Japanese Journal of Public Health Nursing
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Public Health Nursing Report
Characteristics of Preventative Healthcare Classes Held by Entrusted Institutions: Focusing on Elderly Participants’ Social Activities-related Daily Life Satisfaction
Shuhei FukagawaYuka MorimotoMichiyo Hirano
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 10 Issue 2 Pages 72-79

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Abstract

目的:A市B区の介護予防教室の参加者の特徴と,参加者の社会活動の満足度が高いプログラム内容の特徴を明らかにする.

方法:B区の委託機関が開催する介護予防教室の参加者に記名自記式質問紙による集合調査を実施した.基本属性,社会活動の満足度を測定し,委託機関の介護予防教室のプログラム内容と併せて分析した.

結果:調査票は回収数427部,有効回答数422部だった(有効回答率98.8%).対象者の平均年齢は78.1±6.1歳で,女性が全体の91.2%を占めていた.参加者の社会活動の満足度の得点が高い委託機関が主催する教室のプログラムには,参加者の貢献意欲や習慣的な運動の動機付けを促すような特徴がみられた.

考察:社会活動の満足度の得点が高い介護予防教室では,参加者に対する社会活動の動機付けや主体性を引き出すような関わりが共通してみられた.委託機関による関わりは,参加者の教室以外の幅広い社会活動を促す関わりだったと言えるだろう.

I. はじめに

近年の地域における健康課題の複雑多様化に伴い,地域保健対策の主な担い手である保健師の活動のあり方には大きな変化が見られている.池田ら(2001)は,市町村の保健事業は外部からの業務委託を導入し需要に対応していること,また委託における問題点には「質の確保が困難」,「事後管理や地域ニーズの把握が困難」等があることを報告している.高齢者支援を担う地域包括支援センターの設置主体は委託型が71.6%と多数を占めており(三菱UFJリサーチ&コンサルティング,2019),地方都市の保健活動はアウトソーシングが拡大する可能性が高い.今後,保健師による委託後の保健事業への関わり方は,一層重要となるだろう.

乳幼児健康診査の委託に関する研究において,コミュニティの健康を高めるパートナーとして住民をとらえていた保健師は,委託後も事業の評価を行い改善するべきと考え,事業委託をコミュニティの資源の専門性を高め豊かにするものと意味づけていた(小林ら,2007).介護予防事業の委託においても保健事業を委託機関に一任せず,保健師が委託機関の特徴をとらえながら,コミュニティの資源として委託機関の専門性を高める働きかけを行うことが重要であると考えられる.

高齢者の介護予防の手法は身体機能の改善を目的とした機能回復訓練に偏りがちであり,活動や参加を促す取り組みが必ずしも十分ではなかった(厚生労働省,2015).高齢者の老化に伴う活動能力は社会的役割から知的能動性,手段的日常生活動作(以下,IADL)の順で低下すること(Fujiwara et al., 2003)が明らかにされている.また,高齢者が社会活動に参加することは身体的・精神的健康の維持増進に効果があること(高橋ら,2006)が報告されており,今後は社会活動の観点を踏まえた高齢者の介護予防の推進が重要である.

したがって,介護予防を推進するためには,高齢者が社会活動を通じて得られる効果を把握しながら,介護予防事業を展開することが重要である.岡本(2010)は,高齢者の社会活動全般の主観的効果の把握を主眼とした高齢期の過ごし方の満足度を把握する尺度として,社会活動に関連する過ごし方満足度尺度を開発している.介護予防教室を効果的に運営するためには,教室参加者の教室内容に対する満足度のみならず,教室参加者が社会活動の幅広い場において豊かな生活を送ることができているかに着目することも重要である.

本報告では介護予防教室の参加者の特徴と,参加者の社会活動に関連する過ごし方満足度が高い教室のプログラム内容の特徴を明らかにすることを目的とした.

本報告により,介護予防活動を担う委託機関への保健師の支援及び介護予防事業に取り組む地方都市の保健活動のあり方について有用な示唆が得られると考える.

II. 方法と対象

1. 用語の定義

本報告では特定の場における社会活動に限定せず,高齢者が行う幅広い社会活動をとらえることが重要であると考えた.そこで社会活動に関連する過ごし方満足度尺度を開発した先行研究(岡本,2010)の定義を参考に,本報告における社会活動は「家族や親族を超えた他者との対人活動,団体や組織に参加して行う活動,地域における活動の場への参加といった,高齢者が空いた時間を活用して自主的に行う活動の総体」とする.

2. 対象

1) A市の状況について

A市では高齢者が住み慣れた地域で自立した生活を続けられることを目的に,介護予防支援の拠点となる地域包括支援センターと介護予防センターを設置している.これらのセンターは社会福祉法人等に運営が委託されている.介護予防センターは,介護保険法の介護予防・日常生活支援総合事業における一般介護予防事業の実施主体としてA市が独自に設置している機関である.介護予防センターはA市内に53箇所設置されており,高齢者に係る相談支援や介護予防教室の運営,地域の自主活動組織の支援を行っている.各介護予防センターには常勤かつ専任の保健福祉職員が1センターあたり1名配置されており(2017年時点),配置された職員の主たる保有資格は社会福祉士や介護福祉士等となっている.

A市は介護予防センターが効果的に介護予防活動に取り組むことができるよう介護予防センター運営方針を提示している.介護予防センター運営方針は介護予防センターが業務に取り組む上での基本方針や重点取組項目を示している.重点取組項目は介護予防センターが特に重点的に取り組むことが望ましい項目であり,2017年度は①地域の介護予防の実態把握及び対象者把握,②介護予防活動におけるサポーターの育成と活動の場づくりの強化,③住民主体の介護予防活動の促進に向けた支援の強化,④効果測定等による評価,及び効果的な介護予防活動の推進の4項目を挙げている.

2) A市B区の状況について

A市B区の高齢者数は2017年時点で約76,000人,高齢化率は26.7%,要介護認定者数は約14,000人である.B区の保健師はB区役所に所属するA市の行政職員であり,B区の高齢者保健業務に従事している.B区の保健師は高齢者保健業務にかかる取り組みの一つとして「介護予防事業」を担っている.B区の保健師は委託機関であるB区内の介護予防センターを支援することでB区の「介護予防活動」の推進を目指している.介護予防センターは介護予防活動を推進するための手段の一つとして「介護予防教室」を開催している.

介護予防センターの職員は主に介護福祉士や社会福祉士の資格を持つ者が配属されており,公衆衛生看護学や地域看護学等のように地域や集団を支援対象とすることについて,基礎教育を受けている者は少ない.B区の保健師は,介護予防センターによる介護予防活動がA市の提示する介護予防センター運営方針に基づき実施されるよう日常的に助言をしている.

3) 介護予防センターの担当地域の特徴について

本報告では,B区の介護予防センター7箇所のうち6箇所の介護予防センターから調査に関する協力を得られた.6箇所の介護予防センターの担当地域の特徴を表1に示した.B区はA市内の10区中第3位の面積であり,A市の中心部に位置する地域から他市町村と隣接した郊外に位置する地域まで存在している.

表1  介護予防センターの担当地域の特徴
センター 担当地域の概況 高齢化率a
(%)
C 地下鉄沿線にまたがっており,利便性が良い地域である.高齢化率は低く,高齢になってから,転入してくる者が多く,人付き合いが希薄な地域である. 21.1
D 明治初期の古くから開拓され,発展した住宅街の地域で,人口は区内で最多であり,高齢化率も高い地域である.高齢者人口が多いため,地域の中でも,狭く深い付き合いが多い. 30.1
E 認知症に対する関心が高い地域である.しかし,高齢化が進んでいない地域では,介護予防に関する理解が低い傾向にある.住民が認知症や見守りに関して,主体的に取り組んでいる活動が多く見受けられる. 25.0
F 高齢化が進んでいる地域であり,地域内に区役所に準じた出張所があり,区内北部の拠点になっている.高齢者同士のつながりも強く,介護予防教室内を始めとして,住民同士の付き合いが多く見受けられている. 29.4
G 住民同士の横のつながりが強く和やかな地域と,男性の参加もあり健康講話に関心が高い地域がある.持ち家率が市内の平均に比べて著しく高い.地域に大学があり,特定健診受診率が市内でも上位であり,健康意識の高い住民が多い傾向がある. 21.5
H 年少人口割合が区内で最高であり,高齢化率が低い.元気な高齢者が多いことから,介護予防の中では運動や体操に関心のある高齢者が多い傾向がある. 23.6

a 2017年時点の値を掲載

また,担当地域の高齢化率が30%を超える介護予防センターが1箇所あるものの,6箇所中4箇所の介護予防センターの高齢化率はB区全体の高齢化率よりも低い.

4) 調査対象者について

本報告における調査の対象者は,調査協力を得られたB区内の6箇所の介護予防センターが主催する介護予防教室の参加者とした.6箇所の介護予防センターが主催する介護予防教室19会場の教室参加者427名に調査を行った.

3. データ収集方法

介護予防教室のプログラム内容は,介護予防センターが参加者向けに作成したプログラム資料を二次資料として活用した.また,介護予防センターの職員からも直接聞き取ることで把握した.

分析には2017年度に実施した「介護予防教室参加者の参加意識と生活に関する実態調査」における集合調査のデータを変数として用いた.集合調査は保健師と研究者が介護予防教室の体力測定会の開催日に会場に出向き,その場で調査票の配布と回収を行った.対象者には,文書と口頭により研究の概要及び研究協力への拒否権,研究協力の辞退が可能であること,その他の倫理的配慮に関する事項を説明した.保健師,研究者,介護予防センター職員より,研究の協力は強制ではないことを説明し,協力に前向きな意思を持つ者のみ同意書への記入を依頼した.データ収集は2017年10月から2018年2月に実施した.

4. 調査項目

集合調査では,対象者の年齢,性別,家族構成,現住所の居住年数,介護予防教室の参加年数,要介護認定の状況,主観的健康感,社会活動に関連する過ごし方満足度(以下,社会活動の満足度),握力,5 m最大歩行を測定した.主観的健康感は「あなたが感じている,ご自身の現在の健康状態についておたずねします.最も近いものを1つ選び〇をつけてください」という質問について,「非常に健康」,「まあ健康」のいずれかに回答した者は健康である群,「あまり健康でない」,「健康でない」と回答した者は健康でない群に再分類した.

社会活動の満足度は,岡本(2010)の社会活動に関連する過ごし方満足度尺度(全14項目で各1–5点の5件法)を使用した.岡本は本尺度について,「たとえば『ボランティア活動』や『ある期間ある場所で行われた特定の活動』のような極めて限定された活動の満足度ではなく,高齢期を過ごすなかでの社会活動全般の満足度把握を主眼としたものである」と述べている.本報告では,B区の高齢者が幅広い社会活動の場で満足感をもち生活できることが介護予防においても重要と考え,岡本の尺度を用いることとした.社会活動に関連する過ごし方満足度尺度は,学習に関する満足度4項目(以下,学習),他者・社会への貢献に関する満足度4項目(以下,貢献),健康・体力に関する満足度3項目(以下,健康・体力),友人に関する満足度3項目(以下,友人)の4つの下位尺度から構成されている.

5. 分析方法

社会活動に関連する過ごし方満足度尺度の4つの下位尺度をもとに,介護予防教室のプログラム内容の特徴を検討し分類した.なお,プログラム内容の分類の信頼性を確保するため,質的研究の経験がある研究者から助言を受けて分類し,さらに,委託機関である介護予防センターの職員に分類した内容の確認を得た.

集合調査で収集したデータは記述統計を行った.社会活動の満足度は尺度の合計得点及び4つの下位尺度ごとの合計得点を介護予防センターごとに算出した.また,各介護予防センターの社会活動の満足度の得点は,介護予防教室のプログラム内容と併せて分析した.

6. 倫理的配慮

本調査は,2017年から2019年に実施した北海道大学大学院保健科学研究院との共同による3年の縦断研究である「介護予防教室参加者の参加意識と生活に関する実態調査」のデータセットの一部を活用した.

介護予防センターの職員は本報告の研究協力者であり,研究に関する説明文ならびに依頼文を送付し,研究の対象者となる介護予防教室参加者の紹介を得た.また,介護予防センターが実施する介護予防教室のプログラム内容の使用やその公表については口頭で説明し同意を得た.

「介護予防教室参加者の参加意識と生活に関する実態調査」は記名式の質問紙調査を用いた.対象者の研究協力にあたっては,研究に関する説明文を用いて協力依頼を行った.調査票提出の強制力が働かないようにするため,調査への協力は自由意志によるものであり,調査に協力しない場合でも不利益を被らないことを口頭で十分に説明した.同意書への記載にあたっては,研究への参加は自由意志によるものであることを重ねて説明し,同意書への署名を頂いた.同意書を提出した後であってもいつでも同意書を撤回して,調査への協力を取り止めることができることを説明し,対象者の心理的負担に配慮した.本報告は北海道大学大学院保健科学研究院倫理審査委員会の承認を得た(2017年10月11日承認,17–80).

III. 活動内容

1. 調査対象者の特徴について

調査票は427名全員から回収した.有効回答数は422部だった(有効回答率98.8%).

対象者の基本属性を表2に示した.対象者の平均年齢は78.1±6.1歳であり,女性が全体の91.2%を占めていた.家族構成は独居36.3%,高齢夫婦のみ世帯28.0%,高齢者以外の家族同居35.7%で,独居の割合が最も多かった.現住所における居住年数の平均は28.7±16.8年であり,30年以上住み続けている者が48.4%を占めていた.また,介護予防教室の参加年数の平均は4.8±4.6年だった.要介護認定を受けている者は12.2%おり,その内訳は要支援が11.0%,要介護が1.2%だった.要介護認定を受けていない者の割合は87.8%だった.主観的健康感は自身が健康であると肯定的に回答した者が79.2%を占めていた.

表2  対象者の基本属性(N=422)
項目 n %
年齢(n=417) 65–74歳 113 27.1
75–84歳 244 58.5
85歳以上 60 14.4
性別 女性 385 91.2
男性 37 8.8
家族構成(n=415) 独居 151 36.3
夫婦のみ 116 28.0
家族同居 148 35.7
居住年数(n=419) 10年未満 66 15.8
10–19年 62 14.8
20–29年 88 21.0
30年以上 203 48.4
教室参加年数(n=414) 1年未満 51 12.3
1–3年 165 39.9
4–6年 90 21.7
7年以上 108 26.1
要介護認定(n=409) 自立 359 87.8
要支援 45 11.0
要介護 5 1.2
主観的健康感(n=419) 健康である 332 79.2
健康でない 87 20.8

2. 社会活動の満足度により分類した介護予防教室のプログラム内容の特徴

調査協力を得られた6箇所の介護予防センターの職員が主催する介護予防教室のプログラム内容について,社会活動の満足度の4つの下位尺度をもとに分類した,介護予防教室のプログラム内容の特徴を表3に示した.

表3  社会活動の満足度により分類した介護予防教室のプログラム内容の特徴
プログラム
センター
学習 貢献 健康・体力 友人
C 健康講話を多く取り入れている.情報提供の場となれるように,健康情報を発信するように努めている. 参加者の一部にボランティアとして教室運営の手伝いを担うよう働きかけているが,ボランティアの担い手が少ない. 運動に関心の高い男性が多い教室では,運動を多く取り入れるような工夫を図った. 参加者が継続的に参加してくれるよう楽しみやモチベーションを高める活動を優先している.参加者同士の交流を大切にしている.
D 身体機能の向上につながるようなテーマを健康講話に多く設定している. ボランティアに参加者が依存しないよう,声掛けして役割を持ってもらったり,参加者から主体的に手伝ってもらうように留意している. 体操やストレッチを盛り込み,必ず身体を動かすようにしている. 全員が誰かと話して帰れるように,「つながり」を意識し,特定の参加者のみとの交流にならないように,グループわけで交流を促している.
E 身体面と精神面が互いに関係しあっていることの大切さを伝えながら,セルフケアの講話を取り入れるようにしている. 高齢になって役割喪失を感じている人が多いため,自分たちの教室であるという意識を高めるように働きかけ,教室に居場所や役割を自ら見出せるように関わった. 体操や筋トレなどを取り入れていたが,運動が好きではない参加者が多く,参加者の関心は低かった. 職員が参加者との信頼関係構築を大切にしながら関わった.参加者のモチベーションが高まるように働きかけている.
F 健康講話を盛り込んでいる. 認知症にならないためには,社会参加が重要であると何度も説明し,社会参加の希望がある方にはボランティア活動などを提案している. 自宅でできる体操を参加者に提示して,実際に取り組めたかどうかを確認するように働きかけている. 介護予防教室の開催頻度を月1回から2回に増やし,参加者の外出機会の増加や参加者同士の交流を促している.
G 健康講話を多く取り入れるようにしている. 横のつながりが強い地域の教室では,参加者にボランティアの役割を担ってもらえるような主体性を引き出す関わりをしている. 昨年度までは脳トレや創作を多めに行っていたが,今年度は体力測定に向けて動機付けしながら運動系のメニューを多く取り入れた. 教室後半に必ず茶話会の時間を設け,参加者同士が交流を図れるようにしている.
H 外部講師を招いた健康講話や,工作など介護予防につながると思われる活動を組み込んでいる. 参加者に担ってもらう役割は当番制を敷いており,職員は役割分担の内容を参加者に輪番制で指定している. 参加者の運動に対するニーズが高いため,体操を多く取り入れている. 教室の終了時に茶話会を盛り込むようにしている.

学習に関する満足度に分類されたプログラムとしては,健康づくりや介護予防に関する健康講話があり,全ての介護予防センターが取り入れていた.貢献に関する満足度に分類されたプログラムとしては,介護予防センターの職員が参加者に役割分担を提示することや,参加者が自ら役割を持つことを希望するように主体性を引き出す関わりがあった.また,参加者が希望した場合には教室内での手伝いや教室外のボランティア役割を提案し,社会参加の機会を促すという特徴がみられた.

健康・体力に関する満足度に分類されたプログラムとしては,教室のプログラムに必ず体操を組み込み自宅でできるような体操を参加者に促す,運動への動機付けをしながら体操に取り組むなど,参加者自らによる運動の習慣化が図られるような工夫を取り入れているものがあった.友人に関する満足度に分類されたプログラムとしては,教室の参加者同士が楽しく活動できる時間を作ることや,レクリエーションの編成グループを毎回変化させ幅広い参加者との交流を活性化させること,介護予防教室の開催回数を増やすことで参加者同士が顔を会わせる機会を増やして交流を促すような対応を行っていた.

3. 介護予防教室参加者の身体機能と社会活動の満足度

身体機能は握力と5 m最大歩行を測定し,その結果を表4に示した.対象者の握力の平均値は22.4±5.9 kg,5 m最大歩行の平均値は3.12±0.80秒だった.Dセンターの介護予防教室参加者の身体機能が最も高かった.

表4  介護予防教室参加者の身体機能
センター n 握力(kg) 5 m最大歩行(秒)
平均値±SD 平均値±SD
全体 422 22.4±5.9 3.12±0.80a
C 109 23.3±6.9 3.06±1.00b
D 15 25.2±6.8 2.75±0.45
E 39 22.6±5.0 3.10±0.54c
F 71 23.2±4.9 3.38±0.84
G 98 21.4±6.1 3.00±0.78
H 90 21.4±5.0 3.16±0.59

a n=404,b n=93,c n=37

社会活動の満足度の尺度得点の平均値,及び,4つの下位尺度ごとの平均値を介護予防センターごとに算出し,表5に示した.対象者の社会活動の満足度の尺度得点の平均値は50.7±9.2点だった.6つの介護予防センターのうち,Gセンターの尺度得点の平均値が52.4±9.7点で最も得点が高かった.学習に関する満足度はEセンターが16.3±2.0,他者・社会への貢献に関する満足度はGセンターが13.6±3.8,健康・体力に関する満足度はFセンターが11.5±1.9,友人に関する満足度はFセンターが12.5±1.9で最高得点だった.

表5  介護予防教室参加者の社会活動の満足度
センター n 尺度合計
(範囲:14–70)
下位尺度
学習
(範囲:4–20)
貢献
(範囲:4–20)
健康・体力
(範囲:3–15)
友人
(範囲:3–15)
平均値±SD 平均値±SD 平均値±SD 平均値±SD 平均値±SD
全体 408 50.7±9.2a 14.8±3.1b 12.7±3.8c 11.0±2.3 12.2±2.5d
C 109 49.7±10.0e 14.5±3.3 12.4±4.1 11.1±2.5 11.8±2.7
D 15 51.1±7.9 14.7±2.8 12.7±3.9 11.3±1.9 12.4±2.7
E 37 52.0±7.3f 16.3±2.0f 12.4±3.2 11.1±2.2 12.4±2.7
F 69 51.5±8.7g 14.5±3.4g 12.8±3.5 11.5±1.9 12.5±1.9
G 98 52.4±9.7h 15.4±3.1 13.6±3.8 11.4±2.3h 12.1±2.5h
H 81 48.5±8.4i 14.3±3.1j 11.8±3.6k 10.2±2.3 12.3±2.3l

a n=396,b n=401,c n=406,d n=404,e n=108,f n=36,g n=68,h n=97,i n=72,j n=75,k n=78,l n=77

4. 社会活動の満足度が高い介護予防教室のプログラム内容の特徴

3の介護予防教室のプログラム内容の特徴を踏まえ,表4の身体機能や表5の社会活動の満足度の傾向を分析した.

学習に関する満足度が高かったのはEセンターだった.Eセンターでは,身体面と精神面が互いに関係しあうものであるという知識を十分に説明し,介護予防に関する動機付けを行うことにより,学習の効果が高まるような配慮を行っていた.貢献に関する満足度が高かったのはFセンターとGセンターだった.Fセンターは,認知症の予防には社会参加による役割獲得が重要であることを繰り返し説明し,参加者から役割を持つことへの希望があった時に教室外の社会活動も含めてボランティアなどの情報提供を行うなど,参加者の主体性を大切にした関わりを行っていた.また,Gセンターでは,参加者にボランティア役割を担ってもらえるような,主体性を引き出す関わりを行っていた.

健康・体力に関する満足度が高かったのはFセンターとGセンターだった.Fセンターは,参加者が自宅でできる体操を実践できるように働きかけていた.また,Gセンターは,体操を取り入れる上での動機付けを十分に行っていた.握力と5 m最大歩行の結果が良好だったのはDセンターだった.Dセンターは,体操やストレッチを盛り込み,参加者が必ず身体を動かせるようにしていた.友人に関する満足度が高かったのはDセンターとEセンター,Fセンターだった.Dセンターは,特定の参加者のみとの交流にならないように留意し,グループ編成を行っていた.Eセンターは,参加者との信頼関係の構築を大切にした関わりを行っていた.Fセンターは,介護予防教室を月に2回の頻度で開催し,参加者同士の交流を図れるように意識していた.

介護予防教室参加者の社会活動の満足度の得点が高い介護予防センターが主催する介護予防教室のプログラムには,参加者の貢献意欲や習慣的な運動の動機付けを促すような特徴がみられた.

IV. 考察

1. 対象者の特徴について

対象者は後期高齢者が多く,女性が多い集団だった.また,要介護認定を受けていない者が大多数を占めており,主観的健康感については自身を健康であるととらえている対象者が多く健康度の高い集団だった.

社会活動の満足度の尺度得点について,先行研究(岡本,2010)における平均値は45.5±11.3点だった.本調査の対象者は先行研究と比較して平均年齢が高く,後期高齢者が多い特徴のある集団であるにもかかわらず,社会活動の満足度の得点が高かった.藤田(2004)は外出頻度が「週1回程度以下」であることの関連要因として年齢の高さを報告しており,高齢になるほど外出頻度が低い傾向があるとしている.本調査の対象者は高齢ではあるが,介護予防教室という社会活動の場に出向いて活動に参加できる元気な高齢者であったと考えられる.また,女性の高齢者では個人活動が活発な者ほど生活満足度が高いと報告されている(岡本,2008).本調査の介護予防教室は女性の参加割合がおよそ9割と高く介護予防教室以外の社会活動の場にも幅広く参加する者が多かったことから,社会活動の満足度が高かったと考えられる.

2. 教室参加者の社会活動の満足度が高い介護予防教室のプログラム内容に共通する特徴

参加者の学習に関する満足度が高かったEセンターでは,単に健康講話を実施するのみならず,身体的健康や精神的健康などの健康そのものの概念について整理して伝えるなど,健康について学ぶ上での姿勢に関する説明を十分に行っていた.参加者自身が介護予防や健康づくりを役立つものだと理解することを促すことや,教室外でも参加者自身が主体的に興味関心を持ちながら健康づくりを学べるような働きかけを行うという特徴がみられた.

貢献に関する満足度が高かったFセンターやGセンターに共通する要素として,参加者の主体性を引き出す関わりがあった.藤原ら(2016)は,各人が自主的に活動しなければストレスにこそなれ,生活機能低下への抑制効果は期待できない可能性があると述べており,支援者からの役割の一方的な押し付けは本人の貢献したい気持ちを高めるどころかストレスになる可能性もある.貢献への意欲を持つ参加者に教室外の社会活動の場も含む幅広い選択肢の中から本人の希望に応じた場への参加を促すことで,参加者が社会や地域にとって役立つ活動に取り組めるように支援するという特徴がみられた.

健康・体力に関する満足度が高かったFセンターやGセンターに共通する要素として,運動する機会を多く設けることや,運動を教室外でも自ら継続するための工夫があった.Fukasawa et al.(2016)によると,健康・体力に関する満足度について,月1回の活動はIADLの維持につながらないとされており,B区の介護予防センターが開催する月1回程度の介護予防教室の活動のみでは介護予防の効果は実感しにくい可能性がある.自宅でも運動を継続することの必要性を伝えること,参加者がなぜ運動することが大切なのかを動機付けることにより,教室外でも体力向上につながる活動に取り組むことを促すという特徴がみられた.また,参加者の握力と身体機能の結果が良好だったDセンターは,全ての教室プログラムに参加者が身体を動かす機会を盛り込んでおり,参加者の運動機会の習慣化に重要な役割を果たしていた可能性がある.

友人に関する満足度が高かったDセンター,Eセンター,Fセンターに共通する要素として,多様な参加者の交流を促すことを目的とした関わりがみられた.自主組織に参加する高齢者において,近所との付き合いの満足度が特に高い者は生きがいが高い傾向があることが報告されている(福田ら,2016).会場の周辺に住む近隣住民が多く参加する介護予防教室においては,教室で築く住民同士のつながりが教室参加時以外の住民の交流を促す可能性がある.参加者同士の交流は友人に関する満足度において重要であると考えられる.介護予防センターの職員が参加者に自由に交流してもらうことのみならず,意図的に参加者間の交流を促す働きかけを行うという特徴がみられた.

社会活動の満足度の得点が高い介護予防センターが主催する介護予防教室では,参加者に対する社会活動の動機付けや主体性を引き出すような関わりが共通してみられた.介護予防センターの職員による関わりは,参加者の教室以外の幅広い社会活動を促す関わりだったと言えるだろう.

3. 実践への示唆

保健師は介護予防を推進する地域づくりの観点からも,介護予防活動を担う委託機関に対して,参加者への社会活動の動機付けや主体性を引き出すような関わりができているかに着目して支援することが重要だろう.保健師の支援により,委託機関は介護予防教室以外の幅広い社会活動も踏まえて参加者を支援できる可能性があると考える.

平野ら(2012)は,保健師に求められる能力の一つとして,既存のサービスを見極めることや,情報を分析し住民のニーズや地域の課題をとらえるという住民の健康を念頭に置いた主体的な取り組みを挙げている.地方都市の市町村保健師においては委託機関に対する支援が重要であると共に,委託機関の介護予防活動を踏まえて介護予防に関する地域の健康課題を分析し,委託機関とともに介護予防に取り組むことが効果的な介護予防事業の展開のために重要だろう.

4. 本報告の限界

1つ目に,本報告はA市の委託機関である介護予防センターが主催する介護予防教室の参加者という社会活動の満足度がもとより高い対象者に調査を行ったことが想定されるため,結果の解釈には留意が必要である.2つ目に,本報告は横断的な調査であるため,介護予防教室のプログラム内容の実施が,参加者の社会活動の満足度を向上させるかどうかは検証できていない.今後は本報告の結果を踏まえ,継続的な縦断調査による因果関係の検証が必要である.

V. 終わりに

本報告では介護予防教室の参加者を対象に調査を行い,介護予防教室のプログラム内容の特徴を分析した.介護予防教室参加者の社会活動の満足度の得点が高かった介護予防センターの教室プログラムには,介護予防教室参加者の社会活動の動機付けや主体性を引き出すような特徴がみられた.保健師は介護予防を推進する地域づくりの観点からも,介護予防活動を担う委託機関を支援することが重要だろう.本報告に開示すべきCOI状態はない.

文献
 
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