Japanese Journal of Public Health Nursing
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ISSN-L : 2187-7122
Research Article
Characteristics of the Process by which Resident Members of Community Organizations Become Aware of Community Issues
Chieko YamashitaTomoko Fujii
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2022 Volume 11 Issue 2 Pages 99-107

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Abstract

目的:住民組織に属するメンバーによる地域課題の捉え方の特徴を明らかにし,行政保健師との協働への示唆を得る.

方法:行政協力組織に属するメンバーを対象にグループインタビューを実施した.逐語録から地域課題の捉え方に関する内容を抽出しカテゴリ化した.

結果:研究協力者は3住民組織11名で平均年齢は71.5歳であった.住民組織メンバーは,【日常の中で人々の暮らしを経年的に把握する】,「高齢者」「男性」などに着目し【暮らしの困りごとから課題を見立てる】,さらに心配な高齢者に焦点をあて【住民の命を守るための課題を掘り下げる】ことを行っていた.

考察:特徴として,住民との人間関係を土台に相互扶助的な関わりのある範囲を重視し,困りごとに対応した経験で培われた枠組みから課題を見立てていた.住民組織メンバーの捉える生活に密着した地域課題と行政保健師の専門的判断を重層的に共有することが協働の基盤となると考える.

Translated Abstract

Objective: This study aims to elucidate the characteristics of the process by which resident members of community organizations become aware of community issues and to obtain ideas for cooperation with public health nurses.

Methods: Group interviews were conducted with members of community organizations supported by the government. Statements related to awareness of community issues were extracted from the transcribed interview data and organized into categories.

Results: Eleven participants were from three community organizations who had a mean age of 71.5 years were included. Participants “were acquainted with the daily life of members of their communities for several years” and “evaluated issues from the perspective of daily life issues” focusing on older people and men. They also “investigated issues further to protect the lives of community residents” by focusing on older people who may have other troubles.

Discussion: The members of the community organizations are typical in that they evaluated and became aware of issues based on the framework that they developed from their experience with community residents’ problems while valuing mutual cooperation based on the relationships with community residents. We concluded that cooperation between community organization members and public health nurses needs to involve community issues relevant to peoples’ lives from the members’ perspective as well as professional evaluations of public health nurses.

I. 緒言

日本の高齢化率は,1970年に7%を超え,2020年には28.8%へと急速に高齢化が進んでいる.また,後期高齢者の総人口に占める割合は14.9%と増加しており,前期高齢者の割合を上回っている(内閣府,2021).約8割の高齢者は70歳半ばまでは一人暮らしができる程度に元気だが,80歳,90歳と年を取るにつれて徐々に多くの手助けが必要になってくる(秋山,2015).人々の安心した暮らしを守るために,住民の自助や互助を基盤とした地域づくりが求められており,互いに見守り支え合う住民の自活的な組織活動の活性化を促す意義は大きい(栁澤ら,2009).

住民組織活動は,明治時代の行政主導の環境衛生の改善を目的とした活動がはじまりであり,鼠族昆虫駆除,性病・結核・栄養対策等々が主で住民の意思を大切にした民主的な取り組みの芽生えはきわめて少数だった(松下ら,1984).1960年代半ば頃からは,公衆衛生に関する健康問題の多くは解消され,生活習慣病が主要な健康問題になっていった(藤本,2001).このように,住民組織のはじまりは行政主導の活動が主であったが,1978年国民健康づくり対策で,行政から委嘱された保健推進員等の組織がつくられ,住民が主体となった地域の健康課題解決に向けた取り組みが展開されていった(曽我,2016).現在では,全国に様々な住民組織があり,その目的に合わせた活動を展開している.地域課題を改善するために活動する住民組織としては,行政との深い関係性を持つ保健福祉計画策定委員会などの委員組織,次いで自治会などの地縁組織,もっとも住民の主体性が強い地域ボランティア組織が活動している(麻原,2009).

これまで行政に所属する保健師(以下,行政保健師)は,行政から委嘱を受けて活動する保健推進員や食生活改善推進員などと協働し保健活動を続けてきた.これらの住民組織は,自主的な活動や自治体の保健事業を通して地域の健康づくりの担い手として活動してきた(佐伯,2014,p. 56).住民組織の活動には地域の実情に即した方法や住民自らが主体的に課題解決に取り組む過程(合田,2020)があり,行政の依頼に沿って活動する一方で,地域課題を理解することが活動の動機づけとなる(麻原ら,2003).住民組織の主体性に関する先行研究では,健康づくりは住民自身の課題であるという捉え方の変化が主体的な健康づくり活動の基盤となる(髙橋ら,2010)ことや住民の主体性獲得の要件として情報の共有があり,その中核には“話し合い”がある(山谷ら,2016)ことが明らかにされている.すなわち,住民組織が主体的に活動していくためには,そこに属する個人の住民(以下,住民組織メンバー)が,地域の状況や課題を自ら認識することが重要であると考えられる.しかし,住民組織活動の主体性に関わる研究は見られるが,住民組織メンバーがどのように地域の情報を得て,地域課題を捉えているかは明らかとなっていない.住民組織メンバーの考える地域課題は住民の生活実態からのものであり,専門職が考える地域課題は専門的判断も含めたものになる.双方の視点で地域課題を捉えることは行政保健師と住民組織が協働するための根拠となり,パートナーとしての協働方法の構築に寄与することができると考える.

そこで本研究は,住民組織メンバーによる地域課題の捉え方の特徴を明らかにし,住民組織メンバーと行政保健師との協働への示唆を得ることを目的とする.

II. 研究方法

1. 用語の定義

住民組織:佐伯(2014, p. 54)を参考にし,「地域の健康課題や生活課題解決を共通目的とし活動を行っている地域住民で構成されている組織」とする.地域には複数の住民組織があり,町内会のような全戸加入の包括組織,子ども会や婦人会等の社会階層別組織,民生委員児童委員協議会や市政協力員,保健推進員等の行政協力組織,非営利組織(NPO)等に分類される(山崎,2009).

地域課題:佐伯(2018)を参考にし,「自分の住む地域の健康と生活に焦点を当てて,その実際の状態から支援の必要性があると考えられる状態」とする.

地域課題の捉え方:「情報収集の視点や判断の方法,地域課題を認識する方法」とする.

2. 研究デザイン

質的記述的研究デザイン

3. 研究協力者

行政保健師と協働し地域の健康課題や生活課題解決を目的に活動している行政協力組織に属する住民とする.

4. 対象の選定方法

行政保健師と協働し地域の健康づくりを担う住民組織は多く,それぞれの組織によって活動内容や性質に違いがあることが予測される.本研究では,住民組織メンバーによる地域課題の捉え方の特徴を明らかにするために,行政から委嘱された立場で,行政保健師と協働し地域の健康課題や生活課題解決を目的に活動する行政協力組織を研究対象とした.行政協力組織に属する住民は,その活動の性質から自らが暮らす地域の情報や課題を捉えていると考えられる.

住民組織の選定は,機縁法を用いて5市町村の住民組織担当保健師に依頼し,2件は辞退され,3件の市町村から承諾を得た.研究協力者の条件は,住民組織メンバーとして1年以上の活動経験があり,年3回以上行政保健師と関わりを持ち活動を行っていることとした.また,住民組織のリーダーを必須とせず,1つの住民組織から3~4名の選出を依頼した.住民組織担当保健師の内諾を得た後に市町村の首長または住民組織担当課の長に文書で協力を依頼した.研究協力者に対しては,文書と口頭で研究協力を依頼し,文書で同意を得た.

5. データ収集方法

データの収集期間は2019年7~8月であった.インタビューガイドに基づき,グループインタビューを実施した.

研究協力者の基本属性は,年齢,性別,職業,住民組織活動の経験年数について情報収集を行った.また,インタビュー内容は,「住民組織の活動内容」「地域を知るために重要と考える情報とはどのようなことか」「住民組織活動を行うときに,地域の情報をどのように得ているか」「地域課題をどのように捉えているか」とした.

グループインタビュー法(安梅,2001)は,グループの意見を構築できることや相互作用による意見の引き出しができることが特徴とされ,本研究で住民組織メンバーの地域課題の捉え方の特徴を明らかにしていくために適していると考えた.インタビューは,研究者1名が研究協力者の集まる場所に出向いて実施した.グループインタビューは,それぞれのインタビュー内容ごとに一人ずつ意見を聞いた後,全体で自由に意見を出し合えるように進行した.プライバシーを守るために個室を借用し,研究協力者が普段通りに会話ができるような雰囲気をつくる配慮を行った.研究協力者には事前に研究の趣旨を文書で説明し,インタビューの場で文書と口頭で説明し同意書により同意を得た.インタビュー回数は1組織につき1回,時間は90分程度とし,ICレコーダーへの録音の同意を得た.

6. データの分析方法

安梅(2010)のグループインタビューの分析方法を参考に質的記述的分析を行った.録音された記録から逐語録を作成した.逐語録を精読し,地域課題の捉え方に関する内容について,可能な限り研究協力者の言葉を使うようにしコード化した.最初にグループごとに分析を行った.グループ別の分析は,コードの類似性や相違性からサブカテゴリを生成した.次に3グループの複合分析を行った.複合分析とは,複数のグループインタビューを統合してまとめることである.複合分析には各グループのサブカテゴリを使用し,3グループのサブカテゴリの類似するものをまとめ,中位カテゴリを生成し,中位カテゴリの共通性から抽象度を上げカテゴリを生成した.どのグループから生成されたものかが明らかになるように,サブカテゴリにA~Cのグループ記号を記載した.

分析した結果の真実性を確保するため,研究協力者11名全員にメンバーチェッキングを行った.研究協力者に分析結果を郵送し,1週間の期間を置き電話での確認を行った.分析結果は複数の参加者の経験を抽象化したものであり,自分や周囲のメンバーの経験を加味して考えたときに納得できるかを確認した.その結果,すべての研究協力者から納得できると回答を得た.

7. 倫理的配慮

研究協力者には,研究の主旨と方法を口頭と文書で説明した.研究への参加は自由意志であり,協力できない場合や途中で参加を中断した場合に不利益が生じないことを説明し,了承を得てから同意撤回書を事前配布した.個人情報の保護についても説明し同意書に署名を得た.

本研究は,旭川医科大学倫理委員会の承認を受けて実施した(承認番号18281,承認日2019年5月10日).

III. 結果

1. 研究協力者の概要

研究の同意が得られた対象者は,3住民組織11名であり,平均年齢は71.5歳であった(表1).

表1  研究協力者の概要
住民組織の概要 市町村の概要 研究対象者の概要
年齢 性別 住民組織活動年数 組織での役職 職業
他の住民組織
活動経験
A:生活支援体制整備事業協議体
設置 市町村 運営 市町村
総人数 約10名
町内の団体から推薦を受け選出
〈活動内容〉
目的:地域の生活課題解決
・地区巡回型のまちづくりカフェの運営
・定期的に会議を開催し地域の課題や取り組みを検討
〈行政の保健師との関わり〉
地域の情報や課題の共有
コーディネーターへの情報提供支援
活動企画や活動評価の支援
人口約5,000人
高齢化率 約41%
出生数 約30人
死亡数 約100人
基幹産業は水産業
60歳代 女性 1年 なし 自営業
社会福祉協議会理事
70歳代 女性 1年 なし 無職
民間団体
60歳代 女性 1年 なし 主婦
食生活改善委員
60歳代 男性 1年 なし 無職
町内会長
B:保健推進員
設置 市町村 運営 市町村
総人数 約60名
町内会から選出
〈活動内容〉
目的:地域の健康課題解決
・月1回介護予防事業のサロン運営
・健診受診勧奨や健康に関する資料配布等健康に関する周知活動
・研修会への参加活動
〈行政の保健師との関わり〉
地域の情報や課題の共有
活動計画や活動評価の支援
地域の困りごとを持つ住民の報告
研修等での健康に関する知識提供
人口約20,000人
高齢化率 約41%
出生数 約80人
死亡数 約350人
基幹産業は農業
旧産炭地
70歳代 女性 29年 会長 主婦
民生委員
70歳代 女性 4年 理事 無職
町内会役員
70歳代 女性 9年 理事 主婦
民生委員
70歳代 女性 11年 理事 主婦
町内会役員
C:保健推進員
設置 市町村 運営 市町村
総人数 約100名
町内会から選出
〈活動内容〉
目的:地域の健康課題解決
・月に1回程度高齢者サロンや親子広場の運営,健康講座等の周知活動
・研修会への参加活動
〈行政の保健師との関わり〉
地域の情報や課題の共有
活動計画や活動評価の支援
地域の困りごとを持つ住民の報告
研修等での健康に関する知識提供
人口約80,000人
高齢化率 約35%
出生数 約430人
死亡数 約1,100人
基幹産業は農業
80歳代 女性 23年 副会長 主婦
男女参画員
70歳代 女性 16年 理事 無職
民間団体
60歳代 女性 12年 理事 無職
地区協議会

住民組織A(以下,A)は,生活支援体制整備事業協議体の構成員4名(女性3名,男性1名),平均年齢68.8歳,住民組織活動歴は1年(平均1.0年)であった.住民組織B(以下,B)は,保健推進員4名(女性4名),平均年齢73.8歳,住民組織活動歴4~29年(平均13.0年)であった.住民組織C(以下,C)は,保健推進員3名(女性3名),平均年齢72.7歳,住民組織活動歴12~23年(平均17.0年)であった.住民組織メンバーが捉える地域課題は,住民組織A,Bは高齢化で地域に高齢者が多いこと,Cは高齢者が多いことに加え世代間の交流の希薄であった.グループインタビューの場所は,それぞれの市町村内施設の個室であり,回数は1回,時間は,83分から110分であり,平均96分であった.

2. 結果

住民組織メンバーによる地域課題の捉え方の特徴について逐語録を分析した結果,268コードが生成された.複合分析の結果,3カテゴリ,15中位カテゴリ,41サブカテゴリが生成された(表2).カテゴリ【 】,中位カテゴリ《 》,サブカテゴリ〈 〉,コードを“斜体”として示す.

表2  住民組織に属する住民による地域課題の捉え方の特徴
カテゴリ(3) 中位カテゴリ(15) サブカテゴリ(41) グループ記号
A B C
日常の中で人々の暮らしを経年的に把握する 生活者として地域の変化を感じ取る 地域に高齢者が多く子どもを見かけることがほとんどない
徐々に町の機能が小さくなり生活の不便さを実感する
「町内会」を主軸に人々の様子をつかむ 町内会にどのような人が住んでいるかはだいたいわかっている
町内会の話し合いで情報を得る
生活の中のコミュニケーションから暮らしの情報が入る 近所から心配な高齢者の情報が集まってくる
人の集まりの中から人々の暮らしぶりが伝わってくる
自ら動かなくても仲間から情報が集まってくる
マスメディアや地域行事から地域の情報を得る 広報や新聞,テレビで市内や近隣市町村の情報を得る
町や住民のことを知るために多くの地域行事に参加する
暮らしの困りごとから課題を見立てる 高齢者は加齢による変化で生活に課題が生じると捉える 高齢者は移動に困難さや不便さを感じている
高齢者は除雪に困っている
高齢者はゴミ捨てやゴミの分別が大変になっている
高齢者は買い物が難しくなる
高齢者は困りごとや不安を言えないでいる
高齢になり自己管理できなくなることで地域の環境に影響が出ている
男性は生活の課題を抱え込みやすいと捉える 町内の集まりに男性があまり出てこない
男性の一人暮らしは自らの訴えが少なく生活の課題が積み重なりやすい
地域のつながりの希薄さを問題視する 町中は住民同士の交流や情報交換の希薄さから孤立を生む
信頼関係を作りづらいため深い関わりまでにはならない
町内行事への関心や参加する住民が減っている
高齢者と若者世代が分断している
制度の狭間からこぼれ落ちた高齢者の課題を捉える 所得で利用の有無が決まるサービスに矛盾を感じる
介護保険制度等を利用していない高齢者にも必要なサービスがある
生活行動の特徴から高齢者の健康課題に気付く 90歳を超えると集まりに来なくなることから急激な機能低下に気付く
回覧板の回覧スピードが早いと認知力低下や関心事の狭まりがあると考える
おっくうさが出ていると意欲低下だと思う
ごみ問題がでてきたら認知症かもしれないと思う
生活の些細な変化から高齢者の異変を察知する 雪かきがされない時や電話に出ない時は安否を疑う
回覧板が止まっていたり,集まりに参加しないと何かが起きていると思う
家族の背負い込みが高齢者の機能低下を生むと考える 親を心配する思いが高齢者の機能を奪ったり家に閉じ込めていると思う
男性の介護者は全部背負い込む傾向があると思う
学習で得た知識で高齢者の課題を考える 医学的な知識を得て高齢者の健康について考える
講演会や研修会で得た知識で高齢者の生活課題を考える
住民の命を守るための課題を掘り下げる 日々近隣の住民に気を配り心配な高齢者を見逃さない 心配な高齢者への声掛けの気遣いを行う
求められていないところへも困りごとがないか気を配る
住民組織活動の情報網から暮らしの細部を捉える 地域の民生委員やボランティアなどの情報網を持ち活用する
保健推進員同士で意図的に気になる住民の情報交換を行う
プライバシーに配慮し深い人間関係から得られる情報を活用する 相手の価値観を尊重して信頼関係を築く
親しくなることで個人的な会話から重要な個人情報を得る
生活の用足しを兼ねてさりげない安否確認をする
高齢者から個人情報を聞く同意を直接得るよう努力する

住民組織メンバーは,【日常の中で人々の暮らしを経年的に把握する】ことで,【暮らしの困りごとから課題を見立てる】ことを行っていた.さらに,【住民の命を守るための課題を掘り下げる】ことを行っていた.カテゴリごとに住民組織メンバーが,どのように地域課題を捉えていたかを述べる.

1) 日常の中で人々の暮らしを経年的に把握する

【日常の中で人々の暮らしを経年的に把握する】は,《生活者として地域の変化を感じ取る》《「町内会」を主軸に人々の様子をつかむ》《生活の中のコミュニケーションから暮らしの情報が入る》《マスメディアや地域行事から地域の情報を得る》の4つの中位カテゴリから生成された.住民組織メンバーは,〈地域に高齢者が多く子どもを見かけることがほとんどない〉こと,〈徐々に町の機能が小さくなり生活の不便さを実感する〉と《生活者として地域の変化を感じ取る》ことを行っていた.《「町内会」を主軸に人々の様子をつかむ》では,〈町内会にどのような人が住んでいるかはだいたいわかっている〉と全てのグループで感じており,B,Cでは〈町内会の話し合いで情報を得る〉ことを行っていた.

《生活の中のコミュニケーションから暮らしの情報が入る》では,〈近所から心配な高齢者の情報が集まってくる〉ことやサロンなどの〈人の集まりの中から人々の暮らしぶりが伝わってくる〉〈自ら動かなくても仲間から情報が集まってくる〉と生活の中のコミュニケーションから自ら求めなくても情報が収集されていた.

《マスメディアや地域行事から地域の情報を得る》では,〈広報や新聞,テレビで市内や近隣市町村の情報を得る〉ことを行っていた.そして,“コンサートや健康祭り,町の色んな行事に率先して参加し情報を取り入れるようにしている”と〈町や住民のことを知るために多くの地域行事に参加する〉ことで情報を得ていた.

2) 暮らしの困りごとから課題を見立てる

【暮らしの困りごとから課題を見立てる】は,《高齢者は加齢による変化で生活に課題が生じると捉える》《男性は生活の課題を抱え込みやすいと捉える》《地域のつながりの希薄さを問題視する》《制度の狭間からこぼれ落ちた高齢者の課題を捉える》《生活行動の特徴から高齢者の健康課題に気付く》《生活の些細な変化から高齢者の異変を察知する》《家族の背負い込みが高齢者の機能低下を生むと考える》《学習で得た知識で高齢者の課題を考える》の8つの中位カテゴリから生成された.

住民組織メンバーは,〈高齢者は移動に困難さや不便さを感じている〉〈高齢者は除雪に困っている〉〈高齢者はゴミ捨てやゴミの分別が大変になっている〉〈高齢者は買い物が難しくなる〉と加齢による身体機能や認知機能の低下を生活と結び付けて課題として捉えていた.そして,〈高齢者は困りごとや不安を言えないでいる〉とも感じていた.また,“高齢になり草刈りをできなくなった人たちがいるから周囲の草が増える”と〈高齢になり自己管理できなくなることで地域の環境に影響が出ている〉と感じており,《高齢者は加齢による変化で生活に課題が生じると捉える》ことにつながっていた.高齢者の生活課題は全てのグループで捉えていた.

《男性は生活の課題を抱え込みやすいと捉える》では,〈町内の集まりに男性があまり出てこない〉と男性は地域の中でつながりがあまり持てていないと感じていた.また,“男性の一人暮らしが多く,ゴミの分別をどうしていいか聞いてくれないからゴミステーションが汚くなっている”と〈男性の一人暮らしは自らの訴えが少なく生活の課題が積み重なりやすい〉と「男性」を一つの特徴として捉えていた.

《地域のつながりの希薄さを問題視する》では,“地域で生きていく上で悩みをいっぱい抱えているが誰にも言えない,向こう隣三軒とも交流がない現実”を把握し,〈町中は住民同士の交流や情報交換の希薄さから孤立を生む〉と特に人口規模の大きいB,Cで地域のつながりの希薄さが問題視されていた.町中は,出会う頻度も少なく〈信頼関係を作りづらいため深い関わりまでにはならない〉,町内会の活動としても〈町内行事への関心や参加する住民が減っている〉と住民同士の横のつながりの希薄さを感じていた.また,“地域では子どもと高齢者が背中合わせみたいな現状があって,その違いをどう理解し合うかが必要だと思う”と考え,〈高齢者と若者世代が分断している〉と世代間の縦のつながりの希薄さを課題として認識していた.

《制度の狭間からこぼれ落ちた高齢者の課題を捉える》では,“年金をある程度もらっていると体が不自由でも除雪サービスの対象にならないのは矛盾している”と感じ,〈所得で利用の有無が決まるサービスに矛盾を感じる〉ことや〈介護保険制度等を利用していない高齢者にも必要なサービスがある〉ことを捉えていた.《生活行動の特徴から高齢者の健康課題に気付く》では,“地域でサロンをやっていても90歳を過ぎていくとほぼいなくなってしまう”と感じ,〈90歳を超えると集まりに来なくなることから急激な機能低下に気付く〉と高齢者には急激な機能低下があることに気が付いていた.〈回覧板の回覧スピードが早いと認知力低下や関心事の狭まりがあると考える〉〈おっくうさが出ていると意欲低下だと思う〉と精神機能の変化に気付き,〈ごみ問題がでてきたら認知症かもしれないと思う〉と生活行動から高齢者の健康課題を捉えていた.

《生活の些細な変化から高齢者の異変を察知する》では,“雪かきもしていないと異変に気付いて警察や消防に通報したら家の中にはいないで長期入院していた”と,〈雪かきがされない時や電話に出ない時は安否を疑う〉と命に関わる事態を想像していた.〈回覧板が止まっていたり,集まりに参加しないと何かが起きていると思う〉と日常生活の些細な変化から異変を察知していた.

《家族の背負い込みが高齢者の機能低下を生むと考える》では,“夫婦と違って子どもと同居している高齢者は,子どもが役割をみんな取り上げてしまうから機能を培えなくなってしまう”と感じ,〈親を心配する思いが高齢者の機能を奪ったり家に閉じ込めていると思う〉と考えていた.特に〈男性の介護者は全部背負い込む傾向があると思う〉と介護者として「男性」の特徴を捉えていた.

《学習で得た知識で高齢者の課題を考える》では,“病気のことは会合の時に保健師に教えてもらう”ことで〈医学的な知識を得て高齢者の健康について考える〉〈講演会や研修会で得た知識で高齢者の生活課題を考える〉と学習で得た知識が健康課題や生活課題を捉えることにつながっていた.

3) 住民の命を守るための課題を掘り下げる

【住民の命を守るための課題を掘り下げる】は,《日々近隣の住民に気を配り心配な高齢者を見逃さない》《住民組織活動の情報網から暮らしの細部を捉える》《プライバシーに配慮し深い人間関係から得られる情報を活用する》の3つの中位カテゴリから生成された.《日々近隣の住民に気を配り心配な高齢者を見逃さない》では,〈心配な高齢者への声掛けの気遣いを行う〉ことや“ニーズではないが買い物などの支援を自分たちが行っている”と〈求められていないところへも困りごとがないか気を配る〉ことで心配がある高齢者の情報収集をしていた.

《住民組織活動の情報網から暮らしの細部を捉える》では,〈地域の民生委員やボランティアなどの情報網を持ち活用する〉ことで地域の情報を得ていた.また保健推進員であるB,Cは,〈保健推進員同士で意図的に気になる住民の情報交換を行う〉と活動の中で意図的に情報の共有を行っていた.

《プライバシーに配慮し深い人間関係から得られる情報を活用する》では,〈相手の価値観を尊重して信頼関係を築く〉ことを行い,〈親しくなることで個人的な会話から重要な個人情報を得る〉ことにつなげていた.また,“回覧板で回って歩くときに様子を窺う”と自らの〈生活の用足しを兼ねてさりげない安否確認をする〉ことを行っていた.より深いかかわりとして〈高齢者から個人情報を聞く同意を直接得るよう努力する〉とプライバシーに配慮しながら近隣住人や気になる住民の情報を得て課題を掘り下げていた.

IV. 考察

住民組織メンバーによる地域課題の捉え方の特徴に着目して考察し,住民組織メンバーと行政保健師との協働の示唆を得る.

1. 住民組織メンバーによる地域課題の捉え方の特徴

1) 日常の中で人々の暮らしを経年的に把握する

住民組織メンバーは,長年その土地に住み続けた生活者としての経験から,地域の変化を経年的に捉えていた.《「町内会」を主軸に人々の様子をつかむ》ことを行っており,日常生活のコミュニケーションや町内行事への参加,近隣住民や多職種との関わりから情報をつかんでいた.町内会は,活動目的が多岐にわたり,町内の相互扶助的な活動を担いさまざまな生活問題の処理のために働いている(倉沢,1998).住民組織メンバーは,相互扶助的な関係性を持つ町内会という身近な範囲を重視し,近隣住民とのコミュニケーションで自らが求めなくても情報を得たり,活動から意図的に情報を得ていると考えられる.

2) 暮らしの困りごとから課題を見立てる

住民組織メンバーは,近隣住民が暮らしの中で抱える困りごとから,生活課題や健康課題を捉えていた.生活を捉える視点は,《高齢者は加齢による変化で生活に課題が生じると捉える》と加齢により変化が生じる「高齢者」に着目し,《男性は生活の課題を抱え込みやすいと捉える》と自ら困りごとを訴えることが少ない「男性」に着目して課題を捉えている.さらに,急な機能低下を考える「90歳」,意欲低下を疑う「おっくうさ」,認知症を疑う「ごみ問題」というように,高齢者の生活行動に潜む健康課題にも気付いていることが示された.すなわち,暮らしの中で困りごとに対応したり,見聞きした経験を積み重ねることで「高齢者」「90歳」という年齢,「男性」という性,「ごみ問題」などの生活行動を注目すべき枠組みとして培い,地域の生活課題を捉えていると考えられる.これは,多くの高齢者を見てきた経験や研修会等で学んだ知識を使うことで,より具体的な枠組みとなっていると考える.

また,高齢者の見守り活動を行っている住民は,高齢者の日々の生活を線で観察し,変化に気づき,異変として捉えている(金谷ら,2012)ことが報告されている.本研究でも同様に,地域の生活者ならではの,「除雪」や「回覧板の回覧」の有無という生活行動に着目し,些細な変化から高齢者の異変を察知していた.このことから,住民組織メンバーは,暮らしの経験から培った枠組みを生かし,敏感に高齢者の異変を察知し健康状態の把握につなげていると考えられる.

3) 住民の命を守るための課題を掘り下げる

住民組織メンバーは,地域での見守り活動や住民組織活動の情報網から,気になる住民の情報を得ていた.そして,気がかりな住民には《プライバシーに配慮し深い人間関係から得られる情報を活用する》ことを重視し,課題を掘り下げる特徴が示された.高齢者や男性は自らの訴えが少なく困りごとを言えないという特徴と地域のつながりの希薄を問題視しており,課題が潜在化しないよう見守りやさりげない気配りなど,自ら工夫し情報を得ていた.

浅野(2016)は,住民組織は,地域の実態を知ることで内面の意識がゆさぶられ,活動の意欲につながると述べている.住民組織メンバーは,高齢者の急な機能低下やつながりの希薄さから生じる孤立等,命にかかわる課題を実際に目の当たりにしている.そのことが,心配な高齢者を見逃さず命を守る活動意欲となり,人間関係を築きプライベートな情報を得る努力につながっていると考える.

以上のことから,住民組織メンバーの地域課題の捉え方は,相互扶助的な関係性を持つ身近な範囲を重視し,生活の中で経年的に情報を捉えている.そして,困りごとに対応した経験の積み重ねから注目すべき枠組みを持ち,人々の暮らしや生活を観察し課題を見立てている.さらに,身近な住民や気がかりな住民の健康や命を守るために,人間関係を築き,よりプライベートな情報を得て課題を掘り下げる特徴が示された.

2. 住民組織メンバーと行政保健師との協働への示唆

住民組織メンバーが捉える地域課題は,身近な地域での生活経験や活動の中で,自らが把握し導き出したものである.住民組織メンバーが得る地域の情報と課題には,保健師では収集しきれない,自らの生活や住民組織活動の情報網を使った情報の広さ,生活の些細な変化に敏感に気が付くきめ細やかさと深さがあった.同時に,身近に暮らす住民同士であっても,プライバシーに配慮し情報を得ていることが明らかとなった.都市部では住民のプライバシー意識が高いことが人と人とのつながりを遮断し,見守り活動に携わる住民組織のジレンマとなっている(舛田ら,2011).本研究においても住民組織メンバーは地域のつながりの希薄さを問題視しており,市町村の規模に関わらずプライバシーに配慮していることが示された.住民組織メンバーが得ている情報は,身近な人々との信頼関係と介入のバランスを図りながら得る貴重な情報といえる.行政保健師は,住民組織メンバーの主体的な行動や努力を認め,得られた情報やその思いを受け止める姿勢が必要である.

行政保健師は,対象地域のきめ細かい観察や既存の保健医療統計を通して地域診断を行っている(水嶋,2000).日々の活動や既存の資料を地域の健康状態のアセスメントに生かす一方で,地域の潜在的な健康課題を捉えることに困難さを感じている(小川ら,2018)と報告されている.住民組織メンバーが捉える生活に密着した地域課題と,行政保健師の専門的な判断を重層的に共有し地域課題を捉えていくことが,協働の基盤となると考える.

3. 本研究の限界と今後の課題

本研究は,全国平均よりも高齢化率の高い地域で活動する住民組織メンバーへのインタビューのまとめであり,対象者の平均年齢は71.5歳で多くが前期高齢者であった.限られた2種類3住民組織へのインタビューであり,捉えた課題の特徴は高齢者に関するものが多く,地域の特性や自身の年齢に影響を受けている可能性がある.今後は,高齢化が進んでいない地域や若い世代で構成される住民組織など多様な住民組織メンバーに対象を広げていく必要がある.また,住民組織メンバーはプライバシーへの配慮等,自ら工夫しながら活動しており,何らかの困難さを抱いている可能性もある.住民組織活動そのものの課題と住民組織メンバーが期待する保健師の支援および実態を明らかにしていく必要がある.

V. 結論

地域の住民組織メンバーによる地域課題の捉え方の特徴は以下のとおりである.

1.経年的に地域の変化を捉え,相互扶助的な関係性を持つ身近な範囲を重視し,暮らしの中で情報を捉えていた.

2.困りごとの積み重ねから「高齢者」,「男性」,「ごみ問題」等といった注目すべき枠組みを持ち,生活や健康課題を見立てていた.

3.住民組織活動の中で,プライバシーに配慮しながら人間関係を築き,よりプライベートな情報を得て課題を掘り下げていた.

行政保健師は,住民組織メンバーの主体的な行動や努力を認め,住民組織メンバーと行政保健師が得たそれぞれの地域課題を重層的に共有していくことが協働の基盤となると考える.

謝辞

ご多忙にも関わらず,本研究に快くご協力いただきました住民組織メンバーの皆様,市町村保健師の皆様に深く感謝申し上げます.本研究は,2020年旭川医科大学大学院修士課程の修士論文に加筆・修正を加えたものである.また,本論文の一部を第9回日本公衆衛生看護学会学術集会(2020年12月~2021年1月東京)で報告した.

本研究に開示すべきCOI状態はない.

文献
 
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