Japanese Journal of Public Health Nursing
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ISSN-L : 2187-7122
Research Article
Nursing Students’ Interest and Willingness to Participate in Global Health Activities and Related Factors
Mihoko KatoAkiko Mizuta
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 10 Issue 2 Pages 26-33

Details
Abstract

目的:看護学生が国際保健活動に関心をもった時期やきっかけを把握する.援助規範意識と国際保健活動への関心との関連,国際保健活動への参加意欲,参加の障壁を明らかにする.

方法:無記名式質問紙調査を看護学生に対して行った.学年,国際保健活動への関心度,援助規範意識,関心を持った時期ときっかけ,参加意欲,参加意欲の関連要因について把握した.

結果:高学年ほど「関心あり」は有意に少なく,「関心あり」の援助規範意識が「関心なし」と比較して有意に高く,関心があるが参加意欲のない学生には,外国語への自信がない者が有意に多かった.高校生以降に,発展途上国に関するテレビや体験談をきっかけに関心を持った学生が多かった.

考察:学生の国際保健活動への関心を高めるためには,学生の援助規範意識を高めることや,必要な語学力などを含んだ体験談などによる情報提供が求められる.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to identify the timing and events that sparked nursing students’ interest in global health. Furthermore, it aimed to detect the relationship between helping norms and interest in global health, the proportion of students willing to participate in global health activities, and the factors that prevented them from participating.

Method: An anonymous questionnaire was administered to nursing students. Respondents were asked about their grade, helping norms, interest in global health, the timing of inspiration, the event that sparked their interest, their willingness to participate, and the factors related to it.

Results: Students in the later years of their coursework were significantly less interested in global health than the early-year students. The helping norms of interested students were significantly higher than those of uninterested students. Interested students who were not willing to participate were significantly less confident in their ability to communicate in a foreign language than were willing students. Many students indicated that they became interested in global health when they were in high school, or their interest was triggered later by television programs or movies about developing countries as well as listening to stories of someone who had experience in global health activities.

Discussion: To stimulate the interest of nursing students in global health, it is important to cultivate stronger helping norms in students; provide information, such as the required foreign language level; and expose students to stories and experiences shared by global health workers.

I. はじめに

発展途上国では依然として高い周産期死亡や5歳未満児の死亡に加え,非感染性疾患の増加が問題となっており,世界中では感染症が問題となっている.「2030アジェンダ」(国際連合広報センター,2015)には最も貧しく脆弱な人々のニーズに焦点を当てたグローバル・パートナーシップ,すなわち地球規模の協力関係を必要とすることが記されている.このように国際的な連携が必要とされる中,文部科学省(2017)は,看護学教育モデル・コア・カリキュラムにおいて,「国際社会・多様な文化における看護職の役割について学ぶ」と目標を定めている.看護学教育モデル・コア・カリキュラムには,学生が国際社会における保健医療の現状と課題を認識し,公衆衛生看護の役割を理解することや国際的な視野をもって保健活動の現状を説明できることが求められると記されており,国際的な視点を持つ看護職を育成する必要がある.

看護学生の国際保健活動に関する先行研究において,Nishihara et al.(2017)は,留学,外国語学習,外国人との交流などの国際交流経験がある看護学生は国際問題へより高い関心を示したことを明らかにしており,束田ら(2015)は看護学生が体験を通じて国際的な視野を広め,将来のキャリアにつながる卒後教育へ向けた学習意欲が強く意識づけられたと述べている.このように看護学生の国際交流経験は,国際性を備えた看護師の育成のために効果的であると考えられる.さらにとある大学では継続的な連携・協力の可能性を探ることを目的に教員を海外派遣している.その結果,健康水準や保健医療サービス状況が把握されており(樋口ら,2017),国際交流は人材育成以外の面でも有用である.A大学にも「国際サービスラーニング」という,発展途上国にて国際保健活動を行う海外研修があり,大学から広報がされているが,看護学科からの参加者は例年数人に留まる.久保ら(2018, 2019)は他大学の看護学生や高校生に,こうした海外研修への関心,参加希望や教育ニーズの調査を行い,生徒・学生の海外研修への関心の有無や興味のある内容,関心がない理由などを明らかにしている.しかし,国際保健活動に関心を持った時期やきっかけ,また本人に内在する要因との関連を明らかにしている研究は見当たらない.箱井ら(1987)は,他者を援助することに関する規範意識の個人差を測定する尺度(援助規範意識尺度)を作成した.援助規範意識尺度の下位尺度の一つである「弱者救済規範意識」は,2030アジェンダにも記されている,最も貧しく脆弱な人々のニーズに焦点を当てたことや,アメリカにおける異文化看護教育,すなわち国際看護教育のためのコンピテンシーとしてAmerican Association of Colleges of Nursing(2008)が挙げている「脆弱な民族への健康支援」と関連すると考えられる.そのため,国際保健活動における看護師の役割に関連した学生の性質について援助規範意識尺度を用いて把握することが可能となる.

この研究の目的は,学生が国際保健活動に関心をもった時期やきっかけを把握し,学生本人に内在する要因としての援助規範意識と,国際保健活動への関心との関連を明らかにすること,さらに,学生の国際保健活動への参加意欲や,参加を妨げる障壁を明らかにすることである.本研究の意義は,学生の国際保健活動への関心を高め,参加を後押しする教育方法を検討するための資料となり,国際性を備えた看護職の育成に役立つことである.長期的には,国内外の公衆衛生の向上や健康格差の是正に貢献すると考える.なお本調査では対象学生に対し,「国際保健活動」を定義せず,回答の傾向から学生の持つ国際保健活動へのイメージや先入観を把握することとした.

II. 方法

1. 対象と方法

本研究は横断研究である.2019年9~10月に,A大学看護学生1~4年生242人を調査対象に,無記名式質問紙調査を行った.なお,看護編入生は受講科目が異なるため調査対象から除外した.各学年の全員が履修している授業終了後に,対象学生に口頭と書面で研究の概要と目的を説明したのち,質問紙を一斉に配布し回答を依頼した.回答回収ボックスを教室に留置し,配布から回収まで1週間の期間を設けた.

2. 調査内容

質問項目は,学年,国際サービスラーニングの認知,国際保健活動への関心度,関心を持った時期ときっかけ,国際保健活動への参加意欲,援助規範意識,外国語への自信,時間的余裕,経済状況,国際保健活動に関する自由記載欄からなる.

国際サービスラーニングの認知については,A大学 に「国際サービスラーニング」という,発展途上国における国際保健活動を行うプログラムがあることを知っていたかどうかを「はい」「いいえ」で尋ねた.国際保健活動への関心度については,関心がどの程度あるかを「非常にある」から「全くない」の5段階で尋ねた.さらに,国際保健活動への関心が「非常にある」,「どちらかといえばある」と回答した人にのみ,関心をもった時期ときっかけを尋ねた.関心を持った時期は「小学校以前から」「中学生の時」「高校生の時」「大学入学以降」「わからない」で回答を求めた.関心を持ったきっかけには,10項目の選択肢を設け,あてはまるものすべてを選択してもらい,その他のきっかけがある場合には,その具体的内容を尋ねた.また参加意欲については,国際保健活動に実際に参加したいとどの程度思うか,「非常に思う」から「全く思わない」の5段階で尋ねた.外国語への自信については,外国語でコミュニケーションをとることに対して「大変自信がある」から「全く自信がない」の5段階の選択肢を設け,本人が自覚する実践的なコミュニケーション能力を重視した.時間的余裕について,「大変余裕がある」から「全く余裕がない」の5段階で尋ねた.経済状況については,「大変ゆとりがある」から「全くゆとりがない」の5段階で生活意識を尋ねた.

援助規範意識は,箱井ら(1987)によって作成された援助規範意識尺度を用いて測定した.本尺度は他者を援助することに関する規範意識を測定するための29項目からなる尺度であり,「返済規範意識」「自己犠牲規範意識」「交換規範意識」「弱者救済規範意識」の4つの下位尺度からなる.「返済規範意識」は以前援助してくれた人には親切にし,人に迷惑をかけた時にはその人に償うべきであるという意識である.「自己犠牲規範意識」は,自己犠牲を含む愛他の意識である.「交換規範意識」は,援助に見返りを期待し,自分へ有益な援助なら行うという意識である.「弱者救済規範意識」は,自分より弱い立場,困っている人に分け与えようとする意識である.援助規範意識は得点が高いほど意識が高いが,「交換規範意識」はその他の3項目と負の相関関係があることから正逆の向きを逆転させてある.なお,この尺度は主成分分析の結果から尺度の一貫性は確保されていると推察されている.また,共感性尺度との関連性を分析した結果から,構成概念妥当性を有していると判断されている.

3. 分析方法

すべての質問項目について記述統計を行った.国際保健活動への関心度は5段階の結果を,「関心あり」群と,「どちらともいえない」を含む「関心なし」群,参加意欲は「参加意欲あり」群と,「どちらかといえば思わない」を含む「参加意欲なし」群の,それぞれ2群に区分した.外国語への自信は「自信あり」群と,「ふつう」を含む「自信なし」群の2群に区分した.時間的余裕については「余裕あり」群と,「ふつう」を含む「余裕なし」群の2群に分け,経済状況については,「ゆとりあり」群と,「ふつう」を含む「ゆとりなし」群の2群に区分した.

学年と国際保健活動への関心度との関連について,カイ2乗検定を行った.援助規範意識と関心度との関連については,対応のないt検定を行い,さらに学年を調整した多変量ロジスティック回帰分析を行った.次に,関心度と参加意欲との関連について,カイ2乗検定を行った.関心度と参加意欲との関連における媒介因子を国際サービスラーニングの認知,外国語への自信,時間的余裕,経済状況とし,媒介因子と参加意欲との関連性について,それぞれカイ2乗検定を行った.「関心あり」の参加意欲を低下させる要因を明らかにするため,媒介因子と参加意欲との関連について関心度を層化したカイ2乗検定を行った.

また自由記載欄と質問項目の回答肢にある「その他」の質的データにより量的データの解釈の裏付けを行い,結果の解釈の精度を高めた.

4. 倫理的配慮

本調査の実施にあたって,説明文書に研究の目的,方法,倫理的配慮について記載した.研究への参加は自由であり,参加しなかったからといって不利益を被ることはないこと,質問紙は無記名式であり,個人の特定はできず,個人がどのような回答をしたかを問題にすることはないこと,無記名式であるため回答の提出後の取り消しはできないことを説明し,質問用紙のチェックボックスへのチェックにより,研究参加への同意を確認した.なお,本研究は浜松医科大学の倫理審査委員会の承認を得て行われた(研究番号:19-161,2019年8月29日承認).

III. 研究結果

1年生51人(82.3%),2年生55人(90.2%),3年生59人(90.8%),4年生39人(72.2%)の合計204人(84.3%)から回答が得られた.対象者の属性を表1に示した.国際保健活動ついて,「関心あり」は82人(40.2%)であったが,「参加意欲あり」はそれより少ない61人(30.2%)であった.また,国際サービスラーニングを知っている人は,大学から周知されているものの83人(40.7%)に留まった.外国語でのコミュニケーションについて,「自信あり」は12人(5.9%),「自信なし」は191人(94.1%)であった.時間的余裕について,「余裕あり」が35人(17.2%),「余裕なし」が168人(82.8%)であった.経済状況について,「ゆとりあり」が35人(17.2%),「ゆとりなし」が168人(82.8%)であった.援助規範意識の平均値94.4(範囲:29–145)であり,下位尺度は,返済規範意識の平均値31.4(範囲:9–45),自己犠牲規範意識の平均値26.0(範囲:8–40),交換規範意識の平均値14.7(範囲:5–25),弱者救済規範意識の平均値22.1(範囲:7–35)であった.なお,援助規範意識尺度のクロンバックのα係数は0.802であり,高い信頼性が示された.

表1 

対象者の属性

n %
学年(N=204)
 1年生 51 25.0
 2年生 55 27.0
 3年生 59 28.9
 4年生 39 19.1
国際サービスラーニングの認知(N=204)
 はい 83 40.7
 いいえ 121 59.3
国際保健活動への関心度(N=204)
 関心あり 82 40.2
 関心なし 122 59.8
国際保健活動への参加意欲(N=202)
 参加意欲あり 61 30.2
 参加意欲なし 141 69.8
外国語への自信(N=203)
 自信あり 12 5.9
 自信なし 191 94.1
時間的余裕(N=203)
 余裕あり 35 17.2
 余裕なし 168 82.8
経済状況(N=203)
 ゆとりあり 35 17.2
 ゆとり余裕なし 168 82.8

N=204)

M SD 範囲
援助規範意識 94.4 8.7 29–145
 返済規範意識 31.4 3.9 9–45
 自己犠牲規範意識 26.0 3.5 8–40
 交換規範意識 14.7 2.5 5–25
 弱者救済規範意識 22.1 2.5 7–35

注)対象者数は欠損値のため項目毎に異なる

学年,援助規範意識と国際保健活動への関心度との関連を表2に示した.1年生の「関心あり」は62.7%,2年生で38.2%,3年生で30.5%,4年生で28.2%であり,学年が上がるにつれ「関心あり」が有意に少なかった(P=0.001).援助規範意識の平均値は,「関心なし」96.8と比較して,「関心あり」100.3で有意に高かった(P=0.008).自己犠牲を含む愛他の精神である自己犠牲規範意識の平均値は「関心なし」25.6と比較して,「関心あり」26.8で有意に高かった(P=0.014).自分より弱い立場,困っている人に分け与えようとする意識である弱者救済規範意識の平均値は,「関心なし」24.8と比較して,「関心あり」26.1で有意に高かった(P=0.002).返済規範意識,交換規範意識と国際保健活動への関心度に有意な関連はなかった.学年が交絡因子である可能性が考えられたため,学年を調整した多変量ロジスティック回帰分析を実施した.その結果,自己犠牲規範意識と関心度との関連(Odds Ratio,以下OR:1.11,95%信頼区間:1.02–1.21),弱者救済規範意識と関心度との関連(OR:1.13,95%信頼区間:1.01–1.26)が有意であった.

表2  学年,援助規範尺度と国際保健への関心度との関連(N=204)
  関心あり 関心なし P 単変量c   多変量d
95%信頼区間 95%信頼区間
N/M %/SD N/M %/SD OR 下限 上限 P OR 下限 上限 P
学年 ref: 1年生 32​ (62.7) 19​ (37.3) 0.001a 1.00
2年生 21​ (38.2) 34​ (61.8) 0.37 0.17 0.81 0.012
3年生 18​ (30.5) 41​ (69.5) 0.26 0.12 0.58 0.001
4年生 11​ (28.2) 28​ (71.8) 0.23 0.10 0.57 0.002
援助規範意識尺度 100.3​ (8.9) 96.8​ (8.8) 0.008b 1.05 1.01 1.08 0.010   1.04 1.00 1.08 0.043
 返済規範意識 32.5​ (4.4) 31.8​ (3.8) 0.188b 1.05 0.98 1.13 0.190   1.03 0.96 1.12 0.419
 自己犠牲規範意識 26.8​ (3.4) 25.6​ (3.5) 0.014b 1.11 1.02 1.21 0.016   1.11 1.02 1.21 0.021
 交換規範意識 14.7​ (2.6) 14.7​ (2.4) 0.896b 1.01 0.90 1.13 0.896   0.99 0.88 1.11 0.847
 弱者救済規範意識 26.1​ (2.8) 24.8​ (3.0) 0.002b 1.17 1.06 1.26 0.002   1.13 1.01 1.26 0.030

a:Pearsonのカイ2乗検定

b:対応のないt検定

c:ロジスティック回帰分析

d:学年を調整したロジスティック回帰分析

国際保健活動への「関心あり」が,関心を持ったきっかけを図1に示した.最も多くの学生が関心を持った時期は,「大学入学以降」(34.3%)であり,2番目に多かったのが「高校生の時」(33.3%)であった.関心を持ったきっかけで最も多かったのが「発展途上国についてのテレビ番組や映画などを見た」59.8%,次いで「国際保健活動の経験のある人の話を聞いた」30.5%,「国際保健活動について学校の授業で学んだ」26.8%の順で多かった.

図1 

関心を持ったきっかけ(注:複数回答)

国際保健活動への関心度,外国語でのコミュニケーションへの自信,時間的余裕,経済状況,国際サービスラーニングの認知と参加意欲との関連を表3に示した.「関心あり」の61.0%が「参加意欲あり」であった.外国語の自信がある者で「参加意欲あり」66.7%が有意に高かった(P=0.008).関心度を層化すると,関心がある者においてのみ,外国語への自信がない者で参加意欲が有意に低かった(P=0.021).

表3  国際保健活動への関心度,媒介因子と参加意欲との関連
  参加意欲あり 参加意欲なし P 関心あり(N=82)   関心なし(N=122)
参加意欲あり 参加意欲なし P 参加意欲あり 参加意欲なし Pb
n (%) n (%) n (%) n (%) n (%) n (%)
国際保健活動への関心度
  関心あり 50 (61.0) 32 (39.0) <0.001a
  関心なし 11 (9.2) 109 (90.8)
外国語への自信
  自信あり 8 (66.7) 4 (33.3) 0.008b 8 (100.0) 0 (0.0) 0.021b   0 (0.0) 4 (100.0) 1.000
  自信なし 53 (28.0) 136 (72.0) 42 (57.5) 31 (42.5)   11 (9.5) 105 (90.5)
時間的余裕
  余裕あり 15 (42.9) 20 (57.1) 0.077a 13 (81.3) 3 (18.8) 0.09b   2 (10.5) 17 (89.5) 0.685
  余裕なし 46 (27.7) 120 (72.3) 37 (56.9) 28 (43.1)   9 (8.9) 92 (91.1)
経済状況
  ゆとりあり 14 (41.2) 20 (58.8) 0.132a 12 (70.6) 5 (29.4) 0.576b   2 (11.8) 15 (88.2) 0.654
  ゆとりなし 47 (28.1) 120 (71.9) 38 (59.4) 26 (40.6)   9 (8.7) 94 (91.3)
国際サービスラーニングの認知
  はい 30 (36.1) 53 (63.9) 0.124a 26 (63.4) 15 (36.6) 0.651a   4 (9.5) 38 (90.5) 1.000
  いいえ 31 (26.1) 88 (73.9) 24 (58.5) 17 (41.5)   7 (9.0) 71 (91.0)

注)分析対象者数は欠損値のため項目毎に異なる

a:Pearsonのカイ2乗検定

b:Fisherの直接確率検定

国際保健活動に関する自由記載欄には,(国際保健活動に)「機会があれば参加したい」「積極的に関与していきたい」や「大学入学以前は関心を抱いていたが,入学後は現段階での学びで精一杯であり現在関心は薄れつつある」,「自分ができることは協力したいという気持ちはあるが,自分が将来家庭を持ったりした場合に海外を拠点に活動するのは難しいと思う」「(国際保健活動を)やってみたいがハードルが高い」という内容の記載があった.

IV. 考察

1. 関心への要因

他者を援助することに関する「援助規範意識」とその下位尺度で,自己犠牲を含む愛他の意識である「自己犠牲規範意識」,自分より弱い立場,困っている人に分け与えようとする「弱者救済規範意識」が高い者で,有意に国際保健活動への関心が高いことが明らかになった.妹尾(2008)は,若者がボランティア活動を行い,その経験が援助者自身にとって成功的であったと認識する場合「愛他的精神の高揚」などの援助成果を獲得することを明らかにしている.そのため身近なボランティア活動への参加を促進することが他者を援助する気持ちを高めると考えられる.国際保健活動への関心と援助規範意識の因果関係は明らかではないが,これらが相互に関係し,援助規範意識を高めることが,国際保健活動への関心を持つことにつながる可能性は否定できない.山野内ら(2019)は,若者たちの「社会に貢献したい」という思いを大切に育む早期の教育が必要であると述べており,学生の援助規範意識,すなわち他者を助けようとする精神を高めるような働きかけは重要であると考える.

国際保健活動へ関心がある学生の弱者救済規範意識が高く,学生が国際保健活動は弱者救済の側面が大きいと考えている可能性がある.国際保健活動では,実際に環境や資源,金銭面,立場などに恵まれない人たちを対象にすることがあり,この弱者救済規範意識をさらに育むことは重要である.

国際保健活動への関心がある者で「自己犠牲規範意識」が高かったことは,国際保健活動には少なからず自己犠牲を伴うというイメージがあることを反映していると考えられる.このことは,自由記載欄の「自分が将来家庭を持ったりした場合に海外を拠点に活動するのは難しいと思う」という内容からも,学生の中には国際保健活動に対して,自分のキャリアやプライベートを犠牲にして現地で働くというイメージを持つ者もいることが窺える.より多くの学生に国際保健活動へ関心を持ってもらうためには,どのように国際保健活動に関与しながらキャリアを積んだかなどを伝えることが重要である.

国際保健活動へ関心がある者の割合は,学年が上がるにつれ,有意に低いことが明らかになった.これは,自由記載欄にあった「現段階での学びで精一杯であり,現在(国際保健活動への)関心は薄れつつある」という記述から,学年が上がるにつれ学ぶことが増えることによって,国際保健活動へ関心を持つ余裕がなくなっていることが一因として考えられる.またA大学看護学生は,1年生の時に看護師のキャリア開発に関する講義の中で,JICAで活動経験のある教員の体験談を聴く機会がある.本研究は1年生のキャリア開発に関する講義が終了してから行っており,その記憶がより薄れる高学年ほど,国際保健活動への関心が低い傾向にあった可能性が考えられる.

国際保健活動への関心を持った時期は,高校生と大学以降が多く,国際保健活動への関心を高める働きかけは,高校生と大学生に対して行うことが効果的であると考えられる.関心を持ったきっかけとしては,「発展途上国についてのテレビや映画などを見た」「国際保健活動の経験のある人の話を聞いた」「国際保健活動について学校の授業で学んだ」が多かったことから,映像や体験談を含む,より“リアルな”情報に触れることが,国際保健活動への関心を高めるために効果的であると考えられる.

2. 参加への障壁

国際保健活動への関心が高い者で,参加意欲が有意に高いが,関心を持った学生のうち参加意欲を示したのは61.0%に留まった.関心があるにも関わらず参加意欲につながらない要因として媒介因子を設定し,媒介因子と参加意欲との関連を明らかにした.その結果,外国語でのコミュニケーションへの自信のみが参加意欲に有意に関連していた.国際保健活動への関心度を層化した分析では,関心がある者においてのみ,外国語でのコミュニケーションへの自信がない学生で,参加意欲が有意に低かった.このことから,外国語でのコミュニケーションへの自信を高める支援をすることにより,国際保健活動への参加意欲が高まることが示唆される.一方でJICA(2019)によると,JICA海外協力隊への応募は,英語の場合,中学卒業程度(英検3級以上,TOEIC® 330点以上)から可能であり,応募時点での外国語能力はそれほど重要視されない場合もあることがわかる.したがって,「国際保健活動に関心はあるが,外国語に自信がないので参加したいとは思わない」という学生の参加意欲を高めるためには,学生が自身の外国語能力に自信を持てるような働きかけをすると共に,実際に求められる語学力を伝え,学生に自身の語学力について必要以上に心配させないことが重要であると考えられる.

3. 研究の限界と今後の展望

国際保健活動への参加意欲に関連する可能性がある要因を,「国際サービスラーニングの認知」「外国語でのコミュニケーションへの自信」「時間的余裕」「経済状況」の4つに焦点を当てた調査を行ったが,時間的余裕や経済状況,国際サービスラーニングの認知は参加意欲に関連しなかった.先行研究ではこの他にも,国際保健活動に対する学生のネガティブな意見やイメージがいくつか報告されている(山野内ら,2019).本調査では,国際保健活動を実施する時期や助成金の使用について質問をしていないため,先行研究で明らかになった海外へ行くことへの障壁としての「経済的余裕のなさ」や「時間的余裕」が,本調査では参加意欲と有意に関連しなかった可能性がある.今後,国際保健活動を行う時期や支援策についても調査を行うことで,学生のうちに国際交流経験や国際保健活動を行う上でのハードルを把握できると考える.

本研究では学生に対し「国際保健活動」を定義せず,学生の持つ「国際保健活動」へのイメージを明らかにしようとしたが,質問の内容から「国際保健活動は発展途上国での支援活動のことである」というイメージに誘導された可能性があり,回答には海外での活動を想定した傾向が見られた.しかし実際には日本国内における多様な人々への公衆衛生看護活動の展開が求められており(近藤,2015),国際保健活動の定義を明確にした研究や教育を行い,海外で活動することだけが国際保健活動ではなく,異文化を理解し看護を提供することが重要であることを学生に伝える必要がある.

また本研究の対象者は一大学の看護学生であり,結果を全国の看護学生に当てはめることはできない.しかし,久保ら(2018)が,国際看護を学ぶにあたり,言葉の壁がコミュニケーションの壁と捉えてしまわないように学習支援することの必要性を提示しているように,学生が感じている言葉の壁に対するアプローチは重要であると考える.

本研究は横断研究であるため,先にも述べた通り,援助規範意識と国際保健活動への関心の因果関係には言及できないが,これらは相互に影響する可能性がある.国際保健活動に参加した学生の援助規範意識がその前後でどのように変化するのか明らかにすることが望まれる.

また今後,学生の教育に対する思いや社会的望ましさについても調査し,国際保健活動における求められる看護職の役割,コンピテンシーと学生の能力との関連を明らかにすることで,より国際保健活動のニーズに見合った実践的な公衆衛生看護教育の提供に貢献したい.

V. おわりに

学年が高い者ほど国際保健活動への関心度は低かった.自己犠牲規範意識,弱者救済規範意識が高い者で国際保健活動への関心度が高かった.関心を持った時期は「高校生」と「大学以降」が多く,きっかけは発展途上国に関するテレビや,学校の授業,国際保健活動に参加した人の体験談が多かった.学生が国際保健活動へ関心はあるが参加したいとは思わない理由の一つは,外国語でのコミュニケーションへの自信のなさであった.学生の援助規範意識を高めることで国際保健活動への関心が高まる可能性が示唆された.また,多くの学生が国際保健活動に対し「弱者救済の活動である」「自己犠牲を伴う」「高い語学力が求められる」というイメージを持っていることが考えられる.学生が国際保健活動を幅広く捉えることができるようになるための教育や,参加しやすい国内における異文化を持つ対象者への国際保健活動プログラム等を開発,周知することにより,学生の国際保健活動への関心が高まることが期待される.

謝辞

本研究を実施するにあたり,調査にご協力いただいた看護学生の皆様に感謝申し上げます.

本研究に開示すべきCOI状態はない.

文献
 
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