日本衛生学雑誌
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状態-特性不安尺度(STAI)の検討およびその騒音ストレスへの応用に関する研究
岩本 美江子百々 栄徳米田 純子石居 房子後藤 博上田 洋一森江 堯子
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1989 年 43 巻 6 号 p. 1116-1123

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抄録

これまで著者らは生体に対する騒音ストレス作因の生理的影響に関する研究を行うなかで,生理的のみならず心理的な影響をも把握することの必要性を感じた。物理的ストレスが心理的,情動的ストレスとなって不安を生ずる事は,Aiken1)の不安とストレスは[異体同形]であるとの提言からも考えられることである。従来不安の問題は,Kierkegaard2)に代表されるように,主として哲学ことに宗教と倫理学の課題であった。それを心理学の領域で,はじめて病態心理との関連において概念づけたのは精神分析学を樹立したFreud3)であり,彼は神経症的状態の治療においても不安を中心的な問題として重視した。
一般に用いられるようになった最初の不安検査は,Taylor4)によって開発され公表された顕在性不安尺度(Manifest Anxiety Scale: MAS)である。その後一連の不安研究の後,Cattell and Scheier5)やLazarusら6)は不安をその特質から一過性にみられる気分としての不安状態と不安への陥りやすさとして捕えられる性格傾向としての不安特性の二つに分けることを提案した。この二つの不安についてSpielberger7)が明確に定義づけをした。すなわち不安には,ある状況下で大きく変動するような状態としての不安(state-anxiety以下A-Stateと略記)と,ある個人において比較的一定していると言われる性格特性としての不安(trait-anxiety以下A-Traitと略記)の二つがある。さらにSpielberger, Gorsuch and Lushene8)は諸種の不安尺度を検討して,既存のどの尺度も状態としての不安と性格としての不安を区別せずに測定しており,不安に関するこれまでの全ての質問票テストはA-Traitを測定していると指摘し,最終的にこのA-StateとA-Traitを測定する尺度として1970年に状態-特性不安尺度State-Trait Anxiety Inventory(略してSTAIと呼ばれる)を発表した。
本研究の目的は,若年者および高齢者,また各種状態におけるSTAIの検査結果から,この尺度の妥当性,信頼性を検討することである。さらに衛生学分野において,環境の変化特に騒音が人に対して精神的ストレス因子となって負荷したときのSTAIの応用の良否を検討することをも目的とするものである。

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