Japanese Journal of Public Health Nursing
Online ISSN : 2189-7018
Print ISSN : 2187-7122
ISSN-L : 2187-7122
Research Articles
Training Programs for Preceptor Public Health Nurses in Prefectural Governments, Cities with Public Health Centers, and Special Wards: A Nationwide Survey
Naoko EndoTaeko ShimazuYoko HatonoKiyomi AsaharaJunko YoshinoHiromi KonnoMasako Shimizu
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 13 Issue 3 Pages 205-214

Details
Abstract

目的:全国自治体におけるプリセプター保健師研修の方法や内容と研修の必要性を明らかにすることを目的とした.

方法:都道府県,保健所設置市,特別区に所属する統括的立場または研修担当の保健師,各自治体につき1名を対象に無記名自記式の質問紙調査を実施した.

結果:66人(有効回答率44.0%)から回答が得られた.研修実施群は38人(57.6%),未実施群は28人(42.4%)であった.研修の必要性は全体の98.5%が必要と回答した.研修内容には組織が求める保健師像やプリセプター同士が互いの経験を共有し意味づける内容を含むこと,実施上の課題では研修の位置づけの曖昧さや人材育成方針がないことなどがあった.

考察:プリセプター保健師研修は多くの自治体で必要と認識されていた.研修実施に向けてプリセプター保健師研修を自治体の研修体系に位置付け,職場全体で人材育成を行う体制をつくることや,根拠に基づく活用しやすいプログラムの開発が必要と示唆された.

Translated Abstract

Objective: The purpose of this survey was to establish the content and needs of training programs for preceptor public health nurses.

Methods: A nationwide, anonymous, self-administered questionnaire survey was conducted among public health nurses in supervisory or training positions in prefectural governments, cities with public health centers, and special wards.

Results: In total, 66 valid responses (44.0%) were collected. Training programs for preceptor public health nurses were provided in 38 municipalities (57.6%) but not in 28 municipalities (42.4%); 98.5% of all respondents answered that training was necessary. The contents of training programs should include the image of public health nurses desired by the organization and the sharing of experiences among preceptor public health nurses. Issues regarding implementation included unclear positioning of training and the lack of human resource development policies.

Discussion: Training programs for preceptor public health nurses were recognized as necessary by many local governments. In implementing training programs, it has been suggested that important measures include positioning the preceptor training program in the training systems of local governments, creating a system wherein workplaces work together to develop human resources, and developing an evidence-based, user-friendly training program.

I. 研究の背景

近年の少子高齢化の進展や健康格差の広がり,自然災害などの健康危機管理の必要性を背景に,自治体保健師には多様な健康課題への対応が期待されている.これらを背景に,系統的な保健師人材育成について継続的な検討がなされ,保健師の人材育成へのプリセプターシップの導入は「新人看護職員研修ガイドライン(保健師編)」に示されている(厚生労働省,20112016日本公衆衛生協会,2007).また,標準的キャリアラダーの専門的能力に係るキャリアレベル定義の一つ「所属組織における役割」でもA-2レベルで「プリセプターとして後輩の指導を担う」が含まれている(厚生労働省,2016).

自治体における新規採用保健師の人材育成にかかる実態調査によると,現在では大規模自治体の90%以上,小規模自治体でも70%以上でプリセプターを配置しており,新規採用保健師の満足度には,プリセプターの配置や些細な問題も相談できる人がいるなど人材育成構築体制・組織風土が関連していることが明らかになっている(日本公衆衛生協会,2023).一方で,プリセプター役割を担うことの学びには,保健師ならびに組織の一員として意識変容する成長の機会となることが明らかになっている(嶋津ら,2014).これらのことから,自治体保健師の人材育成におけるプリセプターシップは,新規採用保健師の人材育成やサポートに加え,自治体保健師の専門的能力向上の仕組みとして重要といえる.

また,プリセプター自身の課題や困難として,プリセプターが自分の担当する新任保健師への教育に不安を感じ自信がもてないことや業務の時間確保が困難になることなどが示されている(菊池ら,2017).その他,プリセプター保健師自身がプリセプターから指導を受けた経験が乏しくロールモデルがいない状況で,保健師基礎教育課程の異なる新任保健師の育成を担っていることも明らかとなっている(嶋津,2017).このように自治体保健師にとってプリセプター役割を担うことは,成長の機会となる反面,不安や負担を感じながら行うものとなっている.プリセプターシップを効果的にするためには,プリセプター保健師が自信をもって後輩を育成できるようプリセプターとしての役割発揮と成長を支援することが必要と考えられる.

プリセプター保健師に対する教育支援については,地域保健従事者の人材育成の検討が始まった当初より検討され,プリセプターの支援体制として管理者保健師の役割や研修例が示されている(日本公衆衛生協会,2007).加えて,プリセプター保健師に限定したものではないが,自治体保健師の人材育成において研修とOJTを組み合わせた仕組みの構築が重要といわれている(厚生労働省,2016).しかし,キャリア別の保健師現任教育プログラムと比べ,プリセプター保健師研修の実施は少なく(嶋津,2017),プリセプターとしての能力向上のため,どのような研修とOJTを組み合わせるのが効果的なのか,プリセプター保健師への教育支援の標準化された方法や必要性は明らかになっていない.また,プリセプター保健師への具体的な教育方法や内容について明らかにした研究もみられない.

そこで本研究では,プリセプターへの教育支援としてプリセプター保健師研修に焦点をあて,全国の自治体におけるプリセプター保健師研修の方法や内容の実態と人材育成を担う立場の保健師からみた研修の必要性や重視する点を明らかにすることを目的とし,プリセプター保健師に対する教育支援の示唆を得ることとした.

II. 方法

1. 用語の定義

1) プリセプター保健師

常勤として自治体に初めて就業して1年目の新任保健師を個別に担当し,身近な存在として日常的に相談,支援,評価,フィードバックを行う保健師とする.

2) 新任保健師

常勤として自治体に初めて就業して1年以内の,地域保健に従事している保健師とする.

2. 研究の対象

全国の自治体におけるプリセプター保健師研修の企画・実施に関わっていると考えられる都道府県47カ所,保健所設置市80カ所(指定都市20カ所・中核市54カ所・その他政令市6カ所),特別区23カ所に所属する統括的立場にある保健師または人材育成担当の保健師,各自治体につき1名,合計150名とした.一般市町村は,都道府県が開催する研修に参加する立場にあると考えられたため,本調査対象から除外した.

3. 調査方法およびデータ収集期間

郵送法による自記式質問紙調査で,データ収集期間は2018年10月から2018年12月までとした.

全国の都道府県,保健所設置市(指定都市・中核市・その他政令市),特別区に所属する統括的立場または人材育成担当の保健師宛に,研究協力依頼文書および質問紙を送付し,調査対象者が依頼に同意した場合に質問紙に回答の上,同封の返信用封筒を用いて研究者へ返信する形とした.

4. 調査内容

先行研究(厚生労働省,2011嶋津,2017)をふまえ,研究班で調査内容を検討した.質問紙はプリセプター保健師研修を企画する立場にある研究協力者6名によるパイロットスタディを経て修正し,教育・研究者および実践者からなる研究者間で検討し作成した.質問紙は以下の項目で構成した.

1) 全対象に共通する項目

(1)回答者が所属する自治体の属性:自治体の種別,保健師人材育成担当者および事務分掌への位置づけの有無(選択式),人口規模,常勤保健師およびプリセプター保健師の人数(実数記入)

(2)プリセプター保健師研修を必要と思う程度(「全く必要と思わない」~「とても必要と思う」の5件法)

(3)プリセプター保健師研修実施の有無,他機関の研修への参加可能性(選択式)

(4)プリセプター保健師研修における実施上の困りごと(選択式)

(5)プリセプター保健師研修の充実または実施に向けて必要なこと(自由回答)

2) 研修実施群にのみ回答を求めた項目

(1)企画実施したプリセプター保健師研修の種類(選択式)

(2)研修の回数,日数,研修参加を促す方法(選択式)

(3)研修の実施方法と内容(選択式)

(4)研修内容で重要と思うこと(自由回答)

5. 分析方法

選択式の回答については,各項目の記述統計量を算出した.また研修実施群(以下,実施群と記載),研修未実施群(以下,未実施群と記載)に分け,その割合を算出した.

自由回答を求めた「プリセプター保健師研修の充実または実施に向けて必要なこと」,「研修内容で重要と思うこと」の記述内容は,質問項目ごとに分析した.それぞれの記述内容から,テーマに該当する部分をコードとして抜き出した.ひとつの回答に複数のテーマが含まれる場合は別々のコードとした.コードの意味内容の類似性や相違性に基づいてカテゴリ化した.

6. 倫理的配慮

研究依頼・説明文書に調査の目的,方法,公表方法を記載した.調査は無記名で行い,質問紙の回収をもって同意が得られたものとした.本研究は,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守し,所属機関倫理審査委員会の承認を得て実施した.(承認日2018年11月9日,承認番号 NCGM-G-003069-00)

III. 結果

1. 回答者が所属する自治体の概要(表1

質問紙配布数150人,回収数66人(回収率44.0%),有効回答66人(有効回答率44.0%)であった.回答者が所属する自治体種別では,都道府県32人(48.5%),中核市23人(34.8%),指定都市6人(9.1%),特別区4人(6.0%),その他の政令市1人(1.5%)から回答を得た.

表1. 

回答者が所属する自治体の属性N=66

項目 総数
人(%)
実施群(n=38) 未実施群(n=28)
人(%)または平均(標準偏差) 人(%)または平均(標準偏差)
自治体種別による回答 都道府県 32(48.5) 21(55.2) 11(39.3)
中核市 23(34.8) 9(23.7) 14(50.0)
指定都市 6(9.1) 6(15.8) 0(0.0)
特別区 4(6.0) 2(5.3) 2(7.1)
その他の政令市 1(1.5) 0(0.0) 1(3.6)
平均人口*(標準偏差) 201.3(226.9) 75.2(53.1)
常勤保健師 平均人数(標準偏差) 145.6(122.5) 74.7(24.9)
プリセプター保健師 平均人数(標準偏差) 36.5(72.1) 10.7(11.7)
研修の事務分掌の位置づけあり 51(77.3) 32(84.2) 19(67.9)
人材育成担当者あり 64(97.0) 38(100.0) 26(92.9)

*平均人口の単位は「万人」

66人の有効回答のうちプリセプター保健師研修の実施群は38人,未実施群は28人であった.実施群における自治体種別は多い順に,都道府県21人(55.2%),中核市は9人(23.7%),指定都市は6人(15.8%),特別区は2人(5.3%),その他の政令市は0人(0%)であった.

実施群と未実施群の自治体の平均人口は実施群が201.3万人(標準偏差226.9),未実施群が75.2万人(標準偏差53.1)であった.常勤保健師の平均人数は,実施群145.6人(標準偏差122.5),未実施群74.7人(標準偏差24.9)であった.プリセプター保健師の平均人数は,実施群が36.5人(標準偏差72.1),未実施群が10.7人(標準偏差11.7)であった.

研修の事務分掌への位置づけありは51人(77.3%),人材育成担当者の配置ありは64人(97.0%)であった.

2. プリセプター保健師研修の必要性(表2

プリセプター保健師研修をどの程度必要と思うか質問したところ,「とても必要と思う」の回答が47人(71.2%),「やや必要と思う」が18人(27.3%)と,この2つの項目で98.5%を占めた.実施群,未実施群ともに「必要と思わない」という回答はなかった.

表2. 

プリセプター保健師研修の必要性N=66

項目 総数
人(%)
実施群(n=38)
人(%)
未実施群(n=28)
人(%)
とても必要と思う 47(71.2) 35(92.1) 12(42.9)
やや必要と思う 18(27.3) 2(5.3) 16(57.1)
どちらともいえない 1(1.5) 1(2.6) 0(0.0)
あまり必要と思わない 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)
必要と思わない 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)

3. 企画実施したプリセプター保健師研修の種類および他機関の研修への参加可能性(表3

実施群に企画実施したプリセプター保健師研修の種類について質問したところ,「プリセプター研修として企画実施」が23人(60.5%),「他の研修にプリセプター教育の内容を含めて企画実施」が15人(39.5%)であった.

表3. 

企画実施したプリセプター保健師研修の種類と他機関の研修への参加可能性(複数回答)N=66

項目 総数
人(%)
実施群(n=38)
人(%)
未実施群(n=28)
人(%)
企画実施した研修の種類 プリセプター研修として研修を企画実施 23(60.5) — —
他の研修にプリセプター教育の内容を含めて企画実施 15(39.5) — —
他機関のプリセプター研修に参加できるか 参加できる研修がない 26(39.4) 10(26.3) 16(57.1)
大学等教育研究機関で実施する研修に参加可能 2(3.0) 1(2.6) 1(3.6)
都道府県が実施する研修に参加可能* 15(44.1) 7(41.2) 8(47.1)

*都道府県に所属する者を除く34回答(実施群n=17,未実施群n=17)を母数として割合を算出

また,実施群,未実施群に対し,他機関が企画実施するプリセプター研修に参加できるか質問したところ,「参加できる研修がない」と回答した未実施群は16人(57.1%)と半数以上であった.また,都道府県以外の34自治体において「都道府県が実施する研修に参加可能」と回答した割合は,実施群7人(41.2%),未実施群8人(47.1%)であった.

4. プリセプター保健師研修における実施上の困りごと(表4

複数回答で得た研修実施上の困りごとは,「モデルプログラムの不足」が最も多く,実施群17人(44.7%),未実施群16人(57.1%)であった.次いで多かったのは,実施群では「プリセプターの意識や研修に対する動機付け」16人(42.1%),「プリセプターの人材不足」13人(34.2%),未実施群では,「教材(テキスト・視聴覚教材)」16人(57.1%),「講師確保の困難(外部講師含む)」14人(50.0%)であった.

表4. 

プリセプター保健師研修における実施上の困りごと(複数回答)N=66

総数
人(%)
実施群(n=38)
人(%)
未実施群(n=28)
人(%)
モデルプログラムの不足 33(50.0) 17(44.7) 16(57.1)
プリセプターの意識や研修に対する動機づけ 25(37.9) 16(42.1) 9(32.1)
講師確保の困難(外部講師含む) 24(36.4) 10(26.3) 14(50.0)
プリセプターの人材不足 23(34.8) 13(34.2) 10(35.7)
教材(テキスト・視聴覚教材) 22(33.3) 6(15.8) 16(57.1)
プリセプターの経験を組織の人材育成に位置づけること 21(31.8) 11(28.9) 10(35.7)
組織内での研修実施への理解 12(18.2) 3(7.9) 9(32.1)
その他 2(3.0) 0(0.0) 2(7.1)

5. プリセプター保健師研修の充実または実施に向けて必要なこと(表5

実施群24名,未実施群15名の自由回答をそれぞれ分析した結果,研修実施上の課題を示すカテゴリが得られた.以下,カテゴリを【 】,サブカテゴリを〈 〉で示す.

表5. 

プリセプター保健師研修の充実または実施に向けて必要なこと(自由回答)

カテゴリ サブカテゴリ
実施群(24名) プリセプターの置かれている職場環境の課題 プリセプターに負担がかかりすぎている
プリセプターを担う対象者が様々である
保健師の分散配置によって適切なプリセプター配置が難しい
組織としての研修実施体制の課題 組織の中でのプリセプター研修の位置づけが曖昧である
プリセプター研修を組織の体制づくりに組み込みにくい
プリセプター研修を独自研修として確立したい
研修内容の課題 プリセプター研修の内容を充実させたい
プリセプターの意識変革の課題 プリセプター自身のモチベーションを上げたい
プリセプター経験が自身の成長を促す視点を大事にしたい
未実施群(15名) 保健師の人材育成の位置づけの課題 人材育成に関する方針がない
保健師現任教育の位置づけがない
保健師の基本的な能力を育成する研修自体が整備されていない
研修実施体制の課題 部署を超えた研修を実施する体制がない
プリセプターの負担を支援する体制がない
プリセプター人材の課題 プリセプターとなる人材が不足している

1) 実施群における研修充実に向けて必要なこと

実施群の自由回答からは4つのカテゴリが得られた.

まず人員体制や組織改正の課題を示すカテゴリとして【プリセプターの置かれている職場環境の課題】と【組織としての研修実施体制の課題】があった.【プリセプターの置かれている職場環境の課題】には〈プリセプターに負担がかかりすぎている〉〈保健師の分散配置によって適切なプリセプター配置が難しい〉が含まれた.【組織としての研修実施体制の課題】には〈組織の中でのプリセプター研修の位置づけが曖昧である〉〈プリセプター研修を組織の体制づくりに組み込みにくい〉が含まれた.

その他,研修の質の向上に向けた課題を示すカテゴリとして,【研修内容の課題】や,〈プリセプター経験が自身の成長を促す視点を大事にしたい〉を含む【プリセプターの意識変革の課題】があった.

2) 未実施群における研修実施に向けて必要なこと

未実施群の自由回答からは3カテゴリが得られた.これらは研修実施体制の不足の課題を示すものであった.

【保健師の人材育成の位置づけの課題】には,〈人材育成に関する方針がない〉〈保健師現任教育の位置づけがない〉〈保健師の基本的な能力を育成する研修自体が整備されていない〉が含まれていた.【研修実施体制の課題】には,〈部署を超えた研修を実施する体制がない〉〈プリセプターの負担を支援する体制がない〉が,【プリセプター人材の課題】には,自治体内の年齢層の不均衡などにより〈プリセプターとなる人材が不足している〉が含まれていた.

6. 実施群におけるプリセプター保健師研修の回数・日数および研修参加を促す方法(表6

実施群における研修実施回数は,年1回18人(47.4%)が最も多く,次いで年2回10人(26.3%)であった.年5回以上実施も3人(7.9%)みられた.研修日数は,計1日が19人(50.0%)と最も多く,次いで計2日9人(23.7%)であった.回数・日数ともに年2回以内,合計2日以内の自治体が多かった.

表6. 

実施群におけるプリセプター保健師研修の回数・日数および研修参加を促す方法N=38

質問項目 実施群総数
人(%)
回数 年1回 18(47.4)
年2回 10(26.3)
年3回 5(13.2)
年4回 2(5.3)
年5回以上 3(7.9)
日数 計1日 19(50.0)
計2日 9(23.7)
計3日 6(15.8)
計4日 2(5.3)
計5日 2(5.3)
研修参加を促す方法(複数回答) 上司の理解を得る 21(55.3)
全員参加 20(52.6)
希望者の参加 18(47.4)
自治体の人材育成に位置づける 17(44.7)
職場の理解を得る 13(34.2)
その他 4(10.5)

プリセプター保健師研修への参加を促す方法では,「上司の理解を得る」21人(55.3%),「全員参加」20人(52.6%),「希望者の参加」18人(47.4%),「自治体の人材育成に位置付ける」17人(44.7%),「職場の理解を得る」13人(34.2%)であった.

7. 実施群におけるプリセプター保健師研修の実施方法と内容(表7

実施群が採用しているプリセプター保健師研修の実施方法は,講義と演習が多く,事前学習は少ない傾向がみられた.講義を用いた研修で半数以上が研修に含んでいた内容は「自治体の求める保健師像や人材育成方針」26人(68.4%),「OJTの進め方」25人(65.8%),「プリセプター保健師に求められる資質や役割」24人(63.2%)であった.演習を用いた研修では「プリセプター自身が困っている場面の対応」20人(52.6%),「新任保健師が困っている場面での対応」19人(50.0%)であった.

表7. 

実施群におけるプリセプター保健師研修の実施方法と内容N=38

研修に含めている内容(複数回答) 現在実施している方法
講義
人(%)
演習
人(%)
事前学習
人(%)
自治体の求める保健師像や人材育成方針 26(68.4) 5(13.2) 2(5.3)
OJTの進め方 25(65.8) 8(21.1) 2(5.3)
プリセプター保健師に求められる資質や役割 24(63.2) 14(36.8) 4(10.5)
保健師基礎教育の現状 17(44.7) 3(7.9) 0(0.0)
コーチング 14(36.8) 9(23.7) 0(0.0)
リフレクション 9(23.7) 17(44.7) 1(2.6)
学習理論 8(21.1) 1(2.6) 1(2.6)
プリセプター自身が困っている場面の対応 5(13.2) 20(52.6) 2(5.3)
新任保健師が困っている場面での対応 6(15.8) 19(50.0) 2(5.3)
地域診断の指導方法 13(34.2) 8(21.1) 3(7.9)
地区特性に基づく地区活動の指導方法 5(13.2) 6(15.8) 1(2.6)
個別事例の支援の指導方法 6(15.8) 12(31.6) 3(7.9)
グループ支援,地域づくりの支援方法 1(2.6) 3(7.9) 2(5.3)
その他 5(13.2) 5(13.2) 2(5.3)

8. 実施群における研修内容で重要と思うこと(表8

実施群から得た19名の自由回答を分析した結果,統括保健師や人材育成担当保健師が研修を企画実施するうえで重視している要件を示す3カテゴリが得られた.以下,カテゴリを【 】,サブカテゴリを〈 〉で示す.

表8. 

実施群における研修内容で重要と思うこと(19名の自由回答)

カテゴリ サブカテゴリ 主なコード
研修に含めるテーマ・内容 人材育成におけるプリセプターの役割・組織内の位置づけの学習,意識づけ 保健師の人材育成において,新人育成及びプリセプター経験がどのような位置,役割を担うかを知り,自組織の保健師育成について展望を持てること
プリセプターの役割
後輩に伝えることの重要性・意識化
他自治体での取組み等の情報交換から,自所属での人材育成の体制を考える機会とすること
プリセプター経験の共有・困難場面のグループによる検討 プリセプターの困り事など対話ができる場を設けている
所属のプリセプターの経験にもバラツキがあるため(中略)プリセプターのみの研修はグループミーティングの形をとっている
人材育成における新任保健師の教育指導・学習支援方法 指導方法(人を育てるということ,教育指導の原則)
学習支援方法
新任期研修前後の指導者研修ではコーチング,リフレクション,学習理論,グループ支援,地域づくりの指導方法などグループワークで実施
プリセプター自身による保健師活動の振り返り(新任期~今まで) プリセプター自身の新任期の振り返り(自信が持てた個別事例,保健活動の原動力になっている個別事例)
プリセプター研修では総論的なこと,保健師の土台となることについてプリセプター自身が振り返りを行う
保健師活動の意味づけ・言語化 新任保健師の指導においても意味づけをしながら行うことが大切
後輩育成によりプリセプターの成長につながる(コミュニケーションスキル,保健師活動の言語化)
研修の計画・実施上の配慮 必要に応じて柔軟に研修テーマ・内容を変化させること 年代別研修の内容で決まっているものはなく,その年のキャリアラダーの自己評価で点数が低い傾向にあるものや重点的に取りくむ保健活動について研修内容に入れて取りくんでおり,毎年変化している
自ら考え動けるよう,研修内容についても対象者とともに,検討している
プリセプター自身の育成を意図した教育内容を含むこと 多忙な中でも研修に参加して良かったと思え,自身の糧になるものを得られる実感
OJTを日々現場で積み重ねているため,研修ではプリセプター自身の育成,フォローとなる内容を中心に組む
情けは人の為にあらず…育ち合いの要素が大であること
他の研修やOJTなど多様な学習機会の活用をふまえること プリセプター研修は年1回実施している.その他,年3回新規採用保健師とプリセプターを対象にミーティングを実施している.
人材育成のスキルアップについては,市役所や保健所が実施している研修でも受講する機会がある.
地区特性に基づく地区活動,個別事例,グループ支援,地域づくりの指導方法は,集合研修ではなくOJTとして上司や先輩から学んで欲しい
評価や目標共有のためにツールを活用すること 新人の人材育成ガイドラインのチェックリストを使用し,新規採用保健師の成長を確認
到達目標を共有できるツールを検討予定
職場全体で人材育成を行う体制づくり プリセプターだけに新任保健師教育を背負わせず職場全体で育てる重要性を理解すること プリセプターに,日常生活のすごし方の他に,保健師としてのアイデンティティや技術などすべて背負わせない
保健師職の卒後教育に関する背景と,プリセプターの役割をおさえながら,職場全体で育てていくことの重要性を理解させること
新任保健師の育成ではプリセプターでない保健師の協力を得ること プリセプターだけが新任期保健師の人材育成を担うのではなく周囲の保健師も新任期保健師の指導やプリセプター支援を行うことが大事
アイデンティティや技術的なところは,プリセプターでない保健師にもカバーしてもらうことが重要

【研修に含めるテーマ・内容】には〈プリセプター経験の共有,困難場面のグループによる検討〉や〈保健師活動の意味づけ・言語化〉などがあった.【研修の計画・実施上の配慮】には,ただ単に新任保健師教育のために行う研修とするのではなく,〈必要に応じて柔軟に研修テーマ・内容を変化させること〉や,〈プリセプター自身の育成を意図した教育内容を含むこと〉など,プリセプター保健師の成長をねらう研修とする内容が含まれていた.【職場全体で人材育成を行う体制づくり】には〈プリセプターだけに新任保健師教育を背負わせず職場全体で育てる重要性を理解すること〉〈新任保健師の育成ではプリセプターでない保健師の協力を得ること〉が含まれ,プリセプター保健師研修が職場全体の人材育成とのつながりをもった取り組みとなることを重視していた.

IV. 考察

1. 全国自治体におけるプリセプター保健師研修の特徴

本研究の対象となった全国の自治体におけるプリセプター保健師研修は,回答のあった自治体の60%弱にあたる自治体で実施されていた.また,都道府県を除く自治体では研修未実施であっても,50%弱の自治体で,都道府県が実施する研修に参加可能な状況であった.

研修の種類(表3)では,プリセプター研修として企画した研修が約60%,他の研修にプリセプター教育の内容を含めた研修が40%弱と,各自治体の状況に合わせて企画されていると考えられた.実施群は未実施群に比べ自治体の人口規模が大きく,常勤保健師数,プリセプター保健師数ともに多く,保健師の研修が事務分掌で明確に位置づけられている傾向にあった.この傾向は,自治体における新規採用保健師の人材育成の実態調査(日本公衆衛生協会,2023)で明らかとなった人材育成体制の傾向と類似しており,プリセプター保健師についても自治体の大きさによる学習機会の違いがあることが明らかとなった.

プリセプター保健師研修の必要性について,表2のとおり回答者の98.5%が「とても必要と思う」「やや必要と思う」と回答しており,プリセプター保健師研修の必要性は多くの統括保健師および人材育成担当保健師に認識されていた.一方で,40%以上が未実施群であり,プリセプター保健師研修を必要と認識しているものの実施に至らない自治体があることがわかった.また,実施群の研修実施回数は年1~2回,合計日数でも2日以内が最も多く,プリセプター研修に確保できる時間は多くないことが示唆された.この実態から,研修を企画する際は各自治体の状況に合わせてプリセプター保健師が現実的に参加できる回数,オンライン実施やe-learningによる学習の活用など時間的効率性を考慮する必要があると考えられた.また,研修への参加を促す方法は,「全員参加」や「上司の理解を得る」が回答の半数を超えることから,研修を業務の一つとして位置づけ,組織の理解を得ることが重要と考えられた.

実施群が実際に行っている研修の内容(表7)から,実施群の7割弱が講義内容に「自治体の求める保健師像や人材育成方針」と「プリセプター保健師に求められる資質や役割」を含めていると明らかになった.これらの内容は,新人看護職員研修ガイドライン保健師編(厚生労働省,2011)でも提案されている.また,本研究にて,〈人材育成におけるプリセプターの役割・組織内の位置づけの学習,意識づけ〉〈保健師活動の意味づけ・言語化〉が研修で重要なこと(表8)に含まれていることからも,プリセプター保健師研修の内容として不可欠なものと考えられた.さらに,演習内容では実施群の約半数で「プリセプター自身が困る場面の対応」「新任保健師が困る場面での対応」を取り上げていた.保健師にとって後輩の育成に関わる役割を担うことは,後輩を通した自己のふりかえりや上司からの承認が後押しする形で自分自身の成長を自覚する転機となる(小路,2021)といわれている.このことから,プリセプター研修の中でその経験をふりかえることは,プリセプターの意味づけや経験の共有などを通し,プリセプター保健師同士で成長を自覚できる経験学習の機会の一つとなると考えられた.加えて,研修内容で重要なことに〈プリセプター自身の育成を意図した教育内容を含むこと〉が挙げられていたことからも,プリセプター保健師の成長をねらい,意図的に研修でのふりかえりや職場上司からのフィードバックの機会をつくる教育支援の重要性が示唆された.

一方で,研修の実施上の困りごととして,未実施群の半数以上がモデルプログラムの不足,教材,講師確保の困難を挙げていた.未実施群の回答割合が実施群に比べ大きいことから,導入しやすいモデルプログラムや活用できる教材があることで,プリセプター保健師における学習機会の確保や充実をはかれる可能性があると考えられた.

以上のことから,プリセプター保健師への教育支援では,プリセプター保健師が,組織の保健活動に関する理念や組織が求める保健師像を理解し,自分の役割として後輩の育成に関わる力を育むことやプリセプター自身が自己の成長を自覚できるよう学習機会や職場からの支援を確保する必要がある.さらにその普及促進に向けて,時間的・内容的に活用しやすい研修モデルプログラムや教材と組織の理解が必要と考えられた.

2. プリセプター保健師の教育支援体制づくりへの示唆

本研究では,研修そのものの実態だけでなく,研修実施および人材育成の基盤となる組織体制の重要性を示唆する結果を得た.未実施群における研修実施に向けた課題には,〈保健師現任教育の位置づけがない〉,〈プリセプターの負担を支援する体制がない〉,〈プリセプターとなる人材が不足している〉 など,どのような教育支援が必要かという課題の前提条件と考えられる組織体制上の課題がみられた.保健師の人材育成において,組織全体で人材育成を行う重要性とキャリアラダーの活用による組織への理解促進(厚生労働省,2016)や,研修に参加できるような配慮が必要(日本看護協会,2023)といわれていることから,プリセプター保健師研修の充実や組織にあった教育支援体制づくりに向けて,キャリアラダーやOJTの一環に研修を組み入れ,組織の理解を得る働きかけを行うことが重要と考えられた.しかし,すでにプリセプター保健師研修を実施している自治体にあっても,〈組織の中でのプリセプター研修の位置づけが曖昧である〉〈プリセプター研修を組織の体制づくりに組み込みにくい〉など組織の理解を得ることや教育支援体制づくりの難しさが課題となっていた.このことから,人材育成の根拠に加え,すでに教育支援体制づくりの実績がある自治体が行った組織理解を促すアプローチ方法の例示など戦略的アプローチの提示を合わせて行う必要性が示唆された.

さらに実施群において,〈保健師の分散配置によって適切なプリセプター配置が難しい〉〈プリセプターに負担がかかりすぎている〉〈プリセプター自身のモチベーションを上げたい〉という職場環境やプリセプター自身の課題のほか,研修においては〈プリセプターだけに新任保健師教育を背負わせず職場全体で育てる重要性を理解すること〉を重要とする意見があった.自治体によってプリセプターを担う人材が必ずしも中堅期のキャリアに該当するとは限らず,プリセプター保健師の新任保健師教育への業務負担感がプリセプターの消極的姿勢につながる可能性が考えられた.体系的かつ組織的な人材育成の体制や互いに学びあう職場風土が重要(厚生労働省,20112016日本公衆衛生協会,2023)といわれている.新任保健師やプリセプター保健師に限らず,職場全体で学び合える環境づくりを意図的に行い,日常的にプリセプター保健師を支援することや,どのキャリアの保健師がプリセプター役割を担ったとしても自身の成長につなげることができる経験学習の機会が重要と考えられた.これらの促進のためには体系的人材育成の考え方を組織全体で理解することに加え,プリセプター保健師経験学習モデル(Shimazu, 2018, 2020)など保健師の専門性発展力や組織コミットメントを高める視点を取り入れた理論に基づく教育支援プログラムや保健師の成長を可視化できる評価指標の提案が必要と考えられた.

3. 研究の限界と今後の課題

プリセプター保健師研修を実施している自治体が少なく,自治体種別や地域特性を踏まえた研修の実態の詳細な分析には至らなかった.また,教育機能を有する都道府県および保健所設置市を対象としたため,一般市町村の実態は反映されていない.さらに,COVID-19流行前の調査であり,現在の全国自治体の状況を反映していない可能性がある.今後は,プリセプター保健師や組織的な人材育成を支援する仕組みや根拠に基づくプログラムの開発と検証が求められる.

V. 結論

プリセプター保健師研修は95%を超える多くの自治体において必要性が認識されていた.研修実施には自治体規模,常勤保健師やプリセプター保健師の数による影響があり,プリセプター保健師の学習機会の違いがある可能性が示唆された.プリセプター保健師への教育支援は,プリセプター保健師研修をはじめ日常的にプリセプター保健師を支援するなど組織全体で保健師の人材育成を行う体制づくりが不可欠であること,活用しやすい理論的根拠に基づくモデルプログラムや人材育成担当者への組織の教育体制づくり支援の仕組みが必要と示唆された.

謝辞

本研究にご協力いただいた統括保健師および人材育成担当保健師の皆様に心よりお礼申し上げます.本研究はJSPS科研費18K10565の助成を受けて実施した.開示すべき利益相反は存在しない.

文献
 
© 2024 Japan Academy of Public Health Nursing
feedback
Top