Japanese Journal of Public Health Nursing
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Research Article
Preceptor Characteristics and Career Support Systems of Public Health Nurses from Local Governments with Public Health Centers: A Nationwide Survey
Taeko Shimazu
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2017 Volume 6 Issue 3 Pages 258-267

Details
Abstract

目的:全国の保健所設置自治体におけるプリセプター保健師の現状および支援体制を明らかにすることを目的とした.

方法:全国の保健所設置自治体で平成24~27年度にプリセプターを担当した保健師を対象に,無記名自記式の質問紙調査を実施した.

結果:有効回答は335名(42.5%)から得られた.プリセプターから指導を受けた経験のある者が34.9%,保健師基礎教育課程は保健師専修学校45.7%が最も多く,担当した新任保健師は大学が88.1%を占めていた.プリセプターのキャリアは都道府県で管理期,その他では中堅後期が多かった.プリセプター研修は76.1%の実施であり,受講者も67.2%に留まった.人材育成について話し合う会議は月1回以上が33.0%,事例検討会の頻度は,自治体種別により有意差がみられた.

考察:プリセプター研修,人材育成について話し合う会議及び事例検討会の充実,中堅後期及び管理期の保健師が中堅前期のプリセプター保健師を支援する段階的な指導体制が求められる.

I. 緒言

健康課題の多様化・複雑化に伴い,保健師の関わる領域も多様化し政策的にも保健師への期待が高まっている(厚生労働省,2012).それに伴い,国では系統的な保健師人材育成について継続的に検討されてきた(厚生労働省,2002200320072011).その一環として,新任保健師育成のためのプリセプターシップの重要性も示されている(厚生労働省,20032007).新任保健師の力量形成には,プリセプターが選任されていることや実践を通した具体的な指導が効果的であったこと(山口ら,2006),プリセプターとの交流やプリセプターの豊かな資質が有効であった(田中ら,2005)ことが示されている.また,プリセプター自身の保健師としてのアイデンティティやコンピテンシーの獲得,自己成長につながることが示されている(厚生労働省,20032007).佐伯(2007)は,プリセプター自身の自己成長につながる理由として,新任保健師とのコミュニケーション,人材育成の視点での力量のアセスメント,指導のための他者や他機関との様々な調整をすることにより,指導に困ったときには助言を求め,受け入れる柔軟さが必要となるからであると述べている.

しかし,プリセプター自身の課題として,地区組織活動の経験不足,多領域や組織全体を見る視点の不足があり(中板,2007),それを補うプリセプター研修の機会の乏しさ,人材育成方法が示されていないことが挙げられている(中板,2007佐伯,2007).また,プリセプターの多くが中堅保健師であるが,中堅保健師の自信のなさ(平野ら,2007)や,OJTに対する意識の低さ,後輩育成の自信のなさ(小野,2009)が存在すると報告されている.さらに,新任保健師を育成するプリセプター保健師の負担感が報告(佐伯ら,2009)されてもいる.プリセプター保健師の負担感の背景には,一人前であるはず,後姿を見て育つはず,という新任者への過剰な期待や,人材育成は余分な仕事として後回しにされる職場風土が存在している(佐伯ら,2009).

このような負担感を軽減し,プリセプターの力量を育てるためには,プリセプター研修等,能力向上を目指した支援が必要である.プリセプターの能力向上に関する研究では,中堅保健師の継続教育プログラムの開発および評価がされている(横溝ら,2005和泉ら,2005).また,プリセプターとなる中堅保健師は研修機会に乏しいため,プリセプターが新任保健師研修をともに受講し,実践力・指導力の育成を図る試みも報告(蒔田ら,2012)されている.プリセプターを対象としたe-learningによる介入研究(Larsen et al., 2011)では,自己効力感,プリセプター役割に関する知識の向上が検証されている.

「新人看護職員研修ガイドライン~保健師編~」(厚生労働省,2011)が示され,プリセプターシップの導入や人材育成体制の構築も進められつつある.「新人看護職員研修ガイドライン~保健師編~」が示された後のプリセプターシップの実施状況については,保健所設置市(政令指定都市・中核市・その他の政令市)および特別区ではプリセプターによる指導を受けた経験のある者が比較的多く(66.5%),都道府県でも5割弱である一方,市町村(39.2%)や省庁(33.3%)ではやや少ない(日本看護協会,2015)ことが報告されている.しかし,全国の自治体におけるプリセプターの担当する時期や準備性等の現状と,組織的な人材育成等の支援体制に関する調査はみられない.保健所は研修機能を有し(厚生労働省,2013)保健師人材育成の拠点となることが求められており,保健所設置自治体にプリセプターから指導を受けた新任保健師が多い(日本看護協会,2015)ことから,まず,全国の保健所設置自治体におけるプリセプターの現状と支援体制を把握することは,プリセプターシップを推進するための基礎資料として重要と考える.

そこで,本研究では全国の保健所設置自治体に所属し,「新人看護職員研修ガイドライン~保健師編~」が示された後にプリセプターの経験をもつ保健師を対象に,プリセプター保健師の担当する時期や準備性等の現状と,組織的な人材育成等の支援体制を明らかにすることを目的とした.

II. 研究方法

1. 用語の定義

プリセプター保健師とは,常勤として自治体に初めて就業して1年目の新任保健師を1対1のマンツーマンで担当し,身近な存在として日常的に相談,支援,評価,フィードバックを行う保健師とした.

新任保健師とは,常勤として自治体に初めて就業し1年以内の,地域保健に従事している保健師とした.保健師養成課程卒業直後に限らず,看護職としての経験がある場合でも,自治体に常勤として初めて就業した場合は,新任保健師として含めた.

保健師のキャリアについて,本研究では,新任期を保健師経験0~5年,中堅前期を6~10年,中堅後期を11~20年,管理期を21年以上とした.

2. 調査対象

全国の保健所設置自治体に所属し「新人看護職員研修ガイドライン~保健師編~」発出後の平成24~27年度にプリセプターの経験をもつ保健師を対象とした.対象自治体は,全ての都道府県,政令指定都市,中核市,その他の政令市,特別区(自然災害による対象者の負担を考慮し,岩手県,宮城県,福島県,茨城県を除いた)とした.各自治体の保健師代表者に研究協力依頼を文書で行い,封のできる返信用葉書を用いて研究の諾否および対象者数を事前調査した.事前調査から研究協力の承諾を得られた43都道府県のうち21箇所(48.8%),19政令指定都市のうち14箇所(73.7%),42中核市のうち27箇所(64.3%)7地域保健法政令市のうち2箇所(28.6%),23特別区のうち6箇所(26.1%),総計134箇所の保健所設置自治体のうち70箇所(52.2%)へ調査を実施した.

3. データ収集方法

調査方法は,郵送による無記名自記式質問紙調査であった.研究協力の事前調査の回答に基づき,各自治体の保健師代表者に対象者数分の質問紙,対象者宛研究依頼文,返信用封筒を1名分ずつセットにして送付し,対象者への配布を依頼した.対象者は自由意思により質問紙に回答し,各自無記名で返信用封筒を用いて返信した.

4. 調査期間

調査期間は平成27年11月から平成28年2月であった.

5. 調査内容

先行研究(佐伯ら,2004浅野ら,2009Larsen et al., 2011嶋津ら,2014)から得られた知見に基づき,以下の調査項目を設定した.

1) プリセプター保健師の概要

性別,年齢,保健師経験年数,看護職経験年数,保健師基礎教育課程,最終学歴,所属する自治体,所属部署について,直近でプリセプターの役割を担ったときの内容をたずねた.所属部署は,選択肢に当てはまらない場合,「その他」欄に自由記載を求めた.加えて,プリセプター保健師自身が新任保健師の時に指導を受けた保健師等を問うた.

2) プリセプターが担当した新任保健師の概要

直近に担当した新任保健師について回答を求め,性別,年齢,看護職経験年数,保健師基礎教育課程,最終学歴のほか,新任保健師の成長について「1年間で育成目標に対してどの程度成長したか」の1項目を「目標を大幅に上回っていた」~「目標を大幅に下回っていた」の5件法で問うた.

3) プリセプター保健師の支援体制

①保健師現任教育プログラムの有無,②新任保健師研修の実施・受講の有無,③プリセプター研修の実施・受講の有無,④保健師の人材育成等を話し合う会議の頻度,⑤新任保健師が出席できる事例検討会の頻度,⑥プリセプターの新任保健師育成の担当方法等を問うた.②,⑤は,新任保健師を育成するプリセプターの役割を組織的に支援するものとして問うた.

6. 分析方法

プリセプター保健師および担当した新任保健師の現状について,記述統計を算出した.加えて,プリセプターおよび担当した新任保健師の年齢,保健師または看護職の経験年数,担当した新任保健師の成長した程度は,平均値,標準偏差,範囲も求めた.また,プリセプター保健師の所属部署およびキャリア,プリセプターの支援体制については,自治体の組織体制や業務の違い等によって異なる可能性が考えられるため,自治体種別に記述統計を算出した.自治体種別と各項目との関連の分析には,χ2検定またはFisherの正確確率検定と残差分析を用いた.

記述統計,χ2検定,残差分析には統計パッケージSPSS Statistics ver. 24.0(IBM Corp. NY)を,Fisherの正確確率検定には統計ソフトRを用い,有意水準を5%とした.

7. 倫理的配慮

質問紙は,保健師代表者から研究協力の諾否と対象者数の返信を得た上で送付した.調査は無記名で行い,文書に調査目的,調査方法,公表の方法,調査への協力・拒否の自由,調査協力に要する時間,匿名性の保障,データの管理と活用等を記載した.質問紙の返送をもって同意されたとする旨を明記した.本研究は聖路加国際大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:15-070,承認日平成27年11月30日).

III. 研究結果

全国の保健所設置自治体70箇所へ質問紙を788名分送付し,回収数335名(42.5%),有効回答数335名(42.5%)であった.

1. プリセプター保健師の概要

プリセプター保健師の概要を表1に示す.

表1  プリセプター保健師の概要(N=335)
項目 カテゴリ n (%) Mean±SD(range)
性別 男性 7​ 2.1
女性 328​ 97.9
年齢1) 39.0±8.1(24–58)
20歳代 49​ 14.7
30歳代 133​ 39.8
40歳代 108​ 32.3
50歳代 44​ 13.2
保健師経験年数2)
キャリア別
14.9±8.0(2–37)
新任期(~5年) 41​ 12.3
中堅前期(6~10年) 76​ 22.8
中堅後期(11~20年) 127​ 38.0
管理期(21年~) 90​ 26.9
看護職経験年数3) 1.6±2.5(0–13)
145​ 54.9
あり ~4年 84​ 31.8
   5~9年 28​ 10.6
   10~19年 7​ 2.7
保健師基礎教育課程 保健師専修学校 153​ 45.7
短期大学保健師専攻科 44​ 13.1
大学保健師課程 133​ 39.7
その他の養成課程 5​ 1.5
最終学歴4) 専門学校 134​ 40.1
短期大学 47​ 14.1
大学 138​ 41.3
修士課程 9​ 2.7
その他 6​ 1.8
所属する自治体 都道府県 166​ 49.6
政令指定都市 78​ 23.3
中核市・その他の政令市 81​ 24.2
特別区 10​ 3.0
プリセプターの所属部署 健康づくり 46​ 13.8
母子保健・親子保健・子育て支援 75​ 22.5
高齢者保健福祉 7​ 2.1
精神保健福祉 40​ 12.0
難病対策 25​ 7.5
感染症対策 24​ 7.2
地区担当 99​ 29.6
その他 18​ 5.4
新任保健師の育成担当となった時期 平成24年度 30​ 9.0
平成25年度 56​ 16.7
平成26年度 104​ 31.0
平成27年度 145​ 43.3
プリセプター経験回数 1回 172​ 51.3
2回 100​ 29.9
3回 41​ 12.2
4回 12​ 3.6
5回 5​ 1.5
6回 4​ 1.2
10回 1​ .3
自身が新任保健師の時に指導を受けた保健師 プリセプター 117​ 34.9
管理的立場の保健師 48​ 14.3
先輩なら誰でも 151​ 45.1
その他 19​ 5.7

1),2),4)未回答1名を除く334名,3)未回答71名を除く264名

女性328名(97.9%),男性7名(2.1%),年齢は平均39.0±8.1(24–58)歳であり,30歳代が133名(39.8%)と最も多かった.

保健師経験年数は,平均14.9±8.0(2–37)年であり,キャリアで分類すると,中堅後期が127名(38.0%)と最も多く,管理期90名(26.9%),中堅前期76名(22.8%),新任期41名(12.3%)であった.キャリアと自治体種別では有意な関連があり,都道府県は管理期が有意に多く,中堅後期は有意に少なかった.政令指定都市および特別区は中堅後期が有意に多く,政令指定都市及び中核市・その他の政令市は管理期が有意に少なかった(表2).保健師基礎教育課程は保健師専修学校が153名(45.7%)と最も多かったが,最終学歴は大学138名(41.3%)が最も多く,修士課程も9名(2.7%)みられた.

表2  所属自治体種別とプリセプター保健師のキャリアと所属部署との関連(N=335)
項目 所属自治体
都道府県
N=166)
政令指定都市
N=78)
中核市・その他の政令市
N=81)
特別区
N=10)
n % n % n % n % P
キャリア1)a 新任期 22​ 13.3 5​ 6.5 13​ 16.0 1​ 10.0 <0.01
中堅前期 33​ 19.9 22​ 28.6 21​ 25.9 0​ 0.0
中堅後期 44​ 26.5 39​ 50.6 + 35​ 43.2 9​ 90.0 +
管理期 67​ 40.4 + 11​ 14.3 12​ 14.8 0​ 0.0
プリセプターの所属部署2)a 健康づくり 19​ 11.5 9​ 11.5 18​ 22.2 + 0​ 0.0 <0.01
母子保健・親子保健・子育て支援 27​ 16.4 20​ 25.6 27​ 33.3 + 1​ 10.0
高齢者保健福祉 1​ 0.6 4​ 5.1 + 2​ 2.5 0​ 0.0
精神保健福祉 35​ 21.2 + 2​ 2.6 3​ 3.7 0​ 0.0
難病対策 22​ 13.3 + 0​ 0.0 3​ 3.7 0​ 0.0
感染症対策 19​ 11.5 + 1​ 1.3 3​ 3.7 1​ 10.0
地区担当 29​ 17.6 39​ 50.0 + 23​ 28.4 8​ 80.0 +
その他 13​ 7.9 + 3​ 3.8 2​ 2.5 0​ 0.0

1)2)は未回答1名を除く334名

検定方法:χ2検定および残差分析,aはFisherの正確確率検定および残差分析

+:観察度数が期待度数より高いことを示す(P<0.05)

–:観察度数が期待度数より低いことを示す(P<0.05)

プリセプターの所属部署は,地区担当が99名(29.6%)と最も多く,母子保健・親子保健・子育て支援75名(22.5%),健康づくり46名(13.8%),精神保健福祉40名(12.0%)であった.所属部署と所属自治体種別では有意な関連があり,都道府県は精神保健福祉,難病対策,感染症対策,その他が有意に多かった.政令指定都市は,地区担当及び高齢者保健福祉,中核市・その他の政令市は母子保健・親子保健・子育て支援及び健康づくり,特別区は地区担当が有意に多かった.(表2).「その他」の自由記載では,対人保健部門以外は企画部門5名,人事部門1名,それ以外は,複数の業務,業務分担と地区分担の併用であった.

プリセプター経験回数は1回が172名(51.3%)と最も多く,2回が100名(29.9%),3回が41名(12.2%)であり,4~10回の者もみられた.

プリセプター自身が新任保健師の時に指導を受けた保健師が特定された者は,プリセプターであった者が117名(34.9%)に留まり,管理的立場の保健師であった者も48名(14.3%)であった.

2. プリセプターが担当した新任保健師の概要

新任保健師の概要を表3に示す.

表3  プリセプターが担当した新任保健師の概要(N=335)
項目 カテゴリ n (%) Mean±SD(range)
性別 男性 34​ 10.1
女性 301​ 89.9
年齢1) 25.9±4.3(21–50)
21~22歳 62​ 18.7
23歳 71​ 21.5
24歳 34​ 10.3
25~29歳 107​ 32.3
30~34歳 40​ 12.1
35~39歳 11​ 3.3
40歳~ 6​ 1.8
看護職経験年数2) 1.8±2.7(0–15)
177​ 54.0
~1年 27​ 8.2
2年 30​ 9.1
3年 29​ 8.8
4年 16​ 4.9
5~9年 42​ 12.8
10年~ 7​ 2.1
保健師基礎教育課程3) 保健師専修学校 21​ 6.4
短期大学保健師専攻科 12​ 3.7
大学保健師課程 289​ 88.1
大学院保健師課程 6​ 1.8
最終学歴4) 専門学校 20​ 6.0
短期大学 9​ 2.7
大学 290​ 87.1
修士課程 11​ 3.3
不明 3​ 0.9
1年間で育成目標に対してどの程度成長したか5) 3.1±1.0(0–5)
目標を大幅に上回って成長した 27​ 8.1
目標よりも成長した 83​ 24.9
目標通り成長した 149​ 44.7
目標ほどは成長しなかった 52​ 15.6
目標を大幅に下回っていた 20​ 6.0
目標を設定しなかった 2​ 0.6

1)未回答4名を除く331名,2)3)未回答7名を除く328名,4)5)未回答2名を除く333名

男性34名(10.1%),女性301名(89.9%)であり,年齢は21~50歳で平均25.9±4.3歳であった.年齢階級別には,21~24歳が半数を占め167名(50.5%),25~29歳107名(32.3%),30歳代51名(15.4%)であった.

看護職経験年数は0~15年で平均値は1.8±2.7年であり,看護職経験なしの者が177名(54.0%)であった.保健師基礎教育課程は,大学保健師課程289名(88.1%)が大半を占め,大学院保健師課程も6名(1.8%)みられた.最終学歴は大学290名(87.1%)が最も多く,修士課程も11名(3.3%)みられた.

新任保健師の1年間の育成目標に対する成長の程度は,目標どおりかそれ以上成長したと回答した者が259名(77.8%)を占めたが,目標ほどは成長しなかった者が52名(15.6%),目標を大幅に下回っていた者も20名(6.0%)みられた.また,目標を設定していなかったと回答した者も2名(0.6%)あった.

3. 所属自治体種別とプリセプター保健師の支援体制

所属自治体種別とプリセプター保健師の支援体制との関連を表4に示す.

表4  所属自治体種別とプリセプター保健師の支援体制との関連(N=335)
項目 所属自治体
合計
N=335)
都道府県
N=166)
政令指定都市
N=78)
中核市・その他の政令市
N=81)
特別区
N=10)
n % n % n % n % n % P
保健師現任教育プログラムの有無1)a あった 309​ 93.4 160​ 98.2 + 76​ 97.4 65​ 81.3 8​ 80.0 <0.01
作成中 6​ 1.8 0​ 0.0 1​ 1.3 5​ 6.3 + 0​ 0.0
なかった 16​ 4.8 3​ 1.8 1​ 1.3 10​ 12.5 + 2​ 20.0 +
新任保健師研修の有無a あった 316​ 94.3 164​ 98.8 + 76​ 97.4 71​ 87.7 5​ 50.0 <0.01
新任保健師研修の受講a 受講した 309​ 92.2 159​ 95.8 76​ 97.4 69​ 85.2 5​ 50.0 0.53
プリセプター研修の有無 あった 255​ 76.1 131​ 78.9 66​ 84.6 + 55​ 67.9 3​ 30.0 <0.01
プリセプター研修の受講a 受講した 225​ 67.2 110​ 66.3 61​ 78.2 51​ 63.0 3​ 30.0 0.34
保健師の人材育成などを話し合う会議の頻度2) a 月に4回以上 20​ 6.0 10​ 6.1 9​ 11.5 1​ 1.2 0​ 0.0 0.11
月に3回 4​ 1.2 4​ 2.4 0​ 0.0 0​ 0.0 0​ 0.0
月に2回 8​ 2.4 5​ 3.0 1​ 1.3 1​ 1.2 1​ 10.0
月に1回 78​ 23.4 40​ 24.4 20​ 25.6 17​ 21.0 1​ 10.0
月に1回未満 223​ 67.0 105​ 64.0 48​ 61.5 62​ 76.5 8​ 80.0
新任保健師が出席できる事例検討会の頻度3)a 月に3回以上 17​ 5.1 7​ 4.2 4​ 5.2 4​ 5.1 2​ 20.0 + <0.01
月に2回 29​ 8.7 7​ 4.2 10​ 13.0 11​ 13.9 1​ 10.0
月に1回 101​ 30.4 41​ 24.7 34​ 44.2 + 25​ 31.6 1​ 10.0
2か月に1回 42​ 12.7 22​ 13.3 5​ 6.5 11​ 13.9 4​ 40.0 +
2か月に1回より少ない 112​ 33.7 74​ 44.6 + 21​ 27.3 16​ 20.3 1​ 10.0
開催されていない 31​ 9.3 15​ 9.0 3​ 3.9 12​ 15.2 + 1​ 10.0
プリセプターの新任保健師育成の担当方法 業務の指導は各業務の担当者が行なった 217​ 64.8 105​ 63.3 55​ 70.5 50​ 61.7 7​ 70.0
先輩のサポートを受けながら担当した 179​ 53.4 101​ 60.8 34​ 43.6 39​ 48.1 5​ 50.0
相談内容や指導内容に合わせて,だれにでも相談できた 177​ 52.8 83​ 50.0 48​ 61.5 40​ 49.4 6​ 60.0
新任保健師の指導のすべてを担った 65​ 19.4 24​ 14.5 24​ 30.8 16​ 19.8 1​ 10.0

1)は未回答4名を除く331名,2)は未回答2名を除く333名,3)は未回答3名を除く332名

検定方法:χ2検定および残差分析,aはFisherの正確確率検定および残差分析,「プリセプターの新任保健師育成の担当方法」は除く

+:観察度数が期待度数より高いことを示す(P<0.05)

–:観察度数が期待度数より低いことを示す(P<0.05)

保健師現任教育プログラムの整備,新任保健師研修の実施及び受講は全体で9割以上である一方,プリセプター研修の実施は76.1%,自治体種別では政令指定都市66名(84.6%)が有意に多く,特別区3名(30.0%)は有意に少なかった.受講している者は6~7割に留まり,自治体種別との有意な関連はなかった.

人材育成等を話し合う会議は,月1回以上が全体で33.0%であり,自治体種別との有意な関連はなかった.新任保健師の出席できる事例検討会の実施頻度は,月1回以上が44.3%あったが,2ヶ月に1回未満も46.4%を占めた.所属自治体種別との有意な関連があり,政令指定都市で「月に1回」が,特別区では「月に3回以上」と「2か月に1回」が有意に多く,都道府県では「2か月に1回より少ない」が,中核市・その他の政令市では「開催されていない」が有意に多かった.

プリセプターの新任保健師育成の担当方法では,各業務の担当者や先輩のサポート,だれにでも相談できる等の体制が各々5~6割にみられたが,新任保健師の指導のすべてを担ったものも65名(19.4%)みられた.

IV. 考察

1. プリセプター保健師の現状と課題

本研究におけるプリセプター保健師は,自身が新任期にプリセプターから指導を受けていた者が34.9%に留まり,保健師専修学校で保健師基礎教育を受けた者が45.7%を占める一方で,担当した新任保健師の88.1%は大学,1.8%は大学院で保健師基礎教育を受けていた.しかし,プリセプター研修の実施については自治体により有意差があり,有意に高い政令指定都市でさえも84.6%であり,全員が受講できる状況ではなかった.しかも研修の受講については自治体種別との有意な関連はなく6~7割に留まった.つまり,プリセプターから指導を受けた経験やプリセプター研修による支援が乏しい状況でプリセプター保健師は,保健師基礎教育課程の異なる新任保健師の育成を担わなければならない現状が明らかとなった.

保健師基礎教育が変化し,保健師人材育成についても体制整備の過渡期にある現状において,研修機能を期待される保健所の機能を生かし,大学等教育研究機関とも連携して保健師基礎教育と現任教育の連続性を検討していく必要がある.そして,プリセプター研修の内容とその効果の検証,受講しやすい仕組み,プリセプター経験者から支援を受けられる体制が求められる.

また,本研究でプリセプター保健師のキャリアは,都道府県は管理期(40.4%),政令指定都市及び特別区は中堅後期(50.6%,90.0%)が有意に多く,中核市・その他の政令市も中堅後期(43.2%)が多い傾向がみられた.プリセプター保健師を担うキャリアとして,中堅前期は新任保健師にとって身近な相談役となりロールモデルとなる役割が期待されている(厚生労働省,2003).松尾(2006)は,人がある領域において優れた知識・スキルを獲得する「10年ルール」として,6~10年目の中堅期の経験が熟達の鍵を握ることを示しており,保健師のキャリア開発における中堅前期の経験の重要性を裏付けていると言えよう.

さらに,本研究で新任保健師育成の担当方法は,各業務の担当者や先輩からサポートを得ている者が5~6割であり,新任保健師の指導のすべてを担った者が2割程度認められた.英国では,新任Health visitorのプリセプターシップモデルが構築されており(Phillips et al., 2013McInnes, 2015),地域特性や組織構成に合わせたプリセプタープログラムを選び,プリセプターをサポートするシニアファシリテーターを位置づけたうえで,1~2年間プリセプターとして新任Health visitorに職務を通したリフレクションを行う役割が示されている.わが国でも保健師人材育成の具体的なガイドラインが例示され,プリセプターを支える仕組みとして教育担当者の設定,管理者保健師の役割も示されている(厚生労働省,20072011).本研究の結果でプリセプター保健師の配属が対人保健部門であることと,キャリアが都道府県は管理期,政令指定都市および特別区は中堅後期が多い現状を踏まえ,今後は,中堅前期がプリセプターを担えるように,プリセプター経験のある中堅後期,管理期がシニアファシリテーターとなり支援する等の段階的な指導体制が求められる.

2. 求められるプリセプター保健師の支援体制

本研究で,保健師現任教育プログラム及び努力義務化された新任保健師研修は9割を超えて整備されていた.一方,プリセプター研修の実施は76.1%,人材育成を話し合う会議は月1回以上が33.0%,事例検討会では44.3%であったが,これらの方法を組み合わせてプリセプター保健師の支援としていくことが必要と考えられる.特に有意差の認められた特別区はプリセプター研修の機会を,都道府県および中核市では,新任保健師が参加できる事例検討会の場を保証していくことが求められる.

佐伯ら(2009)は,プリセプター等指導者を対象とした研修で,スタッフ教育のための事例検討会や人材育成環境の整備の必要性を研修内容とし,研修効果を評価している.麻原(2013)は,住民のために最善の支援を判断するには,事例について話し合える組織の倫理的環境が重要であることを述べている.先行研究(嶋津ら,2014)では,新任保健師が相談することをスタッフも上司も聞いていて気軽にアドバイスし合う日常的な職場環境が,プリセプターのサポートとなっていた.新任保健師にとって,日常的に気軽に相談できることは,事例検討会に事例提供し相談する行動にも繋がり,相談する技術を学ぶ基盤となると考えられる.また,新任保健師育成を組織メンバーと共有し,人材育成環境を改善していく力量の形成や,新任保健師育成を自己研鑽の機会としていくための内容を研修に含めていくことは,プリセプター保健師の役割を通した能力育成に寄与すると考える.組織的な人材育成はプリセプターの動機を高め指導方法にも影響を与える(山田ら,2016)ため,人材育成について話し合う会議を組み込み,プリセプター保健師が人材育成環境の改善に組織で取り組んでいく機会とする必要がある.さらに,保健師活動指針(厚生労働省,2013)で示された自治体の計画的な人材確保や人材配置,各々の能力獲得に合わせたキャリアラダー(厚生労働省,2016)を鑑みて,その組織に適した人材育成体制を構築することが求められる.

3. 本研究の限界と今後の課題

本研究結果は,保健所を設置する全国の都道府県および保健所設置市,特別区の全数を対象としており,保健所を設置する自治体に所属するプリセプターの現状を反映している.しかも,「新人看護職員研修ガイドライン~保健師編~」(厚生労働省,2011)が示された直後の平成24~27年度の,研修機能の役割を期待される保健所を設置している自治体におけるプリセプターシップの現状を明らかにした横断研究である.よって,今後の保健師人材育成やプリセプターシップの整備状況を評価するための基礎資料となると考える.一方で,本研究は市町村を含む全国の自治体を代表したものではない.今後は,小規模市町村における継続的な新任保健師の採用がない状況での新任保健師育成の現状や課題を明らかにすることが求められる.

また,研究対象者のリクルートに際して,行政におけるプリセプター経験をもつ保健師の特定は,保健師の新規採用が不確定であることやプリセプターも異動すること等から困難であり,本研究結果は,各自治体の保健師代表者をはじめとする全国自治体の保健師の多大な協力によるものである.

V. 結語

本研究の結果,プリセプター保健師は,プリセプターからの指導を受けた経験の乏しい状況で保健師基礎教育課程の異なる新任保健師の育成を担っており,プリセプター研修や人材育成について話し合う会議,事例検討会の充実が課題として明らかとなった.また,プリセプター保健師のキャリアは都道府県で管理期,その他は中堅後期が多い現状があり,今後は中堅前期のプリセプター保健師を中堅後期及び管理期の保健師が支援する段階的な指導体制が求められる.

謝辞

本研究を実施するにあたり,ご協力くださいました全国の保健師の皆様に心より感謝申し上げます.本研究の全てのプロセスにおいてご指導いただきました麻原きよみ先生に厚く御礼申し上げます.

本研究は科学研究費補助金基盤研究(C)(JSPS科研費26463578)の助成を受けて実施した.

利益相反

本研究に関わる利益相反は存在しない.

文献
 
© 2017 Japan Academy of Public Health Nursing
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