の差の検討は,鉛摂取後12日目に母ラットと仔ラットを屠殺し,血液,脳および胃内母乳中の鉛を分析することによっておこなった。鉛の分析は,湿式灰化後,脳と血液はDDTC-MIBK,母乳はAPDC-MIBKで抽出し,原子吸光法によっておこなった。
結果:(1) 鉛は母ラットから仔ラットに母乳を介して移行し,母乳中鉛濃度のレベルは摂取後24時間以内に平衡状態となる。また,母乳中の鉛濃度は,母ラットの飲水中鉛濃度に伴う増加を示したが,その濃度は飲水中濃度の0.2∼0.3%であった。(2) 母ラットと仔ラットの血中鉛濃度は,(1)で述べたごとく,両者の摂取鉛濃度に大きな差があるにもかかわらず,ほぼ同レベルであった。これは,未熟ラットの鉛吸収が成熟ラットよりもいちぢるしく高いことを示すものであり,その理由として,母乳中の鉛が吸収性の良好な形で存在していること,鉛にたいする仔ラットの腸管の透過性が高いことなどが考えられる。(3) 母ラットの脳中鉛濃度は,仔のそれと同程度もしくはそれ以上のレベルを示した。従来,未熟ラットの鉛による脳障害の発生原因を,血液-脳関門の未完成にもとずく脳内への鉛侵入に帰していたが,本実験の結果はむしろ鉛が脳の発育期に脳内へ侵入するか否かに起因することを示唆している。

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