日本衛生学雑誌
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長期トレーニングが中高年肥満傾向者の体格,循環機能及び血清脂質に及ぼす影響
鈴木 石松永谷 照男町田 望陳 全寿伊藤 朗
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1996 年 50 巻 6 号 p. 1047-1056

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抄録

健康の維持や体力の向上を目的としてスポーツクラブに加入した肥満傾向の中高年者(男8名,女8名)を対象に,20ヵ月間の規則的な身体トレーニングが体格,循環機能及び血清脂質にどのような効果を与えるかを観察した。一回の運動プログラムは90分間で,その内容は15分間のwarming-up, 20分間の持久性運動,20分間の筋力運動,20分間の持久性運動,最後の15分間は整理運動であった。運動頻度は,男性では平均2.1回/週,女性では平均2.2回/週であった。運動トレーニング効果の評価には体格は,体重,体脂肪量,LBMを,身体作業能力はPWC150値を,循環機能は,安静時のHR,血圧,RPP及び心拍数150bpmでの運動時SBPを指標としてトレーニング前値を含め,計6回測定した。また血清脂質は前値を含め計3回測定した。
結果は以下のとおりであった。
(1) 体格では,トレーニングに伴い男女とも体重と体脂肪量が減少傾向を示し,ことに男女とも体脂肪量の減少率が体重の減少率を上回った。男性の体重減少は肥満者が多かったため,運動による体脂肪の減少が起こりやすかったと考えられる。一方,女性では体脂肪の減少とLBMの増加による相殺と,肥満者が少なかったため,男性に比し運動による減量効果が少なかったと考えられる。
(2) 安静時のHR, SBP, DBP及びRPPはトレーニングに伴い減少傾向を示した。男女によってその減少反応パターンはやや異なり,男性ではトレーニング初期に急性減少効果が見られ,女性では徐々に減少し,ことにトレーニングの後半に顕著な減少が見られた。
(3) 男女ともPWC150値はトレーニングに伴い有意な増加を示したが,女性の増加率が男性のそれを上回った。またHR 150bpmでの運動時SBPは,男女とも顕著な減少を示した。これらの効果は結果(2)と同様に男性では急性効果が,女性ではトレーニング後半での効果が主に見られた。
(4) トレーニングに伴い男女の血清HDL-chol, HDL-chol/T-chol ratioは,運動トレーニング前より有意な増加を示し,血清TGとT-cholは,トレーニングに伴い顕著な減少を示した。
以上の結果より,長期間の習慣運動は,中高年肥満者に体格,循環機能,血清脂質の改善をもたらし,循環器系成人病の予防に有用と考えられる。

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