Japanese Journal of Public Health Nursing
Online ISSN : 2189-7018
Print ISSN : 2187-7122
ISSN-L : 2187-7122
Research Article
The Awareness of Older Residents and Adult Residents on Monitoring Older Residents in the Community of a Metropolitan City
Saori KutomiYoshiko MizunoYuki NimuraRiyo TakizawaAnn MiyakeKazuko Saeki
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2016 Volume 5 Issue 3 Pages 230-238

Details
Abstract

目的:本研究は地域で行う見守りに対する地域在住の高齢者と壮年者の意識を明らかにする.

方法:大都市での見守りについての調査の自由記載欄に記載のあった,高齢者97人と壮年者121人を対象とした.回答内容をコード化し,サブカテゴリーの抽出,カテゴリーの抽出を行い,質的帰納的分析を実施した.

結果:抽出されたカテゴリーは,高齢者では【住民が楽しく交流できる機会があるとよい】,【地域の現状と自分の体力を天秤にかけた上で参加するかどうかを決めたい】,【安否確認をしてもらいたい】などであり,壮年者では【地域で濃密な関係を持ちたくない】,【できる限りで参加したい】,【住民だけではなく公的な関与が必要である】などであった.

考察:高齢者と壮年者はともに,地域での交流による住民同士の関係づくりや見守りの必要性を認識する一方で,自身は労力や責任の少ない形での地域活動への参加を望んでいた.公的機関は住民の状況を把握した上で活動をサポートし,見守り活動を促進できるように働きかける必要がある.

I. はじめに

高齢化と核家族化が進行しているわが国において,問題となっているのが孤立死である.孤立死の要因として,プライバシー意識の高まりや他者への遠慮による支援の拒否,特に都市部において元気な間は孤立していても生活できてしまう時代背景などが挙げられる(厚生労働省,2008).

高齢者の生活の破綻や孤立死の予防に効果が期待されるのが見守り活動である.見守り活動による支援は,高齢者の孤立死を予防する社会的支援として,高齢者の健康や安寧を守り,質の高い生活を送ることのできる基盤としての地域づくりの観点からも意義が大きいことがいわれている(舛田ら,2011).現代では地域社会の多様な主体が協働して地域課題を解決し,地域価値を高めて地域社会を維持していく必要性があり(北海道知事政策部,2005),見守りに関しても多様な主体の協働が求められている.

高齢者が実際に生活の中で接触するのはインフォーマルな人々であり,それらの人々は最前線で高齢者の動向をキャッチできる立場にあることがいわれている(斉藤,2009).自治会や行政で役割を担っている者の見守りに対する意識については研究が行われているが(舛田ら,2011野崎,2014前原ら,2011金谷ら,2012斉藤,2009),役割を担っていない住民,特に壮年者は見守りについてどのような意識を持っているのか,また,見守られる立場にある高齢者は望ましい見守りをどのように考えているのか等について焦点を当て,明らかにした研究は見当たらない.

筆者らは,小地域で見守りを実施することに対する意識について,高齢者と壮年者を対象に調査した.瀧澤ら(2014)は,高齢者を対象とした調査の結果をまとめ,見守りの意識について量的分析を実施した.本研究は,高齢者と壮年者を対象としたそれぞれの調査から,地域で行う見守りに対する地域在住の高齢者と壮年者の意識を明らかにすることを目的とし,自由記載がみられたものについて,その内容の質的帰納的分析を実施した.見守りに関する具体的な意識を明らかにすることは,高齢者が増加する現代において,公的な制度だけではなく地域全体で高齢者を支えていくための示唆を得るために必要であると考えられる.

一連の調査において,「小地域」を「自治会や町内会の範囲程度の区域」とした.また,地域における見守りの定義は神崎(2013)の概念分析を参考にし,「意識」とは,ある事柄に対する意向,見解とした.したがって,「見守りの意識」は,対象を把握して日常生活の維持や個別の状況に合った予防的支援の促進,安心感の獲得,人やサービスの結びつきの拡大へとつなげることに対する意向や見解とした.

II. 方法

1. 対象

A市B地区の4町内会を対象とし,一般的に見守られる側になる高齢者の意識と,見守る側になる壮年者の意識を区別するため,2種類の調査を実施した.調査1は70歳以上の高齢者が居住する全世帯(535世帯),調査2は20~69歳の壮年者が居住する全世帯(1,156世帯)を対象とした.調査世帯数の把握は,B地区まちづくりセンターが住民基本台帳を用いて行った.

対象の町内会は,B地区まちづくりセンター長の協力のもと,研究の協力を得られる4町内会を選定した.4町内会の世帯数は1,609世帯,高齢化率は29.8%(平成25年10月現在)である.そのうち1町内会は町内会活動が活発であり,地下鉄の駅に近いため利便性が良く,近年ではマンションの建設が進む地域である.3町内会は地下鉄からはやや距離があり,一戸建てで長年居住する人が多い地域である.

2. データ収集

各世帯への調査票の配布はB地区まちづくりセンター長を通して町内会長に依頼し,平成26年8月のA市の広報の配布に合わせて全世帯(1,609世帯)に配布した.配布内容は,本調査の依頼文の他に,高齢者用の調査票と壮年者用の調査票,及び返信用封筒を同封した.調査票の回収は返信用封筒を用いて郵送法で行った.

本研究の分析データは,調査票内にある「町内会や地域の見守りについて,あなたの考えをご自由に記入して下さい.」という設問への回答を用いた.

3. 分析

地域で行う見守りについての意識にかかわる自由記載欄の内容について,質的帰納的分析を実施した.分析対象は,調査票の返送があった高齢者257人(回収率48.0%),壮年者345人(回収率29.8%)のうち,自由記載のあった高齢者97人(18.1%),壮年者121人(10.5%)であった.分析は,高齢者と壮年者の別に実施した.

返送によって得られたすべての情報について精読した上で,定義に合致する内容を取り上げてオープンコードとした.共通の意味内容を持つコードを集約しサブカテゴリーを抽出し,サブカテゴリー間の意味内容や関係を考慮しながらカテゴリーを作成した.見守りに対する意識や方法について,同じ意味内容を持つカテゴリーを整理し分類した.

限られた単語で表現されたデータの意味を最大限に正しく読み取るために,データと導出されたコード,サブカテゴリー,カテゴリーの間の反復や,研究者間での検討を繰り返し行うことにより信用性を高めた.

4. 倫理的配慮

対象者に対し研究内容について書面にて説明し,調査票の返送をもって研究への参加の同意を得られたものとした.本研究は北海道大学大学院保健科学研究院倫理委員会で承認を受け実施した(平成26年7月31日,14-23).

III. 結果

カテゴリーは【 】,サブカテゴリーは〈 〉を用いる.

カテゴリーは,見守りを実施する場である地域での住民全体の活動や交流の現状や理想についてなど,機運づくりはどうしたらよいかを述べた「見守りのための地域の交流のありかた」,小地域で行う見守りの担い手としての一個人の受諾意向や葛藤を述べた「自分が見守ること」,現在行われている見守り活動や高齢化の現状を踏まえた上で見守りを担う住民自身が考える,システム的な視点のある「見守りを実施する体制のありかた」,小地域で行う見守りの受け手になりたいというニーズが表れた「自分が見守られること」の4領域に分類された.「自分が見守られること」は高齢者にのみ表れた分類であった.

1. 対象者の基本属性(表1

高齢者では,分析対象となった97人のうち70代が66人(68.0%)であり,夫婦世帯は47人(48.5%),この町内に15年以上居住している者が86人(88.7%)であった.

壮年者では,分析対象となった121人のうち60代が52人(43.0%)であり,女性が88人(72.7%),この町内に15年以上居住している者が62人(51.2%)であった.

表1  対象者の基本属性
高齢者 壮年者
n % n %
合計 97​ 100.0​ 121​ 100.0​
年齢 20~29歳 4​ 3.3​
30~39歳 10​ 8.3​
40~49歳 30​ 24.8​
50~59歳 25​ 20.7​
60~69歳 52​ 43.0​
70~74歳 39​ 40.2​
75~79歳 27​ 27.8​
80~85歳 13​ 13.4​
85~89歳 16​ 16.5​
90歳以上 1​ 1.0​
未回答 1​ 1.0​ 0​ 0.0​
性別 男性 54​ 55.7​ 32​ 26.4​
女性 41​ 42.3​ 88​ 72.7​
未回答 2​ 2.1​ 1​ 0.8​
家族形態 独居 19​ 19.6​ 15​ 12.4​
夫婦のみ 47​ 48.5​ 47​ 38.8​
その他 29​ 29.9​ 59​ 48.8​
未回答 2​ 2.1​ 0​ 0.0​
居住年数 4年以下 2​ 2.1​ 24​ 19.8​
5~9年 4​ 4.1​ 20​ 16.5​
10~14年 5​ 5.2​ 15​ 12.4​
15年以上 86​ 88.7​ 62​ 51.2​

2. 見守りに対する高齢者の意識(表2

1) 見守りのための地域の交流のありかた

高齢者は,住民同士でお互いを信頼しながらの〈声かけによる関係づくりが大切〉であり,〈向こう三軒両隣の大切さ〉を実感する一方で,信頼できない住民の存在や,町内会での集会が少なくなったことにより〈交流のない近隣関係のため今後が心配〉と,小地域の将来について心配をしていた.〈昔は交流があったが,今は少ない〉,〈信頼できる相手でなければ関わりたくない〉と,昔と現在の小地域や人間関係の状況を対比させながら【昔のような交流と地域参加が望ましい】という意識をもっていた.また,高齢者は地域の人間関係のありかたとして個人的接触の他に,〈住民が集まる場が必要〉であり,町内会の〈楽しい企画に皆が参加してほしい〉と考え,【住民が楽しく交流できる機会があるとよい】という意識をもっていた.

表2  見守りに対する高齢者の意識
分類 カテゴリー サブカテゴリー
見守りのための地域の交流のありかた 【昔のような交流と地域参加が望ましい】 〈声かけによる関係づくりが大切〉
〈向こう三軒両隣の大切さ〉
〈交流のない近隣関係のため今後が心配〉
〈昔は交流があったが,今は少ない〉
〈信頼できる相手でなければ関わりたくない〉
【住民が楽しく交流できる機会があるとよい】 〈住民が集まる場が必要〉
〈楽しい企画に皆が参加してほしい〉
自分が見守られること 【安否確認をしてもらいたい】 〈安否確認されたい〉
〈安否確認され,感謝している〉
〈今は必要ないが,将来頼みたい〉
自分が見守ること 【地域の現状と自分の体力を天秤にかけた上で参加するかどうかを決めたい】 〈見守り活動参加への関心〉
〈高齢者同士の見守りは必要〉
〈自分の状況と相談しながら,できる範囲で協力したい〉
〈相手の負担にならないよう,さりげない見守りを行う〉
【他へ目を向けられず自分のことで精一杯である】 〈他人に迷惑をかけず,自立した生活をめざす〉
〈自分の生活で精一杯〉
【プライバシーへの配慮により活動が阻まれる】 〈過干渉への懸念〉
〈関係が未熟なことによる不和への不安〉
〈立ち入ることへのためらい〉
〈積極的活動を阻害する個人情報保護の壁〉
見守りを実施する体制のありかた 【家族に一番に見守られたい】 〈相談できる家族がいる安心感〉
〈責任を負うのはまず家族,次に地域〉
【町内会としての見守りの実践が必要である】 〈活発な町内会活動が行われている〉
〈住民の参加を求める〉
〈見守りにはルールが必要〉
【住民の力には限界があるため新たな対応策が必要である】 〈住民による見守りには限度があり,公的な関与が必要〉
〈小地域の問題としての考えの共有と活動が必要〉
〈高齢化に伴う課題への対応を望む〉

2) 自分が見守られること

毎日連絡がとれる方法がほしいなど〈安否確認されたい〉という考えや,現在〈安否確認され,感謝している〉という感謝の念,〈今は必要ないが,将来頼みたい〉という,現在は健康であり必要性を感じないが将来的には希望する気持ちなど,高齢者には【安否確認をしてもらいたい】という意識があった.

3) 自分が見守ること

高齢者は〈見守り活動参加への関心〉があり,小地域で高齢者を見守るための人手が少ないため〈高齢者同士の見守りは必要〉であり,自身も〈自分の状況と相談しながら,できる範囲で協力したい〉思いがあり,〈相手の負担にならないよう,さりげない見守りを行う〉という,【地域の現状と自分の体力を天秤にかけた上で参加するかどうかを決めたい】意識があった.一方で高齢者は〈他人に迷惑をかけず,自立した生活をめざす〉意識があり,年齢や持病などの心身機能の変化による制約があるため〈自分の生活で精一杯〉であるなど,【他へ目を向けられず自分のことで精一杯である】という意識もあった.見守りの実施にあたっては,相手の生活に入り込むことによる〈過干渉への懸念〉,〈関係が未熟なことによる不和への不安〉,〈立ち入ることへのためらい〉や,個人情報を得なければいけない側面を考慮して〈積極的活動を阻害する個人情報保護の壁〉を感じるなど,【プライバシーへの配慮により活動が阻まれる】という意識があった.

4) 見守りを実施する体制のありかた

高齢者は〈相談できる家族がいる安心感〉があり,身寄りがないなどの場合を除いて基本的に〈責任を負うのはまず家族,次に地域〉と考えており,【家族に一番に見守られたい】という意識があった.現在,独居高齢者の見守りなど〈活発な町内会活動が行われている〉現状を認識し,さらなる〈住民の参加を求める〉考えや,〈見守りにはルールが必要〉という考えがあるなど,【町内会としての見守りの実践が必要である】という意識があった.一方で,〈住民による見守りには限度があり,公的な関与が必要〉であり,高齢者対策に関しては〈小地域の問題としての考えの共有と活動が必要〉,〈高齢化に伴う課題への対応を望む〉という考えをもっており,【住民の力には限界があるため新たな対応策が必要である】意識もみられた.

3. 見守りに対する壮年者の意識(表3

1) 見守りのための地域の交流のありかた

遠くの親戚より近くの他人といった〈昔のような近隣関係が望ましい〉という考え方の中で,〈隣近所との助け合いが必要〉であり,〈小さなコミュニケーションの重要性〉を認識しながら関係性を構築していくなど,壮年者には【昔のような交流と地域参加が望ましい】という意識があった.また,若い人が町内会に参加しやすくするなど〈時代に合った町内会活動の工夫が必要〉と考え,昔と現在では住民全体の生活や意識が違う中で,【時代に合った町内会活動の工夫が必要である】という意識をもっていた.一方で,借家なので関わりたくないなど〈干渉したくない,されたくない〉という考えがあり,【地域で濃密な関係を持ちたくない】という意識をもっていた.

表3  見守りに対する壮年者の意識
分類名 カテゴリー サブカテゴリー
見守りのための地域の交流のありかた 【昔のような交流と地域参加が望ましい】 〈昔のような近隣関係が望ましい〉
〈隣近所との助け合いが必要〉
〈小さなコミュニケーションの重要性〉
【時代に合った町内会活動の工夫が必要である】 〈時代に合った町内会活動の工夫が必要〉
【地域で濃密な関係を持ちたくない】 〈干渉したくない,されたくない〉
自分が見守ること 【できる限りで参加したい】 〈忙しいが,何かあったときに協力できることはしたい〉
【相手の人間性や関係性により引き受けるか変わる】 〈相手の人間性や関係性により引き受けるか変わる〉
【他人だと対応が難しく責任を負えない】 〈高齢者の状況は問題が多様で対応が難しい〉
〈自分の家族以外には責任を持てない〉
〈責任が重く,受諾をためらう〉
【関わりを望まない高齢者がいるため活動が難しい】 〈関わりを望まない高齢者がいる〉
【情報が不足していて見守りの判断ができない】 〈見守り対象者の情報が必要〉
〈地域の状況がわからない〉
〈介入してよい範囲がわからない〉
【自分の忙しさのため見守ることは難しい】 〈仕事のため地域参加が難しい〉
〈介護のため受諾できない〉
〈子育てのため手伝いは難しい〉
〈自分の生活に余裕がない〉
見守りを実施する体制のありかた 【身近な地域での見守りが必要である】 〈地域での見守りが必要〉
〈世代間交流が望ましい〉
〈交流の場の確保が必要〉
〈地域でのサポート体制づくりが必要〉
【住民だけではなく公的な関与が必要である】 〈公的な決め事,システムが必要〉
【見守る側,見守られる側の双方にとって望ましい見守りがよい】 〈高齢者を尊重した見守りが望ましい〉
〈自分も高齢者も負担にならない見守り方法が望ましい〉
〈インターネットを用いた見守りは簡便で良い〉

2) 自分が見守ること

壮年者は,困った時はお互い様なので〈忙しいが,何かあったときに協力できることはしたい〉と考えており,【できる限りで参加したい】という意識をもっていた.また,〈相手の人間性や関係性により引き受けるか変わる〉と,個人の関係性の中での高齢者の人柄の好ましさや面識の有無など,見守りは【相手の人間性や関係性により引き受けるか変わる】という意識があった.壮年者は,認知症や独居など〈高齢者の状況は問題が多様で対応が難しい〉と考え,有事の際の対応等について〈自分の家族以外には責任を持てない〉,〈責任が重く,受諾をためらう〉と感じており,【他人だと対応が難しく責任を負えない】という意識があった.また,壮年者は小地域をみる中で,〈関わりを望まない高齢者がいる〉ことについて,高齢者自身の事情を知られたくない思いや遠慮から【関わりを望まない高齢者がいるため活動が難しい】ことを認識していた.見守りを行うためには〈見守り対象者の情報が必要〉であるが,〈地域の状況がわからない〉,見守りを引き受けたいが〈介入してよい範囲がわからない〉という思いをもつなど,【情報が不足していて見守りの判断ができない】という意識があった.壮年者は〈仕事のため地域参加が難しい〉,〈介護のため受諾できない〉,〈子育てのため手伝いは難しい〉などの理由を含め,日常生活の中で時間的制約があり〈自分の生活に余裕がない〉ため,【自分の忙しさのため見守ることは難しい】という意識をもっていた.

3) 見守りを実施する体制のありかた

壮年者は〈地域での見守りが必要〉と考え,子供世代を交えての安否確認のためのかかわりなど〈世代間交流が望ましい〉と感じており,見守りの場を兼ねた〈交流の場の確保が必要〉,〈地域でのサポート体制づくりが必要〉など,【身近な地域での見守りが必要である】という意識があった.見守りを担う住民の努力だけではなく,〈公的な決め事,システムが必要〉であり,年齢による権利・義務的な見守り,有償での見守りなど【住民だけではなく公的な関与が必要である】という意識があった.見守り方法としては〈高齢者を尊重した見守りが望ましい〉と,高齢者の意思を尊重する姿勢を持ち,わずらわしくなく,気楽な〈自分も高齢者も負担にならない見守り方法が望ましい〉と考えており,〈インターネットを用いた見守りは簡便で良い〉など,【見守る側,見守られる側の双方にとって望ましい見守りがよい】という意識をもっていた.

IV. 考察

高齢者の見守りを小地域で行うためには,同じ小地域で生活する住民同士の信頼と交流が必要であることが示された.高齢者は自らの健康状態を長期的に捉えた上で「見守られたい」と感じており,年代を問わず見守り活動への困難は認識しているが頼まれれば引き受ける意思があった.見守り体制は日常的な住民同士の負担の少ない見守りから小地域での体制づくり,さらにはより上位のシステムの関与まで,多様な主体が必要であることが示された.

以上を踏まえ,小地域に対する高齢者と壮年者の思い,自らが見守り活動に関与することに対する思い,小地域での見守り体制のありかたについて考察する.

1. 見守りのための地域の交流のありかた

高齢者と壮年者のどちらからも【昔のような交流と地域参加が望ましい】というカテゴリーが抽出されたことから,小地域で見守りを実施するためには,町内会活動などへの参加を通して同じ小地域で生活する住民同士の関係性を構築し,小地域への関心を高めておくことが必要と考えていることが示唆される.「昔のような交流」というキーワードが指すものは,滝本ら(1988)が日本の近隣関係の特徴として述べている,隣人は極めて親密で,頼りになるものという「濃密な付き合い」や,きちんとした挨拶,義理がたいこと,細かな気配りなど「義務としてフォーマルな性格」であると考えられる.本研究で抽出されたような「昔のような」という言葉より,現在は近隣関係における親密さが少なくなり,関係性の希薄化を感じていることが示唆される.その理由として,現代は,自分のライフスタイルや個性を重視した,個を中心とした緩やかなネットワークのコミュニケーションが増加しつつある一方で,責任や義務を伴うつながりを避ける傾向がある(平山,2014)ことが挙げられるだろう.個の生活が重視され,人と小地域のつながりが希薄化した状況を理解した上で,高齢者では【住民が楽しく交流できる機会があるとよい】,壮年者では【時代に合った町内会活動の工夫が必要である】など,時代に合った交流の場を作る必要性を感じていることが示唆された.

2. 自分が見守られること

この分類は高齢者に特有であり,抽出されたカテゴリーも【安否確認をしてもらいたい】のみであった.先行研究では,この地域の高齢者では,約9割に孤立死への関心があった(瀧澤ら,2014).先行研究と本研究の結果を考慮すると,高齢者は自らの健康を長期的に考えたとき,誰にも看取られず死亡する可能性を予想し不安を抱いており,いずれは周囲の人々から安否を確認されたいと考えていることが示唆された.

3. 自分が見守ること

【他人だと対応が難しく責任を負えない】という意識より,壮年者は有事の際の対応や責任のとり方などに困難感や負担を感じていた.活動を行う際には住民としてできることの限界を感じる可能性があることが示唆される.また,相手の意向に沿わないまま生活に入り込むことへの躊躇いや,高齢者からは【プライバシーへの配慮により活動が阻まれる】,壮年者からは【情報が不足していて見守りの判断ができない】など,見守り相手に関する情報不足のため,相手と自分の状況に合わせた見守りの実施が困難であることが示唆された.舛田ら(2011)は,町内会役員等が考える見守り活動に伴う困難には,見守り実施への不安や負担があることを明らかにした.本研究から,役員等の役割を担っていない住民も同様に負担を感じることが明らかになった.また,本研究では,壮年者の【相手の人間性や関係性により引き受けるか変わる】という意識より,見守る相手が好ましい人柄でないと見守りは受諾しにくいと考えていることが明らかになり,高齢者や壮年者が見守りを実施するためには,事前準備として高齢者と日常からの信頼関係を築く必要があることが示された.見守り実施の際には互いに信頼できる相手とのマッチングを行い,見守りを実施する者に責任が集中しないよう,公的機関が非常時の連絡体制を整えるなどの必要性があることが示唆された.

自分の生活に精一杯であるという意識を表しながらも,高齢者では【地域の現状と自分の体力を天秤にかけた上で参加するかどうかを決めたい】,壮年者では【できる限りで参加したい】など,見守り活動参加への意向を示していた.瀧澤ら(2014)は,70歳代の多くが見守り活動の担い手となることができることを明らかにしている.本研究の結果からも,見守りの担い手は壮年者だけではなく高齢者も引き受けることが可能であることが明らかになった.住民間での互助について,高齢者と壮年者の双方が必要性を認識していると考えられる.見守り活動に伴う責任や,自らの健康,就労等による忙しさから,見守りの積極的な受諾が困難であると考えられるが,自身の生活に影響をきたさない程度の負担の少ない見守りを頼まれれば受諾し,見守り活動ができることが示唆された.畠山(2013)は,単身高齢者のインフォーマル支援において,日々のサポートを身近に行う非親族は年齢同質性が特徴であることを述べており,高齢化が進行する中で,若い世代だけではなく高齢者自身ができる範囲での見守り活動への参加意向を示していることは地域の力として重要であると考えられる.

4. 見守りを実施する体制のありかた

高齢者では【町内会としての見守りの実践が必要である】,壮年者では【住民だけではなく公的な関与が必要である】など,どちらも小地域の中での見守りの実践の必要性と,公的な関与の必要性を認識していた.

本研究において,調査票配布数に占める分析対象となった者の割合は,高齢者では18.1%,壮年者では10.5%と,多いとは言えず,その対象者も全員が小地域で行う見守り活動に対して強い関心があるわけではなかった.大都市部においてソーシャルキャピタル指数は相対的に低い(北海道知事政策部,2005)ことからも,都市部に居住する住民の多くは自身の活動の場を考える際に町内会など地縁にかかわる場は優先順位が低いことや,優先順位が高くても行動は困難であることが示唆される.そのため,住民同士の関係性の中から自然発生的に生まれる見守りは少なくなる.高齢者から【町内会としての見守りの実践が必要である】,【住民の力には限界があるため新たな対応策が必要である】という意識,壮年者からは【住民だけではなく公的な関与が必要である】という意識があることが明らかになったことからも,地域で見守りが行われるためには町内会や行政といった外部からの力が必要になると考えられる.大森ら(2014)は,地域の力量向上には「地域への愛着」が有用であると考え,その形成に影響する要因として地元への興味,個人間の生活環境の共有感覚があることを明らかにした.大都市という地域の特徴の中で,小地域への関心が低い住民も巻き込んで見守り活動ができるようにするためには,個々が地域への愛着を持つことができるような働きかけが必要になると考えられる.

現代の小地域の助け合いが急速に失われつつある状況と行政の提供する画一的なサービスでは住民の多様なニーズに対応できない状況(北海道知事政策部,2005)を踏まえると,インフォーマルとフォーマルを問わず,地域社会のそれぞれの主体が役割を持ち,課題の解決に取り組む必要があると考えられる.本研究では,「見守りのための地域の交流のありかた」,「自分が見守ること」より,高齢者と壮年者はともに小地域での活動の必要性を認識しながらも,個人の事情や希薄な近隣関係のため,地域活動に対する意識はあるが行動に移すことが困難であることが示唆された.そのため,現代の都市部で地域活動が行われるためには,住民自身の地域をみる力が発揮され,公的機関が住民の力量に応じたサポートを適切に行うことが必要になる.住民と公的機関のそれぞれが,小地域での見守りにおける役割と限界を相互理解し協働することで,小地域での見守り活動はより機能しやすくなると考えられる.

5. 提言

高齢者と壮年者の「自分が見守ること」と「見守りを実施する体制のありかた」より,小地域での見守りの実践のためには,労力だけではなく責任の面でも負担の少ない見守りの提案や,異常発見時の連絡体制の整備,個人情報にかかわる取り決めの整備が必要であると考えられる.これらのためには,見守りの担い手の人員の確保と,相談等の後方支援体制の整備が必要になると考えられる.

金谷ら(2015)は都市近郊において住民を対象とした地域高齢者見守りの活動を促進するプログラムを実施し,住民と専門機関の協働による見守りによって,地域コミットメント等のコミュニティへの効果も表れることを明らかにした.大都市においても同様に,現場で実践を行っている地区担当保健師が,住民の力量に応じながら場所や人材の提供や高齢者への見守り依頼を含む企画作成へのアドバイスを行ったり,行政の保健福祉にかかわる部署や地域の福祉にかかわる住民主体の機関,医療機関などの関係者が顔合わせを行い異常発見時の連絡体制の整備,個人情報の扱い方に関するルールづくりができるようにするなど,住民が負担を過重に感じることなく活動するための支援が必要になると考えられる.また,地区担当保健師だけではなく自治体としての施策づくりを担当する保健師が,上記の活動を支えることが可能になる方策を施策レベルで考案するなど,住民関係の希薄化がいわれる大都市では,住民の力の限界を考慮し公助としてサポートできるようなシステムをつくることが,地域全体での見守りを考える際に特に必要になると考えられる.

6. 研究の限界

本研究の限界は2点ある.1点目は対象者の選定であり,本研究は地域への見守りに対する調査へ回答した者のうち,自由記載まで記入した者であることから,対象者の中でも特に地域への関心が高い者であると予想される.2点目はデータの収集方法であり,本研究では回答者は「町内会や地域の見守りについてのあなたの考えを自由に記入して下さい」という設問に対して自由記載を行った.そのため,データは回答者からの一方向の意見であり,深い質問をすることができず,信用性の確認を住民に対して行うことができなかったが,共同研究者間の検討により信用性の確保に努めた.

V. 結語

地域に在住する高齢者と壮年者が考える,小地域での見守りを行うことと見守り方法についての意識を明らかにすることを目的として分析を行った結果,住民は小地域で見守りを実施するにあたって住民相互の信頼と交流が必要であると考えており,見守りは責任や負担の少ない見守り方法であれば引き受け,同時に公的なサポートも求めていることが明らかになった.大都市において見守りを行うためには,地域に関心がある一部の住民の力を活かし,住民と保健医療福祉にかかわる機関と協働しながら,住民が地域への関心を高め,活動へ参加できるように企画運営を行うことが必要になる.

謝辞

ご協力いただきましたA市B地区まちづくりセンターの関係者の皆様,町内会の皆様に心より感謝いたします.

文献
 
© 2016 Japan Academy of Public Health Nursing
feedback
Top