抄録
上咽頭癌は頭蓋底に進展して脳神経障害を生じうるが,頭蓋底の解剖は複雑なため進展経路の診断は容易でない。今回われわれは症状初発から1ヶ月間で9つの脳神経障害を生じた稀な上咽頭癌の1例を経験し,進展経路について検討した。症例は21歳男性で,3日前からの嗄声・嚥下障害を主訴として受診した。診察にて上咽頭と両側頸部リンパ節の腫脹を認め,精査にて上咽頭癌(右後上壁型,cT4N2M0,stage ⅣA)の診断となった。初診から29日後の化学放射線療法開始までにⅠ,Ⅱ,Ⅶ以外の全脳神経障害を認めた。MRIからは右破裂孔が脳神経への腫瘍進展の拠点となり,Ⅸ-Ⅻ障害は椎前間隙を経た頸静脈孔・舌下神経管への尾側進展,Ⅲ-Ⅵ障害は頸動脈管を経た海綿静脈洞への頭側進展,Ⅷ障害は腫瘍進展部で生じた硬膜炎の内耳道波及により発症したと推測された。MRIは進展経路の詳細な評価に有用であった。