抄録
症例: 16歳, 男, 柔道部員. 1ヵ月前から右前腕に径約3cmの境界明瞭な鱗屑をともなう紅斑が出現した. 皮疹の中央部では自然治癒傾向がみられたが, 一部の毛がとぐろを巻いて断裂して黒点を形成していた. Trichophyton (T.) tonsurans による, 頭部のblack dot ringwormと似た所見であった. 鱗屑の直接鏡検で菌糸と分節分生子がみられた. 鱗屑採取時に混入した生毛と, black dotの鏡検で毛内性に配列する無数の分節分生子が認められた, 培養にて, T. tonsurans が分離され, ribosomal RNA遺伝子のITS領域の制限酵素分析でもT. tonsurans に一致する泳動パターンを示した. T. tonsurans は毛組織に侵入しやすく, 頭部のblack dot ringwormの主要な原因菌であることと, 本症例の体毛が太いことから, 体部ではあるがblack dot ringwormが形成されたと考えられる.