抄録
51歳女性の内頸静脈内に生じた孤立性線維性腫瘍症例の約9年間の長期経過を報告する。初診時主訴は右耳閉感と右頸部腫脹であった。鎖骨上から頸静脈孔,頭蓋底に至る腫瘤は内頸静脈内腫瘍であり,当初は類上皮血管内皮腫と診断された。S-1内服で内頸静脈病変は消失したが,頭蓋底病変は徐々に増大し,第Ⅶ〜Ⅻ脳神経麻痺が出現した。放射線治療を施行したところ,頭蓋内腫瘍は年々縮小している。また喉頭麻痺に対しては披裂軟骨内転術,神経筋弁移植術を施行した。その後,生検組織の病理組織学的再検討により,孤立性線維性腫瘍の診断に至った。血管内発生の孤立性線維性腫瘍症例は極めてまれである。悪性軟部腫瘍に対する化学療法や放射線療法の有効性は確立されていないが,本症例ではS-1療法と放射線治療が奏功した。