抄録
お三方のお話を聞いてまず思ったのは、こういった話をする機会が必要だということ、そしてこれからも必要ということです。今いろいろな組織や団体で、「継承」の必要性が言われています。そういったときにオーラル・ヒストリーはすごく有効な手法だと思っています。代替わりの時、これまで積み重ねられてきたものを、次の世代は全部まとまった形で受け取るわけですけれども、それがどういう来歴を経て形成されてきたもので、いかなる試行錯誤によって今こういうことになっているのかがわからないことがしばしばです。その物語に耳を傾けること、これは、僕は非常に有効なオーラル・ヒストリーの機能だと思っていて、それに本学会で取り組んだというのは、とても重要な意味があると思っています。
三報告をふまえた問題提起
これから内容面の話をしようと思います。自分自身は、歴史研究をはじめてからオーラル・ヒストリーに入っていったというよりも(自分の今のアイデンティティはもちろん歴史学にあるんですけれども)最初の出発がオーラル・ヒストリーというか、人の話に向き合うところにありました。それはアイヌ民族の方であったり、あるいは在日コリアンの方であったりという、自分と違うヒストリー、自分と違うバックグラウンドを持っている人に話を聞いた、というより正確には、問われたところから歴史への関心が深まっていき、そこで投げかけられた問いに自分なりに応答し、納得していくためには学術的な歴史をやらなければいけないと思うようになって、歴史学の研究をしてきました。
なぜ、その話をしたかというと、今日の報告の中で議論されていたことの中で、あらためて議論した方がいいと感じたのは、大きく分ければ歴史学と社会学という学問分野の考えというものが重要なテーマであったからです。これに対して、たくさんの論点が設定できますが、特に「歴史学における実証」ということ自体が変わっているのではないかということがまず一つ。もう一つは「専門性とは何か」、あわせて「学会の役割は何だろうか」ということに対する自分の考えをコメントして、最後にこれから特に大事にしたいところとして「私たちの共通の基盤は何なのか」ということも議論の素材として提供できたらと思っています。