抄録
多形腺腫由来癌は多形腺腫から生じる悪性の上皮性腫瘍である。多形腺腫は導管上皮細胞と筋上皮細胞の増殖からなる腫瘍であるため,多形腺腫由来癌は導管上皮系あるいは筋上皮系での分化を示す。そのため,導管上皮系と筋上皮系の双方からの分化を示す多形腺腫由来上皮筋上皮癌は極めて稀である。耳下腺多形腺腫切除後に発生した多形腺腫由来上皮筋上皮癌症例を経験したので報告する。症例は55歳男性で,右耳下腺多形腺腫に対して二度の切除術が行われていた。経過観察中にMRI検査で再発を疑う所見があり,急速に増大したため右耳下腺腫瘍拡大切除再建術を行った。術後の病理組織診断は上皮筋上皮癌であり,切除断端陽性のため術後放射線療法を行った。上皮筋上皮癌は特徴的な病理構造を示すが,術前に穿刺吸引細胞診で診断が確定できる症例は少ない。多形腺腫の経過観察中に悪性転化を疑う臨床所見があれば,速やかに外科的治療を計画すべきである。