日本公衆衛生看護学会誌
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活動報告
大学教員が推進役となったコミュニティ・ミーティングによる子育て支援のためのソーシャル・キャピタル醸成に関する報告
金子 仁子佐藤 美樹標 美奈子三輪 眞知子
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2017 年 6 巻 2 号 p. 168-177

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Abstract

目的:子育て支援に関するコミュニティ・ミーティング(CMと略す)を用いたアクションリサーチの経過を記述し,ソーシャル・キャピタル(SCと略す)の醸成の点から評価した.本報告では,住民主体の活動推進の技術向上に寄与したい.

方法:A地区(人口3,400人)で,地域の子育ての状況把握,CM準備会を行い,CMを住民・行政職員・大学とで協働実施し,CM後に参加者へのアンケート・インタビューを実施した.

結果:CMでは子育て当事者の発言から交流の場の必要性が共有され,交流の場の開設方法が検討された.CM後に住民主体で子育て広場が開設された.1年後インタビューでは「CMがきっかけで参加者,団体のつながりが深まった」があがった.

考察:CMでは参加者間のニーズ共有化が図られ,終了後参加者・地域内の団体のつながりもでき,CMは橋渡し型SC醸成を推進した.子育て広場が開設され,A地区での子育てシステムが強化された.

I. はじめに

パットナムは,ソーシャル・キャピタルを「人々の協調活動を活発にすることによって社会の効率性を改善できる,信頼,規範,ネットワークといった社会組織の特徴」(パットナム,2001)と南・北イタリアの地域状況の差を分析したことから定義した.同じくパットナムによる「孤独なボウリング」が出版された後に我が国でも内閣府および内閣府経済総合研究所により,このパットナムの考えを基に「ソーシャル・キャピタル」(SCと以後省略)をキー概念とした調査(内閣府国民生活局,2003)が行われ,SCの形成が個人の信頼・ネットワーク・社会活動が向上することになり,生活の安心感(家族,老後,子育て,就職等)につながるとした.したがって,ある地区において,その地区内に住む人々の中にSCが醸成されることによって,同じ規範に基づき人々はネットワークを築き信頼関係が深まることになる.

日本においては,母親の子育て不安が強いことや,子育ての孤立化が問題となっている(原田,2006大豆生田,2006).子育て中の母親の地域内での孤立を避けるためのシステムが必要である.そこで,SCが醸成する中で,近隣の子どもや子育てに関して関心が高まれば地域内での子育て支援のシステムをつくりやすい環境が整うのではと考えた.

また,日本看護協会の先駆的保健活動交流推進事業ではカナダから「コミュニティ・ミーティング」という手法(北山ら,2000)が紹介され,いくつかの地域で実践され報告されている.この「コミュニティ・ミーティング」(CMと以後省略)という手法は,住民ニーズや地域の健康課題を明らかにし,生活実感を大切にしながら地区集会を行う中で行政と住民,地区住民同士のパートナーシップを築き,課題解決を行うための計画案を作成し,施策化していくプロセスである.したがって,このCMという手法をSCという視点からみれば,先に述べた調査(内閣府国民生活局,2003)で述べられているSCを醸成するためのコミュニティ機能再生活動プロセスのPLANの段階のニーズ認識を「多様な主体」の参加によって行う機会となっていると考えられる.しかしながら,CMについてSC醸成との兼ね合いで報告したものは見受けられない.

II. 目的

本報告は,大学教員がある地区へCMという手法で住民・行政と協働したアクションリサーチを展開し,CMを行う際の促進要因やCM開催による成果を,SC醸成の視点から整理したものであり,現場の保健師がSC醸成を目指した地区活動を展開する際に役立つことを意図した.

なお,本報告ではCMを「寄り合い」と称し,SCを身近に感じるように「絆」とした.

III. 方法

本研究はCMという手法を用いて,大学教員,地区住民及び行政職員が協働して行ったアクションリサーチであり,推進役を担った大学教員の立場から,CMの実施までの準備段階のプロセスやCM実施後の地区内の状況観察を記述した.また,SC醸成の効果を明らかにするため,CM参加者を対象にアンケート調査とインタビュー調査を実施した.

この研究の初期の実践者は,行政,A地区自治会連合会長,主任児童委員,大学関係者(教員,学生)であった.

1)介入地区内の地区状況把握について

①地区状況把握のための聞き取り:A地区を担当する地区内子育て関係役員の住民・A地区の隣接地区保育所の保育士,A地区担当保健師にA地区の親子の印象等を語ってもらった.

②地区踏査:地域内の状況について観察する.地区内であるイベント等に参加して様子を観察した.

2)新聞発行:地区内の住民に対して寄り合いに関連する活動状況を周知するための新聞を発行した.

3)寄り合い準備会:寄り合いの関心を高め,子育ての課題を焦点化し,テーマを決めるために住民と行政および大学関係者による準備会を行った.

4)寄り合いの実施(4回):住民および行政職員が参加者となり寄り合いを実施した.寄り合いの初回参加者に,参加前の事前アンケート,4回目の参加者に寄り合い終了後に事後アンケートを行った.事前アンケートの項目は,「参加のきっかけ」,「地域内の絆について気になること」等である.事後アンケートでは「寄り合いで参加者の意見が知ることができたか」,「あなた自身の考えが変わったか」,「対等な話し合いができたか」,「寄り合いは問題解決に役立つか」等である.

5)インタビューの実施:寄り合いの直後と1年後に「寄り合いや寄り合いの後の地域の変化」について地区住民にインタビューを行った.インタビュー内容の分析は文脈を考慮して分割し,分割した内容ごとにコードをつけ,コード内容を類型化してカテゴリー名をつけた.

6)対象地区(A地区)の概況

戦国時代からの城下町で,JRの駅から1キロ圏内の住宅地であるが商店も存在する市街地である.人口3,400人(老齢人口割合29%),世帯数1,431(単独世帯33%)であり,A地区の年間出生数は25人程度である.A地区の8つの自治会が1つの連合自治会を形成している.地区内には1幼稚園,1小学校があり,自治会の活動は小学校や各自治会の地区公民館で行われる.保育所は近隣に2つある.A地区は市保健センターの保健師1人が地区を担当している.

7)倫理的配慮:A地区の介入に当たり地区住民・行政に対して文書で本研究の目的,実施予定内容,介入経緯を記述していくことを説明し了承を得た.寄り合い参加者・インタビュー協力者に対しては文書で目的,方法等と,途中で中止してもよいこと等を説明し,研究参加について同意を得た.寄り合いの実施,寄り合い後のインタビューに関して慶應義塾大学看護医療学部研究倫理委員会(2013年8月21日)にて承認を得た.

IV. 研究結果

1. 寄り合い実施までの経過の概要

A地区でのアクションリサーチの経過は表1に示すとおりである.

表1  A地区でのアクションリサーチの経過
年度 事項 新聞発行
2011年度(1年目) ①行政への・説明と協力依頼
②連合自治会等の説明
③住民・関係者への地区状況把握のための聞き取りの実施
④3月講演会(地区内小学校:参加者60人)
 テーマ「子どもの規範意識の芽生えを育む大人の役割」
 
 
 
 
1号:子育て応援団特集(400部発行)
2012年度(2年目) ①地区の状況把握(7月~12月は地区内のイベントの参加)
②寄り合い準備会(12月,連続2回)
③A地区まちづくり推進協議会で研究の説明(2月)
④絆ワークショップ(3月,参加者27人)
・講演1「コミュニティ・ミーティングを活用した地域づくり」
・講演2「まちのたまり場ってなあに?」(N区市民主体の活動)
・グループワーク「A地区の絆の強み」
2号:子育てと地域の役割(600部発行)
 
 
 
3号:地域の活力(1100部発行)
2013(3年目) ①寄り合い参加候補者への研究についての説明会(8月)
②第1回寄り合い(9月,参加者11人)
③第2回寄り合い(10月,参加者10人)
④第3回寄り合い(11月,参加者10人)
⑤第4回寄り合い(12月,参加者8人)
⑥寄り合いインタビュー(1月)
4号:コミュニティ・ミーティングってなに?(1100部発行)
 
5号:知ることから始まる絆づくり(1100部発行)
6号:協う(1100部発行)
2014(4年目) ①子育て広場への協力支援
②寄り合い1年後インタビュー(2月)
③地区での活動支援(3月・9月)
 「おひさま広場での学生による演劇の実施」
④研究成果報告会(3月)
7号:はじめのいっぽ(1100部発行)
 
8号:育つ(1100部発行)
9号:一人で頑張る,みんなで持ち寄る(1100部発行)

1年目(2011年度)はまず行政への協力依頼を行い,対象となるA地区を選定した.A地区を選定した理由は,自治会連合会長と自治会の協力が得られやすいことと,地区内を徒歩で移動可能であることであった.選定後,行政職員の仲介によりA地区の自治会連合会長の承諾を得た後,自治会長や地区民生・児童委員協議会,子ども会等に協力の依頼を行った.研究の趣旨の地区内の説明会で「対象地区に選定された理由が納得いかない」「活動の意図がわからない」との指摘があったため,テーマの表現を変更した.また,関係者に対してのA地区内の子育て状況についての聞き取りを実施した.

2年目(2012年度)は表1に示すように,筆者らは大学の学生と共に地区内の状況把握のために地区踏査を行い,「寄り合い」のテーマ設定のために「寄り合い準備会」を行った.その後,市の協力組織である「A地区まちづくり推進協議会」で,本研究とまちづくり推進協議会の意図が類似しているという意見が出されたことを行政職員を通じて把握したため,同推進協議会において寄り合いは大学が地域の方や行政の協力を得て研究として行うことを説明した.その後,同推進協議会から研究を行うことについて了解を得た.また寄り合いのイメージがわかないという意見も聞かれたため,3月には絆ワークショップを開き,CM(寄り合い)を実施した活動事例や,話し合いにより住民主体の活動を展開している事例についての講演と話し合いを行い,参加者の寄り合い参加のための準備性を高めた.参加者は「寄り合いの具体的なイメージがもてた」と話した.しかしながら,先述のまちづくり推進協議会と類似しているとの誤解もまだ存在するとのことで,少し期間をおいて寄り合いを実施した方がよいと子育て支援関係者から助言を得て,寄り合い実施は当初の予定より半年遅らせた.

2. 地区の子育て状況等の把握

1) 地区状況把握のための聞き取り結果(1年目実施)

地区内の子育てに関与していると考えられる住民2人(主任児童委員等),近隣保育所保育士2人,保健師2人に,A地区の子育ての現状について聞き取りを行った.結果の概要は以下であった.

住民からは「A地区の子どもは落ち着いていると感じている.今までは見守り対象の家は1件のみで,不登校で困っていること等聞いたことがない.子育ての状況として祖父母が見ている家も多い感じがする.スポーツフェスティバルを小学校と子ども会が協働で実施しているため,小学生のほとんどの人が子ども会に入っている」とのことであった.

近隣の保育所保育士からは「A地区とは限らないがさまざまな親子(十分ケアが行き届かない子も含め)がいる.三世代同居の家でも親世代の子育てを祖父母世代が支援する光景を見ることは少ないと感じる」とのことであった.

保健センター保健師からは「保健師が支援している多くの子育て中の人は転入者で,近隣との交流が少なく孤立している状況である.継続して支援している家庭は年度にもよるが1件程度」とのことであった.

2) 地区踏査等で把握したA地区内の状況(2年目実施)

城下町であるため,A地区内には寺社も多く,まちのあちこちに歴史を伝える石碑が存在した.

A地区内では5月に小学校と子ども会の共催でスポーツフェスティバルが実施されており,10月には小学校においてバザー(地区内の各種団体による模擬店)や抽選会が行われ,小学校の体育館が地区住民で満杯になっていた.

地区の交通安全母の会が小学校前で月2回登校の見守りを行っている.

3. 寄り合い準備会(2年目実施)

寄り合い準備会について,行政や今まで係わりがある住民との打ち合わせを行い,CMの目的等の説明や司会,記録を大学教員が行うことの合意を得た.寄り合い準備会は,2012年12月にA地区内の公民館において1回2時間で2回行った.大学と行政,本研究に協力いただいている住民によって参加候補者選定した.参加者は住民5名(自治会連合会長,子育て支援に係わる住民,子育て当事者),行政等関係者6名で,大学関係者(教員・学生)も加わり,司会は大学教員が行った.参加候補者に大学から依頼状を送って,研究について説明し参加の了承を得た.

1回目は子育てについての参加者各自の思いを語ってもらった.その内容は,「子育て世代の人たち,また高齢者も含めた交流する場が少ない」や,「人との係わりに積極的でない人々の存在」,地区の課題は,「子どもの遊び場所が少ない」ことであった.地域の強みは,「子どもの登下校時に子どもに積極的に声をかける人がいる」ということであった.

2回目は,1回目の記録を大学教員が作成し参加者に配布した.この時の話し合いでは,小学校での芝育成,ウォークラリー,フェスティバルの実施状況を振り返り,地区の課題として「転入者との関係はなかなか気心が知れた関係までいかない」ことや,「これらから地域の中に親同士,子ども同士,地域の人と親や子とのつながりをつくることの必要性」が話し合われた.最終的には,大切なのは気心の知れた地域づくりということになり,寄り合いのテーマは「子育てを通して,気心の知れた地域のつながりをつくろう」となった.

4. 寄り合い実施(3年目実施)

寄り合い参加者の候補は,主に主任児童委員と行政職員との話し合いのもとに選出した.住民のメンバーの選定においては,子育ての当事者である父親・母親を含むことを意図し,地域の組織的な活動を行うために必要と考えられる組織のリーダーや住民及び関係機関関係者(小学校,幼稚園係者等)を含むこととし,計20名を選出した.これに行政職員4名と大学関係者(学生含む)で寄り合いを実施した.寄り合い参加候補者には,大学から郵送で説明会実施を伝え,説明会にて研究の目的,実施方法について文書を用いて説明し,寄り合い参加時に文書にて研究参加の同意を確認した.

1) 寄り合い事前アンケート

4回の寄り合いを実施し,参加者にとって初回の参加時(寄り合い第1回参加者とは限らない)に対して参加前に事前アンケートを行った.回答者は15人であった.

寄り合いへの参加のきっかけ(複数回答),「参加を誘われて」7人,「寄り合いの目的に賛同したから」3人,「子育てに関心があったから」3人,「『絆』強化に関心があったから」2人,「大学の行うことに興味があったから」3人となった.

地域内の活動が活発と思うかについては図1-1に示した通り「ある程度活発と思う」が8割であった.図1-2地域内の「絆」で気になることがあるは8割であった.

図1 

寄り合い事前アンケート(N=15)

2) 寄り合いの実施状況

寄り合いの1回以上の参加者(大学関係者を除く)は16名であり,3回以上の参加者は8名であった.住民の参加者は民生委員,主任児童委員,健康普及員,自治会役員,子ども会役員,地区社会福祉協議会の役員・登録ボランティアであった.行政側からは,子育て政策課,福祉政策課,保健センター,小学校から参加を得た.

寄り合いの実施の前に,寄り合いのルール・意図,各回の目標,実施方法を大学教員が資料を用いて説明した.寄り合いのルールは,「参加者の生活実感を大切にすること」,「参加者同士は平等でありパートナーシップで行うこと」,「対立でなく対話」,「未来志向で行うこと」であり,寄り合いの意図は,「子育て支援のためのお互い様の精神に基づく絆をつくること」,「地区内の子育て支援の輪が広がること」,「地区内の子育て問題について課題解決の手立てが講じられること」であった.

4回をステップ1・2・3・4とし,ステップ1は地域内の課題の共有,ステップ2は課題の整理,優先的に検討する課題の検討,ステップ3は課題解決のための具体策の検討,ステップ4は具体策の実施に向けての話し合いを目標とした.各ステップでの説明内容を表2の実施内容に示した.

表2  寄り合い実施内容
目的 実施項目 話し合われた内容・参加者の意見
ステップ1 地域内の課題の共有 ①寄り合いの目的の説明(大学)
②寄り合いの実施方法(大学:CMの大切にしたいこと,このCMの実施の意図,CMのステップの流れ今回のステップ1の実施内容)
③地区内の子育ての状況説明(保健師からの話)
④子育て支援についての説明(市・担当者)
⑤2グループに分かれての検討
ニックネームによる自己紹介
○「子育て」「地域のつながり」での課題と強み
○「課題」
・小さな子どもの遊び場が少ない
・入園前の親子の交流が少ない
・仲間内は絆強い,転入者は地域活動に参加しづらい
・しきたりがあり転入者入りにくいかも.
・子育てには家族以外のサポートが必要
○「強み」
・子ども会の加入率が高いこと
・世代をこえたフェスティバル・祭りの存在
・子ども達のためのパトロールや,見守っている人の存在
ステップ2 課題の整理
 
優先的な検討課題の決定
①寄り合いの目的の説明(大学)
②寄り合いの実施方法(大学:大切にしたいこと,意図,CMの流れ・ステップ2の実施内容)
③2グループで,ステップ1の振り返りと追加の検討(記録:大学)
・内容にタイトルをつける
・グループごとに発表
・発表内容のまとめ
・課題の整理のための検討
○「課題」(2グループをあわせて)
・内と外(転入者入りにくい)
・小さな子どもの遊べる場がない
・親子の交流の場がない
・親子に気軽に声かけができない
・世代間交流ができにくい
・父親の育児参加
・地域のつながりを重視しない人の存在
○課題整理の検討:子育て広場があったらよい
「親子の交流の場をつくろう」
ステップ3 課題解決のための具体策の検討 ①寄り合いの目的の説明(大学)
②寄り合いの実施方法(大学:大切にしたいこと,意図,CMの流れ・ステップ3の実施内容)
③ステップ2の振り返り(大学)
④実施方法の具体策の検討(記録:大学)
○交流する場の具体策について,5W1Hを話し合い
・いつ:未就学児だったら昼間,学童だったら夜.
・どこで:公民館を拠点に,芋掘り等は小学校の畑を使用できないか.
・誰が:主任児童委員,民生委員が中心で,地域の他の人が協力していく,男性,高齢者も参加するとよい.
・誰のために:未就学児と親,それに高齢者も加わるとよい.時には学童も.
・どのように:未就学児とママ,高齢者が集まる場.高齢者の方の力をかりて「サロン」のような形
・高齢者の力をかりて,年間行事を一緒に企画
・自治会や社協が中心となり,色々な人材を募って行ったらよいのではないか.
○実施方法の具体策
・学童と高齢者の交流・学童クラブに高齢者等のいろいろな人が係わることで交流の場にすることができないか.
ステップ4 具体策の実施に向けての話し合い ①寄り合いの目的の説明(大学)
②実施方法(ステップ3に同じ・ステップ4の実施方法)
③ステップ3の振り返り(大学)
④具体策の実施に向けての話し合い(記録:大学)
○具体策実施に向けての話し合い
・公民館使用が現実的
・乳幼児を対象に少人数から始める
・年間定期的に行う
・お金がいる(行政の参加者から支援の情報提供)
→参加者の中から実施に向けて活動したいとの提案あり

寄り合いの話し合いでは,毎回,内容が可視化できるように,発言を付箋紙に記入してもらうことや,話し合いの記録をプロジェクターで映した.司会とファシリテイター・記録は大学教員が行い,意見の集約時に参加者の意見を元に同類の付箋等を集め,集めた付箋のテーマを参加者と一緒に考え記入した.お互いの発言について,内容を詳しく尋ねることや,そう思った理由等を尋ね合うことを司会が説明するともにファシリテイターが実践した.住民の参加者と行政職員,大学関係者(学生)は気がついたことを自発的に発言した.各回の話し合いの内容はまとめを作成し,次の寄り合いで配布して振り返りを行った(表2).

ステップ1:課題の共有

話し合いでは個人が特定できないように自分が考えた「ニックネーム」で呼び合うことを説明し,自己紹介を行った後「地区内の気になること」として現状認識の共有として,参加者が感じる子育て・つながりについて気になることを出し合った.2グループに分かれて話し合った内容をその場でグループ化し整理した内容のタイトルを表2に示した.発言の整理グループ化は大学教員が行った後,参加者に確認を行い,タイトル名等修正した.

ステップ2:課題整理と,優先的な課題の検討

ステップ1で出された課題を整理し,全員で見直して意見を追加し,表2に示すような意見が様々出たが,優先的に解決していくことは何かをまず考えようと司会が投げかけ話し合っていくと,「はじめは少人数で交流を初めてもよい」という意見が出され,全体で交流の場をつくろうということにまとまった.

ステップ3:具体策の検討

人々が交流する場をつくっていくための具体策について,いつ,どこで,誰が,誰のために,どのようにしたらよいかを参加者それぞれが意見を出して具体的に話し合った.発言内容整理はその場で大学が行った.出された意見の中から参加者一致で実施できることからやっていこうということになった.

ステップ4:具体策の実施に向けての話し合い

子育て広場の立ち上げを真剣に考え,主任児童委員から,自分たちを中心に公民館を使用し,未就学児と母親を対象に時々高齢者に参加してもらいながら進めたいという発言がなされた.その方向で進めることを参加者で確認し,合意を得た.

3) 寄り合いの事後アンケート

寄り合い第4回の終了後に事後アンケートを実施した.回答者は8名である.質問内容は「楽しく参加できた」8人(100%),「知り合いが増えた」5人(63%),「メンバーの意見を知ることができた」8人(100%),「自身の考えが変わった」6人(75%)であった(図2).

図2 

寄り合い事後のアンケート(N=8)

5. 寄り合い実施後のインタビュー

1) 直後のインタビュー

2013年1月に3回以上の寄り合い参加者8名に対して,寄り合いでの気づき,絆の深まる可能性についてインタビューで尋ねた.代表的なコードと,サブカテゴリー,カテゴリーは表3に示した.内容は参加者の行動に向けた思いの高まりとしては「新たなことをやっていこうと機運の高まり」「私も何かやろうという気持ちの高まり」等となった.寄り合いでの気づきでは,「子どもをもつ母親等の交流の場の必要性」等であり,寄り合いがきっかけで生まれる絆では,「人々の協力による子育て支援の核の構築」等となった.

表3  寄り合い直後のインタビュー
カテゴリー サブカテゴリー コード
参加者の行動に向けた思いの高まり 新たなことをやっていこうと言う機運の高まり ・いい点,悪い点がまとまりながら,こういう風にやっていこうとなった
・子育て広場をやっていこうと言うきっかけとなった
・新たなことをやっていこうという機運が生まれた
私も何かやろうという気持ちの高まり ・保育士の経験をいかして何か伝えたい
・子育てを終了したら活動参加したら楽しいと思う
・自分の役割をもつことで,協力する気持ちが生まれることがわかった
寄り合いによる新しい気づき 地域の人の思いに対する気づき ・ざっくばらんな意見が聞けた
・世代間交流が少ないと多くの人が思っているとわかった
子どもをもつ母親等の交流の場の必要性 ・子育て広場の存在を多くの人がよいと思っていることは知らなかった
・子どもや年寄りが集まれる場の存在をよいと思っている人が多いこと
閉鎖的・保守的な土地柄 ・新しく住み始めた人を受け入れにくい地域
・近所づきあいに心理的な圧迫を感じる人がいる
・新しいことを提案しづらい土地柄
寄り合いがきっかけで生まれる絆 話し合いから生まれる絆 ・集まって話し合いをすることから絆ができる
・気軽に話し合えたことから親しみが生まれる
人々の協力による子育て支援の核の構築 ・様々なことをやりましょうということになった
・子育て支援の核ができた
・協力してくださると言ったことから絆を感じた
・協力するという声かけからいい関係が築かれる

2) 1年後インタビュー

1年後インタビューを,寄り合いの参加者のうち地区のリーダー1人,子育て中の方3人,行政職員の方2人に対して実施した.インタビュー内容はCMの感想,CM後の地区の変化を中心に2014年2月に行った.

地区のリーダーは,「寄り合いをやってよかった.今後の防災のための名簿作り等でも地区でよく話し合って実施することが大切だと思う」と語った.子育て当事者は,「今まで子育ての世代の人が発言しても,若い人の発言をよく思わないという感じがあったが,今回の寄り合いではみんなの意見を聞きましょうということで意見が言えた」とした.抽出されたカテゴリーおよびコードは表4に示した.カテゴリーは,「寄り合いからもたらされた参加者の気持ちや行動の変化」「子育て広場や祭りを通して地域の人々の交流を促進したいという思い」の2項目になった.

表4  寄り合い1年後インタビュー
カテゴリー サブカテゴリー コード
寄り合いからもたらされた参加者の気持ちや行動の変化 寄り合いは発言しやすい場 ・寄り合いは皆が発言しやすい場で意見が言えた
・まちづくり委員会でも発言が多くみられるようになった
・地区の活動で話し合いをすることで問題が解決した
寄り合いは課題解決可能の場 ・寄り合いは問題解決に非常に良い
寄り合いによる参加者同士・地区内の団体のつながり強化 ・寄り合い後,寄り合い参加者同士が言葉を交わしている
・寄り合いの中で地域の人同士の理解が深まったのではと思う
・寄り合いは古くからある地域の団体の連携のきっかけとなった
寄り合いで話し合ったことが行動のきっかけ ・寄り合いで話すことで行動のきっかけとなった
・寄り合いはスタートラインとなった
寄り合いから生まれた「役に立ちたい」気持ちのめばえ ・皆何か役に立ちたいという気持ちになった
・寄り合いがなかったら,協力関係など地域内でお願いしてやってあげる関係になっていたかも
寄り合い進行が困難な時期 ・寄り合いまでの経緯では,この地区での進行が困難に感じる時期があった
限定していた寄り合い参加者 ・寄り合い参加者は限られた人
・寄り合い参加者は志がある人が参加者となり偏っていないか
子育て広場や祭りを通して地域の人々の交流を促進したいという思い 子育て広場が設立した喜び ・子育て支援の広場は皆が望んでいた
・子育て広場ができて皆喜んでいる
地域の人々の交流の場となりつつある子育て広場 ・子育て広場はいろいろな人と話す場となった
・広場に地域の顔役が参加するので,若い人達も顔役を知るようになった
・子育て広場は新しい人が入りやすい雰囲気が大切
・子育て広場で年配の方と接す場となるのはよいこと
・広場に地域で眠っている人材がかかわってくれると,子育て広場を知っているのはまだ地域の一部の人
近隣のつながりや世代間交流に欠かせない祭り ・地域のお祭りは大人になっても参加できる
・お祭りには子ども会からのつながりがある
・近所の人が顔を出せるのは祭りのみ
・お祭りで年代の違う人と話す機会となる
地域の人々の交流促進に向けての課題 ・地域では役員にならないと人と知り合う機会にならない
・若い人と年配の人との交流は難しい
・地域の人と係わりたくないと思っている人へのかかわり方は課題

6. 寄り合い後のA地区内の状況

寄り合いの終了4ヶ月後の2014年4月から寄り合いの話し合いを参考にして,子育て広場が主任児童委員・民生委員・健康普及員等の広場実施賛同者により地区公民館を会場にして,子育て広場が月1回実施されるようになった.実施にあたっては,市役所の担当者から予算確保の情報を得て経済的支援を受けた.子育て広場開設の中心的役割は本研究のCMに参加していた主任児童委員が担い,このプロセスには大学の係わりはなかった.また,子育て広場には,地区社会福祉協議会の会長,地区の民生児童委員協議会の会長や,自治会連合会長等が時々参加している.

一方,地区内の防災活動をしている人たちの中に,子どもの登下校時に同じ場所に立って見守りを始めた人もいた.

7. 新聞発行

研究の状況を地区の多くの人々へ周知するために,新聞は研究実施期間を通して大学が研究活動として発行した.企画・編集は学生に任せ,新聞の名称は「〇〇〇っ子ニュース」とした.新聞発行状況については表1に示した.配布や掲示,回覧は自治会長や関係機関に依頼した.

V. 考察

1. CMを成功に導く促進要因

(1)ニーズ共有の重要性:地区状況把握のための聞き取りでは,保健師や保育士は孤立した子育てやネグレクトを疑うようなケースが気になるとしていたが,主任児童委員はそのことに気がついていない状況であった.寄り合い準備会や寄り合いの話し合いで,子育て中の母親からの発言で子育て中の困難として子育て中の親の交流の場がないことが参加者に認識され,交流の場が必要というニーズが共有された.そして,実際の子育て広場の設立につながった.このことに至った要因は,CMのメンバーに子育て当事者を選び,当事者が子育て期の不安や孤独感を発言したためと考えられ,寄り合いメンバーに当事者を選ぶことが重要であることが示唆された.

(2)誰でもが発言しやすい場づくり:1年後のインタビューで,「寄り合いでは発言がしやすかった」という意見があった.今までの日本の話し合いでは権力者等の発言の強い人には逆らわない風潮があるとされてきている(文部省,1995(復刻版)).しかしながら,CMで重視している生活の実感からの発言を大切にすることやパートナーシップについて,毎回寄り合いの初めに繰り返し伝えたことが参加者に浸透したために,地区内の従来の会合では発言を遠慮してしまう若い世代の人がCMの中では自分たちの子育て中の不安等の実感を発言できたことが,ニーズの顕在化に役立ったと考える.また参加者同士の発言を付箋に残しながら意見を整理していくことで一つ一つの意見が大切にされ行政・住民という立場の違いがあってもパートナーシップで進めていっていることが実感されやすかったと考えられる.加えて,第三者の大学教員が司会を行ったことでいつもは発言しない人が発言できた可能性はある.

2. SC醸成の視点によるCMの効果

(1)SCでの互酬性の高まりからのネットワークの広がり:事後インタビューでは,「今は何かできなくても時が来たら自分が何かの役に立ちたい」と発言が見られたことから,地区内の人々の関係性が強まり,今回は子育てについて協力して何かを行っていこうとする気持ちが高まったと考えられる.CMを行ったことはSCの中で大切にされている互酬性(稲葉,2014)が高まったと考える.また,寄り合いの参加者以外にも子どもの安全確保のために自発的に庭先に毎日立つことを続ける人がいたことからも,地区内では子育てに協力していこうという機運が高まりつつあると言える.これらと事後のアンケート結果で絆が高まったと感じている人が7割を超えたことを総合的に判断すると,寄り合い(CM)は地区内のSCの醸成にある程度影響を与えたと考える.

(2)CMにより結束型から橋渡し型のSCへ:SCには結束型,橋渡し型がある(パットナム,2001).自治会での活動は結束型に分類されている(本橋ら,2005).この地区での活動は,スポーツフェスティバル等の活動も盛んに行われていたが,その基盤となっていたのは自治会等の結束型のSCであった.主任児童委員,民生委員,健康普及員は役割が違うため今まで話し合いや一緒に活動したことがなかった.しかしながら,この寄り合いを通して設置された子育て広場では様々な役員が協働した自主的な活動となり,自治会,地区社会福祉協議会等垣根を越えた関係がつくられ橋渡し型のSCが形成されつつあるとも考えられる.そして,この子育て広場は何かに縛られることなく運営者の考えで主体的に実施される状況となっており,橋渡し型SCの特徴を持つことから,今後の活動の発展が期待できる.したがって,CMは地区の様々な組織が平等な関係で協力しあった活動を推進していくのに有効だと考えられた.

3. CMの利用による地区活動の発展へ

(1)CMは住民主体の活動へのきっかけ:このCM(寄り合い)は,人口約3000人の1つの自治会連合を対象とし,保健師の地区活動をイメージして設定した.この研究は,当初は行政関係者を通じて紹介された自治会連合会長と開始した.子育てを切り口にした研究だったので主任児童委員を研究の協力者の窓口にしつつ,民生委員・健康普及員に協力を得て実施することが可能となった.また,新聞発行,寄り合いの準備,寄り合いの三つを通して寄り合い参加者ばかりでなく,地区内の人に関心が持たれ,何らかの係わり合いを持ちたいという気持ちとなり,子育て支援への地区住民の気持ちを「つなぐ」ことができた.特に寄り合いにおいてニーズを共有することができたことから,住民主体の子育て広場という新たな活動が生まれ,「動く」こと(保健師のベストプラクティスの明確化とその推進方策に関する検討会,2008)ができたと考える.今回のCMは,アクションリサーチとして大学が主導するのではなく,あくまでCMによる介入を地域へ広げるための推進役として係わった.そのため,A地区の人々が寄り合いは自分たちが行ったと考えたため,寄り合いの結果が受け入れられ,子育て中の人たちの交流の場の必要性を感じ,子育て広場の立ち上げへつながったと考える.

(2)CMにおけるニーズ共有から活動展開への効果

今まで日本看護協会で行ったCMの場合(金子,19992000)には,実施者側でのニーズ把握のプロセスを踏むことがなかったため,ニーズの優先性が明確にできず話題の焦点化が難しかった.今回は2年間をかけ地区状況を把握し,寄り合い準備会を通して「子育て時期における交流」にテーマを絞り,CMでニーズの共有が図られたことにより,参加者の中からニーズ解決に向けての活動が実施された.保健師が行う地区活動では,地域の方々と知り合いとなり本音を引き出しながら地域の状況を把握して,的を射たニーズを明らかにすることが大切である.つまり地区の状況把握には,地区住民の方々との信頼関係が大切で,ある程度の年月が必要と考える.また,CMは4回の中で具体策まで検討し提案できたことで,子育て広場の実施につながることになり,CMは地区内の子育て支援システム強化に役立った.CMの各ステップの目標を明確にし,そのことを遵守した進め方が効を奏したと考える.

4. 大学の活動推進役の遂行の意味

本活動は大学がCMのSC醸成への貢献について明らかにしたいとして試みたアクションリサーチである.しかしながら,大学教員はCM経験があるため,司会やファシリテイターを担当し,例えば遠慮があるため発言を躊躇している人を見つけ発言を促すといったパートナーシップ精神や過去を振り返るだけでなく未来志向で考えることをCM実施中に貫いた.また,本研究の実施者は従来から住民のインタビュー等の質的研究を行ってきたため発言内容の本質を見極め,分析する技術に長けていたと考えられる.ただしこのような参加者の発言を促したり,発言の本質を見極め整理したりする技術は,保健師の住民主体の活動を推進するための基本技術でもあるため,今回の経験を公表することで,保健師の技術向上に寄与できると考える.

A地区まちづくり推進会議での発言から本活動の継続があやぶまれる場面への行政の方のすばやい対応や,寄り合い実施時期を遅らせた方がよいとの助言に大学が誠実・柔軟に対応したことにより,本当の意味での住民・行政・大学の協働活動となったと考えられる.

謝辞

本研究は科学研究費助成事業基板研究〔c〕課題番号23593405(2011~2014年)として行いました.研究に協力していただいたA区市民の皆様,行政職員の皆様に深く感謝いたします.

また,研究に協力いただいた速水裕子君,林友紗君,石川英里君及び絆学生チームとして協力していただいた大槻弥生君,鈴木江利子君,クーパー世利菜君,岡部卓也君,佐藤礼美君,松永結花君,千釜百合香君,福田悠希君に感謝いたします.

文献
  • 原田正文(2006):子育ての変貌と次世代育成支援,67–191,名古屋大学出版会,名古屋.
  • 保健師のベストプラクティスの明確化とその推進方策に関する検討会(2008):「保健師のベストプラクティスの明確化とその推進方策に関する検討会報告書」,7–18,日本公衆衛生協会,東京.http://www.jpha.or.jp/sub/pdf/menu04_2_h19_1.pdf(検索日:2016年4月6日)
  • 稲葉陽二(2014):ソーシャル・キャピタル「きずな」の科学とは何か,ii–vii,ミネルヴァ書房,東京.
  • 金子仁子,米山奈奈子,平沢則子,他(1999):平成10年先駆的保健活動交流促進事業報告書「新たな地域保健活動の創造と発展へのチャレンジ」,保健活動調査研究小員会報告,29–78,日本看護協会,東京.
  • 金子仁子,米山奈奈子,平沢則子,他(2000):平成11年先駆的保健活動交流報告書「新たな地域保健活動の創造と発展へのチャレンジ」先駆的保健活動普及推進小委員会報告,10–46,日本看護協会,東京.
  • 北山秋雄,平沢則子(2000):平成11年度先駆的保健活動交流促進事業「コミュニティ・ミーティングガイド」,4–20,日本看護協会,東京.
  • 文部省(1995):民主主義(復刻版),17,径書房,東京.
  •  本橋 豊, 金子 善博, 山路 真左子(2005):ソーシャル・キャピタルと自殺予防,秋田県公衆衛生学雑誌,3(1),21–31.
  • 内閣府国民生活局(2003):「ソーシャル・キャピタル:豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて」,33–97,国立印刷局.
  •  大豆生田 啓友(2006):いまどきの子育て,何が問題?何が変わったの?―子育て家庭の最前線から―,外来小児科,9(4),455–456.
  • Putnam D Robert (1993)/河田潤一,訳(2001):哲学する民主主義―伝統と改革の市民的構造,130–249,NTT出版,東京.
 
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