抄録
急性リンパ性白血病 (ALL) の2歳男児に対し化学療法を行った結果, ビンクリスチン (VCR) によるCharcot-Marie-Tooth (CMT) 病IA型の顕性化を経験したので報告する.自験例ではVCR総投与量8mg/m2の時点で患児が立ち上がろうとしないことに気付かれた.その後, 下肢の逆シャンパンボトル様筋萎縮, 尖足, 上肢筋力低下, 鷲手, 手指巧緻運動障害を認め, 下肢深部腱反射が消失しており, CMT病が疑われ, 遺伝子解析を施行した.患児にPMP (peripheral myelin protein) 22遺伝子の重複が認められ, CMT病1A型と診断した.これをきっかけに, 無症状であった母と母方祖母もCMT病1A型と判明した.以後, 患児にはVCRを除いた化学療法を続行し, 発症後2年を経過しているが, 現在も寛解を維持している.VCRを投与する症例に対しては, CMT病の潜在を常に考慮に入れ, 診療を行っていくことが重要と思われる.