Japanese Journal of Public Health Nursing
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Public Health Nursing Report
Data as the Basis for Business Goals by Outsource-type Comprehensive Community Support Centers, and the Specific Methods of Presenting These Data
Yuko FujimotoTadashi YamashitaChikage Tsuzuki
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2022 Volume 11 Issue 2 Pages 126-133

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Abstract

目的:地域包括支援センターが作成した事業目標(年度の活動目標)の根拠として用いたデータと提示方法の実態を明らかにすること.

方法:地域診断記録から根拠として再掲されたデータと事業目標が連動していた資料を対象にした.根拠とされたデータを出典元や収集方法に基づいて設定した5つの枠組みに分類し,質的・量的データごとに整理した.活用方法は具体的な提示方法を記述し,量的・質的データの補完状況をまとめた.

結果:事業目標の根拠には基本的な人口統計学的データや,相談票等を活用した自圏域の量的データが用いられていた.質的データにはインタビューや事業参加者の様子を観察したデータが収集されていたが,加工していない生データがそのまま用いられていた.

考察:他圏域と比較ができるように行政がデータを一括して提供したり,分析手法をサポートするなど,委託型センターが効果的にデータを活用できるような体制の検討が望まれる.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to clarify the actual status of data and presentation methods used as the basis for the Regional Comprehensive Support Center’s business goals (annual activity targets planned by the center).

Methods: This study analyzed data reproduced from the community diagnosis records that were used as the basis for business goals. These data were classified into five frameworks based on the source and collection method and arranged according to qualitative and quantitative categories. Regarding the method of use, the data presentation method was described according to each data type, and a summary of the status of complementing quantitative and qualitative data was provided.

Results: Basic demographic and quantitative data for the area were collected using consultation forms and used as the basis for the business goals. Interviews and data from intentional observation of business participants had previously been collected as qualitative data; however, raw data had been used directly with no processing.

Discussion: It is desirable to examine a system that enables the commissioned center to effectively utilize data, such as an administration that provides the data collectively, so that it can be compared with the regions which you cover with other regions and used to support analytical methods.

I. はじめに

地域包括支援センター(以下,センター)は,高齢者が住み慣れた地域で安心して過ごすことができるように,包括的および継続的な支援を行う地域包括ケアを実現するための中心的役割を担うべく,介護保険法に基づいて設置された(厚生労働省,2006).急速な高齢化とそれに伴う認知症高齢者の増加などを背景に,医療・介護・予防・住まい・生活サービスが連携したより強固な包括的な支援(地域包括ケア)が掲げられ(厚生労働省,2012),日常生活圏ごとの地域ニーズや課題を踏まえた計画を立案し,地域住民と一緒になって地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)を構築していくことが求められている.

センター設置数は年々増加しており,直営型地域包括支援センター(以下,直営型センター)と委託型地域包括支援センター(以下,委託型センター)の比率をみると7割以上が市町村からの委託となっている.しかし,委託型センターにおいては,業務量が膨大であることや職員の不足が運営上の課題として指摘されている(三菱総合研究所,2016).また,委託型センターで活動する保健師の現状をみると,経験3年未満の保健師が半数以上を占めており(三菱UFJリサーチ&コンサルティング,2018),直営型センターに比べて経験年数の短い者の割合が有意に高い(日本看護協会,2014).加えて,保健師配置数は平均1名であり,同職種がいない職場環境で活動している(三菱UFJリサーチ&コンサルティング,2018).

地域ニーズや課題を踏まえた活動を展開するためには,PDCAサイクルの初段階として地域診断を行い,活動の根拠となる地域の現状や課題を明確にすることが基本となる(日本公衆衛生協会,2011)が,行政に属さない委託型のセンターは行政が所管している各種統計データへのアクセスが難しいこと,また前述したセンターの状況下で地域診断をコンスタントに実施していくことは容易でないと推察される.

これに対し,委託型センターを対象に地域診断研修を実施する自治体も徐々に見られており,内容やプログラムの有効性について報告されている(安保ら,2018近藤ら,2019村山ら,2013岡田ら,2015).しかし,委託型センターが地域特性に応じた活動にむけて,どのように地域診断を行い活用しているのかについて,その実態を明らかにした研究は見当たらない.

そこで本稿では,神戸市のセンターが事業目標を設定する際に行った地域診断において,どのようなデータを収集し根拠として用いていたのか,また,それらのデータをどのように提示していたのかについて実態を明らかにすることを目的とした.このことにより,委託型センターが行う地域診断を自治体保健師が支援していくための具体的示唆が得られると考える.また,センターにおける地域診断教育方法の確立に寄与できると考える.

なお,神戸市のセンターは全て委託型であり,ここでいう事業目標とは,地域支援事業や保健事業ごとの目標ではなく,センターが年度単位で優先的に取り組む課題に対する目標である.また,課題とは,健康課題にとどまらず,地域包括ケアシステムの構築に関する課題も含む.センターは年度初めに,その年度に取り組む課題,課題の根拠として地域診断から再掲したデータ,事業目標と活動計画を記載した様式を市に提出することになっている.センターが地域特性に応じた事業や支援を展開していくためには,その上位目標となる事業目標に地域特性が反映されていることが必要である.

II. 方法

1. 活動内容

神戸市は,全国政令指定都市における高齢化率が第3位(総務省統計局,2016)であり,2030年には75歳以上の後期高齢者が20.4%を超えると予測されている(神戸市都市計画総局住宅部住宅政策課,2012).そのため,地域包括ケアシステムの中心的な役割を担うセンター職員の力量アップが必要とされていた.

これに対し,神戸市ではセンターが事業目標を検討する際に地域診断を実施し,根拠に基づいた地域の課題を抽出し,その解決にむけた目標を事業目標として設定し,事業目標に沿った事業や支援計画が立案できるようになることを目標とし,2012年度から全センターに対する地域診断研修を導入し,3年間で市内76すべてのセンターが受講を終えた.地域診断の方法論として,本研修ではCommunity as Partnerモデルを用い,地域看護診断のプロセスに沿って,情報収集,アセスメント,実践,評価のステップを踏みながら,それぞれのセンターにおける活動計画の立案と実践内容の中間報告までを研修期間内に行った.研修内容は,センターが業務内で用いるツールを活用した情報収集方法を紹介する等,センターの特性を踏まえた内容になるよう工夫した.研修は4回で構成され,講義とグループワークを基本としながら,各回の間に地域診断の実践を取り入れた.

2. 対象と方法

1) 分析対象

2014年度に神戸市内のセンターを対象に実施した地域診断研修を受講した32センターから提出された地域診断記録,様式の「地域診断から再掲したデータ」と「事業目標」を用いた.課題を抽出する際に根拠として地域診断記録から再掲されたデータが,事業目標と連動していた24センター(75%)の資料を分析対象とした.

2) 分析方法

センターが業務の中でデータ収集できるツールや収集方法に則ってデータの種類を分類し,質的・量的データごとに整理して特徴を明らかにすることにより,実践で有用かつセンター支援の在り方を検討する資料になると考え,次の手順でデータを取りまとめた.

まず,センターが立案した事業目標の根拠として,地域診断から再掲されたデータを抽出し,出典元となるツールや収集方法に着目して分類した.次に,それらをデータの基本的な種類である,質的データと量的データに整理した.

分類の枠組みは,センターに実施したデータ収集方法に関するアンケートの結果(神戸市看護大学・神戸市介護保険課,2015)を参考にし,センターの通常業務の中で想起されるツールや収集方法について,公衆衛生看護を専門とする研究者4名,委託型センターを統括する自治体保健師2名から成る専門家パネルで検討した.その結果,既存の統計データ,計画的調査,日常業務で得たデータ,センター内資料の分析,事業やイベント等活動実施結果の5つのカテゴリーが導出された.以下に定義を示す.本稿では,基本的にこのカテゴリーに沿ってデータを分類しつつ,分類する際はこれらの5つ以外が存在する可能性も排除しないよう留意した.また,どのようにデータを提示していたかを記述した.

既存の統計データ:政府等の刊行物,市の統計情報やe-Statに掲載されている2次データ,または掲載されているデータから算出できるもの

計画的調査:住民へのアンケートなど,必要なデータを得るために,センターが調査を計画実施して収集したデータ

日常業務で得たデータ:家庭訪問や地域住民との会話,地区探索等,日常的に遂行する業務の中で職員が認識したもの

センター内資料の分析:相談表など,センター内で用いている既存の様式から収集できるもの

事業やイベント等活動実施結果:地域支援事業や保健事業等の事業を実施した結果やその事業を評価するために用いたもの

3. 倫理的配慮

本研究は神戸市看護大学倫理委員会の承認(承認日:2014年5月26日,承認番号:2014-1-04-2)を受けて実施した.初回の研修会において,受講者に対して,本研究への参加は自由であること,参加しない場合でもセンター活動に何ら不利益とならないこと,また,センターが特定されないよう配慮することを口頭で説明し,書面にて同意を得た.

III. 活動結果

1. 量的データの種類と活用方法(表1

5つのカテゴリーのうち,量的データが抽出されたのは「既存の統計データ」「計画的調査」「センター内資料の分析」「事業やイベント等活動実施結果」であった.

表1  量的データの種類と活用方法
データの種類 データ元と収集方法 具体的なデータ項目 データの提示方法
既存の統計データ ・政府統計の総合窓口e-Stat
・自治体のHP
・高齢化率
・高齢者数
・前期高齢者人口
・後期高齢者人口
・圏域と市・全国で比較
・圏域内の小地区間で比較(横断比較)
・同一地区を経年的に比較(縦断比較)
・データをグラフや一覧表にして可視化
・圏域内人口を100とした場合に占める人数を算出
・政府刊行物 ・65歳以上認知症有病率
計画的調査 支援対象者に聞き取りとアンケート
・2次予防事業対象者
・見守り対象者
・老人会参加者
・給食会参加者
・介護保険非利用高齢者
・特定の居住地の居住者(マンションなど)
・性別
・居住形態
・家族構成
・移動手段
・外出頻度
・相談相手の有無
・かかりつけ医の有無
・認知症に関する不安
・認知症に対する関心
・介護保険に対する関心
・イベントへの参加希望
・健康教室認知度
・地域行事の活発度
・単純集計
・割合の算出
支援提供者にアンケート
・商業施設関係者
・地域住民
・民生委員
・自治会長
・支援者養成講座参加者
・医療機関関係者
・センター認知度
センター内資料の分析 ・相談票 ・センター相談時の重症度
・相談種別
・新規相談者の居住分布
・相談件数
・相談内容
・居住地ごとにマッピング
・単純集計
・実績報告書 ・男性介護者数
・見守り拒否率
・見守り世帯の割合
・ボランティアグループ数
・見守り応援団登録数
・単純集計
・割合の算出
・その他 ・介護認定見込み人数
・予防プラン利用者数
・単純集計
事業やイベント等活動実施結果 事業実施の結果や評価として収集
・支援者養成講座や研修
・地域のイベント
・介護リフレッシュ教室
・給食会,ふれあい喫茶
・支援者講座の参加者数
・支援者講座参加者の理解度
・行政やセンターの周知度
・支援者の累積養成数
・参加者の居住場所
・サポートネットの協力事業所数
・地域ケア会議の開催数と関係機関の種別
・事業所訪問回数
・介護予防啓発活動回数
・警察との連携回数
・認知症講座勉強会の参加人数と参加者の年齢層
・単純集計

「既存の統計データ」では,高齢化率もしくは高齢者数,世帯数や世帯割合など,高齢者に関わる基本的な人口学的構成を示すデータが用いられていた.

必要なデータを得るために,「計画的調査」を実施したセンターでは,支援対象者である高齢者自身と,民生委員や医療機関関係者などの支援提供者それぞれの立場の方に調査が実施されていた.調査方法は,個別訪問時や給食会や座談会の場を活用したヒアリングとアンケートであった.支援対象者の場合,居住形態,家族構成など対象者の属性に関わる内容,移動手段などの生活背景に関する内容,介護や認知症など対象者に生じやすい健康課題への関心,介護保険制度など高齢者を支援する社会資源の認知度や関心などを量的データとして得ていた.

「センター内資料の分析」では,相談件数だけでなく,相談時の重症度や相談の種別など,もともとセンターが相談時に用いている相談票の項目を活かして量的データを得ていた.また見守り世帯の割合やボランティアグループ数など,実績報告書を活かしてデータを得ていたセンターもあった.

「事業やイベント等活動実施結果」では,支援者の養成数や事業への参加者数だけでなく,共同開催に係る連携状況を示す指数として,警察との連携回数や協力事業所数,事業所への訪問回数などを用いたセンターもあった.

データの提示方法を見ると,単体ではなく他の地域との比較を行っていた.比較対象として用いていたのは神戸市,全国,圏域内の地区などであった.縦断的な比較としては,同一地区を経年的に比較して近年の傾向を分析し,課題を抽出していた.比較した結果は図表化や一覧表にするなど可視化し,比較検討や分析が容易になるよう工夫しているセンターもあった.圏域内人口を100とした場合の年齢別人口を算出して地域の年齢構成割合を具体的にイメージしやすくしているセンターもみられた.

2. 質的データの種類と活用方法(表2

5つのカテゴリーのうち,質的データが抽出されたのは,「計画的調査」「日常業務で得たデータ」「事業やイベント等活動実施結果」であった.

表2  質的データの種類と活用方法
データの種類 データ元と収集方法 具体的なデータ項目 データの提示方法
計画的調査 支援対象者に聞き取りとアンケート
・2次予防事業対象者
・見守り対象者
・老人会参加者
・給食会参加者
・介護保険非利用高齢者
・特定の居住地の居住者(マンションなど)
・住みやすさ
・地域の良い所と不便な所
・近隣との付き合いや関係性
・認知症に関する不安
・介護予防事業への参加希望,希望する内容
・地域の課題と感じていること
・生データを掲載
支援提供者に聞き取りとアンケート
・商業施設関係者
・地域住民
・民生委員
・自治会長
・支援者養成講座参加者
・医療機関
・地域で起こっている課題
・高齢者の実態をどのように感じているか
・高齢者をどのように支援していく必要があると感じているか
・支援していく上で困っていること
・自分達にできること
・センターの周知度や連携に関すること
日常業務で得たデータ ・住民の声や様子 ・マンションの管理人や理事会役員が感じている高齢者に関する課題
・高齢者以外の住民におけるセンターの周知状況
・地域内の認知症や精神疾患への理解の様子
・高齢者のライフスタイルを観察
・個別支援の中で得た傾向や気づき
・物理的環境の様子 ・圏域の住宅特性(住宅規模やエレベータ設置有無)
・交通手段の利便性
事業やイベント等活動実施結果 ・支援者養成講座や研修
・地域のイベント
・介護リフレッシュ教室
・給食会,ふれあい喫茶
・事業の参加者の意欲や主体性の様子
・事業やイベント実施時の参加者の交流の様子
・訪問ボランティア交流会の状況
・各組織間のダイナミクス
・事例検討会開催時の参加職種と事業評価
・大学との連携状況

「計画的調査」では,量的データの収集と同様,ヒアリングやアンケートを用いて,支援対象者および支援提供者双方から得たデータを活用していた.支援対象者に対しては,住みやすさなどの地域の利便性に関すること,認知症に関する不安等の高齢者の健康課題に関する事項について調査を実施していた.一方,支援提供者に対しては,地域で起こっている課題や高齢者の実態など地域の理解に関する内容,支援していく上で困っていることや支援者としてできること等が調査されていた.

「日常業務で得たデータ」はすべて質的なデータであった.訪問や個別相談などのセンター業務の中で関わる地域の関係者の声や高齢者の生活の様子,圏域の物理的環境を意図的に観察することによって得られたデータであった.

「事業やイベント等活動実施結果」では,給食会などの支援対象者向け事業の参加者の交流の様子,支援者養成講座やボランティア交流会などの機会を通して支援提供者の意欲や主体性が観察されていた.さらに,各組織が参加する事業では,組織間のダイナミクスを観察するなど,センターが展開する様々な事業や活動の機会を活かして,高齢者だけでなく,地域の人的資源となりうる様々な人を対象に質的データが収集されていた.

質的データの活用方法をみると,すべて生データがそのまま用いられていた.

3. 根拠としたデータの組み合わせ方

データの活用方法をみると,量的データと質的データを組み合わせて根拠としているセンターが9センター(37.5%)あった.組み合わせの例としては,圏域内の小地区ごとの高齢化率を比較検討した結果と地区視診から得た坂道の状況を併せて,高齢者の外出に係る事業目標が設定されていた.また,圏域の高齢化率の経年比較の結果と自治会長に喫茶ボランティアの課題に関するインタビューを実施し,住民主体の事業運営継続に関する事業目標を設定したセンターもあった.さらに,圏域の各小地区の高齢化率とセンターへの相談時の重症度を地図上にマッピングし,職員が観察した住宅特性等の物理的環境と併せることで,早期発見・早期支援の仕組みづくりに関する事業目標を設定したセンターも見られた.いずれも,量的データを質的データで補完する形で組み合わせていた.ある圏域のセンターを具体例として示す.この圏域では,「既存の統計データ」から,市全域と比較して高齢化率が高いこと,要支援1・2に該当する高齢者が多いという圏域の特徴を根拠としてあげていた.さらに,「計画的調査」で得た民生委員が捉える高齢者の実態,日常業務の中で得た朝夕に学校を行き帰りする子どもとその親を多くみかける,子どもを通した活動が活発な地域であるといった生活の様子や地区組織のパワーバランスに関する質的データを根拠としてあげ,これらを総括した結果,子ども世代を通した高齢者見守り体制をつくるという事業目標を設定していた.

IV. 考察

1. 委託型センターが用いていたデータと提示の仕方

センターは高齢化率や高齢者人口,世帯数等,地域に暮らす高齢者や家族を人口統計学的な視点から捉えるデータを用いて,地域の高齢者の特徴や傾向を把握していた.量的データは,誰でも共通に理解できるデータであるため,人々の健康や生活の実態を客観化でき,比較することで地域の特徴を表現しやすい(麻原,2018).委託型センターが用いていたデータは,圏域の高齢者の実態を客観的に示すための基本的なデータであり,図表化や横断的・縦断的な比較を行うことで地域の特徴を俯瞰的に捉えていたと考えられる.また,これらのデータは,2次資料として,e-Statや各自治体のホームページで開示されている統計情報から比較的容易に入手できるため,委託型センターでも活用しやすかったと思われる.

センターは,これらの基本的なデータ以外に,「計画的調査」や「日常業務」で得たデータなど,より詳細に圏域の特性を表すデータを根拠として用いていた.近藤ら(2019)は,地域診断を実施するスキルの獲得内容の一つとして,「多様な手法での情報収集力」をあげている.センターは,高齢者の総合相談窓口として身近で住民支援を行うからこそ収集可能な高齢者の健康状態,生活の様子,街の環境,住民の声や認識などについて,業務で使用する様式を活かしてそこからデータを抽出したり,観察やアンケート,インタビューによって根拠となるデータを集めたりしていた.

また,馬場ら(2016)は,自治体保健師による質的データ活用技術として,量的データが示す健康課題を質的データによって具体化する技術をあげている.本研究でも様々な質的データを収集し,量的データを質的データで補完することが行われていた.地域集団の特徴や傾向を表すデータと住民に身近な存在だからこそ得られる詳細な質的データをあわせて用いることで,センターが担う小地域ならではの地域特性を反映した課題の抽出,事業目標の設定につながっていたと考える.

一方,量的データを質的データで補完していたセンターは半数以下にとどまっていた.田中(2012)は委託型センターにおける包括的支援事業が進展しない原因の一つとして職員のスキル不足をあげ,対個人のミクロレベルの相談支援だけでなく,地域社会全体の抱える課題を把握し解決に導くマクロレベルの視点と能力を持つ必要性について述べている.また,センターの保健師が今後高めたいスキルとして,8割近くが「地域の健康課題を分析し活動に反映する」をあげている(日本看護協会,2014).委託型センターの場合,委託元の自治体保健師の役割の一つに,委託先の質の維持・向上に関わる支援が含まれている(鳩野,2006)ことから,地域特性の把握を深化させるデータの組み合わせ方や用い方を自治体保健師が支援することにより,地域の実状に即した事業目標の導出につながると期待される.

今回,事業目標の根拠として,支援の直接的対象者である高齢者自身に関するものにとどまらず,高齢者を支援する支援提供者に関わるデータが用いられていることも特徴的であった.特に,支援提供者については,その対象は,地域住民だけでなく商業施設や医療機関関係者まで多岐にわたっていた.これは,センターが地域づくりを意図し,地域の社会資源や人材資源に着目していたと考えられる.2015年,介護保険法改正に伴い,地域ケア会議の推進が法律上位置付けられ,医療・介護等の多職種や地域の支援者との協働体制の強化が明確化された.また,センターの機能は高齢者への直接支援にとどまらず,介護予防・日常生活支援総合事業における各種事業の運営,高齢者の見守り体制の構築などが地域主体で取り組めるよう,後方支援する役割が重視されている.センターでは高齢者をとりまく課題を地域が主体的に解決できる仕組みをつくることを目指し,地域の強みとして地域の支援者を捉え,その方々がどのように高齢者の実態や課題を感じているかを事業目標の根拠としていたと考えらえる.

2. データの有効活用に向けて

委託型センターの場合,センター単独でe-Stat等の人口統計の基本的データを比較検討することは可能だとしても,それ以外の自治体が持つデータへのアクセスには限界がある.また,「計画的調査」で得られたデータは,自圏域のみでの活用にとどまっており,他圏域との共有や活用には至っていなかった.

2016年,官民データ活用推進基本法が施行され,地方公共団体を含めた様々な主体が保有するデータの適正かつ効果的な利用を推進することが決定された.データの利活用に向けて,総務省からガイドブックが示され,これまでの行政サービスは,特定の大きなニーズを対象にしたものが多くあったが,今後は,さらに細かな情報を把握することで,住民ひとりひとりのニーズに応じたサービスを提供することが重要になってくると述べ,そのためにデータを有効活用することの必要性を示唆している(総務省情報流通行政局,2018).しかし,現状では,行政が保有する多種多様なデータが,部局・分野を横断して有効活用されているとは言い難い状況がある.

量的データをみると,2次データとして入手可能なデータは他圏域との比較や,自圏域での経年比較を行っていたが,「計画的調査」で入手したデータは他圏域との比較までは行われておらず,自圏域の特徴を識別するまでの活用には至っていなかった.また,分析方法をみると図表化や記述統計にとどまり,統計学的な分析手法を用いた比較や関連要因の検討は行われていなかった.近藤らの先述の調査(2019)において,地域診断を実施するスキルの獲得内容として「情報の活用・吟味力」があげられているように,多様な手法でデータが示され,地域特性をより明確に表したデータから課題を抽出し,活動の根拠として選択できることが求められる.しかし,委託型センターの場合,設置主体のほとんどが社会福祉法人や社会福祉協議会等であることから(三菱UFJリサーチ&コンサルティング,2018),統計や情報に関する部局や専門の職員を有する自治体と異なり,独力でデータを集約したり統計学的分析まで行ったりすることは難しいと推察される.

また,質的データの活用においては,その殆どが生データでそのまま用いられており,カテゴリー生成を行うなどはされていなかった.馬場ら(2016)が,地域の健康課題明確化に向けた質的データ活用技術として「質的データによって健康課題を実在化する技術」をあげているように,健康課題の抽出にあたり質的データは根拠として有用である.センターでは,住民の様子を側で感じ,声を聴く機会が多いからこそ得られる,豊富な質的データが収集可能である.地域特性を反映した課題を抽出し事業目標につなげるためには,質的データについても,データを有効に活用できるサポート体制が必要である.例えば,よく用いられる内容や必要性の高い内容とデータの収集方法を提示したり,データのカテゴリー化や量化するスキルを行政保健師がサポートすることで,質的データの活用可能性が向上すると考えらえる.

今後,委託型センターが地域診断の際に用いる可能性が高いデータについては,行政が一元的に集約し,各センター圏域と比較ができるようにデータを一括して提供したり,カテゴリー化や統計分析等の手法をサポートしたりするなど,委託型センターが効果的にデータを活用していけるよう体制の検討が望まれる.

3. おわりに

本研究では,データ分類の枠組みとして,専門家パネルにより5つのカテゴリーを設定した.このカテゴリーは,委託型センター業務の中でデータ収集が可能と考えられるツールに基づいて決定したが,1市のセンターに限局されており,他市では別のツールが存在する可能性がある.また,本研究では,地域診断研修を受講したセンターから提出された様式を分析対象とした.研修では教育効果を高めるため,グループワークや発表会を導入していた.そのため,他センターが用いていたデータの種類や活用方法を自圏域に取り入れるなど,根拠としたデータや活用方法に相互作用の影響がある可能性を否定できない.

以上の限界はあるものの,センターが地域特性に基づく活動に向けて,どのようなデータを収集しどのように提示しているか,その実態が明らかにされたことにより,今後,センターの地域診断や地域診断を活かした活動を支援する方策について検討するための基礎的資料が提示できたと考える.

謝辞

本研究の実施にあたり,地域診断研修後,事業目標の使用を許諾いただきました地域包括支援センターの皆様,研究に協力いただいた神戸市保健師の森井文恵氏,那須野愛子氏に深謝いたします.本研究は,2014年度神戸市看護大学「地(知)の拠点整備事業(COC)」共同研究の助成を受けて実施した.

本研究に開示すべきCOI状態はない.

文献
 
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