日本衛生学雑誌
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塩化コバルトがウサギ赤血球膜の燐脂質の脂肪酸構成におよぼす影響について
久野 由基一森田 博行小池 重夫
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1981 年 35 巻 6 号 p. 831-840

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抄録

塩化コバルト25mg/kgを1日1回3日間にわたってウサギに注射すると, 赤血球の過酸化脂質をあらわすマロンアルデヒド (MDA) 濃度は約2倍に, 血漿トリグリセライド濃度は約7倍に増えた。
MDAが増えると赤血球膜の抵抗が低下して溶血しやすくなるのではないかと溶血度を調べた。浸透圧抵抗検査 (パルパート法), 2%H2O2を用いる溶血試験 (PHT法), 赤血球膜のSH基の阻害剤であるパラクロルマーキュロ安息香酸による溶血度で調べたが, いずれの試験法でも, コバルトが溶血を促進することは立証されなかった。
血漿中のα-トコフェロール (Vit. E) 濃度はコバルト注射による脂血症, とりわけトリグリセライド濃度の上昇に伴って, 2倍以上に増えた。Vit. Eは遊離基のスカヴェンジャであり, 抗酸化剤であるが, α-トコフェロールの増量にも拘らず赤血球のMDA濃度はかえって増量した。
対照ウサギの赤血球をH2O2を添加した液, あるいは添加しない液に, それぞれインキュベートして膜の燐脂質の脂肪酸構成をガスクロマトグラフで分析した。その結果, 飽和脂肪酸, 不飽和脂肪酸の構成割合はいずれもH2O2の添加の有無に拘らず, 相異を示さなかった。これに対して, コバルト注射ウサギの赤血球を, H2O2を添加した液にインキュベートすると, 膜の総燐脂質とホスファチジールエタノールアミンの分画の多価不飽和脂肪酸であるアラキドン酸やリノール酸の百分率が, H2O2を添加しない液にインキュベートした対照に比べて有意に減少し, 飽和脂肪酸のパルミチン酸やステアリン酸の百分率は増加していた。
すなわち, コバルトにより赤血球膜で過酸化脂質が増加するに伴い, 膜の燐脂質の多価不飽和脂肪酸の割合が減少することが証明された。

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