Japanese Journal of Public Health Nursing
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ISSN-L : 2187-7122
Research Article
Relationship between Importance of Participation in Preventative Healthcare Classes and Attitude toward Life in Elderly Residents Living in a Metropolitan City
Rie MiyataMichiyo HiranoKazuko Saeki
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2017 Volume 6 Issue 3 Pages 249-257

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Abstract

目的:介護予防教室に参加する高齢者の教室参加意義と生活への認識の関連を明らかにする.

方法:A市の介護予防教室へ通う高齢者378名を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施した.調査内容は,基本属性,介護予防教室への参加意義(以下,参加意義),生活への認識で構成した.分析は,因子分析および多重ロジスティック回帰分析を用いた.

結果:調査票は回収314名,有効回答率75.4%であった.参加意義は【自己成長の促進】,【心身社会的側面への刺激】,生活への認識は【精神・社会的充実】,【健康志向】が抽出された.各参加意義には生活への認識【健康志向】(OR=15.7,OR=3.85)が有意に関連し,【自己成長の促進】には生活への認識【精神・社会的充実】(OR=1.12)が有意に関連した.

考察:参加意義は生活への認識のとらえと関連があることから,高齢者の生活の認識にも着目して,介護予防教室を展開していく必要がある.

I. 緒言

介護保険制度施行後,軽度者の大幅な増加が課題となり,軽度者の状態を改善すべく効果的なサービスを提供するため,2005年介護保険制度改正による介護予防重視型システムへの転換が行われた.このシステムでは自立支援型のサービスとして,機能の維持・向上を重視した介護予防事業が展開されてきたが,2014年介護保険制度見直しにより,現在,地域ごとの様々な主体による参画と地域による支え合い体制の推進による介護予防事業の展開が求められている(厚生労働省老健局振興課,2015).公的機関だけではなくNPOやボランティア等,地域の多様な人たちが参加する地域に密着した介護予防事業は,機能訓練だけではなく介護予防事業への「参加」や「活動」にも焦点をあてることで,参加者の社会参加や社会活動の場にもなり得ると考えられる.これからの介護予防事業は,地域のなかで通いの場として地域に根付き,介護予防事業が参加者にとって心身機能の活性化や社会活動への参加の場となることが重要といえる.

高齢者が社会活動へ参加することの効果として,身体的・精神的健康の維持増進(高橋ら,2006),生活の主観的評価の向上(竹内ら,2011)があり,介護予防の視点から,高齢者ができる限り健康で活動的な生活を送るには,社会活動への参加が重要と考えられる.高齢者の社会活動の概念として家族以外の身近な人との相互交流や,集団・組織への参加(平野,2011)が報告され,地域で行われる介護予防教室に住民が集まり,互いに交流をしながら教室での時間を共有することは,高齢者の社会活動としてとらえることも可能である.

介護予防教室への参加要因には,健康管理の面(栗本ら,2008)や精神的な側面への効果(和島ら,2011)がある.また,高齢者は介護予防教室に参加することで,人との交流や自分を研磨する(栗本ら,2008)ほか,生活への刺激(成木ら,2003)も求めていると考えられる.このように,高齢者は介護予防教室への参加に肯定的な意味を見出している.さらに,介護予防教室が心身機能の活性化や社会活動としての身近な場になるには,高齢者が教室への参加を通して意味や価値といった参加意義を見出し,主体的に場を活用することが重要と考えられる.また,町内会活動等の地域活動のように,介護予防教室を日常生活に浸透した活動にしていくには,教室へ参加している現在の生活をどのように認識しているか,つまり,自身の生活に対するとらえを踏まえたなかで教室への参加意義をとらえる必要がある.社会活動に関する研究では,活動への参加意義を高齢者自身で再認識することが活動の継続につながる(渡辺ら,2007)と報告しており,高齢者が介護予防教室への参加意義(以下,参加意義)を見出すことは,介護予防の継続の観点から重要であるといえる.また,参加意義は,高齢者が自らの生活をどのようにとらえているかによっても変化すると推察される.

そこで,本研究は介護予防教室に参加する高齢者の参加意義と生活への認識との関連を明らかにすることを目的とする.本研究は2つのステップで研究を進める.まず,参加意義と生活への認識の因子構造を明らかにし,次に,抽出された因子をもとに参加意義と生活への認識の関連を明らかにする.本研究において参加意義を明らかにすることで,高齢者の社会活動としての介護予防活動のあり方を検討することが可能になると考える.また,参加意義と生活への認識の関連を明らかにすることで,介護予防教室を高齢者の生活を構成する一つの活動として位置づけていく際の基礎資料になると考える.

II. 研究方法

1. 用語の操作的定義

明鏡国語辞典(北原,2010)では,「意義」は「物事のもつ価値や重要性.意味」,「認識」は「物事をはっきりと見分けて,その本質や意義を理解すること.また,その理解された内容」と示している.本研究では,介護予防教室への参加意義を「参加をしていることで見出すことができている介護予防教室に対する意味とその価値」とし,生活への認識を「介護予防教室に参加している現在の生活に対する理解」とする.

2. デザインと対象

研究デザインは,量的記述的研究デザインとした.対象地域としたA市は,人口194万人,高齢化率23.6%,要介護認定者数は10万人の地域であった.本研究では対象者をA市に在住する介護予防教室に通う高齢者378名とした.対象の選定は,A市保健福祉局高齢保健福祉部に介護予防センターの紹介を文書と口頭にて依頼し,A市にある53か所の介護予防センターのうち,協力が得られた9か所について紹介を受けた.介護予防センターには文書と口頭にて対象者の紹介を依頼した.

調査票は無記名自記式質問紙を用いて,2016年7月から9月に各予防教室の会場にて集合調査を実施した.対象者へは文書および口頭にて研究の目的,倫理的配慮等を説明し,協力を依頼した.対象者からの回答および回収をもって研究協力への同意とみなした.

3. 概念枠組み

本研究では,生活にどのような認識をもつことで介護予防教室への参加意義を見出し,参加の推進を図ることができるかを検討する必要があると考えた.その理由は,現在の生活に対する理解,つまり,今の生活をどのようにとらえているかによって,高齢者は介護予防教室の参加に対する意味や価値を変化させると予測したためである.そのため,本研究は参加意義を従属変数,生活への認識を独立変数として,参加意義と生活への認識の関連性をみた.

また,参加意義に関連するその他の変数について検討するため,高齢者の日常生活活動や社会活動,余暇活動,介護予防事業に関する文献検討を行った.主観的健康感,家族構成,人との付き合いは高齢者の活動における関心度合いに関係する(後藤ら,2005).社会活動や余暇活動には性差があり(斎藤ら,2015),地域行事等の社会参加・奉仕活動には居住歴,近所づきあい等の個人活動には年齢が関連する(岡本,2012)ことから,社会活動には性差や時間的な要因が関連すると考えられる.また,主観的幸福感は介護予防行動を間接的に引き起こし(深堀ら,2009),介護予防の場への参加継続は利用者自身に変化のプロセスがある(鍋島ら,2009)ことから,介護予防教室への参加継続意思(以下,参加継続意思)の強さによって参加意義の見出し方も変わってくると予測される.

以上のことから,参加意義と生活への認識の関連をみるための概念枠組みとして,参加意義に関連するその他の変数は,性別,年齢,居住年数,主観的健康感,家族構成,社会参加状況,介護予防教室への参加期間(以下,参加期間),主観的幸福感,参加継続意思で構成した.

4. 質問項目

調査票の質問項目は,基本属性,参加意義,生活への認識とした.

参加意義の質問項目は,先行研究(及川ら,2015栗本ら,2008和島ら,2011伊東ら,2008小野寺ら,2008成木ら,2003池森,2014本家ら,2013)をもとに「楽しみ」3項目,「機能の維持・改善」2項目,「生活への刺激」4項目,「自己研鑽」8項目の4要因17項目を作成し,各設問に対して「とても大切である」から「全く大切ではない」の4件法で尋ねた.

生活への認識の質問項目は先行研究(小石ら,2002福原ら,2014太湯ら,2006木村ら,2013平野,2011)をもとに「生活の充実」7項目,「健康への取り組み」4項目,「人間関係と話題の広がり」4項目の3要因15項目を作成し,各設問に対して「とても思う」から「全く思わない」の4件法で尋ねた.

参加意義と生活への認識の各項目は,内容妥当性を確保するために,介護予防教室に携わる社会福祉士1名と公衆衛生看護の実践ならびに研究経験のある2名を含めた共同研究者3名で確認した.また,構成概念妥当性を確保するために共同研究者間で理論上の概念や特性の適切性を確認し,表面妥当性の確認は介護予防教室に通う高齢者11名へ予備調査を実施した.

5. 分析方法

参加意義と生活への認識はそれぞれ最尤法プロマックス回転による探索的因子分析を実施し,項目の選定に際しては因子負荷量が0.4以上であることを条件とした.参加意義の各因子と基本属性の関連にKruskal-Wallis検定,Mann-Whitney U検定を実施した.続いて,参加意義と生活への認識の関連を明らかにするために,従属変数を参加意義の各因子とし,独立変数を生活への認識および参加意義の各因子に関連のあった変数を用い,多重ロジスティック回帰分析を投入した全ての独立変数の寄与を明らかにできる強制投入法で実施した.従属変数である参加意義の各因子は平均値で2群に分け高群,低群にした.データ解析にはIBM SPSS Statistics Version 22を使用し,有意水準は5%とした.

6. 倫理的配慮

A市ならびに介護予防センター,対象者へ匿名性を保証すること,調査への協力は自由意思であること,収集したデータは適正に管理すること等を文書と口頭で説明を行い,質問紙への回答,回収をもって同意とみなした.本研究は,北海道大学大学院保健科学研究院倫理審査委員会の承認を得て行った(承認日:2016年5月17日,承認番号:16-3).

III. 結果

対象378名のうち314名から回答が得られた(回収率83.1%).そのうち性別,年齢,要介護度,参加意義,生活への認識について未記入,65歳未満であった29名を無効回答とし,285名を分析対象とした(有効回答率75.4%).

1. 対象者の基本属性

対象者の基本属性について表1に示した.対象者の平均年齢は,76.5±6.0歳であり,男性28名(9.8%),女性257名(90.2%)であった.社会参加状況は,町内会・自治会活動への参加が100名(35.1%)と最も多かった.

表1  対象者の基本属性(N=285)
n %
性別 28​ 9.8
257​ 90.2
年齢(平均年齢:76.5±6.0歳) 前期高齢者(65–74歳) 107​ 37.5
後期高齢者(75歳以上) 178​ 62.5
要介護度 認定なし・非該当 254​ 89.1
要支援1 19​ 6.7
要支援2 9​ 3.2
要介護1 3​ 1.1
主観的健康感 非常に健康 52​ 18.2
やや健康 185​ 64.9
あまり健康でない 44​ 15.4
健康でない 4​ 1.4
居住年数 10年未満 41​ 14.4
10年以上15年未満 15​ 5.3
15年以上20年未満 21​ 7.4
20年以上25年未満 36​ 12.6
25年以上30年未満 31​ 10.9
30年以上35年未満 42​ 14.7
35年以上40年未満 29​ 10.2
40年以上 70​ 24.6
家族構成(n=284) 一人暮らし 94​ 33.1
配偶者と二人暮らし 97​ 34.2
子どもと二世代世帯 69​ 24.3
孫を含めた三世代世帯 14​ 4.9
その他 10​ 3.5
社会参加状況 習い事 あり 86​ 30.2
なし 199​ 69.8
スポーツ・レクリエーション活動 あり 94​ 33.0
なし 191​ 67.0
ボランティア活動・NPO活動 あり 43​ 15.1
なし 242​ 84.9
地域行事への参加・手伝い あり 99​ 34.7
なし 186​ 65.3
町内会・自治会活動 あり 100​ 35.1
なし 185​ 64.9
お寺や教会の活動 あり 19​ 6.7
なし 266​ 93.3
その他 あり 17​ 6.0
なし 268​ 94.0
主観的幸福感(n=284)(Range:0–10点) きわめて幸せ(9–10点) 121​ 42.6
幸せ(7–8点) 89​ 31.3
普通(0–6点) 74​ 26.1
介護予防教室への参加期間(参加期間) 半年未満 34​ 11.9
半年以上1年未満 31​ 10.9
1年以上5年未満 153​ 53.7
5年以上 67​ 23.5
介護予防教室への参加継続意思(参加継続意思) とても思う 253​ 88.8
少し思う 31​ 10.9
あまり思わない 0​
全く思わない 1​ 0.4

2. 介護予防教室への参加意義と生活への認識の因子構造

参加意義と生活への認識の回答範囲は1~4であり,回答の平均±標準偏差が1より小さい場合はフロア効果,4より大きい場合は天井効果となる.項目分析の結果,参加意義の全ての項目において天井効果がみられた.共同研究者間で検討した結果,各項目間で強い相関を示したものはなかったこと,また,天井効果は4.1から4.2であったことから許容できる範囲の偏りと判断し,全項目採用して因子分析を実施し,2因子15項目が得られた(表2).第1因子は8項目で【自己成長の促進】,第2因子は7項目で【心身社会的側面への刺激】と命名した.クロンバックα係数は全項目0.909,第1因子0.864,第2因子0.844であった.

表2  介護予防教室への参加意義と生活への認識の因子構造
第1因子 第2因子 回転後の負荷量平方和 クロンバックα係数
介護予防教室への参加意義
α=0.909
第1因子
【自己成長の促進】
13.今の自分を見つめなおし,自己の課題に気づくことができる(自己研鑽) .803 –.139 5.425 0.864
16.自分にとって重要な生きがいにすることができる(自己研鑽) .717 .042
15.多くの新たな知識や発見を得ることができる(自己研鑽) .692 .027
14.積極的に挑戦をすることができる(自己研鑽) .618 .010
12.教室に参加している時に,今までの知識や経験を活用することができる(自己研鑽) .587 .067
17.教室の一員として積極的に役割をもつことができる(自己研鑽) .572 .123
11.スタッフや他の参加者に相談をすることができる(自己研鑽) .446 .239
10.他の参加者と地域の情報交換をすることができる(自己研鑽) .400 .261
第2因子
【心身社会的側面への刺激】
2.毎回楽しい時間を過ごすことができる(楽しみ) –.099 .820 5.306 0.844
1.毎回気分転換をすることができる(楽しみ) –.017 .713
4.身体機能の維持または改善へ積極的に役立てることができる(機能の維持・改善) .140 .643
7.教室へ参加するという定期的な予定を作ることができる(生活への刺激) .041 .612
8.教室への参加を外出の理由にできる(生活への刺激) –.011 .567
9.日常から離れ,生活への刺激をもつことができる(生活への刺激) .136 .521
5.認知症の予防へ積極的に役立てることができる(機能の維持・改善) .246 .409
因子間相関 第1因子【自己成長の促進】 1.000 .742
第2因子【心身社会的側面への刺激】 1.000
削除された項目 3.他の参加者と毎回楽しくおしゃべりをすることができる(楽しみ)
6.人との輪を広くもつことができる(生活への刺激)
生活への認識
α=0.907
第1因子
【精神・社会的充実】
12.交友関係を広く持つことができている(人間関係と話題の広がり) .851 –.149 5.145 0.906
7.いつも積極的に自分から仲間づくりをすることができている(生活の充実) .803 –.012
4.外出や様々な活動に対して,いつも意欲的に取り組むことができている(生活の充実) .785 –.026
15.普段の生活の中で話題があり,会話を多くできている(人間関係と話題の広がり) .759 –.020
3.毎日生きがいをもって生活をすることができている(生活の充実) .615 .184
13.普段から地域の一員であると強く感じることができている(人間関係と話題の広がり) .615 .074
6.生活の中で目標を決め,その達成に向けて取り組むことができている(生活の充実) .605 .137
5.毎日の時間を自分でどのように過ごすかについて積極的に考えることができている(生活の充実) .601 .123
1.毎日に楽しみがあり充実した生活を送ることができている(生活の充実) .500 .180
第2因子
【健康志向】
11.毎日健康に心がけた生活をすることができている(健康への取り組み) –.026 .842 3.440 0.720
10.介護予防教室等で得た知識を実生活に取り入れることができている(健康への取り組み) .020 .651
因子間相関 第1因子【精神・社会的充実】 1.000 .662
第2因子【健康志向】 1.000
削除された項目 2.気持ちを明るくもって毎日生活をすることができている(生活の充実)
8.認知症の予防に積極的に取り組むことができている(健康への取り組み)
9.積極的に身体機能の維持または改善をすることができている(健康への取り組み)
14.介護予防教室等に参加している人々とつながりを強く感じることができている(人間関係と話題の広がり)

生活への認識について天井効果や他の項目とr=0.7の相関があった「生活の充実」の1項目を除き,因子分析を実施した結果,2因子11項目が得られた(表2).第1因子は9項目で【精神・社会的充実】,第2因子は2項目で【健康志向】と命名した.クロンバックα係数は全項目0.907,第1因子0.906,第2因子0.720であった.

3. 介護予防教室への参加意義と生活への認識の関連

従属変数の参加意義【自己成長の促進】は,平均値28.8±3.1,中央値29であり,得点29を基準に高群と低群とした.参加意義【心身社会的側面への刺激】は,平均値22.6±1.9,中央値24であり,得点23を基準に高群と低群とした.多重ロジスティック回帰分析に投入する変数を検討するため,参加意義と基本属性の関連を確認した.参加意義【自己成長の促進】では性別(P=0.042),地域行事への参加・手伝い(P=0.001),主観的幸福感(P=0.008),参加期間(P=0.002),参加継続意思(P<0.001)で有意な差があった(表3).参加意義【心身社会的側面への刺激】では地域行事への参加・手伝い(P=0.024),主観的幸福感(P=0.007),参加期間(P<0.001),参加継続意思(P<0.001)で有意な差があった(表3).

表3  介護予防教室への参加意義と生活への認識の関連
項目 n 平均得点 SD 中央値 P
【自己成長の促進】と関連する変数 性別 28​ 27.7 3.2 28.0 0.042a
257​ 28.9 3.1 30.0
地域行事への参加・手伝い あり 99​ 29.5 3.0 31.0 0.001a
なし 186​ 28.4 3.1 29.0
主観的幸福感(n=284) きわめて幸せ(9–10点) 121​ 29.4 2.7 30.0 0.008
幸せ(7–8点) 89​ 28.7 3.2 29.0
普通(0–6点) 74​ 27.9 3.4 28.0
介護予防教室への参加期間(参加期間) 半年未満 34​ 28.7 2.8 29.0 0.002
半年以上1年未満 31​ 28.1 2.9 28.0
1年以上5年未満 153​ 28.5 3.2 29.0
5年以上 67​ 29.9 2.7 31.0
介護予防教室への参加継続意思(参加継続意思) とても思う 253​ 29.2 2.8 30.0 <0.001
少し思う 31​ 25.3 3.0 25.0
全く思わない 1​
【心身社会的側面への刺激】と関連する変数 地域行事への参加・手伝い あり 99​ 23.0 1.6 24.0 0.024
なし 186​ 22.4 2.0 23.0
主観的幸福感(n=284) きわめて幸せ 121​ 22.9 1.6 24.0 0.007
幸せ 89​ 22.8 1.8 24.0
普通 74​ 21.9 2.3 23.0
介護予防教室への参加期間(参加期間) 半年未満 34​ 22.3 2.0 23.0 <0.001
半年以上1年未満 31​ 21.5 2.1 22.0
1年以上5年未満 153​ 22.6 2.0 24.0
5年以上 67​ 23.4 1.1 24.0
介護予防教室への参加継続意思(参加継続意思) とても思う 253​ 23.0 1.5 24.0 <0.001
少し思う 31​ 19.5 2.1 18.0
全く思わない 1​

注)Kruskal-Wallisの検定,a Mann-WhitneyのU検定

参加意義と生活への認識の関連を検討するため,多重ロジスティック回帰分析を実施した.参加意義【自己成長の促進】を従属変数とし,独立変数に生活への認識【精神・社会的充実】,【健康志向】および性別,地域行事への参加・手伝い,主観的幸福感,参加期間,参加継続意思を用いた.結果,生活への認識【精神・社会的充実】(OR=1.12,95%CI=1.02–1.23),【健康志向】(OR=15.72, 95%CI=8.20–30.14)が有意に関連した.しかし,性別(OR=0.63, 95%CI=0.19–2.06),地域行事への参加・手伝い(OR=2.07, 95%CI=0.91–4.72),主観的幸福感(OR=1.06, 95%CI=0.87–1.31),参加期間(OR=1.18, 95%CI=0.79–1.77),参加継続意思(OR=1.29, 95%CI=0.35–4.77)は関連しなかった.

次に,介護予防教室への参加意義【心身社会的側面への刺激】を従属変数とし,独立変数に生活への認識【精神・社会的充実】,【健康志向】および地域行事への参加・手伝い,主観的幸福感,参加期間,参加継続意思を用いた.結果,生活への認識【健康志向】(OR=3.85, 95%CI=2.55–5.81),参加期間(OR=1.59, 95%CI=1.12–2.25),参加継続意思(OR=5.96, 95%CI=1.66–21.39)が有意に関連した.しかし,地域行事への参加・手伝い(OR=1.34, 95%CI=0.65–2.76),主観的幸福感(OR=1.10, 95%CI=0.91–1.31),生活への認識【精神・社会的充実】(OR=1.08, 95%CI=0.99–1.17)は関連しなかった.

IV. 考察

1. 介護予防教室への参加意義と生活への認識の構造

質問項目は項目作成段階において専門職および共同研究者で確認をし,さらに因子分析にて因子的妥当性の検討を行ったことから,ある一定の妥当性は確保されたと考える.しかし,外的基準との関係を確認していない点が本研究の限界としてあげられる.

参加意義は「楽しみ」,「機能の維持・改善」,「生活への刺激」,「自己研鑽」の4因子構造を想定したが,2因子の構造に収束した.「楽しみ」,「機能の維持・改善」,「生活への刺激」は介護予防教室に参加する高齢者にとって充実感や満足感のきっかけという傾向を示す参加意義といえ,これら3要因は【心身社会的側面への刺激】として抽出されたと考えられる.高齢者は社会活動に対して,老年期を過ごすことの充実感や心身機能の活性化を得る(平野,2011)ことや,普段の生活に変化を求める(成木ら,2003)ため,介護予防教室も機能維持や生活全般の豊かさを得る場として参加意義を見出していると推察される.また,「自己研鑽」は「楽しみ」,「機能の維持・改善」,「生活への刺激」の参加意義とは異なり,介護予防教室に対する積極性をもつため第1因子として抽出されたといえる.次に,参加意義【心身社会的側面への刺激】と【自己成長の促進】の関係について考察する.社会活動への参加動機は,他者と交流したいが最も多く,次いで楽しみたい,気分転換したい(及川ら,2015)であり,介護予防教室に参加する高齢者も【心身社会的側面への刺激】に関心を示しやすく,多くの高齢者が参加意義として認識しやすいと予測される.一方,【自己成長の促進】は,「今の自分を見つめなおし,自己の課題に気づくことができる」,「積極的に挑戦をすることができる」等で構成され,【心身社会的側面への刺激】と比べ能動的な参加意義であると考えられる.

生活への認識の構造は「生活の充実」,「健康への取り組み」,「人間関係と話題の広がり」の3因子構造を想定したが2因子の構造に収束した.生活への認識の「生活の充実」,「人間関係と話題の広がり」は,生活の仕方による充実感の追求をしているという傾向を示したことから【精神・社会的充実】が抽出されたと考えられる.社会活動へ参加している高齢者は,個人的な充足感から他者への貢献と幅広い満足感をとらえる(岡本,2010)ことから,介護予防教室へ参加している高齢者も生活への認識を幅広くとらえていることが推察される.また,高齢者の運動のための自主活動の継続理由に,運動による転倒予防等の健康効果への期待があり(重松ら,2011),介護予防教室においても同様に,生活に健康への意識や取り組みに対する認識があり,これは「生活の充実」,「人間関係と話題の広がり」とは異なる性質であるため,第2因子【健康志向】として抽出されたと考えられる.

2. 介護予防教室への参加意義と生活への認識との関連

多重ロジスティック回帰分析の結果,参加意義【自己成長の促進】,【心身社会的側面への刺激】に生活への認識【健康志向】が有意に関連した.介護予防活動において,自身の役割を遂行する者は,健康管理を基盤のひとつとして役割遂行をしている(早坂ら,2016).このことから,能動的に介護予防活動に関わる者は自身の健康への心がけをしていると考えられ,本研究で【自己成長の促進】を参加意義として見出していた者に生活への認識【健康志向】が関連したと考えられる.また,和島ら(2011)は介護予防教室の参加継続希望理由に,健康の役に立つことが最も多いと報告している.このことから,生活への認識に【健康志向】があることで,介護予防教室に参加し,教室を健康のための刺激を得る場として意味づけ,自身の成長を促すための価値を見出すことができると考えられる.また,参加意義【自己成長の促進】には,生活への認識【精神・社会的充実】が有意に関連した一方,介護予防教室への参加意義【心身社会的側面への刺激】に生活への認識【精神・社会的充実】は関連しなかった.地域社会を対象としたエンパワメントには,①拒絶の段階(支援の受け入れを拒む状態),②社会的サポートの段階(受身的に支援を受ける状態),③当事者参加の段階(自ら支援に参加する状態),④当事者の自己実現の段階(支援への積極的な参加が本人の自己実現にまでつながる状態)と4つの段階がある(安梅,2007).介護予防教室の場を通して,高齢者の力を引き出そうとしている介護予防活動はエンパワメントのプロセスをたどると考えられ,参加意義【心身社会的側面への刺激】が基盤となって能動的な【自己成長の促進】という参加意義を見出すと考えられる.なお,能動的な参加意義である【自己成長の促進】に生活への認識【精神・社会的充実】が関連していたことから,エンパワメントの2段階目の社会的サポートの段階から当事者参加の段階に移行するにあたって,高齢者が生活への認識として必要な要素であったことが推察される.

参加継続意思と参加期間は参加意義【心身社会的側面への刺激】に有意に関連した.高齢者の社会活動において心身社会的な要素は活動参加継続要因(成木ら,2003)であることから,介護予防教室においても同様の結果が示された.さらに,活動への参加期間が長くなると参加頻度も多くなり(保田,2011),生活機能の低下や抑うつ傾向が抑制される(川上ら,2013).そのため介護予防教室も同様のことが考えられ,高齢者は教室が機能改善等のための刺激を得る場としての有用さを認識していると考えられる.

生活への認識は参加継続意思や参加期間が参加意義に与える効果を調整しても参加意義に関連することが明らかとなった.先行研究において介護予防には参加期間の重要性(保田,2011)が示されているが,高齢者が介護予防教室に参加意義を見出すには,自身の生活に対する認識も重要である.参加意義【自己成長の促進】には,生活への認識【精神・社会的充実】,【健康志向】が関連し,参加意義【心身社会的側面】には生活への認識【健康志向】が関連しており,生活への認識の違いが参加意義にも影響しているといえる.今後,介護予防の推進には介護予防教室の場のみで高齢者をみていくのではなく,生活全般のなかに介護予防を位置づけ,高齢者の生活の認識とともに社会活動の一つとして介護予防教室を展開していく必要がある.

3. 研究の限界

1つめに,本研究は横断研究デザインであり,介護予防教室への参加意義と生活への認識の因果関係まで示すことはできないことが限界としてあげられる.今後,参加期間による参加意義と生活への認識の関係性について検討することや,生活のとらえによる教室参加に対する意味や価値を変化させるという逆仮説について調査をしていく必要がある.2つめに,本研究の対象者はある程度の期間継続して介護予防教室に参加している者であったことから,今後,不参加者や参加中断者も含めて調査をしていく必要がある.3つめに,本研究は概念の構造を確認するために因子分析を実施したが,天井効果が生じたことから今後尺度として活用する際には尺度開発に準じた研究が必要と考える.最後に,介護予防教室へ参加することでの肯定的側面と否定的側面の両方を考慮した更なる調査が必要と考える.

V. 結語

介護予防教室への参加意義【自己成長の促進】,【心身社会的側面への刺激】には,生活への認識【健康志向】が共通して関連し,参加意義【自己成長の促進】に生活への認識【精神・社会的充実】,参加意義【心身社会的側面への刺激】に参加継続意思,参加期間が関連した.介護予防教室への参加意義を見出すことは,教室を社会参加の場として身近なものにしていく上で重要である.また,介護予防活動を生活の中の一つの活動としてとらえることで,参加者は参加意義を見出すことが可能になると考えられる.さらに,介護予防教室にて心身機能の維持や人々との関係性を構築することは,参加者が心身社会的側面への刺激や自己成長としての価値を見出すためには重要である.

文献
 
© 2017 Japan Academy of Public Health Nursing
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