抄録
新潟県信濃川大河津分水路を産卵期が近ずいたため溯河中のカワヤツメLampetra (=Entosphenus) japonica (MARTENS) の脳下垂体の外形並びに組織構造を観察し, 次のような結果をえた。
1.カワヤツメを含むヤツメ類の脳下垂体の構成要素は, 他の脊椎動物同様に腺性の3部と神経性部との4つからなるが, これらに次のような名称を適用する。 (1) 前腺性下垂体, (2) 中腺性下垂体, (3) 後腺性下垂体, (4) 神経性下垂体。
腺性下垂体の3部は, 互いに結締組織の隔壁によって区切られているが, 後腺性下垂体と神経性下垂体の間には, 毛細管があるに過ぎない。
2.前腺性下垂体は, 主として青色好性細胞群と酸好性細胞群の垂直状配列からなる。これは従来前葉もしくは端葉の髄層と呼ばれていた部分で, 高等動物の前葉の主葉に相当するらしい。
3.中腺性下垂体は, 主として酸好性細胞の垂直状配列からなり, 従来移行葉とか端葉の皮層部とされていた部分で, (その1部は) 高等動物前葉の隆起葉に相当するらしい。
4.後腺性下垂体は, 主として高い柱状の酸好性細胞の索状配列からなり, 神経性下垂体と接するただ一つの腺状部である。ここは今まで中葉とか漏斗葉と呼ばれており, 高等動物の中間葉に相当するらしい。
5.神経性下垂体は, 単に漏斗陥凹底の腹壁の肥厚した部分にすぎず, 背方の脳室上衣性の細胞と腹方の神経膠質性の部分とからなる。