Japanese Journal of Public Health Nursing
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Research Article
Association between Oral Health Awareness and Outing Frequency among Elderly Women Attending a Community-Salon
Miki WatanabeMizue SuzukiHisao Osada
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2016 Volume 5 Issue 2 Pages 116-125

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Abstract

目的:住民ボランティア運営型地域サロンの女性高齢参加者における口腔の健康に関する認識の実態を把握し,口腔の健康への認識が外出頻度にどのように影響するのかを明らかにすること.

方法:住民ボランティア運営型地域サロンの女性高齢参加者を対象に質問紙による面接調査を実施した.調査項目は,基本属性,活動能力や口腔の健康状況,外出に関する行動などである.分析は218人を対象とし,口腔の健康への認識と外出頻度の関連について共分散構造分析を実施した.

結果:共分散構造分析を行った結果,「口腔の健康への認識」は,「活動能力」や「外出に対する自己効力感」および「残存歯数」の要因を介して有意に「外出頻度」に影響していた.

結論:口腔の健康への認識が高いことで口腔の健康が保持され,食べる喜び,話す楽しみを得ることができ,また,活動能力が維持されることで社会と関わる機会となる外出への自己効力感を高める要因になると考えられた.

I. 緒言

わが国は超高齢社会を迎え,総人口に占める高齢者の割合は25.1%であり(厚生労働統計協会,2014),65歳以上の高齢者の17.7%が要介護者となっている(厚生労働統計協会,2014).また,高齢者を取り巻く環境として一人暮らし高齢者が多く,高齢者人口に対し男性11.1%,女性20.3%が独居高齢者である(内閣府,2014).高齢者の健康対策や社会環境の整備など地域で包括的に高齢者の課題に取り組む重要性が認識される中,介護予防の推進が注目されるようになった.介護予防の目的は,要介護状態にならないことであり,その取り組みの中には,閉じこもり予防がある.近年,閉じこもりは寝たきりなどの要介護状態の原因として位置づけられている(安村,2006).現行の介護予防事業の中では「閉じこもり予防・支援」として,地域在宅高齢者に対して外出を促すために社会参加や介護予防教室への参加を勧めるなどの取り組みが行われている.高齢者の中には社会参加を楽しみにする人もいるが,疾病や障害により,他者に迷惑をかけるからと外出に消極的であったり,他者と交流することが苦手という人もおり,社会参加をストレスに感じる人もいる.社会参加を促すことがすべての高齢者のQOLを高める支援になるとは限らない(矢野ら,2008須貝ら,1996)が,外出により活動範囲が拡がることで身体機能や日常生活動作の維持,心理・社会的な健康の維持・増進が期待される.

高齢者の閉じこもりには様々な要因があり,身体・心理・社会的な要因が影響し合っているとされる(安村,2006).それらの要因の一つに口腔の状態も影響していると考えられ,歯の健康状態が積極的自尊感情や老年うつの気分を経由しながら外出状態に影響するとの報告(合田ら,2010)がある.また,高齢者の食欲とQOLには関連があり,高齢者が食事の喜びを維持できるようにするためにも口腔機能の保持・回復が不可欠との報告(葭原ら,2008)もある.さらに,2011年度から日本の死因の第3位は肺炎となり,高齢者の口腔ケアの重要性に関する意識が高まってきている(山本ら,2015日下ら,2006).これらのことから高齢者の健康支援として歯科口腔保健対策が重要な施策となっている.しかし,現行の介護予防事業で取り組まれている口腔機能向上を目指した教室への参加率は16.3%(佐々木ら,2009)と低迷しており,運動・口腔・栄養を複数組み合わせて行うプログラムの普及が図られている(三菱総合研究所,2012).介護予防事業への不参加者がある背景には,自分は大丈夫という認識や特に口腔機能の向上を目指した事業に関しては,口腔の健康に関する意識の低さが影響しているとの見解もある(藤中ら,2006).

歯や口腔に関する先行研究では,高齢者を対象にした全身状態と口腔健康状態の関連についての報告(葭原ら,2008)や,残存歯が少ない者で要介護になるリスクが高い(馬場ら,2005)など口腔の健康の重要性に関する報告がされている.近年,介護予防が重視され,高齢者のフレイルやサルコぺニアなど機能低下をきたす前の兆候が注目されている.山田ら(2012)は,高齢期の健康づくり・介護予防は,老化と廃用の悪循環を絶つことであり,運動や口腔ケア,栄養改善などにより低栄養や感染症を防ぐことが重要と報告している.これらの先行研究から,効果的な介護予防には個人の口腔への健康の認識が重要であり,口腔の健康への認識が高いと,口腔機能が維持され,身体的・心理的健康に影響して閉じこもりを予防することにつながる外出を促すことができるのではないかと考える.また,要介護者や二次予防事業対象者ではない自立した地域在宅高齢者における口腔に関する研究を行うことは意義があると考える.さらに,増加傾向にある独居高齢者は,物理的に孤独になりやすく閉じこもり予備軍となり得る.特に女性の独居高齢者が男性の約2倍と多い現状にあり,女性の平均寿命が男性よりも長いことを踏まえると,今後も女性高齢者は増え,女性の特性に合わせた介護予防対策に注目する必要性があると考える.地域全体の健康づくりを目指す公衆衛生看護活動において,女性のコミュニティに注目し,女性が地域の中で健康を保ちながら生活できる介護予防を検討することは重要だと考える.そこで,住民ボランティア運営型地域サロンに参加している,女性高齢者における口腔の健康に関する認識の実態を把握し,口腔の健康への認識が外出頻度にどのように影響するのかを明らかにすることを目的とし,閉じこもり予防支援の在り方を検討する一助となることを目指した.

II. 用語の定義

1. 口腔の健康への認識

本研究における口腔の健康への認識とは,「口腔の健康を維持するために必要な個人の考え」とし,歯の喪失への思いや,口腔内の痛みや汚れなどによる全身の健康への影響に対する考え方とする.

2. 外出頻度

本研究における外出頻度は「週1回も外出しない状態を閉じこもり」とする定義(安村,2006)を参考に,外出の多少から捉え,外出が少ない人は閉じこもり傾向にあると考える.

III. 研究方法

1. 対象

A県B市で閉じこもり予防などを目的に開催される,住民ボランティア運営型地域サロン(以下サロン)において,研究協力を得られた14カ所のサロンの女性参加者223人を対象とした.サロン参加者は,介護保険非該当の一般高齢者で生活動作は自立しているが,民生委員などから身体活動の促しや社会参加を勧められた65歳以上の高齢者である.独居や外出機会の少ない者に声をかけ参加を促すことが多い.サロンは地域の高齢者など住民が家の近くで気軽に行ける場所で集い,孤立や孤独を防いだり健康づくりを行うために月に1回開催されている地域福祉活動であり,地域住民が主体となり社会福祉協議会がサポートし実施されている事業である.B市は人口約2万6千人で山間部に位置し,高齢化率は33.2%である(2014年現在).

2. 調査方法

B市社会福祉協議会の会長には,研究の主旨を口頭・文書で説明し,各サロンの代表者に研究の協力依頼と訪問日の調整等協力を得た.その後,2014年6月~9月で研究者がサロン開催時に会場に出向き,参加者へ研究の目的や方法を説明し,了解の得られた方を対象に質問紙による面接調査を行った.

3. 調査項目

1) 対象者の特性

対象者の年齢,病気・障害の有無と内容,サロンへの参加頻度,痛みの有無を調べた.

2) JST版新活動能力指標増井ら,2014

近年,高齢者の健康水準が高まっているなかで,老研式活動能力指標を改良して新たに作成された高齢者の活動能力を測定するための指標であり,信頼性(クロンバックのα係数0.86)・妥当性は得られている.社会参加,新機器利用,情報収集,生活マネジメントの4つの因子からなる16項目の質問があり,各因子は4項目(0~4点)で構成され,合計点は0~16点の範囲となる.点数が高いほど活動能力が高いとされる.

3) 健康管理行動の実施状況横川ら,1999

食事・運動・精神的安定・保健行動の4つの因子からなる15項目の質問があり,信頼性(クロンバックのα係数0.94)・妥当性は得られている.点数の範囲は15~60点で,適切な保健行動を実施しているほど点数が高くなる指標である.

4) 高齢者抑うつ尺度短縮版(GDS5)鳥羽,2003

高齢者抑うつ尺度(GDS15)との高い正の相関が認められ,感度,特異度においても同等との結果を得ている.5項目の質問からなり0~5点のうち2点以上で抑うつ傾向があることを疑うとされる.

5) 口腔の健康状況

口腔の健康への認識,口腔関連QOL尺度(GOHAI)(内藤ら,2004),残存歯数を調べた.口腔の健康への認識について,大塚ら(2008)は,高齢者が口腔の保健行動を行う要因には「信念や規範」があると報告している.そこで,個人の口腔の健康への考えを調べるために3つの質問項目で尋ねた.口腔の健康というと歯の健康がイメージしやすいと考え,歯の喪失への思いを尋ねた.また,口腔の健康への興味・関心を含めて,口腔の様子と全身の健康への影響に関する考え方を2項目,合わせて3項目により個人の信念や規範に基づく口腔の健康への認識を尋ねた.まず,加齢による歯の喪失への思いについて仕方ないと思うかを「そう思う」~「全く思わない」の5件法で回答を求めた.また,経験や知識による考えとして口腔の状況と身体の健康への影響及び認知症や老年うつへの影響について,「影響がある」~「全く影響はない」の5件法で質問した.歯の喪失への思いは逆転項目とし,いずれも1点から5点で点数が高いほど口腔の健康への認識が高いとした.本研究において,口腔の健康への認識の合計と残存歯数には有意な正の相関があり基準関連妥当性を確認した.口腔関連QOL尺度(GOHAI)は,口腔に関連した包括的な健康関連QOLを測定しており,機能面,心理社会面,疼痛・不快の3つの因子12項目の質問で構成され,信頼性(クロンバックのα係数0.84)・妥当性が証明されている指標である.点数の範囲は12~60点である.残存歯数は,自己申告により自分の歯の数を質問した.対象者の90%以上にかかりつけ歯科医があり,20本以上の残存歯数保有者は,歯科医に20本以上あると言われたと回答する人が多く,また,残存歯がある人は面接中に自分で歯の数を数えて回答しており,自己申告ではあるが信頼性はあると考えた.

6) 外出に関する行動や認識

社会参加の内容,外出頻度,外出に対する自己効力感尺度(山崎ら,2010)を調べた.外出頻度は外出の回数を質問し,週1回以上は外出する人を外出多い群,週1回も外出しない人を外出少ない群とした.また,外出に対する自己効力感尺度は外出に対する自信の程度を測定する指標であり,信頼性(クロンバックのα係数0.96)・妥当性が証明されている指標である.6項目の質問で構成され,点数は6~24点であり,点数が高いほど外出に対する自己効力感が高いとされている.

4. 分析方法

分析は,調査項目のすべてに回答を得られた218人を対象とし,特性などを記述統計で調べた.次に,解析方法はまず,外出頻度に影響する要因を探るために「外出多い群」と「外出少ない群」の2群に分け関連項目について比較した.また,口腔の健康への認識が外出頻度にどのように影響するのかを調べるためにAmosを用いて共分散構造分析を行った.パス図モデル作成においては,モデルの適合度指標を確認しながら解析し,適合度の高いモデルを検討した.統計解析は統計解析用ソフトSPSS Ver. 18およびSPSS Amos Ver. 21を使用し,有意水準5%とした.

5. 倫理的配慮

サロン参加者全員に,文書と口頭で研究の目的や方法,プライバシーの保護,自由意志による参加であり協力しなくても個人への不利益がないことなどを説明し,面接前に書面にて同意を得た.調査票は連結不可能匿名化し,個人が特定されないようにした.データはUSBメモリーで保管し,調査票・USBメモリーは研究室の鍵のかかる棚で保管した.なお,本研究は浜松医科大学医の倫理委員会の承認を得て(承認番号25-110,2014年5月15日承認)実施した.

IV. 結果

1. 対象者の特性

調査協力の得られた方を対象に面接調査を行い,調査項目のすべてに回答を得られた有効回答率は98.0%であった.対象者の健康に関する特性について,平均年齢は76.9(±6.9)歳であり,最長年齢は99歳,最少年齢は65歳であった.JST版新活動能力指標の合計点の平均値は8.9(±3.7)点であり,下位尺度では社会参加が1.7(±1.3)点,新機器利用能力が1.8(±1.4)点であった.高齢者抑うつ尺度の平均値は1.2(±1.3)点であった(表1).

表1  対象者の健康に関する特性(n=218)
項 目
年齢 平均値(±SD) 76.9​ ±6.9​
n %
病気や障害 ある 180​ 82.6​
ない 38​ 17.4​
 内訳(上位5疾患)
 ※複数回答
高血圧 85​ 39.0​
関節病・神経痛 58​ 26.6​
視力障害 52​ 23.9​
聴覚障害 30​ 13.8​
骨粗しょう症 25​ 11.5​
参加頻度1) 毎回必ず参加する 172​ 78.9​
ときどき参加する 34​ 15.6​
あまり参加しない 6​ 2.8​
ほとんど参加しない 6​ 2.8​
痛み いつもある 50​ 22.9​
ときどきある 95​ 43.6​
あまりない 33​ 15.1​
ない 40​ 18.3​
項 目(満点) 平均 SD
健康管理行動 保健行動(28点) 21.5​ ±3.2​
精神的安定(16点) 13.0​ ±2.3​
運動(8点) 6.4​ ±1.4​
食事(8点) 7.3​ ±1.1​
合計(60点) 48.1​ ±6.3​
新活動能力指標 社会参加(4点) 1.7​ ±1.3​
新機器利用(4点) 1.8​ ±1.4​
情報収集(4点) 2.5​ ±1.2​
生活マネジメント(4点) 2.8​ ±1.2​
合計(16点) 8.9​ ±3.7​
高齢者抑うつ尺度 合計(5点) 1.2​ ±1.3​

1)サロン,ミニデイ,老人クラブなどへの参加頻度

口腔と外出に関する特性について,残存歯数は,自分の歯が20本以上ある人は60人(27.5%),19本以下が90人(41.3%),ほとんど自分の歯はない人が68人(31.2%)であった.口腔の健康への認識について,歯の喪失への思いに関する質問の平均値は2.4(±1.3)点であった.また,身体の健康への影響及び認知症・老年うつへの影響に関する質問の平均値はそれぞれ4.6(±0.8)点,4.1(±1.2)点であった.口腔関連QOL尺度(GOHAI)の合計点の平均値は51.7(±8.8)点であった.外出頻度で週に1回以上外出する人は162人(74.3%)であり,外出頻度が少ない人は56人(25.7%)であった.また,外出に対する自己効力感尺度については,合計点の平均値は16.5(±3.9)点であった(表2).

表2  対象者の口腔と外出に関する特性(n=218)
項 目 n %
かかりつけ歯科医 ある 197​ 90.4​
ない 21​ 9.6​
残存歯数 ほとんどなし 68​ 31.2​
19本以下 90​ 41.3​
20本以上 60​ 27.5​
項 目(満点) 平均 SD
口腔の健康への認識 歯がなくなるのは仕方がない(5点) 2.4​ ±1.3​
身体の健康に影響がある(5点) 4.6​ ±0.8​
認知症や老年うつに影響がある(5点) 4.1​ ±1.2​
合計(15点) 10.3​ ±2.1​
口腔関連QOL尺度 機能面(25点) 20.9​ ±4.3​
心理社会面(25点) 21.9​ ±3.9​
疼痛・不快(10点) 8.9​ ±1.4​
合計(60点) 51.7​ ±8.8​
項 目 n %
外出頻度 週に1回以上は外出する 162​ 74.3​
月に1~3回は外出する 55​ 25.2​
ほとんどまたは全く外出しない 1​ 0.5​
社会参加の内容 ※複数回答
(内訳)  生活用品や食料品の買い物 185​ 84.9​
遠くへ買い物 137​ 62.8​
近くの友人・親戚を訪問 167​ 76.6​
遠くの友人・親戚を訪問 100​ 45.9​
旅行に行く 124​ 56.9​
スポーツや運動 91​ 41.7​
趣味の会などの活動 102​ 46.8​
近所づきあい 182​ 83.5​
地域の行事へ参加 128​ 58.7​
社会奉仕活動 78​ 35.8​
特技や経験を活かして他人に伝える活動 35​ 16.1​
高齢者学級・講演会などへの参加や学習活動 94​ 43.1​
項 目(満点) 平均 SD
外出に対する自己効力感尺度 合計(24点) 16.5​ ±3.9​

2. 外出頻度の多少による関連項目の比較

外出頻度の多少による健康・口腔・外出に関する項目を比較した結果について,「年齢」「病気・障害の有無」「新活動能力指標合計」において有意差があり(p<0.05),年齢が高いことや病気・障害があること,活動能力が低い人の方が外出は少なかった.また,「新機器利用の能力」「口腔の健康への認識」「残存歯数」「外出に対する自己効力感」において有意差(p<0.01)がみられ,活動能力のうち新機器利用の能力が高い人,残存歯数が多い人,口腔の健康への認識が高い人,外出に対する自己効力感が高い人ほど外出していた(表3).

表3  外出頻度の多少による健康・口腔・外出に関する項目の比較(n=218)
項 目 外出多い(n=162) 外出少ない(n=56) p値
年齢 平均値(±SD) 76.2(±7.0) 78.8(±6.5) 0.02b *
痛み あり(%) 110(67.9) 35(62.5) 0.46a
なし(%) 52(32.1) 21(37.5)
病気・障害 あり(%) 128(79.0) 52(92.9) 0.02a *
なし(%) 34(21.0) 4(7.1)
新活動能力指標 社会参加 1.8(±1.4) 1.5(±1.2) 0.25b
新機器利用 2.1(±1.5) 1.2(±1.0) 0.00b **
情報収集 2.6(±1.2) 2.4(±1.2) 0.20b
生活マネジメント 2.8(±1.2) 2.7(±1.1) 0.55b
合計平均値(±SD) 9.2(±3.8) 7.8(±3.3) 0.03b *
健康管理行動 合計平均値(±SD) 48.2(±6.2) 48.0(±6.5) 0.91b
口腔の健康への認識 歯がなくなるのは仕方ない 2.5(±1.4) 2.0(±1.2) 0.04b *
身体への影響 4.7(±0.8) 4.4(±0.9) 0.01b *
認知症や老年うつへの影響 4.2(±1.2) 3.9(±1.2) 0.03b *
合計平均値(±SD) 11.3(±2.4) 10.3(±2.5) 0.00b **
残存歯数 20本以上(%) 51(31.5) 9(16.1) 0.00a
19本以下(%) 72(44.4) 18(32.1) **
ほとんどない(%) 39(24.1) 29(51.8)
口腔関連QOL尺度 合計平均値(±SD) 51.5(±9.2) 52.4(±7.4) 0.71b
高齢者抑うつ尺度 合計平均値(±SD) 1.1(±1.3) 1.4(±1.3) 0.08b
外出に対する自己効力感 合計平均値(±SD) 17.1(±3.9) 14.9(±3.4) 0.00b **
社会参加の数 合計平均値(±SD) 6.7(±3.0) 6.0(±2.8) 0.10b

1)* p<0.05 ** p<0.01

2)a.χ2検定 b.Mann-Whitney-U検定

3. 口腔の健康への認識と外出頻度の関連

共分散構造分析による口腔の健康への認識と外出頻度に関するモデルを図1に示した.数値はパス係数で因果関係の強さを表し,矢印は原因から結果へ至る方向を,双方向の矢印は相関を示している.解析にあたり投入した変数は,外出頻度の多少による関連項目の比較で有意差があった項目とし,「年齢」「病気・障害の有無」「新活動能力指標合計」「口腔の健康への認識合計」「残存歯数」「外出に対する自己効力感」である.当初のパス図モデルの仮説として,「口腔の健康への認識」は,「活動能力」や「外出に対する自己効力感」,「残存歯数」の因子と関連し合って「外出頻度」に影響しており,さらに「口腔の健康への認識」へは,個人の特性として「年齢」や「病気・障害の有無」が影響していると考えた.しかし,パス図モデル作成にあたり,モデル適合度指標を確認しながら解析を進めたところ,「年齢」「病気・障害の有無」が投入された場合のモデル適合度は低く,モデルに適合しなかったため削除した.解析の結果,「口腔の健康への認識」から「活動能力」へのパス係数は0.35(p<0.001)であり,「活動能力」から「外出頻度」への影響については,「外出に対する自己効力感」の要因を介すると,それぞれ0.50(p<0.001),0.22(p<0.001)と有意なパス係数が得られた.また,「口腔の健康への認識」は「残存歯数」を介しても「外出頻度」へ影響しており,「口腔の健康への認識」から「残存歯数」へは0.30(p<0.001),「残存歯数」から「外出頻度」へは0.21(p<0.01)の有意なパス係数が得られた.さらに,「活動能力」と「残存歯数」には0.24(p<0.001)と有意な相関がみられた.図1のモデル適合度指標を確認した結果,GFIは,0.995,AGFIは,0.981,NFIは0.982,CFIは1.000,RMSEAは0.000と非常に高かった.

図1.

共分散構造分析を用いた口腔の健康への認識と外出頻度に関するモデル

V. 考察

1. 対象集団の特性

高齢者の閉じこもり出現率(週1回も外出しない)は10~15%程度と報告(安村,2006)されているが,本研究の閉じこもり出現率(週1回も外出しない)は,25.7%と高かった.閉じこもり出現率には地域差があり,社会・環境要因が影響すると考えられている(安村,2006).本研究の対象地域は山間部で交通手段が限られていたり,庭や畑には出るが遠くへの外出はあまりしない人もいると考えられる.また,閉じこもり予防を目的としたサロン参加者を研究対象としたことから閉じこもり出現率が高かったと推測される.社会参加の内容で多かった項目は,生活用品・食料品の買い物や近所づきあいであり,頻回ではないが買い物に出かけたり,近所づきあい程度の外出をする人が多かった.つまり,閉じこもりにより社会的交流が全くないということではないが,外出頻度は多くなく,閉じこもり予備軍の人が多い集団であることが明らかになった.また,地域高齢者の外出頻度が少ない人の特徴として抑うつ傾向があることが報告されている(藤田ら,2004).地域在住高齢者のGDS5の平均値は,0.53~0.78点と報告されており(木村ら,2011山田ら,2011),本研究の対象者の平均値は1.2(±1.3)点とやや抑うつ傾向があった.閉じこもり傾向・抑うつ傾向があるという集団の特性は閉じこもり予防を目的としたサロン参加者の想定された特性に合っていた.本研究は,地域在宅高齢者の外出頻度に焦点を当て分析を行うことが目的であり,外出が多い人だけでなく閉じこもり傾向にある人の情報を得られたことから,概ね想定した集団が抽出できたと考える.

2. 地域在宅高齢者の外出頻度に影響する要因

高齢者の閉じこもりに関する先行研究では閉じこもりの関連要因に関する検討(藤田ら,2004)や追跡調査による閉じこもりの予後に関する研究(新開ら,2005)などが行われてきた.本研究の結果による外出頻度に影響する要因は,「年齢」,「病気・障害の有無」,「残存歯数」,「外出に対する自己効力感」で,すでにこれまでの報告(藤田ら,2004椛ら,2011)で知られているものもあるが,「新機器利用の能力」や「口腔の健康への認識」が外出頻度に影響する可能性も示唆された.

3. 口腔の健康への認識と外出頻度の関連

口腔の健康への認識が外出頻度にどのように影響するかを探るために共分散構造分析を行った.木村ら(2014)は,口腔ケアが不良である人は,認知機能やADL,IADLが低下し,活動範囲が狭められ,自身の趣味や食を楽しめていない状況があると述べている.また,橋元ら(2014)は,高齢者の食欲や咀嚼不自由感は,残存歯数や口腔の自覚症状だけでなく,家族や友人との交流などの社会的要因や主観的な日常的健康観と関連することを報告している.本研究においては,口腔の健康への認識が活動能力に影響し,さらに外出に対する自己効力感にも影響を与えて外出を促していた.また,活動能力と残存歯数の関連も認められ,口腔の健康への認識が高いと残存歯数が維持され口腔の健康が保持されると同時に,活動能力の維持にもつながっていた.つまり,口腔の健康への認識が高いことで口腔の健康が保持され,食べる喜び,話す楽しみを得ることができ,また,活動能力が維持されることで社会と関わる機会となる外出への自己効力感を高める要因になると考えられた.地域在宅高齢者の口腔の健康を維持できるよう支援することが閉じこもり予防支援につながることが示唆された.本研究で作成されたパス図のモデル適合度は高く,妥当性の得られる結果となった.パス図モデル作成において,「年齢」「病気・障害の有無」は「口腔の健康への認識」に影響すると仮定したがモデルに適合しなかった.その理由として,対象集団の年齢分布が70歳代後半に集中して多かったことや,有病者が多かったことなど変数に偏りがあったことが考えられる.本研究では,パス図モデルの結果をもとに口腔の健康への認識から外出頻度への影響を検討したが,人が保健行動を行う要因には,それぞれの経験や他者からの情報といった外的刺激など様々な事柄が影響している.今後は,個人の認識への影響要因を含めた検討が必要である.

本研究の調査集団において,口腔の健康が全身の健康に影響するという考えはあるが,歯がなくなるのは仕方ないという健康管理への意識の低さがあることが明らかになった.健康づくりというと運動や食習慣の見直しなどが重要とされ注目されているが,口腔の健康も,生活に楽しみを持ち長生きするために大切であることを知ることが必要であると考える.本研究のサロン参加者は運営ボランティアとして参加する男性もいたが圧倒的に女性の参加者が多かった.吉田ら(2002)は,女性の外出について外出頻度が高い者の外出は身近での社会参加と関係していると報告している.本研究においても女性高齢者は地域の身近な人たちと交流することで外出や社会参加の機会を得ていた.具体的には,近所の女性同士で家に集まりお茶飲みをする機会を持つ女性高齢者が多くいた.これは近所づきあいになるが,人と会うことである程度の身だしなみを整えたり,お茶のお供でお菓子などを持ち寄り食べたり,身近な話題で会話を楽しんだりしていた.これは,サロンの活動内容とも重なるが,外出や食べること,会話といった要素を含めて健康の維持につながると考える.その上で,口腔の健康の維持は整容や食べる喜び,人と関わる楽しみを得るために重要な健康づくりだと考える.本結果から歯科保健対策を通じた閉じこもり予防支援の必要性が示唆されており,多くの高齢者が,歯科口腔保健行動を実施できるような意識づけが地域保健活動において求められる支援だと考える.

4. 研究の限界と今後の課題

本研究の対象者は,介護保険非該当者で,民生委員などから介護予防を勧められサロンに参加している一般女性高齢者であり,比較的健康への意識が高い集団であったと考えられる.そのため,本研究の結果を一般化することはできない.また,女性高齢者の社会参加には個人要因だけでなく地域で取り組むべき課題があると考え,本研究では女性を対象にした研究を行ったが,口腔の健康を保つことは性差なく重要であり,男性を含めた閉じこもり予防についての研究は今後の課題としたい.さらに,本研究で扱った口腔の健康への認識に関する項目は,経験や考え方の一部であり,今後は認識に与える影響をさらに分析し調査検討が必要である.

VI. 結語

地域サロンに参加する女性高齢者における口腔の健康に関する認識の実態を把握し,口腔の健康への認識が外出頻度にどのように影響するかを明らかにすることを目的とした.共分散構造分析の結果,「口腔の健康への認識」は,「活動能力」や「外出に対する自己効力感」,「残存歯数」を介して「外出頻度」に影響していることが明らかになった.また,「活動能力」と「残存歯数」には相関関係が認められた.口腔の健康への認識が高いことで口腔の健康が保持され,食べる喜び,話す楽しみを得ることができ,また,活動能力が維持されることで社会と関わる機会となる外出への自己効力感を高める要因になり,閉じこもり予防につながると示唆された.

謝辞

本研究にご協力いただきました社会福祉協議会の職員の皆様,調査に回答してくださいました高齢者の皆様に心より感謝申し上げます.

文献
 
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