有病者歯科医療
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精神神経疾患患者の義歯取扱い能力に関する臨床的検討
中村 広一
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1995 年 4 巻 1 号 p. 1-6

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抄録

本論文においては, 61例の精神疾患と神経疾患患者からなる患者群, および17例の健常者からなる健常群という二つの群を対象として, 上下床義歯の装着所要時間の計測という方法で義歯の取扱い能力を評価した。患者群では脳血管障害1例を除く全例が調査時点ですでに床義歯の装用経験者であった。各群はさらに2つの群に下位分類された: 1群は上下に全部床義歯を装用中のもの, 2群は部分床義歯と部分床ないし全部床義歯を装用中のもの(表1)。患者群の疾患には, 精神分裂病(21例), パーキンソン病(9例), 脳血管障害(8例), アルコール依存症(7例), 気分障害(7例)およびその他が含まれた(表2)。
結果は以下のごとくであった(図1)。
1. 健常群の対象は3秒から11秒の間に義歯の装着を行い, その所要時間の平均は6.9±2.0秒であった。これに対して患者群の対象は, 3秒から356秒を超えるまでの広い範囲の散らばりを呈した。
2.疾患が義歯取扱い能力に及ぼす影響を評価する目的で, 1, 2群の各々について装着所要時間を健常群と患者群との問で比較した。1群においては,患者群の平均所要時間は16.7±15.6秒と, 健常群の平均7.0±1.0秒に対して長かった。その差は有意(P<0.05)ではなかった。2群においては, 患者群の平均は, 23.7±17.9秒と健常群の6.9±2.4秒に対して有意(P<0.05)に長かった。
3. 床義歯の形態が所要時間に及ぼす影響を明らかにするために, 健常群と患者群の各々について装着所要時間を1, 2群間で比較した。健常群においては, 両群間に差がなかった。患者群においては, 2群の平均所要時間が23.7±17.9秒と1群の16.7±15.6秒よりも長かったが, その差は有意(P<0.05)ではなかった。
4. 義歯の装着所要時間が60秒を超えた5例の疾患には, パーキンソン病, 脳血管障害, 筋ジストロフィー, アルコール依存症, および精神分裂病の各1例が含まれた。これらの症例は義歯装着という行為を成し遂げるに必須のさまざまな要因を示唆した。

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