抄録
2004年1月より2006年7月までに当診療所で経験したTrichophyton tonsurans (T. tonsurans) 感染症57例の臨床的検討を行った. 高校生31名 (男26, 女5) , 中学生19名 (男のみ) , 小学生2名 (男1, 女1) , 園児1名 (男のみ) , 監督・指導者 (25-36歳) 4名 (男のみ) , 男:女=51:6であり, 男性柔道競技者に多くみられた. 臨床型は, 頭部白癬13名{black dot ringworm (BDR) 10名, シラクモ型1名, 炎症型2名}, 体部白癬41名, 手白癬1名, 保菌者7名 (保菌者は頭部およびその他の部位にも白癬の皮疹を認めずhair-brush (HB) 法のみ陽性であるが, 感染源として重要であるため臨床型に加えた) , また頭部白癬と体部白癬の合併例は5名であった. 体部白癬の皮疹は環状紅斑21名と炎症の軽い非定型疹を示す小円形紅斑19名, さらに体部白癬の中には皮疹内の生毛よりT. tonsurans が検出された3名も含まれていた. また体部白癬の多発例 (皮疹が2個以上) が11名みられ, 単発例よりもBDRやHB法陽性の合併頻度 (55%) が高かった. 多発する体部白癬を診た場合は頭皮および頭髪の入念な診察とHB法が重要である. 頭部白癬にはグリセオフルビンを6~8週間内服させ, 90%に効果がみられ, 体部白癬には抗真菌薬の外用とグリセオフルビン内服の併用を4~9週間行い軽快治癒した. T. tonsurans 感染症でみられるBDR, 炎症の軽い体部白癬や保菌者などは見逃しやすく, また誤診しやすいため発疹の丁寧な観察とKOH鏡検を含む積極的な真菌学的検索が重要である.