抄録
近年, 日常診療や健康診断において自動解析機能付き標準12誘導心電計は広く普及し, 多くの病院で使われている. 当院のような総合病院にはさまざまな医科疾患を有する歯科患者が来院し, その割合は歯学部付属病院などと比較すると高いものと推察される. 当科は口腔外科主体の処置が大半を占めるために観血処置の割合が比較的高い. 特に循環器疾患を有する患者においては偶発症を引き起こす可能性が考えられる. そこで, 今回, 平成17年10月から平成19年9月までの間に, 局所麻酔下での処置を必要とした歯科患者のうち, 循環器疾患の加療中または循環器疾患が疑われた55例 (男性28例, 女性27例, 平均年齢63.4歳) に対して術前検査で自動解析機能付き心電計CARDIO-PRO FCP-4266 (フクダ電子 (社) 製) により標準12誘導心電図検査を行い, その有用性について検討した. 問診により基礎疾患がみられたのは47例, 延べ基礎疾患数は49疾患で, 内訳は高血圧症28例 (49%), 狭心症3例 (5%), 心筋梗塞3例 (5%), 不整脈2例 (4%), 弁膜症2例 (4%), その他11例 (19%), 特記事項なし8例 (14%) であった. 心電図異常が認められたのは31名 (56.4%) で, 重複例を含めた77例の内訳は, 下壁梗塞7例 (9%), 下壁梗塞の可能性4例 (5%), 心房細動4例 (5%), 完全右脚ブロック4例 (5%), 軽度ST-T異常4例 (5%), ST-T異常4例 (5%), 反時計回転4例 (5%), 陰性T波3例 (4%), 平坦T波3例 (4%), その他16例 (21%), 正常範囲内が24例 (32%) であった. 問診時には循環器疾患に関する特記事項がないのにも関わらず心電図異常所見を認めた4例 (7.3%) は, 循環器専門医に対診し, そのうち内科治療を要したのは1例 (1.8%) であった. 自動解析機能付き心電計の解析精度は非常に高く術前検査として利用するだけではなく有病者をスクリーニングしうる点を併せて, 歯科治療時のリスクの把握において, 有用性が高いと思われた.