魚類学雑誌
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仔魚の消化系の構造と機能に関する研究-IV.
摂餌にともなう腸前部および中部上皮層の変化と脂肪の吸収
田中 克
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1972 年 19 巻 1 号 p. 15-25

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抄録

天然で採集した5種の後期仔魚と人工飼育した19種の後期仔魚について摂餌にともなう腸前部および中部の上皮層の変化を比較検討し, 組織学的に脂肪の吸収を追究した, 常法により作製したパラフィン切片では摂餌開始後3~4日以上経過した後期仔魚の腸前部および中部の上皮に多数の空胞が出現する.これらの空胞の内部は四酸化オスミウム溶液で固定した標本やズダン黒Bで染色した氷結切片では黒染する.腸上皮細胞内に出現する空胞は仔魚が摂餌した動物性プランクトンより吸収された脂肪粒子が切片作製過程で有機溶媒に溶出した結果生じたものである。成長状態がよく活発に摂餌している個体では腸中部上皮層のほぼ全域が最大径10μに達する脂肪粒子で充満する.
脂肪の吸収部位は魚種によって多少変異するが大多数のものでは輸胆管開口部から腸中部全域にわたり, 一部の例外を除き腸後部には吸収能は認められない.後期仔魚は飼育条件下で餌料プランクトンの種類にかかわりなく脂肪を吸収する.天然状態においても後期仔魚は飼育条件下と同様に餌料生物から脂肪を吸収している.
仔魚後期において腸上皮層は脂肪の吸収とともに一時的な貯蔵部位として重要な役割を果たしている.腸中部全域の上皮層が脂肪粒子で充満する現象は稚魚への移行とともに認められなくなる.脂肪は仔魚前期から仔魚後期への移行期において索餌活動を保障する運動のエネルギー源として各個体の生残を左右する重要な栄養素である.
幼生プランクトンは運動性が低く仔魚が捕食するのに好適であるばかりでなく, 脂肪含量が高いため栄養的にも仔魚後期初期の餌として好適である.

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