2022 Volume 11 Issue 3 Pages 152-162
目的:健康診査やがん検診の情報を入手している情報媒体に焦点をあて,高齢者の健康診査,がん検診への受診行動(以下,受診行動)に関連する要因を明らかにする.
方法:65~84歳500名を対象に郵送による無記名自記式質問紙調査を行った.項目は,ヘルスビリーフモデルを参考に,受診行動の有無,健康診査・がん検診に関する情報入手の媒体等で構成した.分析は二項ロジスティック回帰分析を行った.
結果:有効回答数は264部であった.受診行動には,不安が軽減される(OR=4.68),健康診査・がん検診を受けることが面倒(OR=0.37),入院・通院しており必要ない(OR=0.43),情報入手の媒体では「役場・保健所」(OR=1.63)が有意に関連していた.
考察:高齢者の受診行動には,予防行動に対する利益の自覚が重要である.また,行政機関からの情報は,高齢者の情報への信頼につながり受診行動に結びつく可能性がある.
Objective: This study aims to identify factors related to the behaviour of older adults with regards to receiving health examinations and cancer screenings (hereafter referred to as health behaviours), focusing on the media through which older adults obtain information regarding health behaviours.
Method: An anonymous self-reporting questionnaire was delivered by mail to 500 participants aged 65–84 years. Items on the questionnaire were based on the Health Belief Model and included questions about health behaviours and the availability of information about health examinations and cancer screenings. Binomial logistic regression analysis was performed.
Results: There were 264 valid responses. The items that were significantly associated with health behaviours were as follows: “anxiety is reduced” (OR=4.68), “undergoing health checkups/cancer screenings is troublesome” (OR=0.37), “not necessary because of hospitalisation or hospital visit” (OR=0.43), and “government office/public health centres as the medium for obtaining information” (OR=1.63).
Discussion: Perceived benefits of health examinations are important for the health behaviour of older adults. In addition, information from government agencies may have led to older adults trusting the information, which in turn influenced the health behaviours.
認知症,脳血管疾患は,要介護者等の介護が必要となった主な原因の43.5%を占め(厚生労働省,2019),これらの疾患には生活習慣病が関連する.また,2018年年齢階級別がん罹患数では,男女ともに加齢に伴い罹患数が増加し,男性は60歳代以降に,女性は40歳代と60歳代以降に罹患率が顕著に上昇している(厚生労働省,2018b).健康寿命延伸の観点から,生活習慣病およびがん予防は高齢者においても重要であり,疾病に関する1次予防,2次予防は高齢期も引き続き取り組むべき課題であると考える.また,要介護度と過去の基本健康診査受診との関連を調査した研究では(村田ら,2009),基本健康診査受診者は未受診者に比べ,新規要介護認定時の要介護度が軽い傾向にあることを報告している.このことからも,高齢者が健康診査を受診することは重要であるといえる.
現在,生活習慣病予防対策として特定健康診査・特定保健指導が実施されている.また,各種がん検診は市町村の努力義務とされ,各自治体が主体となり行っている.健康日本21(第二次)では,特定健康診査の実施率は70%以上,がん検診の受診率は50%を目標に掲げている.しかし,全国の特定健康診査の実施率は53.1%(厚生労働省,2017),各種がん検診は39.0~49.5%(国立がん研究センター,2019)であり,十分に達成されていない現状にある.
健康診査やがん検診ついて考えると,これらは保健行動のなかの予防的健康行動(Preventive health behavior)と捉えることができる.予防的健康行動は「自分自身を健康と考えている個人が,症状がない段階で,病気の予防や早期発見を目的として行うあらゆる行動(Glanz et al., 2015/木原ら,2018)」と定義され,禁煙,節酒,睡眠,運動,食事,健康診断(武村ら,1997),がん検診(Matejic et al., 2011)等が予防的健康行動として示されている.高齢者の生活習慣病やがん予防には,予防的健康行動をとることが重要といえる.また,健康行動について,鈴木ら(2003)は健康行動理論に基づいた報告をもとに行動理論適用状況を分析している.そのなかで,ヘルスビリーフモデル(以下,HBM)は主に1次予防,2次予防を目的に適用され,65歳以上には運動やヘルスリスク行動を対象に介入がなされている(鈴木ら,2003).高齢者の予防的健康行動を検討する際に,HBMの活用は有効であると考えられる.
予防的健康行動の関連要因を検討する際に,保健行動の促進に関する情報と情報を入手している情報媒体(以下,情報入手の媒体)に着目することも有効であると考える.健康に関する特定の情報源と関連する保健行動として,皮膚がんに対する予防行動(Hay et al., 2009),健康的な食生活,身体活動の改善(高泉ら,2013)があげられている.加えて,印刷物やコミュニティ組織による情報提供は健康行動を促進する(Redmond et al., 2010)ことも報告されている.これらのことから,予防的健康行動の促進には情報と情報入手の媒体が重要であるといえるが,健康診査およびがん検診への受診行動と情報源,情報入手の媒体との関連は明らかにされていない.
また,地域住民の健康に向けた情報提供や,地域住民の健康情報の活用は,公衆衛生看護分野において重要になっていると考える.WHO(1998)は,「ヘルスコミュニケーションは,市民に健康問題に関する情報を提供し,重要な健康問題に対する個人や集団の健康の特定の側面や発達における健康の重要性についての意識を高める」と述べている.生活習慣病を含む慢性疾患は高齢者の生活の質に影響を与えることから(小長谷ら,2010),地域で暮らす高齢者の健康診査やがん検診への受診行動を促進するために有用な情報入手の媒体を明らかにすることは重要である.
そこで本研究は,健康診査やがん検診の情報を入手している情報媒体に焦点を当て,高齢者の健康診査およびがん検診への受診行動に関連する要因を明らかにすることを目的とする.
本研究では,特定健康診査と後期高齢者健康診査を「健康診査」,肺,胃,大腸,子宮,乳がん検診を「がん検診」,健康診査およびがん検診への受診行動を「受診行動」とする.また,何らかの情報を伝達するための媒(なかだち)となるもの,情報を媒介するものを「情報媒体」とする.
2. 対象地域対象地域は,人口17,000人,高齢化率26.8%,要介護認定率20.4%のA町とした.A町では特定健康診査と後期高齢者健康診査は,住民に「健診」として認知されている.2018年のA町の特定健康診査受診率は全国平均34.0%を下回り,後期高齢者健康診査も全国平均29.4%を下回っていた.
A町の健康診査の周知,勧奨の取り組みの一例として,①広報誌にチラシを折り込み配付,②該当年齢の住民にチラシを郵送,③保健推進員からの受診勧奨,④ホームページへの掲載,⑤特定健康診査受診券送付時に周知,⑥受診歴がある者のうち健康診査の申し込みが無い者への電話勧奨,を行っていた.
3. 対象対象は,A町に居住する要支援・要介護認定を受けていない65~84歳の男女500名とした.対象について事前にA町保健福祉課と協議し,調査の回答や投函のための歩行に困難さを有する可能性等,研究によって対象者に生じうる心身の負担等への配慮から,要支援・要介護認定者を対象から除外した.対象選定はA町保健福祉課の協力を得て,男女250名ずつの層化抽出を行った.
4. 調査方法本研究は量的記述研究デザインを用い,2020年5月に郵送法による無記名自記式質問紙調査を行った.依頼文,調査票,返信用封筒の準備および発送料は研究者が担い,対象者の選定,発送作業はA町保健福祉課が担当した.調査票の回収は研究者宛ての個別の返信用封筒を用いて行った.
5. 概念枠組み(図1)概念枠組み
本研究は,HBMを参考に概念枠組みを検討した.HBMは1950年代に開発されたモデルであり,予防的健康行動をとる可能性には,属性,疾病の恐ろしさの自覚,予防行動に対する利益の自覚および障害の自覚,行動のきっかけ等が関連するとされている(Glanz et al., 2015/木原ら,2018).行動のきっかけには症状の出現,メディアの報道,他人からの勧め,身近な人の罹患など様々なものがある(Glanz et al., 2015/木原ら,2018).本研究では予防的健康行動を受診行動とし,この変数を従属変数とした.属性は調整変数,疾病の恐ろしさの自覚,予防行動に対する利益の自覚,予防行動に対する障害の自覚,情報入手の媒体を独立変数として受診行動の関連要因を検討した.
6. 調査項目 1) 個人特性個人特性は,性別,年齢,世帯構成,主観的健康感,治療中の疾病の有無で構成した.年齢は「65~69歳」,「70~74歳」,「75~79歳」,「80~84歳」とし,世帯構成は「ひとり暮らし」,「配偶者と2人暮らし」,「配偶者,子ども,孫などと同居」,「その他」とした.主観的健康感は「非常に健康」,「まあ健康」,「あまり健康でない」,「健康でない」の4件法とし.治療中の疾病の有無は「あり」,「なし」で回答を得た.受診行動には,性別,健康度自己評価(中野ら,2006),年齢(満武ら,2014)が関連することから,HBMをもとに本研究の「属性」は性別,年齢,主観的健康感,治療中の疾病の有無とした.
2) 疾病の恐ろしさの自覚がんへの不安感や恐怖感はがん検診受診を促進する(Nathan et al., 2004)場合と抑制する(安達ら,2012)場合があることから,HBMにおける「疾病の恐ろしさの自覚」は生活習慣病やがんへの恐怖感とした.調査項目は内閣府のがん対策に関する世論調査(2017)を参考に,「あなたはがんについて怖いと思いますか」,「あなたは生活習慣病(糖尿病,高血圧,高脂血症,動脈硬化など)について怖いと思いますか」の2項目とした.回答選択肢は,「思う」,「どちらかといえば思う」,「どちらかといえば思わない」,「思わない」の4件法とした.
3) 予防行動に対する利益および障害の自覚HBMにおける「予防行動に対する利益の自覚」は,健康診査,がん検診の有効性の認知,つまり,病気の早期発見や不安の軽減に対する認識とした.調査項目は国民生活基礎調査(厚生労働省,2019)を参考に,「病気の早期発見につながる」,「不安が軽減される」とし,「はい」,「いいえ」で回答を得た.
また,HBMにおける「予防行動に対する障害の自覚」は,国民生活基礎調査(厚生労働省,2018a),がん対策に関する世論調査(内閣府,2017)を参考に「健診・がん検診に時間がかかる」,「場所が遠い」,「費用がかかる」,「健診・がん検診を受けることが面倒」,「予約が面倒」,「現在,入院・通院しており必要ない」,「結果が不安なため受けたくない」,「検査等に不安がある」,「健診・がん検診があることを知らなかった」とし,「はい」,「いいえ」で回答を得た.
4) 行動のきっかけ本研究は行動のきっかけのうち,健康診査やがん検診に関する情報入手の媒体に着目した.情報入手の媒体に関する調査項目は,健康意識に関する調査(厚生労働省,2014)を参考に,「テレビ・ラジオ」,「新聞」,「雑誌」,「インターネット」,「家庭向け医学書」,「病院・診療所(医師・看護師などの医療従事者)」,「健康教室・講演会」,「役場・保健所」,「家族・友人・口コミ」,「広告・チラシ」の10項目とした.教示文は「健診やがん検診に関する情報にどの程度触れていますか」とし,各項目に対し「いつも触れている」,「時々触れている」,「あまり触れていない」,「全く触れていない」の4件法で回答を得た.
5) 受診行動従属変数の受診行動は,過去2年間の健康診査,がん検診の受診の有無とし,調査項目は,前年度および前々年度の受診行動に関する項目で構成した.前年度および前々年度の受診行動について,「あなたは前年度(2019年4月から2020年3月)健診またはがん検診を受けましたか」,「あなたは前々年度(2018年4月から2019年3月)健診またはがん検診を受けましたか」という質問に対し「はい」,「いいえ」で回答を得た.
満武ら(2014)は,健康診査の過去3年間の受診回数を0回,1~2回,3回に層化し群間の特徴を示しており,受診回数1~2回が受診行動の目安の1つであると考えられる.本研究は過去2年間の受診有無を把握し,1回以上健康診査,がん検診の受診経験がある者を受診群,ない者を非受診群に分類し,受診行動の有無とした.
7. 分析方法受診行動の有無を従属変数とし,性別,治療中の疾病の有無,予防行動に対する利益の自覚,予防行動に対する障害の自覚との関連はχ2検定を用い,年齢,主観的健康感,疾病の恐ろしさの自覚,情報入手の媒体との関連はMann-Whitney U検定を用いた.次に,受診行動の有無に関連する要因を明らかにするため,強制投入法による二項ロジスティック回帰分析を行った.従属変数は受診行動の有無,独立変数は上記の単変量解析で有意差がみられた項目とした.「病気の早期発見につながる」は,受診群の全員が「はい」と回答したため,独立変数から除外した.属性は調整変数とし,全て投入した.
データ解析にはIBM SPSS Statistics Ver. 26を使用し,有意水準は5%とした.
8. 倫理的配慮A町保健福祉課と協議し,対象選定と調査票の発送作業をA町保健福祉課が担当し,研究者は対象者の個人情報を一切扱わないことで個人情報保護に努めた.また,調査票送付時に,調査への協力は自由意志に基づくものであり,協力をしなくても不利益が被らないこと等を記述した依頼文を同封した.研究の同意は調査への回答と返信をもって得た.なお,本研究は,北海道大学大学院保健科学研究院倫理審査委員会の承認を受け実施した(承認日:2020年4月3日,承認番号19-106).
回収された277部(回収率55.4%)のうち,未記入が10項目以上あった12部と受診行動に未記入があった1部を無効回答とし,264部を分析対象とした(有効回答率52.8%).
1. 対象者の個人特性(表1)全体 | 受診群 (n=181) |
非受診群 (n=83) |
P | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
n | (%) | n | (%) | n | (%) | ||||
個人特性 | |||||||||
性別 | 男性 | 132 | (50.0) | 90 | (49.7) | 42 | (50.6) | 0.822 | |
女性 | 131 | (49.6) | 91 | (50.3) | 40 | (48.2) | |||
未記入 | 1 | (0.4) | ― | ― | 1 | (1.2) | |||
年齢 | 65~69歳 | 72 | (27.3) | 49 | (27.1) | 23 | (27.7) | 0.356 | |
70~74歳 | 93 | (35.2) | 69 | (38.1) | 24 | (28.9) | |||
75~79歳 | 59 | (22.3) | 39 | (21.5) | 20 | (24.1) | |||
80~84歳 | 40 | (15.2) | 24 | (13.3) | 16 | (19.3) | |||
世帯構成 | ひとり暮らし | 53 | (20.1) | 36 | (19.9) | 17 | (20.5) | 0.104 | |
配偶者と2人暮らし | 117 | (44.3) | 89 | (49.2) | 28 | (33.7) | |||
配偶者,子ども,孫などと同居 | 82 | (31.1) | 51 | (28.2) | 31 | (37.3) | |||
その他 | 12 | (4.5) | 5 | (2.8) | 7 | (8.4) | |||
主観的健康感 | 非常に健康 | 8 | (3.0) | 6 | (3.3) | 2 | (2.4) | 0.758 | |
まあ健康 | 178 | (67.4) | 123 | (68.0) | 55 | (66.3) | |||
あまり健康でない | 47 | (17.8) | 28 | (15.5) | 19 | (22.9) | |||
健康でない | 27 | (10.2) | 21 | (11.6) | 6 | (7.2) | |||
未記入 | 4 | (1.5) | 3 | (1.7) | 1 | (1.2) | |||
治療中の疾病の有無 | あり | 217 | (82.2) | 155 | (85.6) | 62 | (74.7) | 0.024 | |
なし | 46 | (17.4) | 25 | (13.8) | 21 | (25.3) | |||
未記入 | 1 | (0.4) | 1 | (0.6) | ― | ― | |||
前年度健診,またはがん検診を受診したか | はい | 157 | (59.5) | ||||||
いいえ | 107 | (40.5) | |||||||
前々年度健診,またはがん検診を受診したか | はい | 169 | (64.0) | ||||||
いいえ | 95 | (36.0) | |||||||
(再掲)過去2年間に健診,またはがん検診を受診したか | はい | 181 | (68.6) | ||||||
いいえ | 83 | (31.4) | |||||||
疾病の恐ろしさの自覚 | |||||||||
がんを怖いと思う | 思う | 158 | (59.8) | 114 | (63.0) | 44 | (53.0) | 0.053 | |
どちらかといえば思う | 87 | (33.0) | 59 | (32.6) | 28 | (33.7) | |||
どちらかといえば思わない | 11 | (4.2) | 5 | (2.8) | 6 | (7.2) | |||
思わない | 8 | (3.0) | 3 | (1.7) | 5 | (6.0) | |||
生活習慣病を怖いと思う | 思う | 165 | (62.5) | 122 | (67.4) | 43 | (51.8) | 0.009 | |
どちらかといえば思う | 84 | (31.8) | 52 | (28.7) | 32 | (38.6) | |||
どちらかといえば思わない | 10 | (3.8) | 6 | (3.3) | 4 | (4.8) | |||
思わない | 5 | (1.9) | 1 | (0.6) | 4 | (4.8) | |||
予防行動に対する利益の自覚 | |||||||||
病気の早期発見につながる | はい | 254 | (96.2) | 178 | (98.3) | 76 | (91.6) | 0.003F | |
いいえ | 5 | (1.9) | 0 | (0.0) | 5 | (6.0) | |||
未記入 | 5 | (1.9) | 3 | (1.7) | 2 | (2.4) | |||
不安が軽減される | はい | 231 | (87.5) | 165 | (91.2) | 66 | (79.5) | <0.001 | |
いいえ | 18 | (6.8) | 5 | (2.8) | 13 | (15.7) | |||
未記入 | 15 | (5.7) | 11 | (6.1) | 4 | (4.8) | |||
予防行動に対する障害の自覚 | |||||||||
健診・がん検診に時間がかかる | はい | 141 | (53.4) | 98 | (54.1) | 43 | (51.8) | 0.774 | |
いいえ | 111 | (42.0) | 79 | (43.6) | 32 | (38.6) | |||
未記入 | 12 | (4.5) | 4 | (2.2) | 8 | (9.6) | |||
場所が遠い | はい | 66 | (25.0) | 39 | (21.5) | 27 | (32.5) | 0.049 | |
いいえ | 190 | (72.0) | 137 | (75.7) | 53 | (63.9) | |||
未記入 | 8 | (3.0) | 5 | (2.8) | 3 | (3.6) | |||
費用がかかる | はい | 107 | (40.5) | 73 | (40.3) | 34 | (41.0) | 0.675 | |
いいえ | 150 | (56.8) | 106 | (58.6) | 44 | (53.0) | |||
未記入 | 7 | (2.7) | 2 | (1.1) | 5 | (6.0) | |||
健診・がん検診を受けることが面倒 | はい | 95 | (36.0) | 45 | (24.9) | 50 | (60.2) | <0.001 | |
いいえ | 165 | (62.5) | 132 | (72.9) | 33 | (39.8) | |||
未記入 | 4 | (1.5) | 4 | (2.2) | ― | ― | |||
予約が面倒 | はい | 85 | (32.2) | 42 | (23.2) | 43 | (51.8) | <0.001 | |
いいえ | 176 | (66.7) | 136 | (75.1) | 40 | (48.2) | |||
未記入 | 3 | (1.1) | 3 | (1.7) | ― | ― | |||
現在,入院・通院しており必要ない | はい | 115 | (43.6) | 70 | (38.7) | 45 | (54.2) | 0.013 | |
いいえ | 145 | (54.9) | 109 | (60.2) | 36 | (43.4) | |||
未記入 | 4 | (1.5) | 2 | (1.1) | 2 | (2.4) | |||
結果が不安なため受けたくない | はい | 35 | (13.3) | 15 | (8.3) | 20 | (24.1) | 0.001 | |
いいえ | 223 | (84.5) | 160 | (88.4) | 63 | (75.9) | |||
未記入 | 6 | (2.3) | 6 | (3.3) | ― | ― | |||
検査等に不安がある | はい | 91 | (34.5) | 54 | (29.8) | 37 | (44.6) | 0.015 | |
いいえ | 166 | (62.9) | 123 | (68.0) | 43 | (51.8) | |||
未記入 | 7 | (2.7) | 4 | (2.2) | 3 | (3.6) | |||
健診・がん検診があることを知らなかった | はい | 4 | (1.5) | 1 | (0.6) | 3 | (3.6) | 0.099F | |
いいえ | 254 | (96.2) | 174 | (96.1) | 80 | (96.4) | |||
未記入 | 6 | (2.3) | 6 | (3.3) | ― | ― | |||
行動のきっかけ | |||||||||
テレビ・ラジオ | いつも触れている | 57 | (21.6) | 49 | (27.1) | 8 | (9.6) | 0.005 | |
時々触れている | 140 | (53.0) | 91 | (50.3) | 49 | (59.0) | |||
あまり触れていない | 59 | (22.3) | 35 | (19.3) | 24 | (28.9) | |||
全く触れていない | 7 | (2.7) | 5 | (2.8) | 2 | (2.4) | |||
未記入 | 1 | (0.4) | 1 | (0.6) | ― | ― | |||
新聞 | いつも触れている | 69 | (26.1) | 50 | (27.6) | 19 | (22.9) | 0.145 | |
時々触れている | 113 | (42.8) | 81 | (44.8) | 32 | (38.6) | |||
あまり触れていない | 51 | (19.3) | 35 | (19.3) | 16 | (19.3) | |||
全く触れていない | 26 | (9.8) | 13 | (7.2) | 13 | (15.7) | |||
未記入 | 5 | (1.9) | 2 | (1.1) | 3 | (3.6) | |||
雑誌 | いつも触れている | 13 | (4.9) | 11 | (6.1) | 2 | (2.4) | 0.094 | |
時々触れている | 89 | (33.7) | 63 | (34.8) | 26 | (31.3) | |||
あまり触れていない | 92 | (34.8) | 65 | (35.9) | 27 | (32.5) | |||
全く触れていない | 68 | (25.8) | 41 | (22.7) | 27 | (32.5) | |||
未記入 | 2 | (0.8) | 1 | (0.6) | 1 | (1.2) | |||
インターネット | いつも触れている | 11 | (4.2) | 9 | (5.0) | 2 | (2.4) | 0.044 | |
時々触れている | 29 | (11.0) | 21 | (11.6) | 8 | (9.6) | |||
あまり触れていない | 57 | (21.6) | 44 | (24.3) | 13 | (15.7) | |||
全く触れていない | 157 | (59.5) | 101 | (55.8) | 56 | (67.5) | |||
未記入 | 10 | (3.8) | 6 | (3.3) | 4 | (4.8) | |||
家庭向け医学書 | いつも触れている | 13 | (4.9) | 11 | (6.1) | 2 | (2.4) | 0.001 | |
時々触れている | 76 | (28.8) | 60 | (33.1) | 16 | (19.3) | |||
あまり触れていない | 86 | (32.6) | 60 | (33.1) | 26 | (31.3) | |||
全く触れていない | 88 | (33.3) | 49 | (27.1) | 39 | (47.0) | |||
未記入 | 1 | (0.4) | 1 | (0.6) | ― | ― | |||
病院・診療所 | いつも触れている | 50 | (18.9) | 40 | (22.1) | 10 | (12.0) | 0.004 | |
時々触れている | 130 | (49.2) | 92 | (50.8) | 38 | (45.8) | |||
あまり触れていない | 56 | (21.2) | 38 | (21.0) | 18 | (21.7) | |||
全く触れていない | 23 | (8.7) | 9 | (5.0) | 14 | (16.9) | |||
未記入 | 5 | (1.9) | 2 | (1.1) | 3 | (3.6) | |||
健康教室・講演会 | いつも触れている | 4 | (1.5) | 4 | (2.2) | 0 | (0.0) | 0.009 | |
時々触れている | 44 | (16.7) | 33 | (18.2) | 11 | (13.3) | |||
あまり触れていない | 99 | (37.5) | 73 | (40.3) | 26 | (31.3) | |||
全く触れていない | 116 | (43.9) | 70 | (38.7) | 46 | (55.4) | |||
未記入 | 1 | (0.4) | 1 | (0.6) | ― | ― | |||
役場・保健所 | いつも触れている | 18 | (6.8) | 17 | (9.4) | 1 | (1.2) | <0.001 | |
時々触れている | 90 | (34.1) | 72 | (39.8) | 18 | (21.7) | |||
あまり触れていない | 91 | (34.5) | 61 | (33.7) | 30 | (36.1) | |||
全く触れていない | 65 | (24.6) | 31 | (17.1) | 34 | (41.0) | |||
家族・友人・口コミ | いつも触れている | 31 | (11.7) | 24 | (13.3) | 7 | (8.4) | 0.055 | |
時々触れている | 139 | (52.7) | 99 | (54.7) | 40 | (48.2) | |||
あまり触れていない | 81 | (30.7) | 52 | (28.7) | 29 | (34.9) | |||
全く触れていない | 12 | (4.5) | 6 | (3.3) | 6 | (7.2) | |||
未記入 | 1 | (0.4) | ― | ― | 1 | (1.2) | |||
広告・チラシ | いつも触れている | 40 | (15.2) | 30 | (16.6) | 10 | (12.0) | 0.266 | |
時々触れている | 93 | (35.2) | 63 | (34.8) | 30 | (36.1) | |||
あまり触れていない | 81 | (30.7) | 57 | (31.5) | 24 | (28.9) | |||
全く触れていない | 48 | (18.2) | 29 | (16.0) | 19 | (22.9) | |||
未記入 | 2 | (0.8) | 2 | (1.1) | ― | ― |
注)性別,治療中の疾患の有無,予防行動に対する利益・障害の自覚はχ2検定(F:Fisherの直接法),その他はMann-Whitney U検定
対象者は,男性132名(50.0%),女性131名(49.6%)であり,65~69歳が72名(27.3%),70~74歳が93名(35.2%),75~79歳が59名(22.3%),80~84歳が40名(15.2%)であった.世帯構成は配偶者と2人暮らしが最も多く117名(44.3%)であった.健康状態は,主観的健康感は「まあ健康」が最も多く178名(67.4%),治療中の疾病がある者が217名(82.2%)であった.過去2年間に健康診査またはがん検診を受診した者は181名(68.6%)であった.
2. 疾病の恐ろしさの自覚(表1)がんを怖いと思うかは「思う」が最も多く158名(59.8%)であった.生活習慣病を怖いと思うかは「思う」が165名(62.5%)であった.
3. 予防行動に対する利益および障害の自覚(表1)予防行動に対する利益の自覚に関して,「病気の早期発見につながる」は254名(96.2%),「不安が軽減される」は231名(87.5%)であった.予防行動に対する障害の自覚に関しては,最も多かったのは「健診・がん検診に時間がかかる」で141名(53.4%),次いで「現在,入院・通院しており必要ない」で115名(43.6%)であった.
4. 行動のきっかけ(表1)健康診査やがん検診に関する情報入手の媒体別の接触頻度において,「いつも触れている」が最も多かったのは「新聞」であり69名(26.1%)であった.次いで「テレビ・ラジオ」が57名(21.6%)であった.
5. 受診行動の関連要因(表1,表2)偏回帰係数 | OR | (95% Confidence Interval) | P | ||
---|---|---|---|---|---|
属性 | 性別 | 0.03 | 1.03 | (0.493–2.136) | 0.944 |
年齢 | −0.31 | 0.73 | (0.449–1.070) | 0.107 | |
主観的健康感 | −0.22 | 0.81 | (0.438–1.483) | 0.487 | |
治療中の疾病の有無 | 0.26 | 1.29 | (0.483–3.448) | 0.611 | |
疾病の恐ろしさの自覚 | 生活習慣病を怖いと思う | 0.26 | 1.30 | (0.740–2.288) | 0.361 |
予防行動に対する利益の自覚 | 不安が軽減される | 1.54 | 4.68 | (1.145–19.098) | 0.032 |
予防行動に対する障害の自覚 | 場所が遠い | 0.06 | 1.06 | (0.449–2.492) | 0.898 |
健診・がん検診を受けることが面倒 | −1.00 | 0.37 | (0.135–0.995) | 0.049 | |
予約が面倒 | 0.10 | 1.11 | (0.414–2.958) | 0.840 | |
入院・通院しており必要ない | −0.84 | 0.43 | (0.207–0.906) | 0.026 | |
結果が不安 | −0.88 | 0.42 | (0.141–1.229) | 0.113 | |
検査等に不安がある | −0.34 | 0.71 | (0.324–1.575) | 0.405 | |
行動のきっかけ | テレビ・ラジオ | −0.09 | 0.92 | (0.517–1.619) | 0.761 |
インターネット | 0.20 | 1.23 | (0.771–1.948) | 0.390 | |
家庭向け医学書 | 0.32 | 1.38 | (0.854–2.235) | 0.188 | |
病院・診療所 | 0.10 | 1.10 | (0.660–1.833) | 0.715 | |
健康教室・講演会 | −0.08 | 0.93 | (0.503–1.708) | 0.808 | |
役場・保健所 | 0.49 | 1.63 | (1.017–2.597) | 0.042 |
注)ロジスティック回帰分析,HosmerとLemeshowの検定P=0.043,判別的中率78.8%
受診行動と独立変数を単変量解析で分析した結果,受診行動と有意な関連が認められた項目は「治療中の疾病の有無」,「生活習慣病を怖いと思う」,「病気の早期発見につながる」,「不安が軽減される」,「場所が遠い」,「健診・がん検診を受けることが面倒」,「予約が面倒」,「現在,入院・通院しており必要ない」,「結果が不安なため受けたくない」,「検査等に不安がある」であった.情報入手の媒体では「テレビ・ラジオ」,「インターネット」,「家庭向け医学書」,「病院・診療所」,「健康教室・講演会」,「役場・保健所」に有意な関連が認められた.
受診行動を従属変数,上記項目を独立変数とし,変数に欠損のない217名を分析対象にロジスティック回帰分析を行った.まず,解析前に多重共線性を連関係数にて確認した結果,0.7以上の連関を示す変数はなかった.次に,ロジスティック回帰分析を行った結果,受診行動には,「不安が軽減される」(OR=4.68,95%Confidence Interval(以下,95%CI):1.145–19.098),「健診・がん検診を受けることが面倒」(OR=0.37,95%CI:0.135–0.995),「入院・通院しており必要ない」(OR=0.43,95%CI:0.207–0.906),情報入手の媒体では「役場・保健所」(OR=1.63,95%CI:1.017–2.597)が有意に関連していた.
Carpenter(2010)は成人を対象とした研究において,受診行動には予防行動に対する利益の自覚と障害の自覚が最も大きく影響し,疾病の恐ろしさの自覚は影響はあるもののその程度は小さかったことを報告している.本研究では疾病の恐ろしさの自覚は受診行動に影響しなかったため,その点についてまず考察をする.本研究の対象者はがんや生活習慣病に対して怖いと思うかの質問に,「思う」「どちらかといえば思う」が回答の9割を占めており,多くの高齢者は疾病への恐ろしさを感じていた.Erikson et al.(1988)は,老年期の発達課題に,人生を回顧し自身の人生に意味を見出し確信する「統合」と,死への恐怖や望みがないという「絶望」があり,高齢者は統合と絶望の間でバランスをとり上手く折り合いをつけようとしていることを述べている.つまり,高齢者は自身の人生の意味や未来を見据えながら,疾病の恐ろしさを受入れつつ生活していると考えられる.疾病に対する恐ろしさの自覚は,成人では受診行動に結びつく可能性はあるが,高齢者の場合,発達課題の観点から疾病や死への恐怖の受容過程にある状況ともいえ,1次予防,2次予防としての受診行動には直接結びつかないことが予測される.
谷垣ら(2007)は,「検(健)診が面倒」と思っている者は基本健康診査,がん検診ともに受診しない傾向があると報告しており,本研究も同様の結果が示された.ロジスティック回帰分析において,受診行動に「場所が遠い」「予約が面倒」といった受診に関する物理的,手段的な項目は,有意な関連が認められなかった.つまり,高齢者は受診行動への物理的,手段的な困難さより,「健診・がん検診を受けることが面倒」と感じる心理的障壁が,受診行動に負の影響を与えているといえる.また,「入院・通院しており必要ない」も受診行動に負の関連を示していた.渡辺ら(2012)は,特定健康診査未受診者の未受診理由に60歳代は「忘れていた」,70歳代は「通院中」が多かったことを報告している.高齢者の入院,通院は治療的要素が大きく,疾病の1次予防,2次予防とは異なるといえる.健康診査やがん検診は,高齢者にとって健康チェックとしてのセルフケアや,保健師等の生活に即した保健指導を受ける機会になり,スクリーニングによる早期発見,早期治療にとどまらない,生活に関連した健康への取り組みにつながると考えられる.
また,本研究では,予防行動に対する利益の自覚「不安が軽減される」が,予防行動に対する障害の自覚に比べ,受診行動により強く関連していた.先行研究では,「予防行動に対する障害の自覚」は,「予防行動に対する利益の自覚」よりも予防行動に大きな影響を与えることを報告している(Carpenter, 2010;Harrison et al., 1992)が,本研究は異なる結果であった.精神医学において,「恐怖」は対象が特定しているのに対し,「不安」は対象が漠然としていると定義されている(萩,2015).高齢者は自身の身体状態や疾病に対する不安に対し,健康診査およびがん検診を受診することで,不安を軽減させているといえる.本研究結果より,高齢者には健康に対する安心感や保証を得る手段として受診行動を促していくことが,有効であると推察される.
2. 健康診査やがん検診に関する情報入手の媒体本研究では,健康診査やがん検診に関する情報にどの程度触れているか,情報入手の媒体別に調査をした.ロジスティック回帰分析の結果,「役場・保健所」からの健康診査やがん検診に関する情報に触れている頻度が多い者は,受診行動をとる可能性が高くなることが示された.健康情報把握行動が良好な者の約7割は行政機関の広報誌を読んでおり(鈴木ら,2017),高齢者の検診受診群は非受診群と比較し行政の広報誌をよく読む者の比率が高い(三觜ら,2006).研究対象地域のA町は健康診査の周知,勧奨の一つに広報誌にチラシを折り込み配付していたことから,広報誌を確認している高齢者は,健康診査,がん検診の情報に触れる機会を有していたといえる.また,行政機関は公的な機関であることから,信頼できる機関からの情報発信は,高齢者にとって情報への信頼にもつながり,受診行動に結びついた可能性がある.
本研究結果から,高齢者に合わせた健康診査,がん検診に関する情報媒体の重要性が示唆された.健康行動や閲読行動を促すためには,情報媒体の受け入れやすさと有用性が必要である(島崎ら,2013).また,印刷物等の活字の情報媒体はさまざまな保健行動と関連し(Redmond et al., 2010;高泉ら,2013),消費者は普段使い慣れているメディアの方がそうでないメディアと比べより信頼する(大田,2018)との報告がある.これらのことから,健康診査やがん検診の受診に向けた情報媒体は,高齢者にとって身近で使い慣れているものが有用である.本研究では,受診行動のきっかけとして「役場・保健所」からの情報が受診行動に関連しており,対象地域のA町は主に紙媒体で情報を発信していた.近年,インターネットやICTの利活用が進んでいるが,現在の高齢者の場合,信頼できる機関からの活字による情報媒体が,受診行動に有効であると考えられる.
3. 研究の限界本研究は,健康診査,がん検診の情報を入手している情報媒体に焦点を当て,HBMをもとに高齢者の受診行動に関連する要因を二項ロジスティック回帰分析を用いて分析した.Hosmer-Lemeshow適合度検定はP=0.043,判別的住率が78.8%であったことから,分析に投入した18項目は高齢者の受診行動を予測できる要因となり得ると考えられるが,モデルの適合度は十分なものではなかった.また,18項目中,有意差が認められたのは4項目であったことから,受診行動の要因に関しては今後さらなる検証が必要である.
加えて,研究の限界を以下に述べる.1点目は,本研究の対象者は要支援・要介護認定を受けていない84歳以下の高齢者であったため,結果の解釈には留意する必要がある.2点目は,本研究では健康診査とがん検診を合わせて受診行動の有無としたが,それぞれ分けた場合,結果が異なる可能性がある.加えて,本研究は横断研究であることから,健康診査やがん検診に関する要因と受診行動との明確な因果関係を言及することはできず,今後さらなる調査が必要である.3点目は,情報入手の媒体は接触している頻度としたが,本研究で扱う頻度は,健康診査やがん検診に関する情報の接触の程度であり,どのような方法で情報に触れたかまでは明らかにされていない.加えて,回答は高齢者が主観的にとらえた頻度であるため,結果の一般化は限界がある.
本研究にご協力いただきました対象者のみなさま,ならびに自治体のみなさまに心より感謝申し上げます.
本研究に開示すべきCOI状態はない.