Japanese Journal of Public Health Nursing
Online ISSN : 2189-7018
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ISSN-L : 2187-7122
Original Article
Addressing “Kireme” (Interruption Situation) in Maternal and Child Healthcare by Public Health Nurses: A Qualitative Descriptive Study
Aya TagawaReiko OkamotoKeiko KoideMiho Tanaka
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2023 Volume 12 Issue 3 Pages 162-170

Details
Abstract

目的:本研究の目的は,母子保健において保健師が対応している「切れ目」について明らかにすることである.

方法:先進的事例として紹介された8市町村の保健師等を対象に,オンラインによるグループインタビューを行い,逐語録を質的記述的に分析した.

結果:分析の結果,【母子健康手帳交付時から産後の切れ目】,【乳幼児期から就学前後の切れ目】,【転出入の切れ目】,【個別支援関係の切れ目】,【地域の支援網の切れ目】,【組織内体制の切れ目】が抽出された.

考察:保健師が対応している「切れ目」は,時間軸上にあらわれる「とき」の切れ目と,住民を取り巻く地域資源の中にあらわれる「面」の切れ目があり,それらは,実際には様々な組み合わせ・様相で生じ,対応がなされているものであることが示唆された.今後,母子保健における切れ目を埋める保健師の公衆衛生看護技術を明確にする必要がある.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to elucidate the concept of “Kireme,” an interruption situation addressed by public health nurses in maternal and child healthcare.

Methods: The study involved public health nurses and related professionals from eight municipalities recognized as pioneers in maternal and child health initiatives. We conducted online group interviews, transcribed the data verbatim, and employed qualitative descriptive methods for analysis.

Results: The following “Kireme” were extracted based on analysis: “Kireme from the issuance of the Maternal and Child Health Handbook to the postnatal period”; “Kireme from infancy to pre- and post-school”; “Kireme at the point of moving in and out”; “Kireme of individual support relationships”; “Kireme in the community support network”; and “Kireme of the system within the organization.”

Discussion: The study revealed that the “Kireme” situations addressed by public health nurses encompass the “Kireme of time” along the temporal axis and the “Kireme of aspects” within the local resources available to residents. These “Kireme” situations manifest in diverse combinations. In the future, there is a need to clarify the art of public health nursing further to bridge these “Kireme” gaps in maternal and child healthcare.

I. 緒言

近年,妊娠,出産及び子育てに係る妊産婦等の不安や負担への継続的な対応の必要性が増し,児童虐待や育児の孤立予防に向けて法制化が進められている.健やか親子21(第2次)において,「切れ目ない妊産婦・乳幼児への保健対策」が掲げられ,妊娠期から子育て期にわたる母子保健対策の充実と,各事業間や関連機関間の連携強化が推進されており,2017年に子育て世代包括支援センターの設置,2020年に産後ケア事業の実施が市区町村の努力義務となった.しかしながら,社会的ハイリスク妊婦に対する妊娠期から出産,産褥・育児期までの切れ目のない継続的な支援の流れは,実際には標準化されていない(光田ら,2019)ことが報告されている.また,特定妊婦の情報共有状況や各事業の設置率を鑑みると,多機関・多職種間における縦・横方向の連携については,未だ切れ目の解消には至っていない状況(光田ら,2019)や,切れ目のない支援の自治体間格差(国立成育医療研究センター,2018)が指摘されている.

保健師は,地域保健関連施策の企画,立案,実施及び評価を行うことができるような体制を整備する(厚生労働省,2013)専門職であり,地域特性を踏まえて,各自治体独自の切れ目のない母子保健施策を構築する必要がある.各種法律や制度でその活動の重要性が指摘され,それを保障する策が講じられているが,保健師が具体的にどう展開するかについては,自治体に委ねられており,現場の保健師がどのような「切れ目」に対応しているのかについての言語化はなされていない.今後,切れ目のない支援を保障する保健師の技術を明確にするうえで,今回はその前段階にあたる「切れ目」の部分,すなわち,保健師が対応している「切れ目」とは何かについて,まず明確にする必要があると考えた.

医中誌Webで「(切れ目のないOR切れ目ない)AND保健師」をキーワードに検索すると20件が検索され,切れ目のない支援の事業内容・効果・課題に関する研究が報告されていたが,いずれも保健師が具体的にどのような「切れ目」に対応しているかを明らかにしたものではなかった(2022年10月現在).これらより,本研究では,母子保健において保健師が対応している「切れ目」とは何かについて,言語化を図ることにした.

本研究の目的は,母子保健において保健師が対応している「切れ目」について明らかにすることである.その意義は,母子保健における切れ目を埋める保健師の公衆衛生看護技術を明らかにするための基礎資料となることである.また,各種法律や制度で使用されている「切れ目」を明確化することは,法制度の基盤を固めるうえでも意義があると考える.

II. 方法

1. 研究デザイン

研究デザインは質的記述的研究とした.質的記述的研究は,ある事象について,そうした事象が起きている日常の言葉で包括的にまとめるものであり,臨床看護師や政策立案者に特に関連する疑問に,率直で,ほとんど飾らない回答を得るのにとりわけ適している(Sandelowski, 2013)ことから,本研究に適していると考えた.

2. 用語の定義

保健師が対応している切れ目とは,母子の健やかな生活や成長過程への必要な支援が途切れる可能性があると保健師が判断した状況とする.保健師が対応不要と判断した状況については本稿では扱わない.切れ目にあたる状況には,途切れ,漏れ,ずれ,狭間等の意味を含む.切れ目の範囲は,対人支援と対環境支援の両方,及び,対象者と関係者間,対象者の周辺の関係者間,地域を支援する組織内を含む.

3. 調査対象と選定方法

2016,2019年度の子育て世代包括支援センター事例集に掲載されている先駆的な母子保健活動を行っている,計47自治体のうち,人口規模,出生率,地域ブロックについて異なる特性を持つ自治体を選定することとし,選択バイアスを考え,協議の上,9自治体とした.順次依頼したところ,承諾を得られたのが8自治体であり,辞退した自治体の理由は,新型コロナウイルス感染症関連業務が多忙であるためであった.

研究参加者は,母子保健施策構築に携わってきた保健師,母子保健事業担当保健師,子育て世代包括支援センター担当保健師である.1自治体につき2~4名を対象とし,自治体から推薦いただいた.自治体が関連職種も必要と判断した場合は,それも許可した.

4. データの収集方法

調査期間は,2021年3月~8月であり,調査方法は,インタビューガイドを用いたオンライン(Zoom)でのグループインタビューとした.

自治体ごとに行ったグループインタビューの平均時間は,69±13.6分であり,最短が54分,最長が102分であった.グループインタビュー実施前に,研究者から参加者へ研究計画書を郵送し説明の上,同意を得たうえでインタビューを開始した.インタビューの内容は,対象者の同意を得て録音した.対象者の属性は,質問紙への記入を依頼し,同意書とともに返送を依頼した.

インタビューガイドは研究者間で協議して作成し,インタビューでは,切れ目のない母子保健施策を構築してきた中で,切れ目なく支援した事例,切れ目のない活動のなかで保健師が大切にしてきたこと,その活動の特徴と工夫等について自由に語ってもらった.保健師以外の関連職種の方には,保健師と共同で行ったことについて回答を求めた.保健師以外の研究参加者のデータに関して,他職種単独の判断ではなく,保健師との共同の中で語られたデータや,保健師のことを語っているデータを分析に用いた.

5. 分析方法

インタビュー内容は,録音した音声データから文字データに変換し,逐語録を作成した.文字データは,保健師が対応している「切れ目」に焦点を当て,「切れ目」の内容がわかる最小単位でコード化を行った.コードの意味内容の類似性と相違性に着目し,比較検討を繰り返しながら,サブカテゴリ,カテゴリへと抽象度を上げた.この際,保健師が対応している事象が生じた範囲や過程の特徴を読み取るよう留意した.分析過程においては,質的研究の経験があり保健師教育に携わっている指導教員に頻回に助言指導を受け,分析の質を担保するよう努めた.結果は研究参加者に確認を依頼し,内容が妥当かの同意を得ることによって真実性を確保した.

6. 倫理的配慮

研究参加者に対して,拒否の自由等を文書と口頭で説明し,同意書に署名を得た.逐語録は,文字データから個人が特定される情報を削除し,研究参加者にはIDを付与して匿名化を行った.面接時は,個別のケースに関する個人情報は得ず,保健師の情報に関しては他に漏えいしないよう厳重に扱った.研究計画は,大阪大学医学部附属病院観察研究倫理審査委員会に承認を受け実施した(承認番号16392,2017年1月30日).

III. 結果

研究参加自治体は全国の8自治体であった(表1).人口規模は,30万人以上が2か所,10万人以上20万人未満が2か所,5万人以上10万人未満が2か所,5万人未満が2か所であり,地域ブロックは,近畿が3か所,関東甲信越が2か所,東海/北陸が1か所,中国/四国が1か所,九州/沖縄が1か所であった.

表1. 

研究参加自治体の属性

ID 1 2 3 4 5 6 7 8
人口(万人) 39.9 30.6 15.1 10.3 8.1 8.0 4.4 2.4
地域ブロック 近畿 九州/沖縄 関東/甲信越 中国/四国 関東/甲信越 東海/北陸 近畿 近畿
参加者(人) 3 2 3 2 3 3 4 3
内訳 保健師 3 1 3 2 2 1 3 3
その他職種 助産師 1 看護師 1 助産師 1 事務 1
看護師 1

研究参加者は,保健師が18名,保健師以外の看護職(助産師・看護師)が4名,事務が1名であった.保健師18名は全員女性で,属性を表2に示す.また,保健師以外の研究参加者のうち,看護職の平均年齢は46.5±2.1歳,平均経験年数は23.5±3.0年であった.

表2. 

研究参加者(保健師)の属性 N=18

属性 人数(%)
年齢3群 平均値±標準偏差 44.3±11.0年
40歳以下 6(33.3)
41~50歳 7(38.9)
50歳以上 5(27.8)
経験年数3群 平均値±標準偏差 20.3±11.1年
15年以下 6(33.3)
16~25年 7(38.9)
26年以上 5(27.8)
役職6群 係員級 4(22.2)
主任級 6(33.3)
係長級 3(16.7)
課長補佐級 2(11.1)
課長級 1(5.6)
部長・次長以上 1(5.6)
その他 1(5.6)
最終学歴4群 専門学校 3(16.7)
短大専攻科 3(16.7)
四年制大学 8(44.4)
修士以上 3(16.7)
不明 1(5.6)

以下,カテゴリを【 】,サブカテゴリを《 》,コードを〈 〉,インタビューでの語りを「斜体」で示す.分析の結果,6個のカテゴリと28個のサブカテゴリが生成された(表3).

表3. 

保健師が対応している「切れ目」

カテゴリ サブカテゴリ コード番号
母子健康手帳交付時から産後の切れ目 母子健康手帳交付時の妊婦全数把握の漏れ 1-6,5-44,6-1
産科医療機関が主に関わる産前産後期間の行政保健師による妊産婦の状況把握不足 1-74,2-4,2-27,2-60,7-51,8-2,8-7
行政と産科病院の移行時の重要な情報の非共有 4-51,5-54,8-28,8-33,8-36
病院専門職と地域専門職の対象の生活イメージのずれ 4-47,4-49,4-50
24時間支援体制のない在宅での専門職による介入タイミングの遅れ 4-3,8-2
乳幼児期から就学前後の切れ目 ハイリスク以外の住民に対する3~4か月児健診が終わってから1歳6か月児健診までの空白期間 6-49
3歳児健診以降の母子保健における介入機会の不足 7-38
法定事業・法定健診の未利用及び未利用把握の漏れ 3-22,6-6,6-71
母子保健から保育・幼児教育,学校教育への移行に伴う場の変更時のいままでの支援情報の引継ぎ不十分 1-43,1-48,3-47,3-48,4-70,5-81,5-112,5-115,7-34,7-41,7-42
法律が定める対象の違いによる母子保健と学校教育領域の支援の途切れ 3-52,5-114,5-116,7-18,7-35,7-36,7-39
転出入の切れ目 住民自身の転入先の社会資源理解不足による孤立 5-10
転出前の自治体による個別事例の転出情報把握の漏れ 5-103,6-7
転出前の自治体が把握する転入者に関する重要な情報の非共有 5-102,6-4,6-14
個別支援関係の切れ目 個別事例と保健師との信頼関係の未構築・消失 1-16,3-50,4-37,6-28,8-47,8-53,8-56
個別事例における困難時の当事者自身による援助要請行動の欠如 1-25,1-32,1-78,5-91,5-117,7-35,7-55,8-4,8-6,8-26
地域の支援網の切れ目 住民の日常生活圏域内の資源不足による社会資源へのアクセスの途切れ 2-13,5-6,5-9
地域での子育て見守りの担い手不足 2-63,5-31,8-41
住民・関係機関がキャッチした重要な情報の非共有 1-82,2-61,2-65,3-45,5-59,6-9,6-44,7-55,8-41
複合的リスクを抱える個別事例への単機関での支援の限界 3-1,4-20,6-65
地域における多機関で関わる個別事例の情報伝達不足 5-40,5-45,5-111
組織内分野間の根拠法の違いに基づく支援体制の狭間 2-9,2-14
組織内体制の切れ目 リスク変化に応じた母子保健と児童福祉間の対応組織の変更による支援の狭間 1-72,5-7,5-24,5-25,7-51
母子保健と保育・幼児教育間の対応組織の変更による支援の途切れ 2-29
担当変更時のいままでの支援情報引継ぎ不十分 3-48,4-67,5-15,6-28,8-47
保健師個人間のリスク判断の違いによる組織の動きのずれ 4-29,4-31,6-38,7-4,7-8,8-28
個別事例における保健師個人から組織による判断への移行・責任遂行体制の未整備 4-23,4-24,4-25,4-26,5-17,7-4,7-5,7-7,7-9,7-10,7-13
組織の支援の責任範囲の限界 2-33,4-40,4-42,6-26,6-38,6-65
個別事例における課題の重なりから施策化への未移行 2-20,5-63,5-65,8-21

1. 母子健康手帳交付時から産後の切れ目

【母子健康手帳交付時から産後の切れ目】とは,母子健康手帳交付時から産後の期間における妊産婦への支援や生活に関する切れ目であった.

「母子手帳の交付のときから,保健師がリスクを把握していくことが必要(5-44)」であり,保健師は《母子健康手帳交付時の妊婦全数把握の漏れ》に対応していた.また,「妊娠出産は医療機関で,ずっと(期間が)あいて健診がある.その前に虐待死が多い(2-60)」状況から,保健師は《産科医療機関が主に関わる産前産後期間の行政保健師による妊産婦の状況把握不足》に対応したり,「助産師から見たらどうにも解決しない経済面のことを市に言ったらかわいそう,こんなケースを送っていいんですかって助産師さんが言う(4-51)」状況から,保健師は《行政と産科病院の移行時の重要な情報の非共有》に対応したりしていた.さらに,「在宅に帰ってからの方が長いので,そこに向けた支援を入院中の期間でどこまで助産師さんたちがするか(4-50)」を考える必要があり,保健師が《病院専門職と地域専門職の対象の生活イメージのずれ》に対応したり,「退院時に,産後うつの疑いと連絡が入り,そこからすぐに助産師と保健師が訪問を開始(8-2)」し,「お母さんが在宅でどうにかできるようにサポート(4-3)」する等,保健師は《24時間支援体制のない在宅での専門職による介入タイミングの遅れ》に対応したりしていた.

2. 乳幼児期から就学前後の切れ目

【乳幼児期から就学前後の切れ目】とは,乳幼児期から就学前後の期間における子育て家庭への支援に関する切れ目であった.

「3~4か月児健診が終わって1歳半児健診まで市役所との繋がりは,地区担当で関わらない方はどうしてもそこで途切れてしまう(6-49)」状況から,保健師は,《ハイリスク以外の住民に対する3~4か月児健診が終わってから1歳6か月児健診までの空白期間》に対応したり,「就学前,母子保健でいうと,3歳児健診期間を過ぎたら,あまり介入の入り口もなかなかない(7-38)」状況から,保健師は《3歳児健診以降の母子保健における介入機会の不足》に対応したりしながら,「空白の時間にも専門職の目が入って,切れ目なく支援(6-49)」していた.また,「保健師が支援をする中で,妊婦健診を受けていない,受けにくい方がいらっしゃったりする(3-22)」状況から,保健師は《法定事業・法定健診の未利用及び未利用把握の漏れ》に対応し,「全員切れ目なく拾って(6-71)」支援していた.さらに,「就園・就学時には引継ぎがうまくいかないことが起こりえるので丁寧な引継ぎを心掛けている(3-47)」状況から,保健師は《母子保健から保育・幼児教育,学校教育への移行に伴う場の変更時のいままでの支援情報の引継ぎ不十分》に対応したり,「母子保健の定義自体も,うちでいうと未就学児童までになってしまっているので,切れ目が確実にある(5-114)」状況や,「学校行った途端に支え手が少なくなる場合もある(3-52)」状況から,保健師は《法律が定める対象の違いによる母子保健と学校教育領域の支援の途切れ》に対応していた.

3. 転出入の切れ目

【転出入の切れ目】とは,転出入時における生活や,情報把握・伝達に関する切れ目であった.

転入後は,「地域とのつながりがない方が多く,A市に住んでいてもA市を知らないという方も多くて.(中略)遠方から移り住んできた方が多かったので,支援者不足がある(5-10)」状況から,保健師は《住民自身の転入先の社会資源理解不足による孤立》に対応していた.また,「少しフォローの間隔が延びた方は,結果的に転出しましたという打ち出しが上がって,そこで知るときもある(6-7)」「(転入の際)全員のケースが全部連絡来るわけではないので,把握できなかった(5-103)」状況もあり,保健師は《転出前の自治体による個別事例の転出情報把握の漏れ》に対応したり,「転入のときに全く情報がなくて,妊婦面接とか,過去のその方の生活歴とかを確認していくと,前の自治体で保健師が関わっていたんじゃないかというような方にお会いすることが多い(6-14)」状況から,保健師は《転出前の自治体が把握する転入者に関する重要な情報の非共有》に対応したりしていた.

4. 個別支援関係の切れ目

【個別支援関係の切れ目】とは,生涯においてどの時期でも起こり得る子育てに関する困難時の,個別事例と専門職との関係に関する切れ目であった.

「1回相談を受けられて,その相談でお母さん自身がちょっと傷つかれて,もう相談受けたくないって,(略)シャットアウトされてしまった(8-53)」状況から,保健師は《個別事例と保健師との信頼関係の未構築・消失》に対応したり,「何かあったら,相手側からもいつでも相談をしてもらえるように(7-55)」「小学校行く,保育所行くってときに,次には誰に相談したらいいんだよっていうところへつなげる(1-78)」等,保健師は《個別事例における困難時の当事者自身による援助要請行動の欠如》に対応したりしていた.

5. 地域の支援網の切れ目

【地域の支援網の切れ目】とは,地域での住民の生活や,住民の周辺の関係者間におけるシームレスなつながりに関する切れ目であった.

「日常生活圏域の中で,(略)いろいろな問題を解決させたい(5-6)」という思いから,保健師は《住民の日常生活圏域内の資源不足による社会資源へのアクセスの途切れ》に対応したり,「地域で子育てを支える担い手だとか,支援者づくりを念頭にして,事業運営(5-31)」を行い,《地域での子育て見守りの担い手不足》に対応していた.また,「健診,予防接種も個別で受けていただいていて,そこの情報,先生が感じてくれたリスクは保健師にやってこない(2-61)」状況から,保健師は《住民・関係機関がキャッチした重要な情報の非共有》に対応したり,「保健師だけでは支援が十分にできない,保健師の専門性を超えた事例(3-1)」が増え,「産後うつを改善していくには,産科医だけでは限界がある.必ず精神科医に関わってもらう必要がある(4-20)」状況から,保健師は《複合的リスクを抱える個別事例への単機関での支援の限界》に対応したりしていた.さらに,「同じケースの方が(略)あちこちで相談していて,ケースとして共有が出来ていなかったので,(略)違った方針での展開が行われてしまった(5-45)」状況から,保健師は《地域における多機関で関わる個別事例の情報伝達不足》に対応したり,「もともと健康づくりと子育ての部門,分かれており,(略)母子や地域を中心に見ることで,ほんとはつながってて当然(2-14)」であると認識し,保健師は《組織内分野間の根拠法の違いに基づく支援体制の狭間》に対応したりしていた.

6. 組織内体制の切れ目

【組織内体制の切れ目】とは,組織内における役割や責任に関する切れ目であった.

「母子保健と児童福祉が縦割りで(7-51)」「ちょっと場所が変わるだけでも,意思疎通がうまく図れないっていうケースもある(1-72)」状況から,保健師は《リスク変化に応じた母子保健と児童福祉間の対応組織の変更による支援の狭間》に対応したり,「保育幼稚園の部署,全くぱかっと分かれてましたし(略)どうしても保育園に入ってしまうと,保育園にお願いしますってなっていた(2-29)」状況から,保健師は《母子保健と保育・幼児教育間の対応組織の変更による支援の途切れ》に対応したりしていた.また,「障害のある子は保健所保健師の担当で,異動に伴って人が変わる.そしたらお母さんがまた一から話をせなあかん(8-47)」状況から,保健師は《担当変更時のいままでの支援情報引継ぎ不十分》に対応していた.組織内において,「届出の時って誰が,保健師が出るかは分からない(4-31)」「ハイリスク妊産婦さんのアセスメントや判断に関しては,担当者自身の主観,経験に結構左右される(7-4)」状況から,保健師は《保健師個人間のリスク判断の違いによる組織の動きのずれ》に対応したり,「市役所の中の体制も全く整っていないし,不安とか危機を感じたときに,(略)相談せずにそのまま自分の中で,ケース対応する人もいて,(略)結局はその判断者,保健師個人に責任がかかってくる(4-26)」状況から,保健師は,《個別事例における保健師個人から組織による判断への移行・責任遂行体制の未整備》に対応したりしていた.さらに,「健診業務に追われたり,訪問で,なかなか保健師と全数面接しますとうたっていても,やっぱり,手薄になってしまう(6-38)」状況から,保健師は《組織の支援の責任範囲の限界》に対応したり,「事業担当して,母子健康手帳発行してたら,一人一人のお母さんや生活は見ます.でもそれを統計的にこんな傾向あるよねっていう視点は,日々の仕事に忙殺されて,振り返ることはできません(2-20)」という状況から,保健師は《個別事例における課題の重なりから施策化への未移行》に対応したりしていた.

Ⅳ. 考察

1. 保健師が対応している「切れ目」

分析の結果,抽出されたカテゴリのうち,【母子健康手帳交付時から産後の切れ目】,【乳幼児期から就学前後の切れ目】,【転出入の切れ目】は,主に,時間軸上にあらわれる「とき」の切れ目,【個別支援関係の切れ目】,【地域の支援網の切れ目】,【組織内体制の切れ目】は,主に,住民を取り巻く地域資源の中にあらわれる「面」の切れ目という特徴を持つものと考えられた.

ここでいう「とき」とは,連続している時間・時期・場面のことであり,保健師は,妊娠期から子育て期にわたるライフステージにおける「とき」に関して,何らかの要因によって生じる,対象者の生活に結び付いた様々な切れ目に対応していた.つまり,地域で活動する保健師が対応している「とき」の切れ目とは,時間軸における縦断的な人の成長過程上で生じる連続性や継続性に関するものであった.

ここでいう「面」とは,個別事例との関係や組織内体制,関係機関間の連携やネットワークシステム,及び住民との協同等のつながり,つまり地域資源同士のつながりがシームレスで良好な状態のことであり,そうでない,つまり切れ目がある状態に対して,保健師が対応していた.これは,「健康課題の解決に向けて住民や組織同士をつなぎ,自助及び共助など住民の主体的な行動を促進し,そのような住民主体の取組が地域において持続するよう支援する(厚生労働省,2013)」専門職である保健師の活動に特徴的であると考えられる.つまり,地域で活動する保健師が対応している「面」の切れ目とは,地域における住民等を含めた様々な地域資源同士のつながりに関するものであった.

これらより,保健師が対応している切れ目には,「とき」と「面」という特徴があることが明らかとなった.先行研究において,継続性の核となる2つの概念として,「継続的なケア関係」であるケアの継続性と,「シームレスなサービス」である継続性が述べられている(Gulliford et al., 2006).これは本研究における「とき」と「面」の2つの切れ目の特徴と一致していた.保健師活動指針(厚生労働省,2013)において,保健師の保健活動の実施に当たっては,直接的な保健サービス等の提供,関係機関とのネットワークづくり,包括的な保健,医療,福祉,介護等のシステムの構築等を実施できるような体制を整備することが示されており,保健師が「とき」と「面」の切れ目に対応していたことは,住民への直接的支援から,住民を取り巻く環境への支援を行う保健師の専門性に基づくと考えられる.

そして,「とき」と「面」の切れ目は各々が独立しているものではなく,実際には様々な組み合わせ・様相で生じ,対応がなされているものであった.これより,保健師が対応している切れ目が,いつ,どこで生じ得るかに関するイメージ化を試みた(図1).図1において,横軸は過去から現在,未来へと続く縦断的な「とき」を示し,時間軸の周りに位置する円は,時間とともに変化していく関係機関や住民を含む地域資源である「面」として示した.「とき」と「面」の切れ目は複合的・多層的に生じており,保健師が対応している切れ目は,はっきりとこの図に位置づくものではなく,「とき」と「面」の両方に着目し,相互に組み合わせながら,様々な切れ目を埋める活動を展開している様であると考えられた.

図1. 

保健師が対応している切れ目がいつ,どこで生じ得るかに関するイメージ化

本研究においては,インタビューにより聴取できた現場の方々の実際の語りから,保健師が対応している「切れ目」の下位項目が具体的に明らかとなったことに意義があると考える.以下,「とき」と「面」のそれぞれの切れ目のサブカテゴリについて述べる.

2. 「とき」の切れ目

【母子健康手帳交付時から産後の切れ目】とは,《行政と産科病院の移行時の重要な情報の非共有》等,産前産後における妊産婦への継続的ケアの切れ目であった.金森(2021)は,児童福祉や母子保健の法制化と出産場所の施設化に伴うケアの分業化により,産前,出産時,産後に提供されるケアに継続性がなく,一貫した母子ケアができにくくなっている課題を報告している.保健師は,妊娠時から出産,産後に提供されるケアの各場面において,病院と地域をつなぎ,支援が必要な妊産婦への多様な切れ目に対応し,妊産婦と児の安全で安心な妊娠,出産を守っているのではないかと考えられた.

【乳幼児期から就学前後の切れ目】とは,その期間における家庭や地域社会での子どもの成長発達等に関する継続的支援の切れ目であった.乳幼児健診の未受診者の中から子ども虐待による死亡等の重大事例が報告されていることから,保健師は,《法定事業・法定健診の未利用及び未利用把握の漏れ》に対応したり,障害のある子どもに関する情報の引き継ぎは,就学前施設から小学校への移行期において顕著に課題がある(城間ら,2011)と報告されていることから,保健師は,母子保健領域から,療育,幼児教育,学校教育へのライフステージを通した場の変更時の切れ目や子どもの成長発達の節目に対応し,子どもと家族の健やかな成長を守っているのではないかと考えられた.

【転出入の切れ目】とは,《転出前の自治体が把握する転入者に関する重要な情報の非共有》等,転出入に伴う生活環境や継続的支援の途切れであった.児童虐待死には,家族が他県等へ転居する際の他機関への情報伝達不十分を原因とする事例がある(奥田,2021)ことや,転入先では孤立を生じやすく,転居により虐待リスクが高まる可能性(千葉県,2020)が報告されている.保健師は,転出入に伴う社会的孤立や社会的支援の途切れに対して,必要な支援が切れ目なく行われるように対応し,虐待予防や転入者の不安解消に努め,子どもとその家族の新たな生活を守っているのではないかと考えられた.

3. 「面」の切れ目

【個別支援関係の切れ目】とは,《個別事例における困難時の当事者自身による援助要請行動の欠如》等,地域で生活する住民と専門職との関係や住民自身によるSOSの切れ目であった.近年,子育てが孤立し負担感が大きくなり,すべての子育て家庭が困難な状況に陥る可能性があるにも関わらず,鈴木(2021)は,子育てに重篤な問題やリスクがなく,自律的な育児が可能と判断された家庭には,タイムリーな子育て支援が行き届かないと述べている.また,育児困難に悩む母親ほど他者に頼らず支援につながりにくい(東ら,2009)と報告されており,保健師は,すべての子育て家庭が,不安や悩みを抱えこむことを予防して,地域での安全,安心な子育てを守っているのではないかと考えられた.

【地域の支援網の切れ目】とは,地域の住民や関係機関間,ネットワークシステム等におけるシームレスなつながりの切れ目であった.関係機関同士の十分な情報共有・連携の難しさや,制度や機関による支援の分断という課題解決のために,保健師は,《地域における多機関で関わる個別事例の情報伝達不足》等,関係機関同士の連携の切れ目や,個別の機関だけでは解決が困難な課題に関する切れ目に対応していたと考える.また,「社会的孤立」や「制度の狭間」といった課題の解決のために,保健師は,《住民・関係機関がキャッチした重要な情報の非共有 》等,住民を含めた地域での子育て支援に関する切れ目に対応し,地域で生活する人々の多様な生命,生活,生産を守っているのではないかと考えられた.

【組織内体制の切れ目】とは,組織内の部署横断的支援や,組織の役割の切れ目であった.近年,個人や世帯単位で複数分野の複雑化した課題を抱え,複合的な支援を必要とする,対応困難事例が浮き彫りとなっている.そのため,旧来の縦割り組織間の橋渡し役を果たし,多職種・多分野協働による創造的活動を目指そうとする保健師(原田,2018)が,《リスク変化に応じた母子保健と児童福祉間の対応組織の変更による支援の狭間》等に対応していた.また,《個別事例における課題の重なりから施策化への未移行》に対応したりしながら,個別事例から地域課題を見出し,地域の実情に合わせた活動を展開し,より多くの人の生活を守っているのではないかと考えられた.

4. 教育と実践への示唆

本研究において,保健師が対応している切れ目は「とき」と「面」という特徴を持っていることが明らかになった.今後保健師は,この「とき」と「面」の切れ目に着目した実践を展開することで,より切れ目のない活動へと質向上を図ることができる可能性がある.

具体的には,まず基礎教育や新任期教育への活用である.足立ら(2019)は,子ども虐待予防に向けて保健師が妊婦に対する支援の必要性を見極める際,中堅期以降の保健師の方が,新任期保健師よりも,「転居を繰り返している」といった生活基盤の安定性を表す項目等,妊婦の対人関係能力やパートナー・家族の状況把握を有意に重視していたり,中堅期以降の保健師の方が,継続的なアセスメントの実施や関係機関との連携,社会資源の活用等支援内容が多岐にわたっていると報告している.これより,新任期保健師は,中堅期以降の保健師に比べて,どのような状況が切れ目となりやすいのかといった視点が十分ではないことが考えられる.そのため,基礎教育や新任期教育において,本研究で明らかとなった,母子保健において保健師が対応している切れ目を知り,その視点を持つことにより,経験が浅い新任期の時からその切れ目に着目した活動ができ,課題の早期発見につながるのではないかと考える.

次に,実践現場での活用である.保健師が現在対応している事例を整理する際に,本研究の知見を用いることで,切れ目が起こりそうな課題がないかといった点検に役立てると考える.保健師活動において,切れ目となり得る状況を知り,着目すべきポイントを認識して活動を行うことは,目的意識的行為に結びつき,保健師活動の質が高まる可能性があることが示唆された.

5. 研究の限界と今後の課題

調査対象の選定において,偏りなくデータを収集するために,計9市町村を目標に依頼をしたが,新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により,計8市町村となったことは本研究の限界であり,選択バイアス,被験者バイアスの可能性は否めない.また,母子保健における切れ目を埋める保健師の公衆衛生看護技術を明確にし,妥当性を高めるような検証を行っていくことが今後の課題である.

謝辞

ご多忙の中,本研究にご協力いただき,貴重なご経験を惜しみなくお話しくださいました研究対象者の皆様に厚く御礼申し上げます.本論文は大阪大学大学院医学系研究科に提出した修士論文の一部に加筆修正を加えたものである.

本研究に関連し,開示すべきCOI 関係にある企業・組織及び団体等はない.

文献
 
© 2023 Japan Academy of Public Health Nursing
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