2017 Volume 6 Issue 2 Pages 132-140
目的:地域保健活動の推進に活用できるソーシャル・キャピタル測定尺度を開発し,信頼性・妥当性を検討する.
方法:5市町の保健師13名と地域住民13名を対象にインタビュー調査を行い,42の質問項目を作成した.予備調査は199名の保健師係長相当職を対象に郵送法質問紙調査を行った.本調査は4市町の地域住民1,000名を対象に郵送法質問紙調査を実施した.
結果:項目分析で12項目を削除し,探索的および確認的因子分析により,5因子20項目の最適解を得た.因子は「地域の人々の信頼と支え合い」,「目的縁による仲間づくり」,「まちの専門職への親和性」,「地縁による関わり」,「近隣とのおつきあい」と命名した.Cronbachのα係数は全体で0.92,関連概念を測定する他の尺度との相関係数は0.4~0.6であった.
結論:本尺度は,地域保健活動のソーシャル・キャピタルの測定尺度として一定の信頼性と妥当性を有していることが確認された.
2012年7月地域保健対策の推進に関する基本的な指針が一部改正され(厚生労働省,2011),支え合う社会の回復を目指し,ソーシャル・キャピタル(Social Capital,以下SCとする)を活用した自助および共助の支援が推し進められることになった.現代のコミュニティが抱える問題は,高齢者や障害者など社会的弱者への身近で継続的なサポートの欠如,あるいは孤独死や児童虐待等を予防するためのコミュニティの見守り機能の弱体化として顕在化されている.しかし,行政がこれらの問題すべてに対応するには限界があり,今改めてコミュニティの再興が求められている.そのような中,コミュニティの持つ力として,公衆衛生の分野で注目を集めているのがSCである.
米国の政治学者Putnam(1993)は,SCを「調整された諸活動を活発にすることによって社会の効率性を改善できる,信頼,規範,ネットワークといった社会組織の特徴」と定義している.SCの概念が公衆衛生学分野に取り入れられた背景には,社会と健康の関連を探求する学問の発展が大きく関与していると考えられている(木村,2008).社会と健康の関係をみる研究は,1990年代には社会疫学として確立され,PutnamのSCの概念を取り入れたKawachi et al.の研究以降(Kawachi et al., 1997/1999),SCと育児行動や家庭内暴力との関連(Zolotor et al., 2006)や教育レベルによるSCの格差や精神的満足の関連(Moore et al., 2009)など多方面の研究が取り組まれている.Kawachi et al.(2008)は,SCの概念を持ち込むことで日本人の長寿を説明しうる理論の構築が可能になることが期待されると述べている.
日本においてもSCの関心が高まっており,SCと主観的健康や精神的健康の関連など多くの研究が報告されている(河原田ら,2013;太田,2014).湯浅ら(2006)は,SCが蓄積されている地域では人々の協調行動が生じやすいことがわかってきているので,SC概念をヘルスプロモーション活動の成果を高めるために生かすことができると述べている.平野(2013)も地域全体を対象にする公衆衛生看護においては,「地域の力」「地域の結束力」で表現される,コミュニティに属する個人の行動を促進するSCに着目する意義があると述べている.田上(2011)が述べているように,保健師活動の視点からSCとしての地域の人的資源の活用等,新たな形で「関係性を再構築する地区活動」の展開が必要である.
埴淵ら(2008)は,「保健師の地域活動の意義や重要性が理解しにくい背景には,コミュニティの潜在能力や保健師による働きかけの効果を,明確に言語化する概念や定量的に評価しうる指標が,これまで十分に示されてこなかったことがある」と保健師活動の評価指標の必要性を述べている.SCの測定尺度は,Kawachi et al.の研究で用いられた尺度が代表的なものであるが(河原田,2015),Kawachi et al.(2008)は日本ではSCの測定については明確な合意がなされていないという問題を指摘している.その後,わが国の重要な健康課題である自殺予防と地域のSCの豊かさの関連が着目され,自殺予防におけるSCを醸成する保健師活動を測定する尺度の開発が試みられている(松浦ら,2014).しかし,松浦ら(2014)の開発した尺度は,自殺予防におけるSCを醸成する保健師活動の構成要素や活動内容を明らかにする意義があるが,活動の成果としての地域のSCの豊かさを測定する尺度ではない.地区組織活動などSCの醸成に関わる保健師活動を中心とした地域保健活動の成果としてのSCの測定尺度は開発されていない.
そこで,本研究は地域保健活動の推進に活用できるSCの測定尺度(以下,SC尺度)を開発し,その信頼性と妥当性を検討することを目的とした.尺度を開発することで,地域の人々の健康と関連する地域のネットワークや人々の関係性などSCの豊かさや特徴を測定することができ,地域特性を踏まえた地域保健活動の推進に資することができる.
SC尺度の作成にあたり,1)質問項目の作成,2)内容妥当性の検討のための予備調査と項目の修正,3)本調査による信頼性と妥当性の検討の手順を踏んだ.
1. 用語の操作的定義Baum et al.(2003)は,SCを認知的SCと構造的SCに分類している.本研究では,Putnam(1993)の定義を参考に,SCを,「地域住民の生活の質を改善することのできる,信頼や助け合い(認知的側面),ネットワーク(構造的側面)という地域の人々のつながりの特徴」と定義し,地域保健活動に活用するSC尺度の測定概念とした.
2. 質問項目の作成市町村で働く保健師と地域住民を対象に,個別インタビューを実施し,地域のSCの内容を抽出し,SC尺度の質問項目を作成した.対象地域は北海道・中部・九州地方の1道3県5市町である.著者らがこれまでの研究活動を通して出会った保健師を通して,機縁法により研究の了解が得られた市町に依頼した.地域のSCの実態を把握するには相応の勤務期間が必要と考え,保健師は勤務年数5年以上に設定し,13名の協力を得た.地域住民は,健康づくり活動や地域住民との関わりがある民生委員や町内会役員等を各市町の保健師係長を通して募集し,13名の協力を得た.保健師は全員女性,平均年齢42.3(±10.3)歳,保健師経験年数は18.8(±8.8)年,配属部署は保健部門が10名,福祉部門が3名であった.地域住民の性別は男性2名,女性11名,平均年齢64.2(±10.0)歳,平均居住年数42.6(±17.3)年であった.
調査時期は2013年9月~12月で,各市町の保健センターに出向いて半構成的インタビューを実施した.「地域の人々の人間関係の特徴」や「地域で行われている活動」について尋ね,許可を得て録音し,逐語録を作成した.逐語録からSCについて語られている部分を抽出してコード化し,内容の類似性によりまとめサブカテゴリーを抽出し,さらにカテゴリーを抽出した.
[安心を得られる身近な人とのつながり][弱者をいたわる人々のまなざし][地域の人に対する信頼][住民同士の助け合い][日常的な近所づきあい][人の輪を広げる地域活動][住民の力を生かせる機会や場][住民に身近な保健専門職][頼りになる行政][住民や関係者とのネットワーク][薄れゆく近隣への関心や信頼][地域への愛着]の12のカテゴリーと46のサブカテゴリーを抽出し,42の質問項目を作成した.Kawachi et al.(2008)は,SCとそのアウトカムである健康の中間的な変数として,帰属意識や地域の楽しさ,近隣の魅力や安全等をあげており,厳密にはSCと区別する必要があると述べている.そのため,[地域への愛着]に含まれる内容については,今回のSC尺度の質問項目には入れなかった.
3. 予備調査予備調査は,SC仮尺度の項目の内容妥当性を問うために行った.北海道地方の179市町村保健センターに勤務する保健師係長相当職199名を対象に,2015年1月に郵送法による無記名自記式質問紙調査を実施し,回収数は86(回収率43.2%)であった.SCの項目は概ね記載されており,性別・保健師経験年数の基本属性に欠損がなかったことから86名を有効回答とした(有効回答率43.2%).回答者の平均年齢44.9(±7.1)歳,女性84名(97.7%),保健師経験年数は21.4(±7.0)年,市が27名(31.4%),町村が59名(68.6%)であった.SC仮尺度42項目について「適切」「不適切」の2件法で回答を得て,「適切」と回答した同意率を算出し,内容妥当性を検討した.また,「不適切」と回答した理由と追加した方が良いと思う質問項目について尋ねた.
42項目中,41項目が80%以上の同意率で,そのうち35項目が90%以上の同意率であった.フォーマルコンセンサス形成法のひとつであるデルファイ法では,コンセンサスを示す同意率は70%(Sumsion, 1998)や80%(山口ら,2008)が用いられている.本研究では,これらの同意率を参考に同意率を80%以上とし,同意率が71.8%であった1項目を除外した.「不適切」と回答した理由を参考に項目の表現を修正し,新たに1項目「健康づくりの会への参加」を追加し,42項目のSC尺度を作成した.
4. 本調査 1) 対象者北海道内の人口規模の異なる4市町に居住する60歳以上90歳未満の住民1,000名を対象にした.対象地域は,調査協力が得られた道南・道央・道東の2市2町であった.対象地域の選定は人口規模と地理的位置が異なる自治体とし,選定した自治体の担当部署に直接電話で連絡をとり,文書を用いて調査の承諾を得た.年齢の設定理由は,60歳代以降は定年を迎えて地域とのつながりが広がる年代であること,90歳以上は地域活動への参加が縮小される可能性が高い年代であると考え,60歳以上90歳未満を対象とした.
対象数の算定は,項目分析のための予備テストの要件として「標本数は400くらいあると十分」(堤,2009c)を目安に,回収率を見込んで必要なサンプルサイズを推定した.各市町の住民基本台帳から,該当する年齢の住民250名ずつ合計1,000名を無作為抽出した.
2) 調査方法2015年6月に,郵送法による無記名自記式質問紙調査を実施した.宛先不明で6件の返送があり,351名の回答があった(回収率35.1%).年齢・性別の基本属性に欠損のある回答を除外し,344名分析対象とした(有効回答率34.4%).
3) 調査項目基本属性は,年齢,性別,居住年数等を尋ねた.SC尺度42項目は,「自分の住むまちについてあなたの考えに最も近い番号に〇をつけて下さい(認知的SCの項目)」あるいは「あなたとまちの人との交流について最も近い番号に〇をつけて下さい(構造的SCの項目)」の質問に対して,「とてもそう思う」「まあそう思う」「どちらともいえない」「あまりそう思わない」「そう思わない」の5件法である.点数が高い程SCが豊かであると評価する.
基準関連妥当性の検討のために,内閣府(2002)や埴淵ら(2008)の調査項目を参考に信頼,互酬性,ネットワークの項目を設定した.信頼は「まちの人々は一般的に信頼できると思いますか」,互酬性は「まちの人々は多くの場合人の役に立とうとすると思いますか」の設問に5件法で回答を得た.ネットワークについては,「あなたは現在,まちのグループや組織に所属していますか」の設問に「はい」「いいえ」の2件法で尋ね,「はい」の回答の場合はその数を尋ねた.
尺度の反応性(堤,2009b)を検討するために3項目設定した.主観的健康感は,現在の健康状態について「よい」から「よくない」の5件法で尋ねた(豊川ら,2006).経済状態は,国民生活基礎調査【所得票】(2013)の調査項目を用いて,現在の暮らしぶりを総合的にみてどう感じるかを「大変ゆとりがある」から「大変苦しい」の5件法で尋ねた.地域への愛着は,「自分のまちへの愛着がありますか」の問いに「とてもそう思う」から「そう思わない」の5件法で尋ねた.
4) 分析方法(1)項目分析:SC尺度の質問項目ごとに欠損値の頻度,平均と標準偏差の算出による天井効果と床効果の分析,I-T相関分析(Item-Total Correlation Analysis),G-P分析(Good-Poor Analysis)を行った.
(2)因子分析:探索的因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行い,構成概念妥当性を検討するとともに,確認的因子分析を行い,モデルの適合度を確認した.
(3)信頼性の検証:内的整合性の確認のため,尺度全体と各因子のCronbachのα係数を算出した.
(4)妥当性の検討:信頼(5件法),互酬性(5件法),地域活動への参加数を外的基準として,SC尺度とのスピアマンの順位相関係数を求めて,基準関連妥当性(併存的妥当性)を検討した.SCは,健康(儘田,2010)や経済状態(Ichida et al., 2009;Moore et al., 2009)との関連が報告されている.また,地域への帰属意識はSCと健康の中間的な変数と考えられている(Kawachi et al., 2008)ことから,主観的健康感,経済状態,地域への愛着の3項目との相関分析を行い,尺度の反応性を検討した.
解析にはSPSS22.0J for Windows, AMOS23.0Jを使用し,有意水準は5%とした.
5) 倫理的配慮本研究は,札幌市立大学倫理委員会の承認を得て実施した(2013年7月29日No. 1312-1,2014年11月26日No. 1431-1).インタビュー調査では,施設長および対象者に対し,研究の趣旨,方法,個人情報の保護,自由意思による決定の保障などを文書と口頭で説明し,対象者には同意書により同意を得た.質問紙調査については,調査票の回答をもって研究の同意を得たものとした.なお,住民基本台帳の閲覧に際しては,各市町が定める閲覧に関する正式な手続きを経た.
対象者の属性は表1に示すとおりである.性別は,男女それぞれ約半数を占め,平均年齢は68.9(±5.7)歳であった.
項目 | n | % | |
---|---|---|---|
性別 | 男 | 170 | 49.4 |
女 | 174 | 50.6 | |
年齢 | 60~64歳 | 91 | 26.5 |
65~69歳 | 94 | 27.3 | |
70~74歳 | 78 | 22.7 | |
75~79歳 | 78 | 22.7 | |
80~84歳 | 3 | 0.9 | |
家族構成 | 夫婦二人 | 185 | 54.3 |
一人暮らし | 51 | 15.0 | |
子どもと同居 | 71 | 20.8 | |
その他 | 34 | 10.0 | |
居住年数 | 20年未満 | 100 | 29.8 |
20年~40年未満 | 134 | 39.9 | |
40年以上 | 102 | 30.4 | |
最終学歴 | 中学卒 | 104 | 30.2 |
高校卒 | 144 | 41.9 | |
専門学校・短大卒 | 63 | 18.3 | |
大学卒 | 29 | 8.4 | |
その他 | 4 | 1.2 | |
活動能力 | 交通機関を利用して1人で外出できる | 312 | 92.0 |
近所なら1人で外出できる | 21 | 6.2 | |
1人で外出できない | 6 | 1.8 | |
主観的健康感 | よい | 41 | 12.0 |
まあよい | 82 | 24.0 | |
ふつう | 154 | 45.0 | |
あまりよくない | 58 | 17.0 | |
よくない | 7 | 2.0 | |
経済状態 | 大変ゆとりがある | 3 | 0.9 |
ややゆとりがある | 62 | 18.2 | |
ふつう | 220 | 64.5 | |
やや苦しい | 45 | 13.2 | |
大変苦しい | 11 | 3.2 |
※各項目の欠損値は除いている
各項目の平均値±標準偏差が5以上(天井効果)となる4項目および1以下(床効果)の4項目を削除した.さらに,I-T相関分析で相関係数0.4未満の3項目(うち,2項目はG-P分析で有意差なし),欠損値頻度2.9%と高い1項目の4項目を削除し,合計12項目を削除した.
2) 探索的因子分析12項目削除後の30項目を主成分分析し,第1成分の因子負荷量が0.4未満であった3項目を除外した.次に,27項目について,主因子法で因子分析を行い,固定値およびスクリープロットを確認し,因子数を変えながら主因子法,プロマックス回転で分析を行った.項目の選定に際しては,因子負荷量が0.4以上であることを条件とし,2つの因子において因子負荷量が高い項目は削除した.探索的因子分析結果と検証的因子分析結果を確認しながら,最終的に20項目5因子(累積寄与率62.4%)とした.1因子のみ2項目であったが,因子数を変更して解析しても結果が変わらなかった.逆転項目の2項目については,分析の過程で削除された.
第I因子は【地域の人々の信頼と支え合い】,第II因子【目的縁による仲間づくり】,第III因子【まちの専門職への親和性】,第IV因子【地縁による関わり】,第V因子【近隣とのおつきあい】と命名した(表2).
項目 | 因子負荷量 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
第I因子 | 第II因子 | 第III因子 | 第IV因子 | 第V因子 | |||
第I因子 地域の人々の信頼と支え合い | |||||||
1 | ご近所の人々はお互いに助け合っていると思いますか | .834 | –.050 | –.090 | –.003 | .023 | |
2 | まちの人々は人とのかかわりを大事にしていますか | .780 | .072 | –.041 | –.010 | –.073 | |
3 | まちの人々は信頼し合っていると思いますか | .766 | .074 | .041 | –.047 | –.050 | |
4 | ご近所の人は体の弱い高齢者の様子を気にかけていますか | .723 | .053 | –.089 | –.039 | .057 | |
5 | ご近所の人々は子どもの安全を見守っていますか | .677 | –.036 | .181 | –.050 | –.003 | |
6 | ご近所の人々は孤立しがちな人を気にかけていますか | .665 | –.078 | .091 | .030 | .028 | |
7 | ご近所の人々は信頼し合っていると思いますか | .539 | –.086 | –.040 | .073 | .292 | |
第II因子 目的縁による仲間づくり | |||||||
8 | 趣味の会に参加していますか | –.041 | .812 | –.020 | –.056 | .032 | |
9 | まちの仲間と交流する場に参加していますか | –.038 | .772 | .145 | –.082 | –.093 | |
10 | 健康づくりの会に参加していますか | –.044 | .741 | –.050 | –.011 | .102 | |
11 | ボランティア活動に参加していますか | .084 | .669 | –.069 | .044 | .020 | |
12 | 世代をこえて会話ができるまちの活動に参加しますか | .078 | .665 | –.013 | .262 | –.088 | |
第III因子 まちの専門職への親和性 | |||||||
13 | まちの保健師や栄養士を頼りにしていますか | –.092 | .009 | .948 | –.053 | .075 | |
14 | まちの保健センター(役所)を気軽に利用できますか | .132 | –.112 | .779 | .129 | –.128 | |
15 | まちの保健師に気軽に相談できますか | –.018 | .147 | .668 | –.029 | .109 | |
第IV因子 地縁による関わり | |||||||
16 | 町内会活動に積極的に参加していますか | –.008 | .018 | .070 | .918 | –.046 | |
17 | お祭りや運動会など地域行事に参加していますか | –.026 | .020 | –.035 | .858 | .098 | |
第V因子 近隣とのおつきあい | |||||||
18 | いざという時には近所の人と連絡がとれますか | .272 | –.062 | .015 | .045 | .656 | |
19 | ご近所の人に気軽に頼みごとができますか | .300 | .144 | .055 | –.092 | .510 | |
20 | ご近所の人との付き合いはありますか | .252 | .018 | –.003 | .105 | .468 | |
累積分散(%) | 37.9 | 44.4 | 55.2 | 60.3 | 62.4 | ||
尺度Clonbach’s α=.916 | 0.891 | 0.862 | 0.852 | 0.903 | 0.837 |
探索的因子分析で得られた20項目5因子に基づく仮説モデルに,データが合致するかを検討するために共分散構造分析を行った.モデルの適合度指標であるGFIは0.885,AGFI(修正適合度指標)は0.849,CFI(比較適合度指標)は0.935,RMSEAは0.068が得られた.潜在変数である5つの因子からそれぞれの観測変数への標準化係数は0.71~0.91であった(図1).
SC尺度確認的因子分析の結果
SC尺度全体のCronbachのα係数は0.92,第1因子から第5因子の各因子の信頼性係数は0.84~0.90であった(表2).
5) 基準関連妥当性と尺度の反応性SC尺度20項目と外的基準の相関係数は,信頼0.470,互酬性0.391,地域活動参加数0.593と中程度の相関を認めた(表3).
下位尺度と合計得点 | Speamanの相関係数 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
信頼 | 互酬性 | 地域活動参加数 | 主観的健康感 | 暮らしのゆとり | 地域への愛着 | |
第I因子「地域の人々の信頼と支え合い | 0.515 | 0.455 | 0.284 | 0.202 | 0.211 | 0.384 |
第II因子「目的縁による仲間づくり」 | 0.254 | 0.247 | 0.658 | 0.146 | 0.193 | 0.274 |
第III因子「まちの専門職への親和性」 | 0.292 | 0.254 | 0.267 | –0.074 | 0.119 | 0.264 |
第IV因子「地縁による関わり」 | 0.292 | 0.163 | 0.490 | 0.213 | 0.139 | 0.184 |
第V因子「近隣とのおつきあい」 | 0.411 | 0.303 | 0.369 | 0.148 | 0.202 | 0.305 |
SC尺度合計得点(20項目) | 0.470 | 0.391 | 0.593 | 0.167 | 0.242 | 0.372 |
注:第III因子「まちの専門職への親和性」と主観的健康の相関係数以外の相関係数はすべて有意差があった(有意水準5%)
SC尺度20項目と主観的健康感の相関係数は0.167とほとんど相関がみられなかった.下位尺度と主観的健康感の相関係数は,【地域の人々の信頼と支え合い】0.202,【地縁による関わり】0.213で有意な低い相関を認めた.【まちの専門職への親和性】は–0.074と負の関連を示したため,【まちの専門職への親和性】の3項目を除いたSC17項目の合計点との相関係数を求めたところ,0.212と有意な低い相関を認めた.
SC尺度20項目と「暮らしのゆとり」(r=0.24)および「地域への愛着」(r=0.37)は有意な低い相関を認めた(表3).
尺度の信頼性は種々の信頼性係数の推定法がある(堤,2009a)が,多くの場合Cronbachのαが指標として用いられる(小塩ら,2007).本研究においてもSC尺度の信頼性はα係数により検討した.α係数は0.8以上あることが望ましいとされ(堤,2009a),本尺度のα係数は0.916と基準を満たしており,内的整合性を有するものと考えられる.また,5つの下位尺度のα係数もすべて0.8以上を示しており,下位尺度の信頼性も確保できたと考える.
尺度の妥当性は,内容妥当性,基準関連妥当性,構成概念妥当性および尺度の反応性について検討した.内容妥当性は,尺度に用いられている項目の内容が測定したい領域の枠組みの中に入っているかを評価するものである(堤,2009b).SC尺度の内容妥当性は,保健師と地域住民を対象に実施したインタビューをもとに抽出したSC仮尺度42項目について,市町村保健活動の専門家である保健師係長相当職を対象にした予備調査で確認した.SC仮尺度42項目のうち41項目において80%以上の高い同意率が得られ,質問項目の内容の適切性を確認できたと考える.
SC尺度の構成概念妥当性は,測定値が測定しようとしている現象の理論的な概念を反映していることで,本研究では因子分析の手法を用いて検討した.探索的因子分析で抽出された5因子は,SCの構成概念を反映していると考える.【地域の人々の信頼と支え合い】と【近隣とのおつきあい】は,地域の人々の信頼や助け合いを含む項目で構成されており,認知的SCを表している.【まちの専門職への親和性】は,保健師など地域保健の専門職との信頼関係を含む項目で構成されており認知的SCをあらわしている.【目的縁による仲間づくり】と【地縁による関わり】は地域の人々のつながりやネットワークであり構造的SCを表している.SC尺度は,SCの認知的側面と構造的側面の2つの理論的概念を反映していると考える.なお,【まちの専門職への親和性】は先行研究には見当たらない項目であった.この因子が見出された理由として,対象者の主な年齢が60歳から70歳代の住民で,保健師等とのつながりが広がる年代であったことが影響していると考えられる.
確認的因子分析では,モデルの適合度指標であるGFIは0.9以上,AGFIとCFIは1に近い程当てはまりが良いと判断される(豊田,2007).本結果は,GFI 0.9,AGFI 0.8,CFI 0.9でありモデルの適合度が確認できた.RMSEAは0.05以下であれば当てはまりが良く0.1以上は当てはまりが良くないと判断されるが(豊田,2007),本結果は0.07と許容できる範囲であった.以上より,仮説モデルは概ね説明力があると判断され,本尺度は5つの下位尺度によって測定が可能である.
SC尺度の基準関連妥当性は,既存のSCを測定する項目との関連で確認した.信頼と地域活動の参加数はSC尺度得点と中程度の相関,互酬性もほぼ中等度の相関を示し,基準関連妥当性は概ね確認できたと考える.下位尺度では,【地域の人々の信頼と支え合い】は信頼および互酬性と中等度の相関があり,認知的SCの内容をよく反映している.【近隣とのおつきあい】は信頼と中等度の相関があり,認知的SCの側面を反映していた.【目的縁による仲間づくり】と【地縁による関わり】は地域活動の参加数と中等度の相関があり,構造的SCの内容をよく反映していると考える.
尺度の反応性は,治療による臨床症状の改善等捉えたい変化を尺度が捉えているかという尺度の妥当性の検証の一つである(堤,2009b).公衆衛生分野ではSCと健康の関連が報告されているため,主観的健康感との関連から尺度の反応性を確認した.【地域の人々の信頼と支え合い】と【地縁による関わり】の下位尺度は弱い相関がみられた.しかし,他の3下位尺度とSC尺度得点はほとんど相関がみられなかった.保健師との関わりが深い地域住民には健康状態が悪い人が含まれる可能性が高いため,【まちの専門職への親和性】と主観的健康感が負の相関がみられたと推察される.先行研究(Kawachi et al., 2008;儘田,2010)では,SCと健康状態の関連が報告されているが,【まちの専門職への親和性】については健康との関連を測定する場合には適さない項目である可能性が高い.【まちの専門職への親和性】の3項目を除いたSC17項目得点は,主観的健康感と低い相関があり,SC20項目得点より健康に対する反応性が高いと考える.経済との関連ではSC尺度と低い相関がみられ,先行研究(Ichida et al., 2009;Moore et al., 2009)の結果と一致していた.地域への愛着は健康とSCの中間的指標と位置付けられるが,SC尺度全体および4つの下位尺度と低い相関がみられ,SCの豊かさと地域への愛着との関連が確認できた.
2. SC尺度の活用に向けて本SC尺度を地域診断に活用することで,地域の人々のつながりの現状を把握し,地域保健活動の推進や評価に生かすことができる.下位尺度別に評価することで,地域の人々のつながりの特徴が明らかになり,具体的な対策の検討につなげることができる.竹田ら(2009)は,SCを醸成する地域の憩いのサロンの効果を報告しているが,目的縁による仲間づくりの場の醸成や近隣のつながりを強める活動の創設等が考えられる.
活用上の留意事項として,認知的SCと構造的SCを区別して尋ねる必要がある.第I,III,V因子に相当する項目は主に認知的SCの側面を問う項目で,「自分の住むまちについてあなたの考えに最も近い番号に〇をつけて下さい」の質問で尋ねている.第II,IV因子に相当する項目は主に構造的SCを尋ねる項目で,「あなたとまちの人との交流について最も近い番号に〇をつけて下さい」の質問で尋ねている.実際に尺度として使用する場合には,第I,III,V因子は一つの質問群として設定し,第II,IV因子は別の質問群として設定するのが良いと考える.また,本尺度で用いている「まち」の単位について,本調査では『「まち」はあなたの住む市町村をさす』と説明して回答を得ている.しかし,「まち」の単位は市町村単位だけでなく,町内会単位や学校区単位など調査目的に応じて設定することも可能である.さらに,【まちの専門職への親和性】の因子は主観的健康感との関連がみられなかったことから,SCと健康との関連の分析には本因子の使用は適切ではないと考える.
3. 研究の限界と今後の課題地域特性の異なる5自治体の地域住民と保健師のインタビュー調査を通して測定尺度の質問項目を作成したことから,我が国の地域の特徴が含まれた質問内容で構成されている.しかし,健康との関連については下位尺度間で相違が生じているため,尺度の反応性については今後の検討課題である.本尺度は一定の信頼性と妥当性を有していることが確認できたが,本調査は中高年の住民を対象にしたことから,対象年齢を広げて本尺度の信頼性と妥当性を検証していく必要がある.
本尺度の使用にあたっては著者の許諾を得る必要はない.尺度の特徴や限界を踏まえて,幅広く活用して頂くことを期待する.
SC測定尺度は,【地域の人々の信頼と支え合い】【目的縁による仲間づくり】【まちの専門職への親和性】【地縁による関わり】【近隣とのおつきあい】の5下位尺度,20項目で構成された.保健師係長相当職による内容妥当性の確認後,下位尺度の内的一貫性による信頼性,外的基準の3変数との相関による基準関連妥当性,探索的および確認的因子分析による構成概念妥当性の確認など,一定の信頼性と妥当性が検証された.本尺度を用いて,地域診断や地域保健活動の評価に活用できると考える.
調査にご協力いただいた保健師および地域住民の皆様へ心より感謝申し上げます.
本研究は科学研究費補助金基盤研究(C)の助成を受けて行いました.