Japanese Journal of Public Health Nursing
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ISSN-L : 2187-7122
Research Article
The Recognition and Behaviors about a Good Work-Life Balance among Proficient Public Health Nurses in Hokkaido
—Analyses of Free-Description among Public Health Nurses Whose WLB Self-Evaluation Were High Level—
Chisato OmoteyamaYoshiko Kudo
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2017 Volume 6 Issue 1 Pages 37-46

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Abstract

目的:work-life balance(以下,WLB)への自己評価が高い中堅期保健師におけるWLBに関する認識,行動を明らかにし,WLBを良好に保つための示唆を得る.

方法:中堅期保健師へ無記名自記式質問紙による郵送調査を行った.WLBへの自己評価高値群において自由記載のあった全59件を質的帰納的に分析した.

結果:WLBに関する認識は,自分のWLBを組み立てる,仕事と生活のメリハリをつける,「今」のライフステージにおけるWLBを受け入れる,まわりの協力でWLBが成り立つ,充実感を糧にする,の5カテゴリであった.行動は,仕事の時間を管理する,WLBについて家族や同僚と話し合う,状況に合わせて自分で柔軟に調整する,の3カテゴリであった.認識している課題は,組織全体のWLBへの取り組み強化,子育てを支える資源の不足,時間の有効活用に関する葛藤,の3カテゴリであった.

考察:中堅期保健師のWLBには,長期的に自分のWLBを組み立てる,協力が得られる環境を自ら作り出す認識と行動が重要である.

I. 緒言

やりがいや充実感を持って働くことと健康で豊かな生活との両立を目指す「ワーク・ライフ・バランス(work-life balance:以下WLBと略す)」に関する取り組みは,近年政府,地域,企業等において広がりをみせている.WLBを実現するメリットとして,従業員の意欲向上,人材の確保,長時間労働による生産性の低下やリスクの回避等(東京都男女平等参画審議会専門調査会,2008)が示されており,雇用する側もされる側も利益が有るという考えに基づいて推進されている.

保健師は住民の健康づくりの要となる役割を担っており,住民のニーズと行政政策に沿って活動を展開している.健康づくりの推進において市町村は住民の健康づくりを担う最も身近な行政機関であり,市町村健康増進計画を定めるとともに,地域住民の主体的な健康づくりへの参加を促すことが求められている.北海道の2015年現在の人口は5,383,579人(総務省統計局,2016),市町村に就業する保健師は1,659人である.人口同規模の県との比較では,兵庫県は912人(41市町),福岡県は919人(60市町村)の市町村保健師が就業している(厚生労働省,2016).北海道は8.3万km2という広大な地域に179の市町村が存在するため,人口に対して多くの市町村保健師が就業している地域である.北海道健康増進計画「すこやか北海道21」(北海道保健福祉部健康安全局地域保健課,2013)によると,北海道はがんや急性心筋梗塞の年齢調整死亡率が高いことから「生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底」「健康を支え,守るための社会環境の整備」等を目標とした方向性が示されている.そして,その推進に伴い,保健師は地域において様々な役割を期待されている.

昨今,中堅期保健師の人材育成が課題(中板,2014山田,2014)とされている.保健師が対応する健康問題は,虐待防止,感染症予防,自殺予防対策等年々複雑化しており,保健師養成課程の変化や,団塊世代の退職の影響によって,現任教育のあり方や保健師としての技術の伝承について論じられている.このような中で,次期リーダー及び管理職となる中堅期保健師の人材育成は重大な課題と言える.中堅期保健師は,新任教育の指導者としての役割,管理職を補佐する役割を担う中核的な存在であり,また中堅期は保健師としての成長を図る上で重要な時期であることから,中堅期の現任教育プログラム・マニュアルの作成や中堅期研修の実施について,各機関で様々な取り組み(日本看護協会,2013)が行われている.さらに,中堅期保健師の年齢は20歳代後半~40歳代が多く(佐伯ら,2004),全国で就業する保健師の70.3%(厚生労働省,2015)を占める.この年代の多くは仕事以外の生活における役割として,家族を形成する,子どもを生み育てる,親の介護等家庭の役割(内閣府男女共同参画局,2007)を担っている.中堅期保健師は,仕事において期待される役割の他に,仕事以外の生活においても家族や地域の中で果たすべき役割は大きく,向き合わなければならない課題が多い時期にあると考えられる.

これらのことから,中堅期の保健師が,意欲を持って能力を発揮しながら働くためには,仕事と生活それぞれに満足感を持ち,自己の希望するバランスで働くこと,つまりWLBが重要と考えた.中堅期保健師がWLBを実現することによって,中堅期保健師の仕事への意欲が向上し,仕事効率の低下やリスクを回避し,専門職としての能力を十分に発揮することは,住民により良い保健サービスを提供することにつながると推測した.

筆者らは,北海道の市町村で働く中堅期保健師の調査からWLBへの自己評価,及びWLBへの自己評価に関連する要因を量的記述的に分析した(表山ら,2015).その結果,中堅期保健師におけるWLBへの自己評価の平均値63.2点は,全国20歳以上60歳未満の男女2,500人の平均値51.2点(内閣府,2008)と比較して高かった.しかし中堅期保健師の中でもWLBへの自己評価が低い群では疲労を持ち越し,職場環境・仕事への認識が否定的で,生活に満足していなかった.そして「メリハリをつけて働き,業務が終われば周囲に気兼ねなく帰ることができる」「家庭内での役割に満足」「休養の質に満足」「職員を大切にしている組織である」と回答した人は,有意にWLBへの自己評価が高いことを見出せた.この研究はWLBへの自己評価と関連する要因について明らかになったが,実際に自分のWLBを良好に保つために,具体的にどのような認識と行動が必要かを明らかにすることが課題として残された.今回,WLBへの自己評価が高い人の記述からWLBについて感じていることを明らかにすることは,WLBを良好に保つための認識と行動の具体的な側面を表すことにつながると考えた.本研究は,中堅期保健師が今後のWLBを良好に調整していく示唆を得るために,WLBが良好に保たれている中堅期保健師のWLBに関する自由記載から,WLBに関する認識と行動を明らかにすることを目的とする.

II. 研究方法

1. 用語の定義

ワーク・ライフ・バランス(WLB):仕事と生活の調和.

仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章(以下,WLB憲章と略す)(2007)を参考に,保健師が仕事と生活(家庭生活,地域・社会活動,学習・趣味,健康・休養)を両立する中で,自分が希望するバランスへ調整することと定義する.

2. 分析対象

筆者らは,2013年6月に保健師が5人以上配置されている北海道内125市町村の中堅期保健師(経験年数が5年~19年の者)630人へ,無記名自記式の質問紙「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)に関するアンケート」を用いた郵送調査を実施した(表山ら,2015).研究協力への依頼文書,調査票,返信用封筒は,所属長もしくは保健分野のリーダー宛に人数分を一括して郵送した.382人(回収率60.6%)より回収され,WLBへの自己評価についての項目「あなた自身の理想とする仕事と生活のバランスを100点とした場合,今現在の仕事と生活のバランスは何点になりますか.」に回答があった人は366人(有効回答率58.1%)であった.WLBへの自己評価は平均値63.2±18.5点,中央値70点であった.中央値で2群に分けると,低値群69点以下の人が182人(49.7%),高値群70点以上の人が184人(50.3%)であった.高値群70点以上の中で自由記載欄「WLBについてお感じになっていることをご自由にお書きください」に記載した人は59人(高値群の32.1%)であった.WLBへの自己評価の高い人が実際にどのように認識,行動しているかを明らかにするために,記載のあった全ての記述内容59件を分析対象とした.

3. 分析方法

本研究は質的帰納的研究デザインである.自由記載内容から萱間(2007)のデータ収集及び分析方法を参考に,WLBへの認識や行動に関連していると思われる記述を,意味がくみ取れるように文脈をコード化した.59コードが抽出された.認識に関連する記述の中で「WLB上の課題と認識していること」の記述が多かったことから,WLBへの自己評価が高い中堅期保健師の認識,WLBへの自己評価が高い中堅期保健師の行動,WLBへの自己評価が高い中堅期保健師が認識しているWLB上の課題に分け,コードの類似する内容を各々でサブカテゴリ,カテゴリ化した.仕事との関連をみるために「保健師経験年数」,子育てに関する記載が多かったことから「子どもの有無」について,記述した情報提供者が該当する場合は表24の「経験年数」「子ども」の欄に〇印を記した.結果の信憑性を確保するために,分析を行う全過程において共同研究者間で検討しながら分析を進めた.さらに真実性,信憑性の確保のために(瀬畠ら,2003)中堅期保健師6人に本研究の結果を見てもらい,異議の無いことを確認した.

4. 倫理的配慮

本研究は北海道医療大学大学院看護福祉学研究科倫理委員会の承認を得た(2013年5月7日,承認番号第1号).郵送調査の実施にあたって,所属長及び情報提供者へ,研究の主旨,自由意思による参加の保証,調査票は無記名であり,個人が特定されることはなくデータは厳重に管理することを,各依頼文書の書面にて説明を行った.調査票の返信をもって研究参加への同意とすることを明記した.

III. 研究結果

1. 情報提供者の属性(表1
表1  情報提供者の属性 人(%) N=59
合計 保健師経験年数
前期
5~9年
中期
10~14年
後期
15~19年
性別 女性 59 (100.0) 14 (23.7) 23 (39.0) 22 (37.3)
年齢 20歳代 5 (8.5) 5 (8.5) 0 (0.0) 0 (0.0)
30歳代 41 (69.5) 9 (15.3) 23 (39.0) 9 (15.3)
40歳以上 13 (22.0) 0 (0.0) 0 (0.0) 13 (22.0)
婚姻状況 未婚 12 (20.3) 6 (10.2) 1 (1.7) 5 (8.5)
既婚 45 (76.3) 8 (13.6) 22 (37.3) 15 (25.4)
離死別 2 (3.4) 0 (0.0) 0 (0.0) 2 (3.4)
子ども あり 38 (64.4) 4 (6.8) 17 (28.8) 17 (28.8)
勤務する市町村人口 1万人未満 25 (42.4) 5 (8.5) 13 (22.0) 7 (11.9)
1万人以上3万人未満 10 (16.9) 0 (0.0) 2 (3.4) 8 (13.6)
3万人以上10万人未満 9 (15.3) 3 (5.1) 3 (5.1) 3 (5.1)
10万人以上20万人未満 6 (10.2) 1 (1.7) 3 (5.1) 2 (3.4)
20万人以上 9 (15.3) 5 (8.5) 2 (3.4) 2 (3.4)

情報提供者の属性は,性別は59人全員が女性,年齢は20歳代5人(8.5%),30歳代41人(69.5%),40歳以上13人(22.0%)であった.保健師経験年数は,5~9年(前期)が14人(23.7%),10~14年(中期)が23人(39.0%),15~19年(後期)が22人(37.3%)であった.婚姻状況は未婚12人(20.3%),既婚45人(76.3%),離死別2人(3.4%),子どもがいる人は38人(64.4%)であった.勤務する市町村人口は,1万人未満が25人(42.4%)で最も多かった.

2. 分析結果

自由記載内容からは,WLBへの自己評価が高い中堅期保健師の認識5カテゴリ,WLBへの自己評価が高い中堅期保健師の行動3カテゴリ,WLBへの自己評価が高い中堅期保健師が認識しているWLB上の課題3カテゴリが抽出された.以下,カテゴリを【 】,サブカテゴリを《 》,記述からのコードを〈 〉で表す.

1) WLBへの自己評価が高い中堅期保健師の認識(表2
表2  ワーク・ライフ・バランス(WLB)への自己評価が高い中堅期保健師の認識
カテゴリ サブカテゴリ 記述からのコード 経験年数 子ども
5–9 10–14 15–19
自分のWLBを組み立てる バランスの軸の置き方を考える ・自分が希望するバランスをどこに設定するか.
・バランスよく統合させ自分の納得のいく形で生活できればWLBが良好といえるのではないか.自分の理想と能力によるところも大きい.
自分のWLBを振り返る機会を持つ ・日ごろからWLBを重視して生活している.
・自分で振り返る機会を持つことが,良いバランスへ向かうきっかけになる.
仕事と生活のメリハリをつける 自分で考えた仕事と生活のバランスを前向きにとらえる ・自分自身で配分を考え,それを前向きにとらえることが,長く楽しく働くことにつながる.
・メリハリをつけて仕事と生活が考えられると良い.
「今」のライフステージにおけるWLBを受け入れる 完璧を目指さず割り切る ・仕事も家庭も100%にならないと割り切っている.
・何かできないこと,足りないことがあっても,仕方ない.1日は24時間しか無いので(笑).
・開き直って仕事をするしかない.強い気持ちが無ければ難しい.
・子どもが小さいうちは仕方ないと割り切る.
ライフステージにあわせたWLBを受け入れる ・今は何より育児と仕事に時間を取るべきライフステージ.自分自身については「そのうちいつか」できる日が来ると思っている.
・子どもの成長とともに負担は軽減している.
今,優先したいものに時間を費やす ・今自分が与えられている時間の中で,自分が優先したいものに時間を費やすことで理想の形が取れると思う.
・大切なこと,それが取れていないと働くモチベーションが下がる.自分の心や生活の変化に敏感になり,その時期の優先順位を見直す.
・仕事優先の生活で良いと思っている.
どちらか一方をがんばりすぎない ・仕事も育児もどちらか一方を頑張りすぎても良くない.その時に合わせたバランスのとり方.
まわりの協力でWLBが成り立つ 家族の理解や協力を支えに両立する ・両親に協力してもらいながらなんとか両立.
・育児をしながらWLBを良い状況で保つためには夫の理解や協力が重要.
まわりの協力でWLBが成り立つ ・権利だけ主張したり,決めつけたり,気負わない.お互いへの思いやり,人間の生活の基本を忘れてはいけない.
・自分一人ではできず,まわりの協力,協力し合いがあってこそ成立するものと実感している.
・係のスタッフ数が多く,フォロー体制が有る.
人間関係を大事にする ・長く勤めたいと思っている職場であれば,人との関係性を大事にしてほしい.
充実感を糧にする 仕事から充実を得る ・「仕事=楽しい」と思えたら時間をいくら使っても自分なりにWLBが良いと思える.
・ちゃんと働いてしっかり充実できるかが大事.
充実した生活が仕事にも活きる ・良い仕事は,充実した生活の上でのみ成立する.
・ずっと働き続けるためには,仕事だけではなく,自分の休息,趣味での息抜き,友人・家族との交流も大切.

《バランスの軸の置き方を考える》《自分のWLBを振り返る機会を持つ》という2つのサブカテゴリから【自分のWLBを組み立てる】が抽出された.自分が希望する仕事と生活のバランス配分をどのように設定するか《バランスの軸の置き方を考える》,日ごろからWLBを重視し《自分のWLBを振り返る機会を持つ》ことが良好なバランスにつながるとの認識が記されていた.このカテゴリでは,記述した情報提供者の全てが子ども有で,《バランスの軸の置き方を考える》と記載した人の経験年数が長かった.

自分自身で配分を考え,仕事と生活を前向きに切り替えている記述から【仕事と生活のメリハリをつける】が抽出された.経験年数,子どもの有無に関わりなく記述された.

《完璧を目指さず割り切る》《ライフステージにあわせたWLBを受け入れる》《今,優先したいものに時間を費やす》《どちらか一方をがんばりすぎない》という4つのサブカテゴリから【「今」のライフステージにおけるWLBを受け入れる】が抽出された.不十分さを認めつつ割り切ることで,現在のWLBを受け入れている記述から《完璧を目指さず割り切る》,ライフステージに伴ってWLBが変化していく見通しや期待から《ライフステージにあわせたWLBを受け入れる》が抽出された.また,時間の使い方や気持ちの上で《今,優先したいものに時間を費やす》,その時に合わせたバランスを《どちらか一方をがんばりすぎない》というWLBを保つための方法が表されていた.《完璧を目指さず割り切る》《ライフステージにあわせたWLBを受け入れる》《どちらか一方をがんばりすぎない》は,子ども有の情報提供者の記述から,《今,優先したいものに時間を費やす》は,経験年数,子どもの有無に関わらず抽出された.

《家族の理解や協力を支えに両立する》《まわりの協力でWLBが成り立つ》《人間関係を大事にする》という3つのサブカテゴリから【まわりの協力でWLBが成り立つ】が抽出された.夫や両親の理解・協力を得てWLBを良い状態で保っている記述から《家族の理解や協力を支えに両立する》,家庭生活だけではなく職場や地域社会での思いやりや協力し合いがあって成立するとの認識から《まわりの協力でWLBが成り立つ》,職場の人間関係の大切さから《人間関係を大事にする》が抽出された.《家族の理解や協力を支えに両立する》《人間関係を大事にする》は子ども有の情報提供者によって,《まわりの協力でWLBが成り立つ》は経験年数,子どもの有無に関わらず記述された.

《仕事から充実を得る》《充実した生活が仕事にも活きる》という2つのサブカテゴリから【充実感を糧にする】が抽出された.仕事を楽しいと思うこと,自分の働き方や仕事内容を肯定的に考え《仕事から充実を得る》ことがWLBには重要との認識が明らかになった.また,長く良い仕事をするためには自分の休息,趣味での息抜き,友人・家族との交流が大切であり《充実した生活が仕事にも活きる》と考えていた.《仕事から充実を得る》と記述した情報提供者は経験年数10年以上で子ども無,《充実した生活が仕事にも活きる》と記述した情報提供者は経験年数5–14年であった.

2) WLBへの自己評価が高い中堅期保健師の行動(表3
表3  ワーク・ライフ・バランス(WLB)への自己評価が高い中堅期保健師の行動
カテゴリ 記述からのコード 経験年数 子ども
5–9 10–14 15–19
仕事の時間を管理する ・定時に帰れているという意味ではWLBは取れている.
・保育所のお迎えがあるので定時で帰宅.
WLBについて家族や同僚と話し合う ・その時に合わせたバランスのとり方を家族と話し合うようにしている.
・日ごろから職場の同僚にも家族にも,仕事や生活についてコミュニケーションをはかる.
状況に合わせて自分で柔軟に調整する ・状況に合わせて自分で柔軟に時間を調整する.
・環境を考えながら自分で調整する.様々な情報を上手に使う.

WLBへの自己評価が高い中堅期保健師の行動は,データが少ないことからサブカテゴリ化の段階を踏まず,コードをカテゴリ化した.【仕事の時間を管理する】【WLBについて家族や同僚と話し合う】【状況に合わせて自分で柔軟に調整する】という3つのカテゴリが抽出された.「定時に帰宅」という明確な行動の記述が複数みられ【仕事の時間を管理する】が導かれた.行動については【仕事の時間を管理する】【WLBについて家族や同僚と話し合う】が子ども有の情報提供者,【状況に合わせて自分で柔軟に調整する】は経験年数10年以上で子ども無の情報提供者による記述から導かれ,生活背景による違いがみられた.

3) WLBへの自己評価が高い中堅期保健師が認識しているWLB上の課題(表4
表4  ワーク・ライフ・バランス(WLB)への自己評価が高い中堅期保健師が認識しているWLB上の課題
カテゴリ サブカテゴリ 記述からのコード 経験年数 子ども
5–9 10–14 15–19
組織全体のWLBへの取り組み強化 適正な人員配置がされていない ・人員削減されてギリギリの人数でやっている状況では,結局仕事に責任感のある人が生活を犠牲にしてしまう.適正な人員配置を望む.
・保健師はある程度人員を確保し,みあった業務量とすればWLBの取りやすい職種と感じる.市町村により,かなり差を感じる.
・賃金を低くして人を雇いやすくする仕組みが必要.
・人員不足で自分が何とか仕事を回すしかない状況.上司も余裕がなく,目配りできていない.2人目の子どもが欲しいが言い出せる雰囲気にない.
配属によって家庭生活への影響がある ・配属される部署でWLBはかなり違う.
・配属先によりメンタル的に家庭生活に影響を及ぼすことは多い.
時間外勤務を容認する組織の風潮がある ・一人ひとりは「長時間・時間外労働」は嫌だと思っている人が多いのに,組織としてはやむを得ない風潮がある.
・組織全体としてWLBを考えないと,個人の考えや意向だけでは難しい.人的,財政的に厳しい中では考える余裕すらない.ノー残業デーを決めても定時に帰る人はいない.
短時間勤務が実現しにくい ・希望により短時間勤務を選択できると家庭生活と仕事の両立がしやすい.
・生活を優先したいが立場上難しい.育児短時間勤務休業制度を使っているが,仕事が終わらず通常勤務で働く日もある.
・勤務時間が短くなれば良い.理解・協力が進まず現実的には不可能.
休暇が取りづらい ・田舎では保健師の代替がいないので育休は取るにしても気を使うし1年がやっと.代替が補充される仕組みがあればと思う.
・担当しているケースを他の保健師に頼めないことも多い.有給は取りにくいこともある.
子育てを支える資源の不足 働き続けるための条件がそろわない ・数々の条件(夫の仕事,家族の健康,親の居住地等)がそろわないと働き続けることは難しい.
子育てと仕事の綱渡りである ・子育てで頼れる人がいないことが一番色々な面での負担を増やす原因と考える.
・田舎で有料託児や病児保育が無いので,病み上がりの子どもを一か八かで通園させる.子どもに持病があり,毎日綱渡り.
・家庭を維持しながら仕事を続けることは綱渡りと思うことが多くある.
時間の有効活用に関する葛藤 仕事以外の時間を増やしたい ・子どもと過ごす時間を増やしたい.自分の時間として休暇を活用したい.仕事中心の生活が時々嫌になる.
・仕事後の時間を有効活用したい.
自己啓発の時間を取りたい ・この仕事が好きなので,自己啓発の時間をもっと取りたい.

《適正な人員配置がされていない》《配属によって家庭生活への影響がある》《時間外勤務を容認する組織の風潮がある》《短時間勤務が実現しにくい》《休暇が取りづらい》という5つのサブカテゴリから【組織全体のWLBへの取り組み強化】が抽出された.人員不足のため業務量が多く仕事の負担が重くなっていること,仕事の負担が生活を犠牲にしてしまう状況から《適正な人員配置がされていない》が抽出された.このサブカテゴリは全員が経験年数10年以上であった.近年,保健師の配属先に変化がみられる中《配属によって家庭生活への影響がある》と述べられていた.個人では時間外勤務を嫌だと思っても《時間外勤務を容認する組織の風潮がある》との実情から,組織全体でWLBについて考えることが強く望まれていた.短時間勤務になることでWLBを良好に保つことができると認識しており,その実現を希望している記述から《短時間勤務が実現しにくい》が抽出された.《配属によって家庭生活への影響がある》《時間外勤務を容認する組織の風潮がある》《短時間勤務が実現しにくい》は,全員が経験年数10年以上で子ども有であった.働く地域の保健師不足や,ケースを1人で担当する保健師の仕事上の特性から《休暇が取りづらい》状況がみられた.このサブカテゴリは全員が経験年数5–14年,子ども有であった.

《働き続けるための条件がそろわない》《子育てと仕事の綱渡りである》という2つのサブカテゴリから【子育てを支える資源の不足】が抽出された.このカテゴリでは,記載した情報提供者は全員が経験年数10年以上で子ども有であった.子育てをしながら働き続けるためには,協力が得られる人や環境の条件が必要であることから《働き続けるための条件がそろわない》,頼れる人がいない,子どもの体調不良時にあずける場が無いといった,常に危機感を持っている様子が「綱渡り」という表現で語られていたことから《子育てと仕事の綱渡りである》というサブカテゴリが導かれた.

《仕事以外の時間を増やしたい》《自己啓発の時間を取りたい》という2つのサブカテゴリから【時間の有効活用に関する葛藤】が抽出された.仕事中心の現状から,子どもと過ごす時間,自分の時間として休暇を活用したいという《仕事以外の時間を増やしたい》,仕事に活かすために《自己啓発の時間を取りたい》との希望と現実との相違による葛藤が明らかにされた.《仕事以外の時間を増やしたい》は経験年数5–14年,《自己啓発の時間を取りたい》は経験年数5–9年で子ども無の情報提供者の回答から得られた.

IV. 考察

WLBへの自己評価が高い中堅期保健師の認識,WLBへの自己評価が高い中堅期保健師の行動から「WLBが良好に保たれている中堅期保健師のWLBに関する認識と行動」,WLBへの自己評価が高い中堅期保健師が認識しているWLB上の課題から「中堅期保健師が認識しているWLB上の課題」をカテゴリに沿って考察する.

1. WLBが良好に保たれている中堅期保健師のWLBに関する認識と行動

WLBの実現については,やりがいや充実感を感じながら働き仕事上の責任を果たすとともに,家庭や地域生活等においても人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる(WLB憲章,2007),自らの望む生き方とライフスタイルを自覚し,周囲との調和をはかりつつ自らのライフスタイルと両立し得るワークスタイルを人生全般にわたって築くこと(電機連合総合研究企画室,2007)等が示されている.WLBは一人ひとり思い描く姿が有り,それを各々が実現していくためには,ライフステージ,望ましいライフスタイルとワークスタイル,置かれた立場等によって選択し組み立てていく必要がある.【自分のWLBを組み立てる】認識では,自分の希望するWLBがあり,そのバランスの軸の置き方を考える,日ごろからWLBについて振り返る機会を持っていた.つまり自らのWLB実現に向けて選択・調整していることが,WLBへの良い評価に結び付いていると考えられる.このカテゴリでは,保健師経験年数5–14年の情報提供者からは《自分のWLBを振り返る機会を持つ》,15–19年の情報提供者からは《バランスの軸の置き方を考える》が抽出された.保健師経験年数が長くなることは,実践に必要な能力が発達する(佐伯ら,2004)とともに,社会的承認志向およびリーダー的管理志向といった仕事の価値が変化する(大倉ら,2008)ことが報告されている.そのため経験年数を重ねることによって,自分の能力,期待される役割,仕事の価値を踏まえた目標を定めてWLBを考えられているのではないかと考えた.また,記述した情報提供者の全てが子ども有であることから,子どもの成長にともなう生活の変化も【自分のWLBを組み立てる】ことに影響していると推察した.

【仕事と生活のメリハリをつける】認識,【仕事の時間を管理する】行動は,先行研究(表山ら,2015)でも「メリハリをつけて働き,業務が終われば周囲に気兼ねなく帰ることができる」と回答した中堅期保健師はWLBへの自己評価が有意に高かった.この結果より,WLBへの自己評価が高い中堅期保健師は自主的に「メリハリをつける」認識と,仕事の時間を管理し「定時に帰宅」する行動でWLBを良好に保っていると考えられた.

【「今」のライフステージにおけるWLBを受け入れる】認識のコードの中には,〈仕事も家庭も100%にならないと割り切っている.〉等,現在は仕事にも家庭にも不足していることがあると推測される記述がみられた.電機連合総合研究企画室(2007)はWLBについて,職業人生を終えるまでの全ライフステージにおいて,どういった期間の中でバランスを取るのか考える必要があると示している.このカテゴリでは,長期間のライフステージにあわせた自分のWLBを確立しており,先への見通しを持っているため,現状は満足できないことがあっても「割り切る」「受け入れる」「優先したいものに時間を費やす」「がんばりすぎない」ことで肯定的に受け入れていた.このことからWLBを良好に保つためには,ライフステージにあわせた長期的な視点を持ってWLBを考え行動すること,現状を肯定的に受け入れることが重要であると示唆された.

【まわりの協力でWLBが成り立つ】認識,【WLBについて家族や同僚と話し合う】行動からは,良好なWLBには協力者の支えが必要であることを認識しており,そのために自らが協力を得られる環境を作ろうと行動していることが明らかになった.井口(2014)は,行政保健師の離職意図に関連する「仕事の資源」として,同僚・先輩・上司の支援,家族・友人の支援,仕事と個人のポジティブな相互作用を報告している.家族や同僚等の協力は仕事や職場に対するポジティブなモチベーションにつながるとともに,働き方を整えて希望するライフスタイルを実現し,そのためWLBを保つと考えられた.WLBへの自己評価が高い中堅期保健師の行動については,子ども有の情報提供者からは【WLBについて家族や同僚と話し合う】,子ども無の情報提供者からは【状況に合わせて自分で柔軟に調整する】が導かれた.子ども無の中堅期保健師は自分で情報を活用,環境や時間を調整するといった「自分」の行動を重視していると考えられた.

【充実感を糧にする】認識は,先行研究(表山ら,2015)で「家庭内での役割に満足」と回答した中堅期保健師はWLBへの自己評価が高いと報告したが,本研究においては《仕事から充実を得る》こともWLBに関する認識として示された.大倉ら(2006)は行政分野で働く保健師のキャリア志向として「安定を基盤とした仕事と私生活の活性化」が重要と報告した.保健師の仕事は住民の多様な生活に関わり,仕事の学びを生活へ活かす,生活の経験を仕事へ還元するといった相互の充実感を得ていると考えられる.希望するライフスタイルを実現する働き方,仕事から充実感を得ること,それを生活に活かしていくことが,中堅期保健師の良好なWLBには重要であると示唆された.

2. 中堅期保健師が認識しているWLB上の課題

本研究では,WLBへの自己評価が高い中堅期保健師はWLBに関して【自分のWLBを組み立てる】【仕事と生活のメリハリをつける】【「今」のライフステージにおけるWLBを受け入れる】と認識していることが明らかになったが,一方で【組織全体のWLBへの取り組み強化】をWLB上の課題として認識していた.これは,個人としての選択・調整や,現状を肯定的に受け入れることでWLBを良好に保っているが,生活時間が確保されない,柔軟な働き方が選択できない職場の状況があり,組織的なWLBへの取り組みの必要性を課題としていることを表している.WLB憲章(2007)の策定以降,WLBに関する取り組みは広がりをみせているが(日本看護協会,2007),組織的にWLBの理念が浸透し,取り組むことが必要である.また《配属によって家庭生活への影響がある》状況については,近年多様化・複雑化する健康ニーズや行政ニーズにより保健師の仕事内容や配属に変化がみられること(曽根,2011)が生活に影響する要因と推測される.保健師の保健活動を組織横断的に総合調整及び推進し,技術的及び専門的側面から指導する統括保健師の配置が進められている(厚生労働省健康局長,2013).統括的役割にある保健師は行政領域で働く保健師の6.1%であり,果たしている役割は「保健師全体の業務分担や業務量の調整・管理」53.4%,「保健師の人材育成を目的とした人事異動(配置換え)への提案」42.7%であった(日本看護協会,2015).市町村統括保健師の役割としても「職能代表としての調整の遂行」「部下の保健師の能力開発」が挙げられている(鳩野ら,2013).WLB支援の担い手としては管理職の働きが重要(佐藤ら,2010)とされているが,統括保健師によって所属分野を超えたマネジメント機能が発揮され,ライフサイクルを意識した人事配置がなされることが,保健師がWLBを保ちながら働く上で期待されると考えた.

【子育てを支える資源の不足】は,子育てをしながら《働き続けるための条件がそろわない》状況,「綱渡り」という言葉で表現した常に不安を抱えた状況を表す記述から導かれた.北海道では仕事と子育てを両立する上での課題として,多様な保育サービスが全国に比べて普及していない状況(北海道保健福祉部子ども未来推進局,2010)がある.WLBへの自己評価が高い中堅期保健師は【まわりの協力でWLBが成り立つ】と認識し,子育て中の中堅期保健師がWLBを良好に保つには家族や同僚の協力が得られるように調整する認識と行動が重要と示唆されたが,さらに安心して働き続けるためには個人の取り組みとともに保育サービスをはじめとした子育てを支える資源の充足が強く求められていた.

本研究では【時間の有効活用に関する葛藤】が課題として述べられ,同時にWLBに関する「時間」の管理について様々な認識と行動が抽出された.武石ら(2011)は,WLBを実現するためには仕事管理・時間管理や働き方を改革する必要があり,すべての社員が時間意識を高め自分のライフスタイルを見直すことが不可欠と述べている.つまりこれは,生活時間を確保する組織としての取組みとともに,自分自身のWLBを保つための認識や行動による調整が必要であることを表している.日本公衆衛生協会(2012)は,中堅期保健師が強化すべき課題に「次期リーダーとしての組織管理・運営」「育児休暇取得者のサポート」等の5項目を示しており,中堅期保健師は自分のWLBの他に職場内でのWLBを率先して推進していく役割も求められている.そのため,WLBに関する認識や行動について自ら検討していくことは,保健師としての技術や能力の成長とともに,中堅期保健師の人材育成における重要な課題と言えるのではないかと考えた.

本研究の限界については,第一にWLBへの自己評価が高い中堅期保健師が「WLBについて感じていること」を自由に記載した中からWLBに関する認識と行動を分析した報告であること,第二にWLBへの自己評価が高い中堅期保健師の中でも記載した人のデータであり,よりWLBを意識していた集団からのデータに偏っている可能性があることが挙げられる.また,本研究は125市町村の中堅期保健師に郵送調査を実施した結果であるが,北海道の市町村に限られることから一般化することには限界がある.その限界を踏まえた上で,中堅期保健師のWLBに関する認識と行動から「長期的に自分のWLBを組み立てる」「協力が得られる環境を自ら作り出す」といったWLBを調整する具体的内容を明らかにしたことは今回の質的な研究の成果である.

謝辞

本研究を実施するにあたり,ご多忙の中快く調査に協力していただきました北海道の市町村中堅期保健師の皆様に心より御礼を申し上げます.

文献
 
© 2017 Japan Academy of Public Health Nursing
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