Japanese Journal of Public Health Nursing
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Public Health Nursing Report
Health Center Support Activities by Local Universities during the COVID-19 Epidemic
Megumu IwamotoKumiko NakanoAtsushi MatsunagaMahiro FujisakiJunko Omori
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2023 Volume 12 Issue 2 Pages 128-136

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Abstract

目的:B県A市はCOVID-19の感染が急拡大し,保健所機能がひっ迫する事態に陥った.応援要請を受け,大学教員と大学院生がCOVID-19保健所業務の支援に参加した.保健所と大学が連携する上での課題と今後の示唆について考察することを目的とした.

方法:地元の医療・看護系5大学の教員と看護系大学院生計64名が2021年3月中旬より約1ヶ月半支援を行った.支援終了後に支援活動の振り返りを行った.

活動内容:他自治体派遣職員と大学教員・大学院生が協力して活動を行うための支援体制を構築し,その維持を図り,業務支援を行った.業務内容は,自宅待機者の健康観察,陽性判明時疫学調査,PCR陽性者が滞在していた施設調査であった.

考察:効果的な支援活動の展開には,業務マネジメントやシフト管理を保健所と相談しながら綿密に行う必要があり,状況変化に応じた支援ニーズへの迅速な対応の必要性が示唆された.

I. はじめに

2020年1月に我が国で初めて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症例が確認されて以来,未だ流行収束の兆しは見えない.我が国では,保健所がCOVID-19感染者の把握・追跡の中核的役割を果たしている点が特徴的である(角野ら,2021).しかし,行政改革の推進により近年保健所数は減少の一途を辿っており,全国の保健所数はピーク時(1982年)と比較して約40%減少している(全国保健師長会,2021).このような状況でCOVID-19の感染拡大が急速に進み,COVID-19の流行が長期化したことは,保健所に莫大な負荷をかけ,保健所職員の疲弊が最大限に達する事態に陥った(Yoshioka et al., 2020).

保健師等の疲弊を軽減するため,厚生労働省は,新型コロナウイルス感染症対策において看護師等の免許を有する教員や大学院生の支援を全国の看護系大学に要請した(厚生労働省,2020).これにより,看護系大学の支援が全国に広がった.

B県A市では2021年3月に感染者数が急増し(第3波),3月中旬には緊急事態宣言が発令され,B県を通じてA市保健所から厚生労働省に支援要請が出された.しかし,全国規模の感染拡大により,必要な保健師の派遣を他自治体に期待するのは難しく,地元教育研究機関による保健医療人材の総力を挙げて支援にあたることとなった.それを受け,地元5大学の医療・看護系教員と看護系大学院生が支援に参加することとなった.

今回の支援は,地元大学,保健所,他自治体派遣職員(保健師,看護師,獣医師,薬剤師)の三者が連携しCOVID-19保健所業務支援を行った点で特徴的である.本報告では,A市保健所C支所への支援経緯と支援活動をまとめ,保健所と大学が連携する上での課題と今後の示唆について考察することを目的とした.

II. 方法

1. 支援先自治体の概況

A市は約110万人(2021年10月1日現在)の人口を有する政令指定都市であり,C区を含む5区で構成され,各区に保健所の支所が設置されている.中でもC区は人口,面積ともに最も大きく,行政機関・金融機関・教育機関・商店街等が集中している.2021年2月時点まで,A市におけるCOVID-19新規感染者数はピーク時でも1日50名程度で推移していたが,3月中旬頃より急増し,3月下旬には130名を超え,過去最多を更新した.3月中旬には感染者の急増に伴って保健所機能は急速に逼迫し,B県及びA市から厚生労働省に専門職の応援要請が出されるに至った.

2. 支援活動期間・場所

2021年3月18日から4月29日までの期間,A市保健所C支所にて支援活動を行った.A市から別途要請があった際には,他の4支所において少数の人員が各支所に出向き,支援活動を行った.

3. 支援チームの構成と人数

A市及び近郊にある5大学の医療・看護系教員56名,5大学中1大学の看護系大学院生8名合わせて64名,延307名が支援活動に参加した.1日あたりの最大支援者数は19名だった.なお,本学からの支援者は,看護系教員および看護系大学院生合わせて30名であった.

4. 支援活動をまとめるためのデータ収集

著者らは支援活動に準備段階から終了に至るまで参加し,COVID-19支援業務を行うとともに,リーダー業務(情報の共有,シフト管理,業務遂行マネジメント,支援者への配慮(図12))も担った.

図1 

業務の流れ,リーダーの業務内容

図2 

体制整備・業務マネジメントに関するリーダーの取り組み

準備段階においてはオリエンテーション資料や動画,支援業務の説明資料等を作成した.さらにシフト管理の提案からそのマネジメントも行い,リーダーとして業務マネジメントを行った.著者らは支援活動を共に行う中で,支援活動に関する気づきや悩みを共有し,活動に伴うデータを蓄積させた.

また,支援活動期間終了後,対面での支援活動の振り返りに関するミーティングはCOVID-19感染防止のため開催せず,Googleフォーム上でシートを使用して,本学から支援に参加した教員と大学院生で振り返りを行った.振り返りは,シートに各自で記入し,結果を共有する形式で実施した.シートには,支援に入った日数,従事した業務,支援動機,保健所支援業務に活かされた知識・経験,対処に困ったこと,支援時に心がけていたこと,大学業務や家庭との両立等について各自が記入した.

支援活動の実践や振り返りの結果をもとに本報告の草稿を起こし,検討を重ねながら支援活動をまとめた.本報告の記述内容については支援先機関の関係職員と複数の支援活動メンバーに確認を依頼し,記述の妥当性,正確性の確保に努めた.

5. 倫理的配慮

本報告は実際に実施した支援活動を報告するものであり,関係機関から公表の承諾を得ている.施設名の明記についても承諾が得られているが,万が一の関係機関の負担や不利益を避けるために匿名化した.

振り返りシートは無記名とし,個人が特定できないように処理した.また,シートの冒頭に個人が特定されないこと,記入しなくても一切の不利益がないこと,今後学術誌等で報告する可能性があることについて説明し,同意が得られた場合のみ回答に進める設定とした.最終的な送信をもって,振り返りシート記入への同意とした.

III. 活動内容

1. 支援活動体制構築までの経緯

2021年3月18日午前中にA市保健所C支所にて,地元教育研究機関のCOVID-19業務支援開始に向けた会議が開催された.会議には,厚生労働省保健局,B県保健福祉部,B県疾病・感染症対策課,A市保健所,地元2大学公衆衛生看護学領域教授が出席し,A市のCOVID-19に関する現況を把握し支援を必要とする業務について検討された.支援先は,A市で最多の人口を抱え,歓楽街もあるC区を管轄するA市保健所C支所に決定した.

早急な支援が必要な状況であったため,会議に出席した2大学の教授は,所属大学に協力を仰ぎ,翌19日から当面の期間の人員確保を図った.支援者は2大学の医療・看護系大学教員と看護系大学院生で構成されたが,大学院生の参加は教員側で数日現場の状況を確認した上で,受け入れが可能と判断した日から開始した.また,2大学だけでは,十分な支援者数の確保が困難であったため,A市近郊の医療・看護系大学の教員や,保健所と相談して厚生労働省のIHEAT(Infections disease Health Emergency Assistance Team)登録者にも連絡し,支援を依頼した.その結果,地元大学からの支援は徐々に充実し,最終的に5大学64名の支援者を集めることができた.

2. 支援活動の実際

1) 支援活動開始までの準備

COVID-19支援業務が3月19日から開始できるよう,前日午後にC支所の課長や担当職員らと2大学の公衆衛生看護学領域の教員が集結して準備を行った.C支所には,支援者が業務を行う支援室と,電話や各種備品,感染対策のための仕切りを3月19日までに準備してもらうよう依頼した.大学側は支援者が業務を戸惑いなく進められるよう説明資料や動画の作成,活動シフトの管理方法や当面のシフト決め等の活動業務を行った.

業務説明資料には,大学の医療・看護系教員と看護系大学院生は保健師実務経験がない者が大半であることを考慮し,COVID-19保健所業務についてその目的や基本的な内容の説明を加えた.さらに,陽性判明時疫学調査前に,厚生労働省IHEATサイト学習動画の視聴を呼び掛けた.他方,他自治体の派遣保健師の多くはCOVID-19保健所業務経験を有していたことから,A市の特徴や対応業務の違いが分かるよう意識して資料を作成した.A市は政令指定都市型の保健所であることから,疫学調査は区が,入院加療の必要性の最終的な方針決定や療養先への移送手配は市が,入院先や療養先の調整は県が行う等,役割分担が複雑であり,都道府県型の保健所とは体制が異なる部分に注意が必要であった.また,A市では陽性判明時疫学調査を前半と後半に2分割して実施する点が特徴的であった.つまり,住所や既往歴,ADL等の基本的な情報と症状の経過を調査する前半と接触者や行動歴を調査する後半である.こういった他自治体と異なる点については,作業フローチャートを作成して説明した.また,いずれの支援者にもまず把握してほしい情報として動画(A市概要,C区概要,地域の特性を踏まえた疫学調査方法,COVID-19業務大枠)を作成し,事前に視聴した上で支援活動をするよう求めた.加えて,支援当日の資料としてA市COVID-19業務体制図,業務マニュアルを準備した.

A市保健所やC支所の保健師から支援のニーズを確認しながら決定した初期のシフト体制や業務説明のための動画や紙面資料の多くは,変更を繰り返しながらも,骨格となる部分には大きな変更はなく最後まで使用され続けた.更にこれらの作成資料はA市保健所C支所によって修正が重ねられ,第4波以降の支援時にも使用された.

2) 支援活動に係るマネジメント

C支所の保健師を極力煩わせることなく支援者(他自治体派遣職員及びA市役所の他部署からの応援者も含む)間でスムーズに連携し活動できるよう,支援期間を通してメンバーの入れ替えが少なかった大学側からリーダー1名(交代制)を選出した.これは,C支所,地元5大学,他自治体の派遣職員(保健師,看護師,獣医師,薬剤師)等,多職種,多機関の支援者の連携には困難が予想され,足並みを揃えて円滑に支援を行うためには,マネジメントの役割を担う必要があったためである.

リーダーを中心に,A市のニーズ把握,情報の共有,シフト管理,支援者全ての全般的な業務マネジメント及び支援者の心身の健康への配慮等を行う体制を構築した(図12).

多職種,多機関の支援者が連携して活動するには,情報の共有が不可欠である.リーダーは,支援室の壁を活用し,壁貼りホワイトボードフィルムを使用して,感染者発生情報,活動しているそれぞれの支援者の名前,所属,役割,座席表,受け持っている活動内容等を掲示し,情報の共有を図るとともに支援者間の理解も深めた.また,ホワイトボードには保健所のCOVID-19業務内容の変更に伴う支援業務内容,変更点,業務上の注意事項等を掲示した(図2).

シフト管理では,大学業務や派遣元自治体の感染状況の変化に伴って頻繁な変更が予想されたため,共同編集可能で,リアルタイムに入力が更新されるGoogleスプレッドシートを用いて管理した.個人情報保護の観点から,大学のリーダー間でのみスプレッドシートを共有し,それぞれの大学のリーダーが自身の大学分の活動日程をまとめてスプレッドシートに入力した.その結果,大学側支援者の活動日程はスプレッドシートに逐次変更が入力され最新の情報を把握することができた.他自治体派遣職員を含め支援者全体のシフト管理は大学側で担っていたが,他自治体派遣職員の支援活動日程やその変更の情報については保健所窓口から大学側へ紙媒体か口頭で伝えられたのち,その情報を大学側で入力した.また,保健所支援室の収容人員には限りがあったため,他自治体の派遣職員とA市役所の他部署からの応援者数を基にして,大学側の支援者数で調整し,収容可能な人数に収めた.しかし,業務開始直前に保健所窓口から,他自治体派遣職員の直近の支援活動日程或いは日程変更の連絡が入り,シフト調整に手間取り,支援者の予定を混乱させることもあった.支援活動時間は早番と遅番に設定したが,ピークアウト後大学の新学期が始まるタイミングで支援者が支援活動を持続しやすいよう朝・昼・夜の3区分に変更した(図1).

業務遂行マネジメントにおいては,各支援者の経験を考慮し,可能な業務内容の範囲を決定し,また初めて業務を行う支援者は,業務経験者に陪席してシャドーイング等でイメージを掴んだ後に単独で業務に臨むように配慮した(図2).業務量が多い場合は必要に応じてリーダーとは別にまとめ役(チーフ)を設定して業務を管理した.支援業務は,流行状況やクラスター発生の有無等状況に応じて業務のニーズは数時間ごとに変化した.リーダーは可能な限り保健所の要望を把握し対応するよう心がけたが,頻回の業務ルールの変更や新たな業務の追加に関する支援者への周知が行き届かず,混乱を招いたこともあった.

支援者が心身ともに健康を維持し,業務を遂行できるよう支援者の心身の配慮に係る様々な取り組みもリーダーが行った.例えば感染予防対策,休憩や活動時間の調整や部屋の清掃等に取り組み,また精神的な負荷がかかった場合に気持ちを受け止められる環境づくりにも取り組んだ(図2).

支援活動日におけるリーダーの業務には,ミーティングや初めての参加者へのオリエンテーション,業務変更事項の板書,業務従事者からの疑問点や困り事への対応等があり,支援活動時間により早番と遅番に分かれて対応した(図1).

3) 支援業務内容

支援業務は,大きく,自宅待機者の健康観察,陽性判明時疫学調査,PCR検査陽性者が滞在していた施設調査の3つに分けられた.

(1) 健康観察業務

支援当初,A市ではPCR検査陽性の場合,原則として宿泊療養或いは入院治療の判断は症状によって決定された.しかし,新規感染者数の急増により,宿泊療養や入院先の確保が難しく,自宅待機になる場合が多くなった.それに伴い,自宅待機者への健康観察業務が急増し,保健所業務が逼迫したため,この業務を支援者で受け持った.

健康観察は前日から当日の電話時点までの症状(体温,呼吸器症状,その他の症状)についてチェックシートを用いて聞き取り,気になる症状がある場合や症状悪化時は保健所担当職員に報告した.対象者から質問や要望があり,自身で判断できない場合は再度連絡することを伝えた上で,保健所職員に指示を仰いだ.

また,発症日から10日間が経過し,かつ症状軽快から72時間に近づきつつある対象者のファイルは,保健所職員が療養解除の判断をしやすいよう別のボックスに分けて整理した.支援期間中はPCR検査陽性者数が増加し,病床や宿泊療養施設の空きが少なく,自宅待機期間が長期化したこともあって,自宅待機中に療養解除となる人も多く発生した.保健所が療養解除と判断した対象者に対してその旨を連絡する作業も支援者が行った.

(2) 陽性判明時疫学調査

PCR検査陽性の対象者に,住所や既往歴等の基礎的な情報,現在の症状,これまでの症状の経過,行動歴,濃厚接触者等について聞き取る陽性判明時疫学調査に従事した.

C支所では疫学調査を前半と後半に2分割して調査しており,前半が終わった段階で,保健所担当職員に報告した.これは,症状を早く把握し,緊急性のある陽性者を早急に医療につなげたいというC支所の意図によるものであった.前半の調査報告を基に発症日を特定し,今後の入院・療養の方針を検討するB県入院調整会議に提供する情報を整理した.なお,前半の調査はPCR検査結果が伝えられていない場合もあり,半数程度は陽性の告知から始めた.前半の調査と報告が終了し発症日を特定した後に,後半の調査を行った.後半の調査報告後,保健所職員によって接触者へのPCR検査,施設調査の必要性が判断された.

陽性判明時疫学調査では,長い自宅待機やPCR検査をすぐに受けられない状況の中で,対象者は周囲に感染を知られたくないという思いや病気に対する不安・恐怖,隔離や行動制限がもたらすストレスから,行動歴や濃厚接触者の問いをきっかけに,その思いを電話口の支援者に強く訴える場合もあった.さらに,一本の電話の時間が30分以上になることも多くあった.このように支援者の負荷は重く,心身の疲弊につながる恐れがあった.

(3) 施設調査

PCR検査陽性者が確認された小~中規模施設における濃厚接触者を明らかにするため,PCR検査や健康観察業務をC支所保健師と共に担った.調査は電話とメールを併用して行った.施設調査については,他自治体からの派遣職員のうち経験のある者が担っていたが,一部大学からの支援者も行った.また,他区からの要請により,施設を直接訪問しての聞き取り調査に同行することも数回あった.

3. 支援活動の振り返り(表1

本学からの支援者30名中,25名から振り返りシートの入力があった(表1).支援日数は,教員では4–6日(41.2%)が,大学院生では1–3日(87.5%)が最も多かった.従事した支援業務は,陽性判明時疫学調査が最も多く(96.0%),次いで自宅待機者健康観察(60.0%)であった.支援動機は,「COVID-19新規感染者拡大で応援が必要なA市を手助けしたいと思ったため」が最も多かった(84.0%).「これまでの経験や知識が支援業務に活かされたことがあったか」について,教員は「ややあった」も含め約8割が活かされたと回答したが,大学院生は4割弱であった.支援業務に活かされた経験・知識には,対人支援のためのコミュニケーション技術,疾病(感染症)や病態に関する知識等が挙がった.「支援業務を行う上で対処に困ったこと」に関しては,68.0%が「困ったことがある」と回答し,その要因に「支援業務の手順の変更が伝えられておらず対処に困った」が挙げられた.支援時に心がけたこととして「相手の話をよく聞き,詳細に話を聞き出せるよう言葉選びに注意した」「丁寧な対応を心がけた」「正確な情報を伝えられるよう心がけた」というコミュニケーション上での姿勢や「保健所の支援ニーズに柔軟に対応する」「分からないことは積極的に質問し,ネガティブな発言をしない」「専門職として自立(自律)し,支援先に迷惑をかけない」等,支援先への配慮や連携に対する姿勢が挙げられた.「本業や家庭との両立の困難感」については,教員の52.0%,大学院生の25.0%が感じており,特に大学関連の業務や研究が滞っていたことが分かった.

表1  支援の動機,支援業務,支援日数(N=25)
1.支援動機(複数回答可) n %
COVID-19対応業務の支援が必要なA市を手助けしたいと思ったため 21 84.0
良い経験になると思ったため 14 56.0
社会貢献をしたかったため 12 48.0
COVID-19対応業務に携わってみたかったため 8 32.0
給金がもらえたため 4 16.0
上司・教員から支援に行くよう勧められため 4 16.0
今後の教育・研究に活かせると思ったため 3 12.0
その他 2 8.0
2.支援業務(複数回答可) n %
陽性判明時疫学調査前半(住所,既往歴,ADL調査等) 24 96.0
陽性判明時疫学調査後半(行動歴,接触者調査) 24 96.0
自宅待機者健康観察(療養施設,入院待ち) 15 60.0
施設調査 2 8.0
自宅待機者健康観察 12 48.0
PCR検査前受診調整・保健指導・(濃厚接触者,検査対象者) 9 36.0
PCR検査陰性者への連絡・保健指導 6 24.0
3.支援日数 教員(n=17) 大学院生(n=8)
n % n %
1–3日 6 35.3 7 87.5
4–6日 7 41.2 1 12.5
10日以上 4 23.5 0 0

自由記載欄には,対処に困った事例として「クレームのようなものへの対応」「偽陽性だと主張する対象者への療養の説得」「自宅待機を了承してもらうための説得」等が挙げられた.

IV. 考察

1. 支援者が戸惑わず業務を遂行できる支援体制づくりとシフト管理

地震などの災害支援は流動的で事前に綿密な計画を立てる時間がないといわれている(新福ら,2015)が,今回のCOVID-19保健所業務支援では半日とはいえ支援体制や資料準備について検討する時間が確保でき,このことがスムーズな支援の開始・維持につながった要因だと考えられる.支援者が戸惑わず業務を遂行できる支援体制を目指して,まずオリエンテーション資料(動画,紙面資料)を作成し,また支援日程の頻繁な変更が予想されたため,共同編集可能で,リアルタイムに入力が更新されるGoogleスプレッドシートを用いて大学側で支援者全体のシフト管理にも取り組んだ.

オリエンテーション資料は,支援者にとって初めての場所での業務となることに留意し,A市C区やCOVID-19業務がイメージしやすいよう画像を取り入れた動画(A市概要,C区概要,地域の特性を踏まえた疫学調査方法,COVID-19業務大枠)を作成し,支援活動前に視聴を勧めた.何度も繰り返し見ることのできる紙面資料には,保健師の実務経験がほとんどない大学側支援者に配慮したCOVID-19保健所業務(目的や基本的な内容)説明資料をはじめとして,A市COVID-19業務体制図,業務マニュアルを作成し,スムーズに支援活動に取り組めるよう図った.特に,他自治体と異なり2分割して実施する陽性判明時疫学調査については,違いを理解しやすいよう作業フローチャートを作成した.また,支援者の経験の違いにも着目し,COVID-19保健所業務経験を有する他自治体の派遣保健師には,A市の特徴や対応業務の違いが分るよう意識して資料を作成した.さらに陽性判明時疫学調査前には,厚生労働省IHEATサイト学習動画を活用し,その視聴を呼び掛けた.A市の地域特性及び支援者の経験に配慮した支援業務に関する動画や紙面資料等は支援者が戸惑いなく安心して支援活動を行う大きな支えとなったと考えられる.初期のシフト体制や支援業務説明の動画や紙面資料の多くは,第4波以降も使い続けられ,支援の土台となっており,その必要性,有用性は明らかである.今後はCOVID-19保健所業務支援をスムーズに展開し,継続していくために,これまで支援を受け入れた各地域において,支援者の経験度や変化する状況に応じて改善され続けた支援体制等の試みを統合・検討し,一つのひな型を提案していく必要があるのではないだろうか.

A市役所以外の機関からの応援者及びA市役所の他部署からの応援者を含め,支援者全体のシフトを調整する窓口を大学側で担ったことも,①A市保健所職員の負担を軽減する,②それぞれの大学でシフト入力をするので比較的変更が行いやすく大学業務との両立を助ける,という2点において特に効果があったと考えられる.しかしながら,時にシフト調整が困難となり,支援者の予定を混乱させることもあった.これは一つには角野ら(2021)も指摘しているように,保健所の施設設備に課題がある.電話回線の増設等は日々改善されたものの,支援室の広さはいかんともしがたく一人増えることも難しい状況にあり,そのことがシフト変更の対応を困難にした.今後受援側は,ピーク時の支援者数を予測し,三密(密閉・密集・密接)の環境を避け,業務遂行に十分な施設設備をいかに確保すべきかの検討を講じておく必要があろう.シフト管理のもう一つの課題は,他自治体派遣職員を含め支援者全体のシフト管理は大学側で担っていたが,派遣職員の支援活動日程やその変更に関する情報が保健所窓口から大学側に直前になって届くことがあり,シフト調整が難しい状況に直面したことである.派遣支援を円滑に展開させるためには,支援者を調整する総合窓口の設置,または調整担当者の配置が必要との提案がある(市原ら,2017).派遣職員の活動日程及びその変更に関する情報の早めの提供を,多忙を極める保健所に依頼するのは保健所のさらなる負担になりかねず,例えばこれらの派遣職員から情報を直接受け取る支援者調整窓口の役割を大学側で担うのも選択肢の1つとなり得るのではないだろうか.

2. 支援活動における支援者のスタンスと支援活動を遂行しやすい環境づくり

被災地支援の原則に基づき,リーダーのもと,受援者側の負荷を常に意識し,保健所の業務を増やさぬよう,全体の士気を下げることのないよう留意した.保健所への報告・連絡・相談を大原則とし,振り返りシートの記述にもあるように,不必要に保健所職員の指示を求めることのないよう負担軽減にも配慮し,リーダーを中心に経験のある支援者が初めての参加者に教えるなどチームとして自立するよう努めた.状況は急速に変化するため,現場のニーズに柔軟に対応し,改善策の提言等についても現場の混乱を避けるため控え目にし,状況を見極め現場のやり方を尊重し,建設的な提案をするよう心掛けた.

支援者が支援活動を遂行しやすい環境をつくるためにリーダーを中心にその業務に取り組んだが,支援活動に伴う様々な課題が生じた.

まず,支援活動に伴う支援者の心身の健康の課題がある.PCR検査陽性者やその家族,友人は大きな不安を抱えており,精神的な支援が必要だと報告されている(Tanoue et al., 2020).しかし,感染拡大の中でそれらに対して十分な対応をすることは非常に困難であった.支援者は可能な限り電話対応に丁寧に対処し,時に説得を試みたが,その負荷は重く,振り返りシートの自由記載欄にもその記述があった.支援者の心身の疲弊を蓄積させないために,リーダーは支援活動時間の調整,精神的な負荷がかかった場合の気持の受け止め等を心がけた(図2).しかし,リーダーはリーダー業務以外の仕事もあり,精神的負荷への配慮に多くの時間がさけない状況にあった.今後リーダーはリーダー業務のみに専念する,或いはサブリーダーを置く等の対策の検討をしていく必要がある.

また,保健所における支援室は狭い空間に多数の支援者が入り,絶えず電話等で会話をし,三密(密閉・密集・密接)の環境にあったため,十分な感染対策を講じる必要があった.効果的な支援の継続のためには,支援者の心身の健康の維持が必須であり,更なる対策の充実が望まれる.

次に,厚生労働省の指針・ガイドラインの頻繁な改訂・追加,それに伴う業務内容の変更等の情報の共有の課題がある.災害支援では状況変化に基づいた適切な対応が必要であるが(佐藤ら,2021),COVID-19支援においても状況変化に対応する柔軟さがより一層求められた.支援業務の頻回の業務ルールの変更や新たな業務の追加に関する情報の周知が行き届かず,混乱を招いたことは,振り返りの「対処に困ったこと」で多く挙げられており,今回の支援における重要な課題と考えられる.業務開始後は,電話対応が途切れるタイミングがそれぞれ異なるため,業務ルールの変更を一斉に全員に説明することは困難であった.支援室のホワイトボードへの記入も試みたが,複雑かつ頻繁な変更に対応することは難しく,効果が乏しかった.今後は複雑かつ頻繁な業務変更に対応するために,リーダーに加えて新たにサブリーダーを置く,変更事項を文書にして支援者に配布する等,不足なく支援者全員に変更情報を伝達し理解してもらうための工夫を編み出していく必要がある.ただ,頻繫な業務変更は現場対応を困難にする要因にもなると考えられる(角野ら,2021).今回の度重なる業務変更は保健所内で周知されていない事項もあり,今後はその業務内容の追加・削除・変更を決定する過程を含め,業務内容の変更の必要度等について,厚生労働省,保健所等関係機関において検討していくことが求められる.

第三に持続可能な支援活動とするための課題である.振り返りを見ると,「本業や家庭との両立の困難」を教員の半数以上が感じており,このことは支援を持続していくうえでの大きな課題である.今回は新学期の始まりが折よくピークアウト時と重なり,負担を軽減するために支援活動シフトを2区分から3区分にし,支援活動時間を短縮した(図1).より多くの支援者が支え合えば,一人の負担を軽減できることを考えると,できるだけ人材プールを大きくする必要がある.そのため,今回の支援活動中に地元大学IHEATを組織したいと考えるようになった.協働大学を増やすためA 市内の医療・看護系の大学・短期大学の教員に声をかけた.また,A市保健所支所と相談して,厚生労働省のIHEAT登録者名簿も活用し,最終的には64名もの支援者が活動に参加できた.感染が落ち着いた状況においてもあえて支援活動に参加してもらい,次の支援に備える体制をつくった.今後は COVID-19の感染再拡大,他の新興感染症対策に備えてさらに取り組むメンバーを増やすことが課題である.

3. 地元大学によるCOVID-19保健所業務支援の有効性

COVID-19の全国的な流行に伴い,他自治体の保健師派遣を期待することは難しく,パートタイムの保健師・看護師の雇用や看護系大学の教員や大学院生の支援が求められている(Yoshioka et al., 2020).地元の医療・看護系大学の教員・大学院生による保健所支援はA市でも新たな試みであったが,大きな問題なく終了できた.今回の経験から,地元大学によるCOVID-19保健所業務支援には,何点かのメリットがあると考えられる.

まず第1は支援のモチベーションである.支援の動機には「COVID-19対応業務の支援によってA市を手助けしたいと思ったため」との回答が8割を超えていた.自らが勤務・生活する地域の危機であり,当然関心が高く,医療・看護職として「人の生命と健康を守る」という思いから,高いモチベーションが得られたのではないかと考えられる.第2は大学教員の専門性や経験である.保健師の実務経験はないが,医療・看護職としての経験や知識を有し,高いコミュニケーション力を持ち,症状の判断など的確にできる能力がある.また,それぞれの専門性から異なる視点で物事を見ることができ,新たな風を吹き込む力となり得る.実際,支援中にデータ管理のIT化等について,A市の負担にならないよう留意しつつ,いくつか提案を行った.第3は遠方からの派遣支援に比べ地元の支援は宿泊などを必要とせず土地勘もあり,大学業務の合間を縫って支援に参加するという柔軟な対応が可能となる点である.地元からの応援である故に,直前のシフト変更などにも比較的対応しやすい.第4は近郊の大学の教員・学生同士であり,授業や実習等で接する機会があり,面識があることが多く,連携しやすい点である.

地域の特性や状況にあった保健活動を展開していく上で,保健所と地元大学の連携は未知の可能性を秘めている.大学の社会貢献や官学連携が推奨される中,今後COVID-19保健所業務支援以外の連携も考えられ,今回の支援はそのはじめの一歩になるのでないだろうか.

V. おわりに

本報告は,大学業務と並行してCOVID-19保健所業務支援に参加し,試行錯誤しながら行った支援活動について記述し,考察したものである.他自治体,保健所,地元大学という背景が異なる複数機関の職員が連携し,変化する住民のニーズに合致した支援を展開していくためには,業務マネジメントやシフト管理を綿密に行うことが求められる.また,地元医療・看護系大学からの支援者は,医療・看護職としての知識や経験,高いコミュニケーション力を持ち,業務内容の説明さえあればすぐに大きな戦力となり得ることがわかった.医療・看護の様々な分野における専門性が保健師活動の向上・発展に寄与する可能性とともに,支援者にとって医療・看護活動に地域や公衆衛生看護の視点を持つ重要性を学ぶ契機となり,なによりも未曽有のパンデミックに対して医療者として一致団結して立ち向かう機会となった.

謝辞

A市保健所C支所の支援活動に携わった皆様,本稿作成にあたりご助言いただいたA市保健所C支所の皆様に心から感謝申し上げます.

本報告に関連し,開示すべきCOI 関係にある企業・組織および団体等はありません.

文献
 
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