Japanese Journal of Public Health Nursing
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ISSN-L : 2187-7122
Research Article
The Items Important for the Community Assessment of Nutrition and Dietary Habits as Recognized by Public Health Nurses for Health Promotion Policies
Nobuya KimuraKazuko SaekiMichiyo Hirano
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2016 Volume 5 Issue 2 Pages 126-135

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Abstract

目的:健康増進の施策化でのアセスメントのツール開発に向け,保健師が認識する地域の栄養・食生活アセスメント項目の重要度と入手しやすさを明らかにする.

方法:市区町村の経験年数11年目以降の保健師504名に郵送による無記名自記式質問紙調査を実施した.アセスメント項目は地域の概要,地域のリスク分析,地域の強みの3カテゴリーで構成し,計77項目の重要度・入手しやすさを4件法で尋ねた.分析には加重平均値を用いた.

結果:重要かつ入手しやすい項目として人口構成,要介護認定数などの基本的な健康状態,特定健診等の項目が該当した.重要だが入手しづらい項目には死因,生活習慣,保健サービス,専門医に関する項目が該当した.

結論:健康増進の施策化において,今回の結果で分かった重要なアセスメント項目を優先的に情報収集することで情報が蓄積していき,施策化で必要な経年的な分析も容易になる.

I. 緒言

近年,我が国の疾病構造は生活習慣病の割合が増加し,健康増進計画の重要性が増している.しかしながら,健康日本21の最終評価(厚生労働省,2011)では,市町村の約4分の1が健康増進計画を策定していない状況であり,今後未策定の市町村においても健康増進計画の策定が望まれる.

保健師は地域アセスメントや保健活動によって住民の健康ニーズを把握しており,積極的に施策に関わることが重要(星ら,2008)とされている.その一方で,現場の保健師は作業時間の確保が難しい(澤田ら,2008)状況である.特に政策の立案における情報収集は時間のかかるステップであるため,効率的な情報収集をすることが重要といえる(Bardach, 2011).成木(1999)は保健師の地区診断において手当り次第の情報収集では意味がないと指摘しており,これは保健師の施策化におけるアセスメントでも同様といえるだろう.しかし,保健福祉計画策定における保健師が認識する困難として,アセスメント項目の選定(佐伯ら,2006)や必要なデータの判断が難しい(浦松ら,2011)という声がある.このことから,作業時間の確保が難しい保健師の施策化において,効率的な情報収集をするために,アセスメント項目の選定が課題であるといえる.

また,健康増進計画での生活習慣における栄養・食生活に関しては,国の施策や疫学調査等で生活習慣病のリスクとなる項目が度々更新されている.そのため,健康増進の施策化での栄養・食生活領域におけるアセスメント項目の選定が複雑化している状況といえる.

そこで,本研究は施策化を行っている保健師に着目し,健康増進計画策定における地域アセスメントツールの開発に向け,健康増進に関する施策化での地域アセスメントにおいて,市区町村の保健師が認識する栄養・食生活のアセスメント項目の重要性と入手しやすさを明らかにすることを目的とする.

本研究の結果は,今後,健康増進計画の施策化における地域アセスメントツール開発の基礎的データとして,保健師から見たアセスメント項目の重要性と入手しやすさを明らかにした点で意義があると考える.本研究で重要と思われるアセスメント項目の情報を日々の保健活動の中で蓄積していくことで,地域アセスメントとして経年的に分析でき,施策に反映することができる.また,健康増進施策における運動や休息といった他の生活習慣におけるアセスメントにも発展することで,地域の健康増進施策に貢献できるものと考える.

本研究では地域診断や地区診断,地域看護診断,地域アセスメント等の用語はいずれも地域アセスメントに類するものとして扱い,地域アセスメントの定義を,厚生労働省(2013)による「地域における保健師の保健活動について」をもとに,「地区活動,保健サービス等の提供,また,調査研究,統計情報等に基づき,住民の健康状態や生活環境の実態を把握し,健康問題を構成する要素を分析して,地域において取り組むべき健康課題を明らかにすること」とする.また,「栄養・食生活」は健康日本21(厚生労働省,2012)を参考に,栄養状態,食物摂取,食行動,食環境を含むと定義した.

II. 方法

1. 対象

アセスメント項目の重要性判断の妥当性を確保するため,対象は保健師のキャリアラダーで育成したい能力に施策化体系が挙げられる職務経験年数11年目以降(佐伯ら,2008)かつ保健福祉関係の施策化経験のある市区町村の保健師とした.市区町村は,全国1,743市区町村を1万人未満(以下,小規模町村),1万人以上5万人未満(以下,町村),5万人以上10万人未満(以下,小都市),10万人以上30万人未満(以下,中都市),30万人以上(以下,大都市)の5つに層化し,各層から84~105の計504市区町村を系統的無作為抽出した.

2. 調査内容

本研究では,施策化での栄養・食生活アセスメント項目(以下,栄養・食生活アセスメント項目)と個人属性について調査した.

栄養・食生活アセスメント項目では,本研究のアセスメントの枠組みをフィールドワークや先行研究を参考に構成した.質問紙は市町村及び保健所で働いている保健師,栄養士18名を対象にプレテストを実施し,アセスメント項目を追加修正した.最終的に,栄養・食生活アセスメントの枠組みは,3 カテゴリー,77 のアセスメント項目で構成した.カテゴリーは「地域の概要(佐伯,2007日本公衆衛生協会,2011健康体力づくり事業財団,2000)」,「地域のリスク分析(佐伯,2007日本公衆衛生協会,2011健康体力づくり事業財団,2000厚生労働省,2012江崎,2008Sakurai et al., 2012Imai et al., 2014津下ら,2013Green et al., 2005日本糖尿病学会,2013早渕ら,2003井川ら,1997Chei et al., 2008Anderson et al., 2004)」,「地域の強み(厚生労働省,2012Green et al., 2005Anderson et al., 2004)」の3カテゴリーとした.さらに,「地域の概要」は人口,健康状態,世帯の3中項目,「地域のリスク分析」は特定健診,体重,遺伝,知識,食行動,食物摂取内容の6中項目,「地域の強み」は環境資源,サービス資源,人的資源の3中項目に区分した.

栄養・食生活に関するアセスメント項目は,各アセスメント項目の重要度の回答を4件法で「重要である」,「やや重要である」,「あまり重要ではない」,「重要ではない」とし,入手しやすさの回答も4件法で「入手しやすい」,「やや入手しやすい」,「やや入手しづらい」,「入手しづらい」として調査した.

個人属性としては性別,年齢,職務経験年数,職位,教育背景,勤務自治体の人口規模,施策化の経験等を質問した.

3. データ収集

2014年6月,抽出した504市区町村の保健福祉課長に調査票を送付し,対象条件に合う保健師の選定を依頼した.調査対象者には文書で研究協力の依頼をした.回収率を上げるため,7月上旬に再度研究協力の依頼文を送付した.

4. 分析方法

施策化の経験がない者や職務経験年数が11年未満または未記入の者,保健師以外による回答,複数人による回答,アセスメント項目の回答率が90%を下回る調査票は除外対象とした.調査票の回答で二重回答は欠損値として扱った.また,栄養・食生活アセスメント項目の回答の欠損値は,該当アセスメント項目の平均値の近似値を代入した.欠損は154項目中48項目にみられた.1項目あたりの欠損数は0~7人で,平均1.3人の欠損があった.

分析は各アセスメント項目の重要度と入手しやすさの回答に重みづけをし,加重平均として算出した.重みは「重要である」を2,「やや重要である」を1,「あまり重要ではない」を–1,「重要ではない」を–2とし,入手しやすさについても同様に重みづけした.重要な項目とする基準値は,「重要である」または「やや重要である」と回答した中で,半数以上が「重要である」を選択したことになる1.5とした.入手しやすさについても同様の基準とした.

保健師が認識するアセスメント項目の重要度,入手しやすさの妥当性の確認として,職務経験年数及び勤務自治体の人口規模で5群に分け,基準とした加重平均1.5の結果の区分が各群で同一かを,記述統計による各群の加重平均値で確認した.職務経験年数は11~15年,16~20年,21~25年,26~30年,31年以上の5群に分けた.勤務自治体の人口規模は無作為抽出の際の5群をもとにした.

5. 倫理的配慮

郵送による無記名の自記式質問紙調査として匿名性を確保した.また,依頼文にて調査は個人が特定されないこと,調査への協力は自由であり,調査に協力しないことによる不利益は一切ないこと,調査結果は学術集会及び学会誌等で公表すること,データは研究目的以外では使用されないことを明記した.本研究は,2014年6月5日に北海道大学大学院保健科学研究院の倫理委員会の承認(14-6)を受けて実施した.

III. 結果

調査票は配付した504部のうち196部が回収(回収率38.9%)された.このうち,対象の条件に該当しない回答計28部を無効票として除外した.有効回答数は168部(有効回答率33.3%)となった.

1. 個人属性

回答集団の性別は女性が99.4%,男性が0.6%であった.平均年齢は47.1±7.0歳,平均職務経験年数は23.6±7.1年だった.職務経験年数での割合は11~15年14.3%,16~20年25.0%,21~25年17.9%,26~30年25.6%,31年以上17.3%だった.職位は係員25.6%,係長級42.3%,課長補佐級21.4%,課長級以上9.5%,無回答1.2%だった.教育背景は,専門学校63.1%,短期大学17.9%,大学13.1%,大学院3.6%,無回答2.4%だった.勤務自治体の人口規模は小規模町村8.9%,町村20.8%,小都市23.2%,中都市26.2%,大都市20.8%だった.

2. 栄養・食生活アセスメント項目の重要度と入手のしやすさの認識

栄養・食生活アセスメント項目の重要度と入手しやすさの結果として,「地域の概要」は表1のとおりである.中項目別に重要度が最も高かったのは,人口で3区分別の人口・割合1.67,健康状態で死因別死亡率1.81,世帯で家族形態別世帯数・割合1.46だった.重要度が1.5を超えたのは15項目中9項目だった.入手しやすさが1.5を超えたのは15項目中10項目であった.

表1  地域の概要におけるアセスメント項目の重要度,入手しやすさ
中項目 No. アセスメント項目 重要度 入手しやすさ
人口 1 総人口数 1.57 1.98
2 総人口数の推移 1.57 1.92
3 3区分別(年少・生産年齢・老年)の人口数・割合 1.67 1.88
4 性・年齢別人口数(5歳階級) 1.62 1.89
5 産業別人口数・割合 1.36 1.02
6 出生率 1.38 1.82
7 粗死亡率 1.48 1.54
健康状態 8 死因別死亡率 1.81 1.37
9 死因別SMR(標準化死亡比) 1.79 0.91
10 平均余命 1.60 0.71
11 要介護認定数 1.64 1.76
12 特定健診受診率 1.74 1.87
世帯 13 世帯総数 1.24 1.92
14 世帯総数の推移 1.24 1.76
15 家族形態別世帯数・割合 1.46 0.93

n=168

「地域のリスク分析」の結果を表2に示す.中項目別に重要度が最も高かったのは,特定健診ではHbA1c値1.93,体重では性・年代別のBMI値1.75,遺伝では生活習慣病の家族歴があるか1.74,知識では生活習慣病の概要を知っているか及び生活習慣病の合併症を知っているか各1.67,食行動では主食,主菜,副菜を組み合わせた食事をしているか1.81,食物摂取内容ではアルコールの摂取頻度1.77であった.重要度が1.5を超えたのは43項目中38項目だった.入手しやすさが1.5を超えたのは特定健診に関する7項目であった.

表2  地域のリスク分析におけるアセスメント項目の重要度,入手しやすさ
中項目 No. アセスメント項目 重要度 入手しやすさ
特定健診 16 特定健診でのBMI値 1.87 1.73
17 特定健診での腹囲 1.69 1.72
18 特定健診での血圧値 1.85 1.74
19 特定健診でのHbA1c値 1.93 1.73
20 特定健診での空腹時血糖値 1.76 1.51
21 特定健診での中性脂肪値 1.85 1.74
22 特定健診でのコレステロール値 1.85 1.73
体重 23 性・年代別のBMI値 1.75 0.65
24 夏場と冬場での体重の差 0.73 –0.70
25 20歳から10kg以上体重が変化したか 1.64 0.27
26 妊娠中の体重増加が不良な妊婦の数 1.10 –0.25
27 低出生体重児率 1.31 1.43
28 過体重児率 1.28 0.74
遺伝 29 生活習慣病の家族歴があるか 1.74 0.06
知識 30 生活習慣病の概要を知っているか 1.67 –0.30
31 生活習慣病の合併症を知っているか 1.67 –0.32
食行動 32 満腹まで食べているか 1.71 –0.13
33 よく噛んで食べているか 1.71 –0.12
34 食べるのが速いか 1.71 0.10
35 主食,主菜,副菜を組み合わせた食事をしているか 1.81 –0.12
36 野菜を先に食べているか 1.52 –0.36
37 味付けの濃いものを好むか 1.72 –0.14
38 朝食,昼食,夕食の時間は何時か 1.64 –0.32
39 食事を家族と食べる共食の回数 1.23 –0.27
40 食事の欠食頻度 1.76 –0.08
41 朝食摂取頻度 1.77 0.05
42 間食,夜食の摂取頻度 1.80 –0.07
43 外食の摂取頻度 1.70 –0.26
44 加工・インスタント食品の摂取頻度 1.64 –0.32
45 惣菜・コンビニ弁当等の摂取頻度 1.60 –0.36
食物摂取内容 46 炭水化物の摂取頻度 1.63 –0.36
47 野菜の摂取頻度 1.74 –0.27
48 緑黄色野菜の摂取頻度 1.70 –0.30
49 果物の摂取頻度 1.67 –0.33
50 肉や卵の摂取頻度 1.65 –0.38
51 魚介類の摂取頻度 1.64 –0.38
52 大豆製品の摂取頻度 1.62 –0.36
53 牛乳・乳製品の摂取頻度 1.63 –0.35
54 海藻の摂取頻度 1.62 –0.36
55 油料理の摂取頻度 1.70 –0.36
56 菓子・清涼飲料等の摂取頻度 1.75 –0.32
57 菓子パンの摂取頻度 1.70 –0.38
58 アルコールの摂取頻度 1.77 –0.04

n=168

「地域の強み」の結果を表3に示す.中項目別に重要度が最も高かったのは,環境資源では医療機関と保健機関の連携の程度1.44,サービス資源では保健機関での生活習慣病関連の保健指導実施率1.55,人的資源では地域の専門医の数1.61だった.重要度が1.5を超えたのは19項目中4項目だった.入手しやすさが1.5を超えたのは19項目中環境資源に関する3項目であった.

表3  地域の強みにおけるアセスメント項目の重要度,入手しやすさ
中項目 No. アセスメント項目 重要度 入手しやすさ
環境資源 59 食品中の食塩や脂肪の低減に取り組む食品企業及び飲食店の行政への登録数 1.20 –0.10
60 行政に届出ている栄養成分表示店の数 1.16 0.17
61 利用者に応じた食事の計画,調理及び栄養の評価,改善を実施している特定給食施設の割合 1.08 –0.03
62 地域にある医療機関の種類 1.35 1.57
63 地域にある医療機関の数 1.29 1.68
64 保健センターや福祉センター等の公共保健施設の数 1.07 1.75
65 医療機関と保健機関の連携の程度 1.44 0.63
サービス資源 66 医療機関での生活習慣病関連の健康教育の頻度 1.48 –0.30
67 保健機関での生活習慣病関連の健康教育の頻度 1.51 1.26
68 保健機関での生活習慣病関連の健康教育を受ける人の割合 1.49 1.21
69 保健機関での生活習慣病関連の栄養指導実施率 1.54 1.24
70 保健機関での生活習慣病関連の保健指導実施率 1.55 1.29
人的資源 71 地域の専門医の数 1.61 0.69
72 地域の認定看護師の数 1.10 –0.24
73 地域の専門看護師の数 1.07 –0.26
74 地域の糖尿病療養指導士の数 1.29 –0.26
75 地域の栄養士数 1.37 0.79
76 地域の保健師数 1.43 1.25
77 地域の食育ボランティアや食生活改善推進員の数 1.44 1.36

n=168

3. 経験年数と人口規模の差異によるアセスメント項目の妥当性の検討

アセスメント項目の妥当性の検討のため,職務経験年数と勤務自治体の人口規模による重要度と入手しやすさの判断の差異をみた.経験年数群別で重要度が加重平均1.5以上と1.5未満群に判断が分かれたのは,総人口の推移の項目のみであった.結果は経験年数が短い群順に1.50,1.26,1.87,1.42,1.62であった.

人口規模によって結果の区分が分かれた項目を表4に示す.人口規模群別で加重平均1.5以上と1.5未満に判断が分かれたのは,重要度では総人口数,総人口数の推移,3区分別の人口数・割合,性・年齢別人口数,出生率,特定健診での腹囲,満腹まで食べているか,地域にある医療機関の種類,数の計9項目だった.入手しやすさで結果の判断が異なったのは,粗死亡率,死因別死亡率,特定健診での空腹時血糖値,過体重児率,地域の保健師数の5項目であった.粗死亡率と死因別死亡率は人口が少ない自治体の方が入手しづらい一方で,過体重児率と地域の保健師数は人口が多い自治体の方が入手しづらいという傾向があった.空腹時血糖値の項目は,中都市でのみ入手がしづらい結果であった.

表4  自治体の人口規模によるアセスメント項目の認識の差異
No. アセスメント項目 重要度
小規模町村 町村 小都市 中都市 大都市
1 総人口数 1.33 1.29 1.74 1.66 1.63
2 総人口数の推移 1.33 1.34 1.67 1.68 1.66
3 3区分別の人口数・割合 1.40 1.49 1.77 1.73 1.80
4 性・年齢別人口数 1.27 1.34 1.72 1.77 1.74
6 出生率 1.00 1.23 1.44 1.61 1.34
17 特定健診での腹囲 1.40 1.46 1.82 1.75 1.83
32 満腹まで食べているか 1.40 1.89 1.77 1.55 1.80
62 地域にある医療機関の種類 1.53 1.34 1.64 1.11 1.26
63 地域にある医療機関の数 1.53 1.20 1.54 1.07 1.29
No. アセスメント項目 入手しやすさ
小規模町村 町村 小都市 中都市 大都市
7 粗死亡率 1.20 1.34 1.51 1.59 1.83
8 死因別死亡率 0.93 1.23 1.18 1.50 1.74
20 特定健診での空腹時血糖値 1.80 1.69 1.59 1.20 1.51
28 過体重児率 1.60 0.97 0.82 0.64 0.20
76 地域の保健師数 1.40 1.66 1.18 1.11 1.03

n=168

IV. 考察

今回の回答集団は平均職務経験年数が約23年で,7割以上が係長級以上の職位であることから,中堅期から管理期の保健師であり,アセスメント項目の重要度の判断が十分できた集団であると考えられる.

1. 栄養・食生活アセスメントにおける地域の概要の項目

保健師は重要かつ入手しやすい項目として,人口では総人口数や3区分別の人口数・割合を認識していた.健康日本21は,ライフステージや性差等の違いに着目し,対象集団ごとの特性やニーズ,健康課題等の把握を行うべきとしており(厚生労働省,2012),人口構造に関する項目は各年齢層でどのような健康課題が多いのかといった施策化における対象者の分析に重要な項目である.健康状態では,保健師は要介護認定数と特定健診受診率を重要かつ入手しやすい項目として認識していた.要介護認定数は健康日本21の目標である健康寿命の重要な要素であり,特定健診受診率は事業の評価の指標として一般的であることから,施策化における目標や課題の分析として重要な項目と考える.

重要だが入手しづらい項目には,死因別死亡率,死因別SMR,平均余命が該当した.地域診断ガイドライン(日本公衆衛生協会,2011)は,地域診断では死亡資料が最も参考になるとしている.死因別死亡率,死因別SMRは死亡の背景にある疾病構造の推測や地域比較が可能なことから,施策化で重点的に対処すべき健康課題を明らかにする際に有効であり,入手方法についての改善が必要である.市町村の地域診断では,大学や衛生研究所,保健所といったスーパーバイザーから支援が行われることがある(浦松ら,2011).従って,SMRや平均余命等の加工データはそれらの機関からの支援によって得ることも重要と考える.

重要度が相対的に低い項目として,出生率や粗死亡率,世帯に関する項目等が該当した.保健師はこれらの項目については施策化のアセスメントとしての優先度が低いと認識し,その結果重要度が低くなったと考える.しかし,食生活を中心とした健康増進の施策化において,世帯の分析は重要である.例えば,単身世帯は二人以上世帯に比べて食料支出の外食割合が高い(農林水産政策研究所,2014)等,住民の生活習慣の分析に用いることができる.従って,世帯の重要度に関しては今後再検討の余地があると考える.

2. 栄養・食生活アセスメントにおける地域のリスク分析の項目

保健師は特定健診の全ての項目を,重要かつ入手がしやすい項目として認識していた.特定健診データは,「地方自治体による効果的な健康施策展開のための既存データの活用」(津下ら,2013)でも扱われており,施策化で有効な項目である.最近では,自治体で国保データベースシステムも稼働しており,活用しやすさの点からも重要な項目と考える.

特定健診の項目と体重の4項目,そして食行動の共食の項目を除いた全ての項目が,重要だが入手しづらい項目として認識された.生活習慣病や肥満に関する栄養・食生活のリスクとして,体重や生活習慣の様々な要因が示唆(Chei et al., 2008Mekary et al., 2012南里ら,2003)されており,保健師は健康のリスクとなる様々な生活習慣に注目しているといえる.従って,健康増進の施策化において住民の生活習慣を把握できる項目は重要であるが,生活習慣に関する項目の多くが入手困難な状況である.例えば,健診の問診票に記載されている朝食摂取等の項目は,他の項目と比べると入手しやすさが高く,問診票に項目を追加することも情報を入手しやすくする方法の1つと考えられる.健康増進計画の策定では,中間評価でアンケートを行っているのは6割程度とされており(尾島,2009),予算等の制限はあるが,計画の評価の段階でアンケートを実施して情報収集することも1つの方法である.今後,これらの項目の入手が容易になるような方法や体制が求められる.

重要ではない項目として,体重に関する4項目と食行動の共食の項目が該当した.体重に関しては,生活習慣病のリスクとする根拠が十分ではない項目は重要度が低くなった可能性が考えられる.共食は健康日本21でも取り上げられており重要な項目ではあるが,食育基本計画と重なる部分もあるため,健康増進施策としては重要度が低くなった可能性がある.従って,施策化の際には食育基本計画の情報の共用も重要と考える.

3. 栄養・食生活アセスメントにおける地域の強みの項目

地域の強みでは,重要かつ入手しやすい項目に該当する項目はなかった.重要だが入手しづらい項目としては,サービス資源では健康教育や保健指導といった地域の保健サービスの項目が認識された.地域の保健医療サービスを分析することは,住民のニーズに見合う健康教育プログラムの分析(Anderson et al., 2004)につながることから,施策化の際に有効な項目といえる.人的資源では,専門医の数の項目が重要だが入手しづらい項目として認識された.健康増進計画は生活習慣病と関連が深く,専門医は医療面で重要な資源である.従って,地域の専門医を把握することは医療視点での分析に有効な項目と考える.

重要ではない項目には19項目中15項目が該当した.特に栄養成分表示店や食塩・脂肪の低減に取り組む企業及び飲食店等の食環境の重要度が低かった.李ら(2010)は栄養・食事領域の教育情報面での健康づくりの支援は実施している地域が多い一方で,ヘルシーメニューの提供に対する飲食店への指導の実施割合は低く,食環境の整備の面を進める必要があると述べている.食環境は健康日本21でも触れられており,健康増進において重要な要素といえる.従って,保健師の施策化において,地域の強みとして食環境が重要と認識されていないことが課題である.今後,保健師の認識の改善及びアセスメント項目の重要度として再度検討することも必要と考える.

4. 経験年数と人口規模の差異によるアセスメント項目の妥当性の検討

職務経験年数では,総人口の推移の項目のみが5区分の経験年数によって重要度が異なっていた.しかし,重要度と入手しやすさを合わせた全154項目のうち,経験年数によって違いがあったのは1項目のみであることから,保健師の経験年数の違いによる結果への影響は少ないと考える.

人口規模では,加重平均値の結果の区分が異なった項目は重要度で9項目,入手しやすさで5項目みられた.特に重要度の9項目のうち,人口に関する項目が5項目であった.小規模町村及び町村では,日々の保健活動から住民全体が見えやすいことや,人口の変動が小さいことから,小都市以上の自治体に比べて保健師の重要度の認識が低くなったと考えられる.加重平均の区分が異なった項目は全体からみると人口に偏っており,加えて,これらは全体の項目における10%程度であることから,結果に大きな影響はないと考える.

今回の結果は人口の項目への影響はいくらかみられたが,その他については特定健診で1項目,食行動で1項目,環境資源で2項目程度であり,地域の栄養・食生活アセスメント項目全般への影響は少ないと考える.従って,本研究の結果は,市区町村保健師が重要と認識する地域の栄養・食生活アセスメント項目として妥当であると考える.

5. 研究の限界と今後の課題

本研究は今後の健康増進の施策化における地域アセスメントツールの開発に向け,市区町村の保健師が認識する健康増進に関する施策化での栄養・食生活のアセスメント項目の重要性と入手しやすさを明らかにすることができた.本研究の限界は,第一に,食生活を中心としており,詳細な栄養素や食文化,社会経済面や住民の声といったデータは扱っていない.第二に,本研究は現場の保健師による認識であり,今後は栄養士をはじめ,医師や疫学者等多くの職種による判断を含めることが必要である.

今後の課題として,健康増進の施策化における地域アセスメントツールの開発に向け,今回扱わなかった地域の社会経済面や社会資源に関する項目についての検討や食文化等の質的情報の数量化,具体的な入手しやすさの定義等を検討していくことも重要と考える.また,アセスメント項目の認識として,現場の保健師以外に研究者や他の専門職へ聞き取りをすることや,デルファイ法によってアセスメントに必須と思われる項目を厳選することも重要である.

IV. 結論

健康増進の施策化における地域アセスメントツールの開発に向け,市区町村の保健師が重要と認識する地域アセスメントの栄養・食生活に関する項目として,「地域の概要」では3区分別の人口数・割合や死因別死亡率が,「地域のリスク分析」では特定健診や生活習慣等に関する項目が,「地域の強み」では健康教育や保健指導の項目が挙げられた.また,保健師の施策化においては,地域の強みとして食環境が重要と認識されていないことが課題として挙げられる.

本研究で重要度が高かった項目を優先的に情報収集することで,施策化での栄養・食生活アセスメント項目の選定が効率的に行われると考える.また,情報収集においては,データ加工における他機関との連携や問診票の工夫によって情報を入手することも方法の1つである.今後の地域アセスメントツールの開発に向け,他職種の観点からもアセスメント項目の厳選が重要である.

謝辞

本研究の実施にあたり,業務でご多忙の中にもかかわらず,プレテストやフィールドワークにご協力いただきました各自治体の皆様,そして本調査に回答して下さった保健師の方々に厚く御礼申し上げます.

なお,本研究は北海道大学大学院保健科学院に提出した修士論文の一部に加筆修正を加えたものであり,第3回日本公衆衛生看護学会学術集会で発表した.

文献
 
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