Japanese Journal of Public Health Nursing
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Public Health Nursing Report
Changes in and Challenges of the Post-discharge Support and Support System as Perceived by Public Health Nurses who Provided Post-discharge Support to Hospitalized Patients for Involuntary Admission with Mental Disorders
Yui AtosakoYukie MatsuuraToki YamashitaHisae Nakatani
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2022 Volume 11 Issue 3 Pages 189-195

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Abstract

目的:A県では2019年から「A県精神障害者の退院後支援に関するガイドライン」に基づき措置入院患者の退院後支援を実施している.目的は措置入院した精神障害者に退院後支援を行った保健師が認識した支援および支援体制の変化と課題を明らかにすることとした.

方法:A県保健所保健師10名を対象に半構造的個別面接を実施し,ガイドラインに基づく退院後支援により保健師が認識した支援および支援体制の変化と課題を検討した.

結果:【個別支援の機会の増加による支援の質と責任感の向上】【管轄地域や都道府県を越えた保健所連携の強化】等の変化があり,【同意が得られない本人への継続支援】【支援終了の判断基準と評価方法の不明確さ】等の課題が明らかになった.

考察:ガイドラインに基づく支援は,個別支援の質の向上や,支援が可視化されたことで連携が強化された一方で,評価方法の検討や同意を拒む本人への支援の必要性などが示唆された.

I. はじめに

我が国の入院患者を傷病分類別に見ると,精神疾患が最も多く(厚生労働省,2017a),精神病床については,経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development)の中で人口当たりの割合が最も高い(OECD Data,2020).厚生労働省は,「入院医療中心から地域生活中心」という理念に基づき,精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築を推進しており,「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会報告書」(厚生労働省,2017b)を取りまとめた.その一つに「措置入院から退院した患者の継続的な支援プロセスの明確化」に関する取り組みを強化することが示されている.

入院している精神障害者は,退院後に地域で安定して暮らすために必要な医療,福祉,介護,就労支援等の支援を受けられる環境を整備することが重要であり(厚生労働省,2018b),翌年には「地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン」(厚生労働省,2018b)(以下ガイドライン)が示された.ガイドラインでは,自治体が必要と認める入院中の精神障害者について,本人の同意を得た上で保健所が主体となり,退院後支援に関する計画を作成し,計画に基づく相談支援等を退院後6か月以内を基本として支援することが示されている(厚生労働省,2018b).A県においても,このガイドラインに基づき「A県精神障害者の退院後支援に関するガイドライン」(以下,A県ガイドライン)を作成し,現在保健師を中心に,主に支援の必要性が高い措置入院患者を対象に退院後支援を実施している.

退院後支援は全国の7割の都道府県や政令指定都市において実施されているが,そのうち4割は国のガイドラインが発出されてから支援を開始しており(椎名ら,2018),ガイドライン発出による運用の影響についての検証が期待されている(河本ら,2020).また,先行研究では,保健師に焦点を当てた精神障害者の退院に関する支援について,産後うつ病患者への支援(西山ら,2016)や精神疾患長期入院患者の退院に関与する保健師が持つ要望や必要としている支援(Kawamura, 2013)などがあるが,措置入院患者の退院後支援に関する研究は見当たらない.そこで,保健師のガイドラインに基づく退院後支援の開始から約3年経過した現在,この支援を振り返り,支援および支援体制の変化と課題を明らかにすることは,支援内容やガイドライン自体を見直し,より良い支援を検討するための一助となると考える.

本稿では,措置入院した精神障害者に,A県ガイドラインに基づき退院後支援を行った,保健師が認識した支援および支援体制の変化と課題を検討したため報告する.

II. 方法

1. A県ガイドラインに基づく退院後支援の活動概要

A県は,2018年9月にガイドラインを作成し,2019年4月に改訂した.一部の内容を下記に示す.

措置診察に立ち会った保健師は,入院後すぐに本人居住の市町保健師や関係機関と情報共有し,今後の支援について連携を始める.退院後支援を行うには,本人の同意取得が必要であり,保健師は入院中から退院後支援の必要性を伝えるため,本人や医師,退院後生活環境相談担当者(入院先の精神保健福祉士等)との信頼関係を築き,同意取得を働きかける.同意が得られた後,保健師は退院後生活環境相談担当者を中心に本人の退院後のニーズを把握し,支援計画を立案して,家族,市町や医療,保健,福祉,社会参加,住まい,帰住先の地域等と調整する.退院前には保健師が中心となり,本人と家族,関係機関で会議を開催し,退院後,基本的に6か月間,本人が地域で支援を受けながら生活できるよう,電話や訪問を行い,関係機関と連携して支援している.

上記の支援は記録に残して各保健所内で共有されているが,この事業が始まって約3年経過した時期には,支援や支援体制の変化および課題について十分な振り返り,整理はできていない状況であった.

2. 調査対象者と選定方法

調査対象者は,A県ガイドラインに基づき退院後支援を経験したA県保健所保健師とした.対象者の選定は,保健所統括保健師に対して,調査について説明し,A県ガイドラインに基づく措置入院患者の退院後支援で経験した内容を語ることができる保健師の推薦を依頼した.10名の保健師が推薦され,全員から同意が得られた.

3. 調査方法

インタビューガイドに基づき,プライバシーの保てる調査対象者の希望する場所で,1時間程度の半構造的個別面接調査を実施した.面接内容は,調査対象者の同意を得てICレコーダーで録音した.面接回数は原則1回で,追加のデータ収集は,電話もしくはメールで行った.データ収集期間は,2020年6月~11月であった.

4. 調査内容

調査対象者に対して,年代,保健師経験年数,精神保健福祉業務経験年数を尋ねた.インタビューでは,措置入院した精神障害者にA県ガイドラインに基づき退院後支援を行ったことにより,保健師が認識した支援および支援体制の変化と課題について,自由に語ってもらった.

5. 分析方法

分析は,質的記述的方法を用いた.録音した面接内容から逐語録を作成し,措置入院した精神障害者にA県ガイドラインに基づき退院後支援を行った保健師が認識した支援および支援体制の変化と課題が語られている箇所を抽出した.データは,1つの意味内容ごとにコード化し,他のコードと内容の同質性,異質性,関係性を検討した上でサブカテゴリー,カテゴリーへと抽象度を上げた.分析の過程では,調査対象者の意図を損なわないよう複数の共同研究者で検討し,内容の妥当性を高めた.

6. 倫理的配慮

調査対象者には,文書と口頭にて,インタビューへの参加は自由意思であり,参加の可否による不利益は一切なく,同意しても分析前であれば自由に撤回することができること,得られたデータは調査目的以外に使用せず,データは匿名化し,個人を特定できないようにしたうえで公表すること等を説明し,同意書への署名を得た後に面接を行った.調査にあたり,自治体の保健師の所属局において調査の承認を得たのち,本調査は広島大学疫学研究倫理審査委員会に既存のデータによる研究を申請し,承認を得た(承認番号E-2359,承認年月日2021年2月15日).

III. 結果

1. 調査対象者および事例の概要

調査対象者の一覧を表1に示した.保健師経験年数は2~41年(平均15.3年)で,精神保健福祉業務経験年数は1~38年(平均9.3年)であった.事例の疾患は,統合失調症や双極性障害,アルコール依存症などであった.面接時間は平均48分であった.

表1  調査対象者および事例の概要
保健師 年代 保健師経験年数 精神保健福祉業務経験年数 事例の疾患名
A 20歳代 2 1 統合失調症
B 20歳代 2 1 認知症
C 20歳代 2 1 双極性感情障害
精神病変を伴う躁病エピソード統合失調症
妄想性障害
D 20歳代 3 1 躁うつ病
境界性パーソナリティー障害
統合失調症
E 20歳代 3 2 知的障害
覚せい剤精神病
F 20歳代 6 2 統合失調症
精神遅滞
G 40歳代 24 10 統合失調症
H 50歳代 30 7 アルコール依存症
I 60歳代 40 30 双極性障害
J 60歳代 41 38 アルコール依存症
双極性障害
高次機能障害

2. 措置入院した精神障害者にA県ガイドラインに基づき退院後支援を行った保健師が認識した支援および支援体制の変化

変化として51コード,13サブカテゴリーから4カテゴリーが抽出された(表2).以下,カテゴリーを【 】サブカテゴリーを〈 〉語りを「 」で示す.

表2  A県ガイドラインに基づき措置入院した精神障害者に退院後支援を行った保健師が認識した支援および支援体制の変化
カテゴリー(4) サブカテゴリー(13)
個別支援の機会の増加による支援の質と責任感の向上 主体的に電話や訪問をして直接的な支援をした
支援の責任感が向上した
記録様式の共有による支援の可視化 項目立ったニーズアセスメントの様式により多角的なアセスメントや評価ができた
記録様式を本人や支援者が共有することで支援の全体像の理解が進んだ
記録様式により支援者の役割分担の整理につながった
事業を中心とした市町や医療機関・関係機関との連携体制の確立 保健所が退院を把握できるようになった
事業が関係機関の支援の根拠となり互いに連携しやすくなった
関係者との関わりが増え各々の役割を知るきっかけになった
医療機関の退院後支援の体制や意識が確立したと感じた
積極的に医療機関や市町や福祉サービスに働きかけて本人をつないだ
市の保健師や事業所と患者を見ていく雰囲気ができた
管轄地域や都道府県を越えた保健所連携の強化 国の通知なので管轄外保健所とも共通認識できて動きやすかった
本人の帰住地が県外でも県外の保健所と事業に基づいた連携ができた

1) 個別支援の増加による支援の質と責任感の向上

地域保健法により直接的な住民サービスの多くが市町村に移行されたが,〈主体的に電話や訪問をして直接的な支援をした〉ことや,「退院後支援は保健所が入院中から責任をもって関わるようになった」「事業があることで本人の支援に責任を持てる」という語りから,〈支援の責任感が向上した〉と認識していた.

2) 記録様式の共有による支援の可視化

全国およびA県ガイドラインには意向確認やニーズアセスメント,支援計画の記録様式がある.〈項目立ったニーズアセスメントの様式により多角的なアセスメントや評価ができた〉ことや,「(A県)ガイドラインができる前は目につく困りごとをなくすために関係者で話し合うくらいの感じだった」が,〈記録様式を本人や支援者が共有することで支援の全体像の理解が進んだ〉という変化が示された.また,〈記録様式により支援者の役割分担の整理につながった〉変化があった.

3) 事業を中心とした市町や医療機関・関係機関との連携体制の確立

〈保健所が退院を把握できるようになった〉や,「事業があることで,医療機関は書類を出して連絡しなければならない,保健所も病院にアプローチしなければならないというお互いの根拠となって,医療連携がしやすい」などの語りから,〈事業が関係機関の支援の根拠となり互いに連携しやすくなった〉ことが明らかになった.〈関係者との関わりが増え各々の役割を知るきっかけになった〉ことや〈医療機関の退院後支援の体制や意識が確立したと感じた〉〈積極的に医療機関や市町や福祉サービスに働きかけて本人をつないだ〉〈市の保健師や事業所と患者を見ていく雰囲気ができた〉ことを認識していた.

4) 管轄地域や都道府県を越えた保健所連携の強化

「事業は国が示しているので管外と共通認識できて動きやすい」「帰住地が県外の事例について県外の保健所と同意取得の連携をした」などの語りから,〈国の通知なので管轄外保健所とも共通認識できて動きやすかった〉〈本人の帰住地が県外でも県外の保健所と事業に基づいた連携ができた〉変化を認識していた.

3. 措置入院した精神障害者にA県ガイドラインに基づき退院後支援を行った保健師が認識した支援および支援体制の課題

課題について,40コード,12サブカテゴリーから4カテゴリーが抽出された(表3).以下,カテゴリーを【 】サブカテゴリーを〈 〉語りを「 」で示す.

表3  A県ガイドラインに基づき措置入院した精神障害者に退院後支援を行った保健師が認識した支援および支援体制の課題
カテゴリー(4) サブカテゴリー(12)
事業に対する医療機関と保健所の認識の違い 医療機関への事業の周知が不十分である
支援が必要と思っても支援対象にならない場合がある
同意が得られない本人への継続支援 本人の疾患や病識不足,行政への不信感で支援の同意がもらえない
通院や治療,内服の中断で心配な人に限って同意が取れない
措置入院を繰り返す人ほど同意が取れない
原則書面で同意を取るので口頭で同意を取るより難しい
同意が原則のため拒否されると支援しにくい
退院までの本人との関わりや本人理解の不十分さ 急な退院連絡により支援の準備や本人との信頼関係が十分できない
病状アセスメントや地域生活のイメージが不十分なまま支援計画を立てる
支援終了の判断基準と評価方法の不明確さ 支援を終了できる病状や生活の基準が分からない
支援を評価するタイミングや方法が分からない
支援終了時に関係機関との合意形成や会議ができていない

1) 事業に対する医療機関と保健所の認識の違い

「最終的な支援対象の決定は主治医なので,主治医の事業への理解が大切である」「病院が支援対象にするのはどちらでもよいと思っていたら動きも違うと思うので,同意は病院の協力に尽きる」「保健師は退院後支援が必要だと思うが医師から必要ないと言われると保健所はそれ以上推せなかった」などの語りから,〈医療機関への事業の周知が不十分である〉ことや〈支援が必要と思っても支援対象にならない場合がある〉ことが示された.

2) 同意が得られない本人への継続支援

「病識がなくて同意が取れないこともある」「本人の子どもが児童相談所に保護される経過があり,行政に不信感がある人は支援に拒否的で同意が取れなかった」という語りから,〈本人の疾患や病識不足,行政への不信感で支援の同意がもらえない〉ことが認識されていた.〈通院や治療,内服の中断で心配な人に限って同意が取れない〉〈措置入院を繰り返す人ほど同意が取れない〉ことや〈原則書面で同意を取るので口頭で同意を取るより難しい〉ことを認識し,「同意を拒否されても連絡を取ったら怒りの手紙が来て反省した」という〈同意が原則のため拒否されると支援しにくい〉ことも課題として認識していた.一方で,その課題に対して「同意を得られないため本人や家族に電話や訪問をし,市町とも連携した」「同意しない人の支援は直接的サービスの詳しい市や包括に協力を依頼した」などの対応をしていた.

3) 退院までの本人との関わりや本人理解の不十分さ

〈急な退院連絡により支援の準備や本人との信頼関係が十分できない〉ことや,〈病状アセスメントや地域生活のイメージが不十分なまま支援計画を立てる〉という課題を認識していた.

4) 支援終了の判断基準と評価方法の不明確さ

「何をもって支援終了と判断するのか分からなかった」などの語りから,〈支援を終了できる病状や生活の基準が分からない〉ことや,〈支援を評価するタイミングや方法が分からない〉こと,〈支援終了時に関係機関との合意形成や会議ができていない〉課題を認識していた.

IV. 考察

1. 個別支援の質の向上と支援の可視化による連携強化

A県ガイドラインは,事業の実施主体を明確化し,退院後支援を業務として位置づけた.これにより,保健所保健師の【個別支援の機会の増加による支援の質と責任感の向上】という変化につながっていた.1994年の地域保健法制定により,住民サービスは保健所から市町村に移行し,都道府県型保健所保健師の家庭訪問は減少していることが報告されている(厚生労働省,2009厚生労働省,2018a).しかし,本報告の保健師は,保健所が実施主体と明記されていることからも事例管理に一層責任を持ち,積極的に地域に入ることで,本人や家族の生活の場を基盤とした支援を実施していた.このことから,ガイドラインに基づく退院後支援は,より生活に寄り添った質の高い支援につながるとともに,この退院後支援には訪問型の支援が必要となる特徴が示された.また,市川(2013)は,都道府県型保健所保健師の家庭訪問の実態について,新任期の家庭訪問スキルには継続訪問の件数が関連していることを明らかにしている.新任期からの人材育成にOJTの強化を含めた家庭訪問研修を組み入れるなど,退院後支援をとおした研修の有効性も示唆された.

【記録様式の共有による支援の可視化】がなされたことで,本人および関係機関との連携や協働が容易となり,【事業を中心とした市町や医療機関・関係機関との連携体制の確立】【管轄地域や都道府県を越えた保健所連携の強化】という保健所や保健師を中心とした,管轄地域や都道府県も越えた広域的な多職種支援チームの形成をもたらしていた.大石ら(2012)も,精神科医療の過程が可視化されていないこと,これが他施設,他職種との情報共有を阻害し,多職種による協働を妨げると指摘しており,連携における支援の可視化の重要性が示唆された.また,荒田(2010)は,都道府県型保健所と市町村間の問題として,権限移譲や業務分担が一人歩きし,「連携」や地域住民に対する「重層的な関わり」が作りにくくなっていることを報告しているが,本調査では,〈積極的に医療機関や市町や福祉サービスに働きかけて本人をつないだ〉〈市の保健師や事業所と患者を見ていく雰囲気ができた〉など,市町や関係機関との関わりが増え,都道府県型保健所保健師が積極的に連携するようになったことが語られた.以上より,本報告の保健師はA県ガイドラインに基づく退院後支援において,本人と本人の生活する地域の医療,障害福祉,介護,住まい,社会参加などをつなぎ,関係機関が協働して支援する,精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築を実践していることが確認できた.さらに,退院後支援の協議や相談をすることは,その地域に不足している社会資源や地域課題について考え,検討する機会にもつながると考えられる.

2. 支援の導入と終結に関する課題

保健師は【退院までの本人との関わりや本人理解の不十分さ】を課題として感じており,退院後支援は入院時から始まっているにも関わらず,保健師が早期から主体的に医療機関と情報共有できていないことが示唆された.時間を必要とする環境調整は措置解除時期にも影響しかねない(杉山ら,2020)ため,入院時から保健師は医療機関と密に連絡を取り合い,早期に円滑な地域移行ができるよう関わっていくことの重要性が明らかになった.また,退院後支援を進めるにあたり,医療機関の協力や連携は不可欠であるが,保健師は【事業に対する医療機関と保健所の認識の違い】を感じていた.精神保健指定医を対象にした調査(根本ら,2018)では,措置入院患者に関する多職種連携で特に重要な職種や機関として保健所の割合が最も多く,連携の開始時期については入院直後からと答えた者が最も多かった.医療機関と保健所は,退院後支援について共通認識を持って取り組めるような良好な関係を築き,保健所が当事業の主旨やプロセスについての説明と,効果検証の情報提供を定期的に実施し,退院後支援の重要性を訴えていく積み重ねが必要と考えられる.

【同意が得られない本人への継続支援】という課題は,退院時の同意を得る時期までの関わりにおける重要性を提示している.医療機関や保健師が本人への支援が必要と考えていても,本人の意志や病識のなさ等で同意を拒む事例も少なくない.この課題に対して,保健師は,粘り強く本人や本人の周囲の支援者にアプローチしていたことが語られ,周囲から間接的に見守り,情報共有する体制を構築するなど,地域全体で包括的に支援する重要性が示唆された.また,支援の終結や継続に関する課題として,【支援終了の判断基準と評価方法の不明確さ】が語られた.我が国はこれまで保健事業が実施されても,保健師は特に系統立てて総合的に評価を行わない場合が多かったことが指摘されている(今井,2016).A県ガイドラインでは,支援終了時に必要に応じて検討会を開くことを明記しているが,事業評価の目標値や評価指標は明記されていない.そのため,保健師は原則として6か月の支援終了時期が近づくにつれて,支援主体の移行や,延長,どのような指標で本人や支援全体の評価をすべきなのか戸惑っていた.これに対して,支援終了時に本人や家族と一緒にこれまでの経過や現在の生活の振り返りをしたり,アンケート等をとおして退院後支援の事業自体の評価をしてもらうこと,また,医療機関や保健師自身が自己評価をして,それらの評価を関係機関と共有することで,個々の支援と事業自体の評価および改善,課題の抽出などが可能であると考えられる.

V. おわりに

本報告は,措置入院した精神障害者にA県ガイドラインに基づき退院後支援を行った保健師が認識した支援および支援体制の変化と課題を明らかにすることを目的とした.保健所保健師は,支援の可視化や連携体制の強化を変化として認識しており,退院後支援をとおして本人の生活する地域の医療,障害福祉,介護,住まい,社会参加などが協働して支援することは,精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築の実践につながっていること,また不足している地域資源や地域課題について考え,検討する機会になることが考えられた.一方で,医療機関や関係機関,地域への退院後支援に関する理解の促進,措置入院後早期から保健師が本人へ関わること,支援終了時の評価方法の検討が課題であり,今後取り組んでいく必要性が示唆された.

謝辞

本報告を行うにあたり多大なるご協力を賜りましたA県の保健師並びに関係者の皆様に厚くお礼申し上げます.

本報告は第9回日本公衆衛生看護学会学術集会において発表した.

本報告に開示すべきCOI状態はない.

文献
 
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