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カワラヒワ Carduelis sinica の夏季の集合と換羽
中村 浩志
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1979 年 28 巻 1 号 p. 1-27

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抄録
京都市南部の桃山御陵周辺,約30km2の地域で,夏から秋にかけてのカワラヒワ Carduelis sinica の移動と換羽について調査を行ない,次の結果を得た.
(1)毎年8~9月に限り,繁殖地(林縁地域)からまったくいなくなり,特定の地域への集合が観察された.
(2)上記の夏季集合地は,ヨシ原と豊富な餌が得られる造成地がともに隣接した地域に限られる.カワラヒワは,ヨシ原を休息地とねぐらとし,隣接した造成地で採食し,ねぐらとなっているヨシ原から1kmといったきわめて狭い地域に多数の個体が生活している.
(3)標識個体を追跡した結果,成鳥は繁殖を終えた7月上旬から繁殖地を去り,10月上旬まで夏季集合地に定住し,その後再び繁殖地に戻る.若鳥は,これより約1か月遅れて夏季集合地に移り,成鳥よりやや遅れ繁殖地に戻る.
(4)成鳥の多くは,繁殖地から3km以内にある夏季集合地に集まり,その大部分は前回と同じ繁殖地に戻る.若鳥は,むしろ遠い集合地にいっそう広い地域から集まり,また広い地域に分散する.成鳥のほとんどは前回と同じ集合地で換羽するが,若鳥の場合は翌年変えるものも多い.
(5)早く巣立った若鳥は,巣立後30日で非飛翔羽の換羽を開始する.しかし換羽は6月にいったん休止され,7月から飛翔羽も含めて再開される.いっぽう遅く巣立った若鳥および成鳥は,7月から8月に飛翔羽と非飛翔羽の換羽をともに開始する.成鳥は完全換羽である.若鳥の27%は完全換羽であるが,残りの若鳥も一部の羽毛のみが換羽を終了していないだけである.換羽期間は,成鳥では90日,若鳥では90~94日である.成鳥•若鳥ともに,換羽は10月末までには終了する.
(6)夏季の移動ど換羽時期の一致,集合地の場所条件とそこでの生活,飛翔力と定住性などの検討から,この夏季の移動集合は明らかに換羽のための移動と集合と考えられる.
(7)換羽時期に移動集合することが知られているカモ類 Anatidae やベニヒワ Carduelis flammea の場合と比較検討し,これらの移動は換羽により飛翔力をまったく失った,あるいは低下した状態で生活可能な,したがって短期間にかつ安全に換羽できる地域への移動であることを議論した.また換羽の現象を,時期と様式だけでなく,換羽場所の生態的条件•そこでの生活の実態•飛翔力などの問題をも含めて総合的にとらえることの必要性について若干論議した.
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