抄録
カオス (決定論的カオス) とは何かについては、専門家の間でも必ずしも統一された見解があるわけではない。
通俗的には、カオス的な系は「決定論的な関係式によって記述される運動であるにも拘わらず、一見不規則に見える複雑な非周期的運動を行う力学系」であり、「初期値の僅かな違いが、長時間後の系の挙動に大きな差異をもたらす」とされている。しかし、実験データから、対象系がカオス的であるかどうかを判定しなければならない場合、カオスに関する上記の説明はあまり役立たない。本稿では、カオスとそれに関連する諸概念を、数学的に厳密な観点からではなく、実験を通じてカオスと接する工学者の立場から解説する。